441話 大団円(完結)
最終話です。
「ほう。救済者か。まさに世界を救った者だな」
戦隊本部で、総隊長殿と向かい合っている。
「私が神職であれば、救世主としたのでしょうが。宗教的な側面を強くするのは、教団としても気が引けたのでしょう」
他の宗教の手前もある。
「喜ばしいことなのだろうが、私にとっては卿が生き残ってくれたことが一番嬉しいことだ」
「ありがとうございます。総隊長殿が、連盟内にて強く働きかけを戴いたそうですね」
「いや。私は何もしてはおらぬ」
白い髭が揺れ、嬉しそうにされた。
「いえいえ。我が国の連盟委員から聞かされております」
「ああ。聖都に居た連盟の者達だ。彼らが大いに憤ってな。1国の戦功を誇るために、世界を滅ぼす気か! そう、レガリア代表に詰め寄って居ったわ。レガリア軍では駐屯地司令が謹慎となり、後任がのらりくらりとしておったが。プロモスにラグンヒルにセロアニア、その上ケプロプスまでレガリアを糾弾し始めた。ここに至って、レガリアも決断したというわけだ」
そう。
我が国は、どちらかといえば宥める方向で進めたらしい。他国が全て敵に回ってしまうと、意固地になってしまいやすいからな。なかなかに狡猾な外交だ。
「いえ。私は総隊長殿が、映像魔導具を連盟評議会で見せて、駐屯地のあの兵器は何だ! ラルフェウス卿を殺す気か、絶対に赦さぬと仰ったと、聞いておりますが」
「ははは。年寄りには似合わぬことをした」
「いえ。感謝しております」
「そうか。一席ぶった甲斐が有ったというものだ」
「それで、レガリアとしては、どのような状況なのでしょう?」
「軍の元帥たる王太子が、罷免されたことは聞いているだろうが」
「はい」
一昨日聞いた。
軍の一派とレガリア出身のあの枢機卿を切ったということは知っているが、どのような条件で決着したかまでは知らされていない。
「そして、内々に廃嫡が発表された。王太子の独断で事を為したということにしたいようだったが。それでは納得が得られなくてな……まだ内密にして貰いたいが、アルジャナ11世陛下は、近く退位されることになって居る」
むっ!
「それで、ようやく各国と折り合いが付いて、国家間転送所が使えるようになったというわけだ」
「承りました」
後から聞いた話では、連盟は全世界にレガリアの行状を公開すると脅したようだ。全世界には、無論レガリアも入っている。王室といえども、臣民の支持を失っては拠って立つところがなくなるからな。それで現国王が退位し、王太子とは違う王子が登極する所まで互いに譲歩したそうだ。
「うむ。さて、時間だな。皆を待たせても悪い。そろそろ祝宴へ行くとしよう」
俺と同じように、各国へ散っていた戦隊員が続々と王都へ戻って来ている。
総隊長と俺が祝宴会場と成っている広間へ入ると、歓呼と共に魔術師達に迎えられた。
決死の覚悟で世界に散らばっていった仲間達だ。
「よくぞ、皆無事に帰ってきてくれた。こんなに嬉しいことはない。今宵は大いに喰い、大いに飲んでくれ。乾杯!」
短い挨拶で、宴会が始まり。夜の更けるのを忘れ、俺も生涯一という程飲んだ。
† † †
館の玄関に着き、馬車の扉が開いた。フラガが降り、ルークを降ろした。
その刹那。
「おにぃちゃぁぁあああ」
黄色い声と共に、塊がルークに衝突した。
「レイ!」
「おにいちゃん」
「離してくれ。あとで遊んでやるから。母上に挨拶しなければ」
「やっ!」
断固拒否とばかり、小さな腕で必死に抱き付いている
クローソを馬車から降ろしてやると、兄妹の姿を見て笑いを噛み殺していた。
確かに微笑ましいが、少しは父のことを気にしてくれても良いのではないか、娘よ。
後ろの馬車から、ソフィーが降りてきた。
「まあ、うらやましい」
誰のことを言っているんだ?
妹を抱き付かせたまま、ルークはローザの前に進んだ。
その後ろでプリシラがはらはらしている。
「母上。ただいま戻りました」
「ルーク。おかえりなさい。よく無事に帰ってきました。母は……」
そのまま、ローザは屈んで2人諸共に抱き締めた。
†
3日後。
ルークと共に参内した。
大広間の扉が開くと、閣僚、列侯、多くの武官が、それぞれに大礼服を身に着け参列しているのが見えた。
「ラルフェウス・ラングレン殿、ルーク・ラングレン殿御入来」
「父上……」
ルークが小さく呟く。流石に少し尻込みしたようだ。
「行くぞ」
手を繋いで入っていくと、割れんばかりの拍手で迎えられた。
一足先に表彰された、グレゴリー卿とバロール卿も迎えてくれている。胸に大きな勲章が光っている。彼らは共に、一代限りではあるが宮廷伯爵に陞爵したはずだ。
俺達は、人々の何十もの列の間を通って、玉座の前に進み跪いた。
宰相ゲルハルト・フォルス侯爵が進み出た。
「ラルフェウス・ラングレン子爵。先の国難、そして世界の危機において、我が国の代表である新世界戦隊員として、黎き竜を退けた。また王都並びに世界の都市を防衛する仕組みを整えた。この勲功は並び立つ者なし」
「はっ、ありがたく存じます」
「また、その一子、ルーク・ラングレン、幼き身にありながら、先に賞した賢者達と共に、魔導障壁を保ち、竜のブレスからよく王都を護った。勲功抜群である」
「ありがとうございます」
「うむ。2人には国王陛下よりお言葉を賜る」
はっ! 答えて、より身を屈める。
「ラルフェウス、そしてルーク。両名は王都を救い、世界を救った。臣民に成り代わりクラウデウス。感謝する」
「ははぁぁ」
「そして。また救済者の称号を贈られるなど、我が国の面目を施した。この功を大いに賞するところである。宰相」
「ルーク・ラングレン。汝に王国男爵を叙する」
男爵!
ルークも驚いたのだろう、大きく目を開いてこっちを見た。
「ただし。未だ成年に満たぬゆえ、今は準男爵とし、成年に至りて改めて叙するものとする。なお爵位に対しては領地ではなく金銭をもってする」
驚いたが、まあそうだろうな。古来男爵とは領主だ。今ではそうでもなくなったが、相続を除いて未成年の者に与えられた前例はない。
羊皮紙を開いて、こちらへ見せた。
「ありがたき幸せ」
はっきりと答えた。それでよい。
「ラルフェウス・ラングレン。汝に王国伯爵を叙する。なお爵位に対しては……」
おお?
「国王直轄領からシムレーク並びに27郡を新たに領地として与える」
領地!?
27郡。領地を賜る場合は、当代限りということはない。永代の伯爵だ。
「あ……」
「また……」
宰相閣下と目が合った。まだ続くのかよ。
「王都内郭内に、屋敷地を与える」
そうだ。伯爵領を持つとはそういうことだ。至れり尽くせりとは、このことだ。
「ありがたき幸せに存じます」
「者共。大いに賞せよ!」
陛下のご発声で、再び広間は拍手に包まれた。
†
館に戻ると、皆を居間に集めた。
「伯爵位だけでなく、御領地ですか……おめでとうございます」
「「「「おめでとうございます」」」」
妻達の他、そこに居合わせた者達が祝ってくれた。
「それで、領地? どこに? どれぐらい?」
アリーが興味津々のようだ。
「ああ、シムレークを始めとして27郡だ」
「シムレークって……ああ、エルヴァ地区の隣よね。湖が綺麗な。それで、27郡って?」
「アリー奥様。現在の御領地を併せますと、旧バズイット伯爵領そのものです」
一緒に参内して全て心得ている、モーガンが答えてくれた。
「うわぁ。まさに大出世ね。でも、そんなに大きい領地を治められるの? 家臣が足りていないわよね」
その通り、子爵と伯爵では桁が違う。しかし、アリーもこの辺りに気が回るようになってきたな。
「確かにな。家臣は集めねばならぬだろうし、引き続き父上の助けも借りねばならぬ」
おやじさんには悪いが、遠慮している余裕はない。そもそも、俺は主に王都に居ることになるしな。
「そうか。領地は広すぎても、考え物かぁ」
「アリー! 申し訳ありません。旦那様」
「奥様。ご心配は、ごもっともながら。ありがたいことに、現在の直轄領の役人を、最長5ヵ年に渡って、お貸し戴けることになって居ります」
宰相閣下、内務卿閣下のお心遣いだ。
「お館様。あの件を」
「ああ。近く引っ越すことになった」
「ええ。ここを気に入っていたのに」
「そうか。ここも伯爵領の王都下屋敷として残すことにはしている。アリーはここに居て良いぞ」
「えっ?」
「内郭に屋敷地を賜った。そこに上屋敷を造って移り住むことになる。ああ、離れはそのまま移築する」
「ありがとう存じます」
「ちょっと待ってよ。私も引っ越すわよ」
「ははは……」
「ああ……からかったわね。旦那様、人が悪いわよ」
「確かに。私も聖都でよく虐められました」
「でしょう」
クローソとアリーが連帯し始めた。本当に仲が良いな。
「クンシォー、きれい」
ビクッとなったプリシラが、下を向いた。
「ちょ、ちょっと、レイ! 手を離しなさい」
「ああ、いやぁ」
プリシラがものすごい形相で、レイが掴んでいた勲章を取り上げた。
「ルークさん。ローザさん。申し訳ありません」
「いいんです。プリシラさん」
「そうよ。レイナの手の届くとこに置いておく、ルークの方が悪いわ」
相変わらず、ソフィーはルークには厳しい。
「ソフィアさん」
「なんです、クローソさん」
「ソフィアさんも、男爵を授かることになっていたって聞いたけれど。辞退したのよね。よかったの?」
おやじさんとも相談して辞退することにしたようだ。一応恩給を貰えることになったと聞いている。
「ええ。男爵になったら、余計変な男が寄ってきますから」
「いや、寄ってくるからって。まるで結婚しないみたいな言い方だけど」
「はい。しません」
「ええ?」
「でも子供は欲しいから、お兄様の子を1人養子に貰いたいのですが」
何を言い出した?
「幸いアリーさんのところは、男の子ですから。できれば、その子を」
「なんだと?」
「男なの? これ」
これって腹を指差すな、アリー。
こちらを見ても、俺は教えていないし、そもそも鑑定もしていないぞ。
「いやあ……流石に産む前に、養子と言われても」
「とりあえず、自分で産むことを考えなさい」
「お兄様。それは難題です」
竜は片付けたが、我が家は前途多難だ。
完結しました。
4年半の連載期間となりました。
皆様のおかげで、続ける事ができました。誠にありがとうございました。
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また、本日より新連載を始めております。
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訂正履歴
2022/09/24 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
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