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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
4章 青年期I 上京編
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49話 冷却

何か意外なことが起こった時、結構頭を冷やして考えようとしますね、私。いやあ、勢いに乗ってやった方が上手く行くことも多々あったような……。特に色恋系は。

 ふう。

 やはり湯に浸かるのは佳い。

 身体が温まると、頭が冷えるのだろうか。


 初めての王都周りの狩から帰って来たら、ローザに埃で髪が傷みますと言われたので、夕食前だが風呂に入ることにした。


 しかし、何て広い浴室なんだろう。微かに粗い肌理の石板を敷き詰めた床と浴槽が美しく、入るにはとても気持ちいいが……掃除が大変そうだ。

 だけど、家事全般、何か手伝おうとすると、ローザに思いっきり断られる。メイド業に断固たる誇りを持っているからなあ。


 今一度深く息を吐いて眼を閉じた。

 瞼の裏にステータス表示がうっすらと見える。

 既に生命力は緑一色の(バー)となっている。下段の魔力も9割強は緑。我ながら信じがたい回復振りだ。


 詳細表示にして能力値を見る。

 魔力欄は、1332/1534になっている。

 確かに、これまでにない魔力の滾りを感じる。魔力上限値が1.5倍になった実感が伴ってきた。

 待てよ──


 霊格値8133。


 ありえない。

 この間見たときは5900位だったはずだ。

 霊格が上がらなければ、魔力上限も上がらない。よって、数値的な矛盾はない……だが。

 いきなり2千以上も上がるなんて。どういうことなんだ。


 ダノンさんから、魔術師は霊格値が上がりやすいと聞いてはいる。俺も大体年間50程上がる。

 霊格値が上がるいうことは、善いことを成したことになる。

 もちろん何かした記憶もない。第一そんな暇などない。

 だが、心の底では、納得しているのだ。当然だと。


 さっぱりわからない、何が当然なのか。

 なんか、思い出しそうな気もするのだが……。

 まあ、そう言うことが俺の身に起こったことは、今まで何度もある。気にしてたら切りがない。


 ん?


 脱衣室に人の気配が?

 浴室の扉が開いた。


「きゃあぁぁぁ。ラルちゃん、入ってたのう?」

「棒読みだぞ、アリー」


 所々、躯の線が浮き立った薄手の浴衣を身に着けた姿で近寄ってくる。


「なによ! 王都一の美少女が、あられもない姿で入って来たのに、そんなつれない態度はないんじゃないの?!」


 あられもない自覚はあるらしい。


「別に。前にも一緒に入ったろ」

 風呂だけじゃなくて、河原でも暑くなったら裸で泳いでたよな。俺が魔術修行してる横で。


「それ、子供の頃でしょ!」

 考えれば、5年以上前か。


「確かにな。で、大人になったアリシアさんは。お風呂場に何の御用でしょう?」


「ほら、ラルちゃんって。自分自身のことには無頓着じゃない」

「そうかな?」

「そうよ。だから、ラルちゃんの背中と綺麗な髪の毛を、しっかり洗って差し上げようかなと思ってさ」


「ふーん。そうか」


 ザバーー。


「ちょっ! ちょ、ちょっとぅ!」

 立ち上がったら、いきなりアリーが興奮し始めた。


「なんだ?」

「前隠しなさいよ」


 指の隙間から凝視しながら言っても、説得力ないけど。

 そのまま上がって、小さな椅子に背を向けて腰掛ける。


「それじゃあ、お願いします」

 俺は俺で海綿を泡立てて、前を洗い始める。

 背中も泡立ち始めた。


「華奢だし、白いし、肌つやつやだし。女の子みたいだよね。染みひとつ無いし、憎たらしーー」

「胸ないけどな」


「有ったら困るよ。勝てるとこなくなっちゃう」

「そんなことないだろ。尻は、俺よりデカいし……ローザ並みだよな」


「はぁぁあああ? ラルちゃんのどスケベ!!」


 スケベじゃない男は居ません。


「ふっ、ふふふ。でも、ちゃーんと、ラルちゃんが見ててくれて良かった」

「何時でも俺の周りをうろちょろしてるからな」


「うろちょろって、セレナみたいに言わないでよ」


「そろそろ、頭をお願いしまァアアバボオア」

 頭からお湯を掛けられた。

「ふふふ、了解」


「冷た!」

 湯じゃない何かを頭に掛けられた。


「これ、シャンプーって言うんだって。やっぱり、王都は進んでるよね。ほら、泡立ちが全然違うでしょ」

「へえ、液体の石鹸なのか?」

「うん。髪の毛に良いんだって」


 ガサガサ擦られるが……。

「うーん。あんまり泡立たないわね」

「そういうのは、1回手に受けて、泡立てるんじゃないのか?」


「なるほど……おおぅ。できたあ。よかったぁ」

「良かった」

 さっきと違って、ちゃんと洗えている気がする。


「どう?」

「どうって……俺の髪で実験してるのか?」

「そ、そそ、そっ、そんなこと、ないよ」


 わかりやすいヤツだ。


「まあ、感じは良いけどな」

「そう?」


 誰かに頭を洗って貰うのは、何て言うか甘美だ。

 幼い頃は、毎日ローザに洗って貰っていたんだった。いつからか自分で洗うようになったけれど。

 柔らかく、満遍なく、優しく洗い上げて貰った。

 何度も湯を掬って濯がれた。

 うむ。石鹸で洗うときよりキシキシしない。流石は王都の物だな。


「やっぱり、ラルちゃんの髪は輝いてるよね。ほら、光の輪っかが出てる」


 自分では見えたことがない、光環。

 地に差す頭の影がぼやけて、確かに光ってると思えたけど。


「ああ。やっぱり、アリーちゃんも、金髪が良かったな」

 前から何度も聞いたセリフだ。


「そうか? 俺はその栗色好きだけどな」

「ほんとに?」

「ああ」

「お姉ちゃんと同じ色だから?」

「それもある。2人とも綺麗だからな。髪だけじゃないが」


 なんか、固まった。


「ラルちゃん。疲れてる?」

「はっ?」

 脇から腕が入り、抱き付かれた。


「おい!」

 むにゅっと、浴衣越しに成長の主張がある。


「無理しないでね。ラルちゃん」

「別に……」

「してるでしょ……私は、ラルちゃんと一緒なら、城壁の外の家でも良いんだからね」


「アリー……」


 それじゃあ、超獣を斃せないのだが。しかし、何時になく真剣なアリーの声音(こわね)に、言葉は続かなかった。

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2019/07/05 誤字訂正(ID:209927さん ありがとうございます)

2022/09/24 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

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