表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
4章 青年期I 上京編
55/472

53話 魔結晶売却へ行ったのに

出張すると元々の用と違う部署に呼びつけられて、なんだろうと行ってみると。無茶振りで別の用を作られることが度々。あれって、自分が人質状態だから、なかなか断りづらいんだよなあ……。

 修学院から館へ戻り、昼食を摂ってからギルドへ向かった。アリーと今日はセレナも一緒だ。

 許可がなければ従魔は中には入れない規則なので、付属の厩舎に預けた。


「あっ! ラルフ君!」

「こんにちは」

 サーシャさんが、気さくに声を掛けてきた。


「久しぶりね。ギルドに入会した日は爆発騒ぎもあったし、それから顔を出さないから、お姉さん少し心配しちゃった」


 何だかアリーの方から怒気の微粒子が漂って居るが、取り敢えず無視だ。


「ああ、ええ。学校が始まったりして、なかなか来られませんでした。今日は査定と買い取りをして貰おうと」

 本当は、爆発騒ぎのほとぼりを冷ましていたのだが。


「そうなんだ。ちょうど今から休憩時間だから、一緒に窓口へ行きましょう」

「気易い(ぼそっ)」

「えっ、何か言ったアリーちゃん」

「何にも」

 明後日の方を向いている。


 受付から左の方へ、歩いて行く。

「ああ、こっちは別棟のバーへ通じているわ。お酒は、飲める?」

「アリーちゃん、うわばみだし」

 何の対抗意識だよ?


「そっ、そうなんだ。係が交代で勤務してるから24時間やってるわ! ああ食事も結構いけるわよ。あっ、買い取り窓口はこっちよ」


 角を曲がると、広い部屋に出た。

 通路沿いは、厳重そうな壁に隔離された換金窓口と書いてある。反対側は、高さ2ヤーデン弱(170cm)の衝立がいくつも立っていて、見通しが利かない。


「こっちの小間で査定人に査定して貰うのよ」


 昼過ぎと言う時間帯だからだろうか、あまり人気を感じない。

 あそこに1人……気配が動き、衝立が途切れた通路に後ろ姿が見えた。


「カステルさん!」

 サーシャさんに呼ばれ、生地が厚いチュニックを着た人が振り返った。

「嬢ちゃんか。なんだ?」


「この子たちが狩ってきた魔結晶の査定と買い取りをお願いしたいの」

 ごっつい体型のおっさんだ。髪も多いが、もみあげから顎までびっしりと髭に覆われている。

 ドワーフ族が入ってるな。


「普段は、整理券を引いて順番を待って貰うが……まあ他に客も居ないから良いが。それにしても見かけない顔だな」


「少し前に登録したラルフです」

「アリーです」

 おい! いつもの”ちゃん”は、どうした。

 いやまあ、今の方が良いけれど。


「髭面嫌い(ぼそ)」


 そんなアリーの小声には気が付かないようだ。

「俺はこの買取課を仕切ってるカステルだ。そうか新人(ルーキー)か。その割に度胸が有るようだな」

「そうなんですよ。期待の新人です」


 口添えしたサーシャさんを、一瞥すると手招きした。

 衝立に囲まれた区画に入ると。中は1ヤーデン(90cm)角の式台と棚がある。


「ああ嬢ちゃんは、仕事に戻れ!」

 アリーは一瞬自分のことかと思ったようだが、言われたのはサーシャさんだ。

 受付に戻らず、区画に入って来ている。


「ああ、休憩時間中だから」

「そうか……まあ、良いが。じゃあ、査定しよう。狩ってきた魔結晶を、ここに出してみろ」


 カステルさんは、棚から掌大の木皿を式台の端に置いた。


「じゃあ」

 俺は、ローブの前袷を開けて魔導鞄(マギ・バッグ)を引っ張りだし、ふと考えて、木皿を式台の中央に置き直した。


 ん? と聞こえたが、無視して鞄の中に手を突っ込む。


 魔導鞄は、亜空間に繋がる魔術が施された鞄で、見た目の体積を大幅に上回る量を収納できる。重さも鞄を越えることはないという、優れた魔道具だ。中に同じく魔道具の引き寄せ石を入れておくと、斃した魔獣が結晶化した魔結晶が自動的に集められる。


「おっ!」

 掌一杯に掴んだ俺は、皿の上に手を持って行くと無造作に開く。

 ばらばらっと十数個の魔結晶が落ちた。皿に乗りきれず式台にこぼれた。


「わあ。結構狩って来たのね」


 いや、まだまだあるって。もう一度手を突っ込もうとした時。


「ああ、ちょっと待ってくれ」

 カステルさんに止められる。

 隅に積まれていた木のデカい盆を持ってきて、さっき出した魔結晶をそこへ移動した。


「君達を新人だからといって、侮っていた」


 なぜだか、サーシャさんが腕組みしてうんうんと頷いている。 

 まあ別に良いんだけど。


 どんどん魔結晶を出していく。


「ちょ!」

「おい!」


 手を突っ込むこと、5回。トレイの上に魔結晶の小山ができた。


「驚いたな」

「こんなに? 中くらいのクランの上がり位の量だわ」


 今度は、アリーが腕組みして、うんうんと頷いている。

 まだあるが……大砂虫(サンドワーム)は、獲れる場所が違うし、出すのやめておこう。


 カステルさんは、魔結晶の整理を始めた。

「多いのは、この赤い魔犬(ヘルハウンド)だが、一角鹿(ホーンディア)、オークにゴブリン。トレント、エルダートレントまで混ざってやがる。ざっと200個はあるな」

 大部分の魔結晶は、イーグニス(劫火)1発で、意図せず仕留めたものだ。


「ラルフとか言ったか、規則だ。悪いが、ギルドカードを見せてくれ」

 大量の魔結晶を持ち込んだ場合は、ギルドカードを提示を求めると有ったが。


「ああ。はい」

「その丸い所を触ってくれ」

「はあ……」


 貰った時と同じように銀から、金色へ変色した。


「不正は無しと」

「そんなこと分かるんですか?」


「ああ、ギルド規則に反することをすると、カードが赤くなる」

 げっ。


「ふむ。数は多いが、査定は難しくねえ。ざっと30分ぐらいで……」


 ドタドタとした重量感のある足音が聞こえてくる。

「おーーい。ラルフは居るか? ラルフェウス・ラングレン!」

「あの声は、所長だ! ここにいますぜ!」


「おおぅ。ここか! ……なんだこれは」

「魔結晶ですよ! 買い取りの査定中です。」


 サーシャはのんきに答えた。ギルマスは、一瞥もせず魔結晶の山を漁りだした。


「そんなことは分かってる。黄色黄色……無いか。まあいいラルフとえーと……」

「アリーちゃん!」

「ああ、2人とも付いてこい!」


「ああ所長。これはどうすんですか」

 カステルさんが呼び止める。

「それは、査定しておけ……そうだな。サーシャ!」

「はい」

「それだけ有れば、どうなるか分かるな」

「はっ、はい!」


 所長室に連行された。


「3日前、大量の依頼が出されたのを知っているか?」

「さあ。ギルドには、この前来て以来なので」


「憲兵隊からの依頼でな。4日前、つまり、お前達が入会した日に起こった爆発騒ぎの原因の調査だ」


「それが?」

「結果、爆発騒ぎの原因が魔術、それも上級魔術と推定されるという報告が上がってきた。逆に言えば数十人投入しても、そこまでしか分からなかったってことだな。それから、さっき、お前らが査定依頼した量だが、尋常じゃない量だ。どうやって斃したかは知らんが」


「はあ……」


「この2つを繋げるとだ。ラルフ。お前が爆発騒ぎの原因となった魔術を使って、大量に魔獣を狩ったと言うことになる……どうだ!?」


 鋭いな、ギルマス!  ハラハラするな、アリー。


「はははっ……なんでそれが繋がるんですか。短絡的過ぎですよ。俺が査定に出した魔結晶は、今まで獲り溜めた物だから多いんです。大体上級魔術なんか俺が使えるわけがないじゃないですか」


 中級魔術はともかく、上級魔術は限定解除されないと使えない。


「ああ、俺も上級魔術とは思っていない。が、数十年に1度、それに近い魔術を使う術者が居るらしい」

「それが俺だと?」

「さあ。断定はできんな。ただ、ベルス砂丘で、最近轟音がすると言う話があってな」

 そっちも耳に入っているのか。


「昨日、若い男と女とウォーグが砂丘の方から街道に出てきた目撃証言があってな。大砂虫(サンドワーム)を狩ってるらしい。つまりそいつは相当スゲー魔術を使えると言うことだ。お前だな、ラルフ」

 言い逃れしても詮無いようだ。


「はい」

「ラルちゃん!!」


「わかった。大砂虫は、隊商を襲う凶悪なヤツだ。だが、不利になったら、すぐ砂に隠れて斃しづらい。だから魔結晶の買い取り単価も高めだが、狩る冒険者は少ない」

「はあ」


「したがって、お前達に指名依頼を出す」

「所長。お言葉ですが。彼らは、新人(ルーキー)ですので、指名依頼は出せませんが」


 扉が鳴った。

「サーシャです」

「入れ!」

「書類を持ってきました。承認をお願いします」

「サーシャさん。所長は接客中です、書類は後に……」

「いや、いいんだ」

 秘書が止めたが、ギルマスがそれを遮った。

「はあ……ああ!」


 ギルマスが、受け取って署名する。2通だ。

「ラルフェウス・ラングレン。初級者(ノービス)ランク2を認定する。アリシア。同じく初級者ランク2を認定する」

「後で受付に寄ってね。では失礼します」


「これで指名依頼も受けられる。ギルドは優秀な冒険者を歓迎する。しかも、働きや能力に見合う処遇をするってことだ。まあ、なんだ。早く中級者(ランカー)に上がれ!」

「はい」

「で、指名依頼内容だ。10日以内に20頭以上の大砂虫(サンドワーム)を討伐せよ!」


「承りました」


「よし。受付へ寄って行け」


 所長室を後にして、受付へ行く。

 サーシャさんが待ち構えていた。にっこにこだ。


「2人ともおめでとう!」

「ありがとうございます」

「ギルドカードを貸して」

 言われたとおり、アリーのも含めて渡すと、ものの10秒で返された。


「何も変わってないようですけど?」

「ああ、丸い部分に指を付けて」


「おっ!」

「晴れて2人の冒険者階級(ランク)は、初級者ノービスランク2になったから」


 ギルドカードが金に変色した途端、言った通り刻印が変わった。


「おおう」

「それから、これは預かり証ね。夕方には用意しておくって言ってたわ」


 魔結晶213個、正に預かりましたと書いてある。


「わかりました。じゃあ、行ってきます」


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya



訂正履歴

2018/03/15 「ちと君達を見損なっていた」→「君達を新人だからといって、侮っていた」(なささん ご指摘)

2018/03/26 初心者→初級者(Knight2Kさん ご指摘)

2020/03/18 誤字訂正(ID:881838 さん ありがとうございます)

2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2025/05/03 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

2025/11/14 誤字訂正 (日出処転子さん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ