88話 大事な話
物語上は重要な88話なのですが。水曜日まで引っ張るのはどうなのかなと思い、昨日に引き続き投稿します。
主人公の時期って、おふくろさんに意見されるのが面倒臭かったなあ。親父さんは、まあ何も言わなかったけど。
俺とローザは、おふくろを部屋に案内する。
おふくろに挨拶を終えたアリーが、ソフィーを追いかけていったので任した。
「奥様は、この部屋を使って下さいませ」
「まあ、感じの良い部屋ね。まあ、暖かいわ」
「ああ、下が食堂なんだけど。その魔石暖炉の配管が、この壁を通っているから暖かいんだ」
「へえぇ。そうなの」
「奥様が、お泊まりの間は、ずっと点けておくように致します」
「まあ。もったいないけれど。王都は寒いからお願いするわ! ありがとうね、ローザさん」
確かに、スワレス伯領は暖かいよな。
「はい。奥様。では、厨房に戻ります」
「またね」
ローザが、おふくろの意を察して部屋を辞して行った。
「へえ、窓の外はバルコニーがあるのね。流石は子爵様の別邸ねえ。でも、こんな凄い御館は、なんで使われてなかったのかしら?」
「ああ、先代のお妾さんが使って居たそうだけど」
「なるほどね」
親父とは違い、おふくろには結構砕けた話し方をしてる。おふくろがそうしなさいと言ったからだが。
「ああ、鞄はどうする?」
「ああ、その辺に置いておいて。自分で開くから」
窓の外を見ていたおふくろは、こちらに来た。
「ところで、ソフィーのベッドが見当たらないけど?」
「ああ、もう一つ、隣の部屋も空いているから、そっちに泊まって貰おうと思ってるけど」
「ふーん、嫌がると思うけれど」
「ん? じゃあ、この部屋へ運んだ方が良いかな?」
「分かってないわねえ……」
何がだ?
†
昼食ということで、皆が1階の食堂に集まる。
「この食堂も、広くて豪華ね。ここなら、住んでみたいわね」
確かに、最近慣れて来たけど、俺も豪華だとは思う。
「うん、私も住みたい」
隣に座った、ソフィーも大きく肯いた。
「そうだなあ。お兄ちゃんとしても、ソフィーに住んで貰いたいけどなあ。無理だな」
そしたら、親父が泣く。
「うーーん」
ソフィーは残念そうな顔をした。あれ、アリーが席に着かず、壁際に立っている……そうか。
「おふくろ。ここでは、住んでいるみんなでテーブルを囲んで食事するんだ。良いよね」
「もちろん。ここはラルフの家だから、あなたが決めれば良いのよ」
「奥様、ありがとうございます」
珍しく緊張の面持ちだった、アリーが俺の左長手側に座る。
「ああ、私達にそんなに気を使う必要はないのよ。ただの客なのだから」
奥から、サラが料理を運んできた。無論ローザとは違ってメイド服ではなく部屋着の上にエプロンを着けただけの姿だが。
「あら、こちらのお嬢さんは?」
「同居人のサラスヴァーディ嬢です。さっきローザが出ていたので、料理を見ててくれたんだ」
「ああ……」
皿を置くと、脚を引いて礼をした。
「お初にお目に掛かります、奥様。よろしくお願い致します」
また女……。
「ん?」
ソフィーの方を見るとにっこり笑っていた。
空耳か?
「そう言えば。ローザさんの手紙に書いてあったわね。こちらこそよろしく。サラスヴァーディさん」
「はい。サラとお呼び下さい」
「彼女は、薬師だけど戦士でもあって俺のパーティの一員なんだ」
「はい。ラルフ様には大変お世話になっております」
「そうなの。我が儘な子だけど、よろしくお願いするわね……」
はぁ?
サラは面食らったように、何度か瞬きした。
「アリーちゃんもね」
「はい。お任せ下さい」
「まあ、アリーちゃんも娘さんらしくなったわねえ」
ふむ。その状態がおふくろが帰るまで持つといいなあ。
和やかな内に、昼食が終った。隣の居間に移動すると、べったりソフィーがくっついていたけど。おふくろが大事な話があると言って、2人で応接室に居る。
「大事な話って?」
「もう、せっかちね。母子が久しぶりに会ったのに」
むう。
シュテルン村の館で、一番油断ならなかったのは、おふくろだ。親父の前では……まあ猫を被っているというわけではないのだろうが、貞淑な婦人然としている。が、実態としては、結構根回しをして自分の意向通りことを進ませるところがある。まあ、准男爵家の娘だったからな。
「私が、王都に来たのは2つの目的があるの」
「2つ?」
「何だと思う?」
知らないって!
「さあ……俺と皆の様子を確認に来たというのは分かるけど。もうひとつは、観光?」
別候補もあるが、俺から言い出すのは、やぶ蛇だ。
「両方外れ!」
両方?
「ローザさんが付いているのだから、ここでの暮らしについては何も心配してないわ!」
ああ、そうですか!
「はい。むっとしない。もちろん、ラルフを信頼してるのは、前提よ!」
「では……」
「ひとつは、ラルフの縁談よ!」
やはりそうか。
「縁談?」
「ディアナ・トルーエン嬢のことよ。ローザさんの手紙にあったわ」
「別に交際することにはしているけど、結婚するとは……変な口出しはしないでくれよ」
「さあ、どうかしら。しないで済むことを祈っているわ!」
明日、ダンケルク家に伺うことになっている、おふくろを連れて。
「むう。もうひとつは?」
「内緒!」
「なんだよ、それ」
「帰るまでには教えて上げるわよ」
帰るまで……明明後日は、午前中で駅場所に乗って帰るから、何かあるなら。明日……いや明後日は、おふくろとソフィーがどこかへ行くけれども付いてこなくて良いって、ローザは言っていたけれど。何があるんだ?
「それはそれとして。今日の朝の記事。ラルフのことでしょ!」
おふくろは新聞を突きつけた。スパイラス新報だ。
「さあ。見てないんで……」
今日というと、エヴァトン村の件だな。
「読みなさい」
読む。
エヴァトン村に8ヤーデンを越す巨大魔獣が出現! 僅か10分で斃した美少年魔術師! 先日の遺跡発見者か?
うわっ。なんて、扇情的な見出しだ。
おふくろが、ニヤニヤ笑いながらこっちを見てる。
9月28日、記者が別取材でバススンの町に滞在時に、巨大魔獣が出現の一報を受け、エヴァトン村へ急行、掲記の魔獣を遠くから見ることができた。魔獣は、多くの脚を持つ甲殻類であり、蟹もしくは椰子蟹の類いと推定される。同魔獣が木材を食べていたため、駆除を同村長が代官に依頼したところ、同日16時に至って、冒険者一行が到着した。大型魔獣の対応として、冒険者派遣は異例で、王都周辺では軍の動員が通例となっている。
冒険者は若く、男性1人、女性2人に加え従魔を従えていた。それぞれがいずれも眼を奪われる美形であり、確証はないが、ターセル村で、遺跡大発見のパーティと酷似しており同一と見られる…………。
はあ。
魔獣は、大掛かりな虹色の尖塔を構築する大魔術で、100ヤーデンに達する巨大な火柱を上げ、ものの10分も掛からず斃したところを、記者がその目で目撃した。また同村住人も同様に目撃しており、決して幻ではない。
翌日29日の追加取材によれば、それほどの炎系魔術を使用したにも拘わらず、近辺の森林および貯木場に火災の形跡はなかった。魔術に詳しい、スパイラス大学校アンドレイ教授によると、目撃談のみを考慮すれば光属性の障壁魔術で、炎を包んだのではないか? ただし、そのような強力な障壁魔術の記録はないとのことであった。
鋭いな、この教授。
この件について、王都冒険者ギルドへの取材依頼を出したが、拒否されてしまった。しかしながら、記者は有力な情報も手にしており、近く詳報の予定……かあ。
名前を知られているからなあ。ここを嗅ぎ付けられるのも時間の問題か。
「確かに、俺達パーティのことだ」
「やっぱりね」
うーむ。
「そこに書いてあった、同一人ってのも?」
「ああ」
「詳しく話を聞きましょうか! 大体はローザさんの手紙で知ってるけれど」
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訂正履歴
2021/08/23 誤字訂正(ID:800577さん ありがとうございます)
2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/10/07 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)
2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




