406話 馬上に死す
金曜日ですが連休なので投稿します。明後日も投稿するかも(あやふや)
出典が分かりません>別の○上に死すかな……
「父上!」
「ああ、分かっている。車列を停めよ!」
乗車が停まると、数十ヤーデン離れて併走していた騎馬も止まった。
俺は下車すると、ルークを降ろした。すると前後の馬車から、随行員も降りてくる。
「お館様?」
「各員は、別命あるまで待機」
道から外れ、ルークの手を牽いて放牧場に入っていくと、向こうも下馬した。
風体からして我が国の者ではない。東洋の人間だ。
1人がもう1人に手綱を渡して二言程しゃべって、こちらに歩み出した。
見た感じ40歳代だろう。浅黒く、がっちりした骨格に、東洋人は数人しか面識がないが、中々厳つい面相だ。
【お初にお目に掛かる。ミストリア全権委任大使のラルフェウス・ラングレンと申す。レーゼン帝国の大使閣下とお見受けするが?】
【語学に堪能と聞いていたが、なるほど。いかにもレーゼン帝国大使のゲゼルヴァと申す。先程は、不用意に車列に近づき失礼した。そちらは?】
【我が息子です】
【確かにお顔が、そっくりですな】
「ルーク、挨拶を」
「はっ、はい……ベスタ ロフゥー ウィスッワ メンドゥ ルーク・ラングレン」
【おお、すばらしい! 御子息もサラール語を?】
表情が和らいだな。
【いえ、できるのは挨拶だけです】
【それにしても……】
確かに、俺達の会話をちゃんと聞き分けて、教えてあった挨拶の5つの言語からよく正解に辿り着いた。
頭を撫でてやる。
大使は、ルークの前にしゃがんで目線を合わせた。
「ベスタ ロフゥー ウィスッワ メンドゥ ゲゼルヴァ」
「ゲゼルヴァ……閣下」
「その通りです。ルーク君」
「えっ? エスパルダ語だ」
ルークは、瞬きながら俺を見た。ミストリア語とエスパルダ語は、発音や抑揚が違うだけでほとんど同じ言葉だ。だから、ルークでも分かる。
「ははは。これでも外交官ですからね。西洋の言葉もそれなりに会話ができます」
エスパルダは典礼語だ。その通りだろう。
それにしても、子供好きらしい。
「はあ、そうなんですね」
ルークは満面の笑みだ。
生まれて初めて会った、東洋人と話せてうれしいのだろう。
「しかし、サラール語は、レーゼン帝国でも北方の民の言葉。よくご存じでしたな」
「その立つようにして乗る騎乗姿勢は珍しいですからな。すぐ分かりました」
古に騎兵で大帝国を築いた民族。今は分裂して衰退し、有力な氏族ではあるがレーゼンの一部となっている。そして、その機動性を生かし隊商をよく務める。
「そうでしたか。確かに我らは物心着く前に騎乗を覚え、馬上に死すを信条とする。大変恐縮だが、馬車馬を見せて貰ってもよろしいかな? 先程遠目にも馬車を牽かすには勿体ない程の駿馬に見えた故……」
なるほど。寄ってきて、併走したのは馬が気になったからか。
「どうぞ。ただ……ああいや、どうぞ」
ゲゼルヴァ閣下は、俺達と一緒に道までやって来た。しかし───
「なんと!」
まだ20ヤーデン程あるのだが、閣下は立ち止まって大きな声を上げた。眉を下げて怪訝な表情だ。
「はっはは。気が付かれましたか」
流石に馬上に死すと壮語しただけのことはある。
「ええ。生きた馬かと思いましたが……これは?」
「ゴーレムです」
「ゴーレム……触ってもよろしいかな?」
「はい」
鞆や脾腹の辺りを触り、今は首筋を撫でてやっている。
「驚きました。触ったら冷ややかで、ようやく作り物と納得しましたが。実に良くできている。近付いてくるまで、全く分かりませんでした」
そうだろうな。
魔術師でなければ、余程のことがなければ気が付かない。創ってすぐは、普段微動だにしないところが気味が悪いと言われたので、今では呼吸の他、無意味にいくつかの仕草をするようにしてある。それもあって騎士団に入ってすぐの者は、馬が飼い葉を食べない、そう周囲に聞いて回るらしい。
「ゴーレムというと、どうやって動くのでしょう?」
「ああ、私が魔力を適宜充填することで動きます」
「そうか……できることなら1頭譲って貰いたかったが……置物になるだけだな。ここに居る間に1度乗らせて貰いのだが。どうだろう。無論馬車が着いてからで構わない」
ふむ。よほど馬好きなのだろう。
【魔収納──出庫】【起動!】
【おおう! これは!】
予備の白馬を、目の前に出庫した。馬装は単騎で乗れるようにしてある。
「差し上げるわけにはいかないが……」
陸軍研究所に、軍事機密相当認定されている。国外流出はまずい。
「こちらの放牧地内であれば、乗って戴いて結構です」
「真ですか!」
「どうぞ。操作は普通の馬と同じです」
何人かに確認済みだ。手綱を渡す。
「ありがたい」
厳つい顔が破顔している。
「スパイラスは佳き都であったが、長らく待つとなれば窮屈でね。師父と共に無理を言って、ここを斡旋されたのだが。よかった」
大使は鐙を長く調整し直すと、ひらりと跨がった。
「師父というと、イーズ帝国の大使閣下ですかな?」
「如何にも。西洋で言えば、貴殿と同じ賢者と呼ばれる方ですよ……さて、こちらを訪問させて戴いた趣旨については、本日の晩餐の後と聞いておりますので、その折りにお話させて戴くとして、この場はお暇させて戴きましょう」
「はい」
「ではまた」
馬の上と下で互いに略礼を交わして、別れた。
†
ゆるゆると10分も走って、御料地の館が数多く建ち並ぶ場所までやって来た。
先触れを出してあったので、外務官僚に王宮庁職員と場長の出迎えを受けた。
ここには、客人用の館が複数あるので、そこに2ヶ国別れて滞在させているとのことだった。
俺の一行も同じようにするとのことで、アリー達はそっちに行っている。
官僚からこれまでの外交交渉状況について説明を受ける。
「状況は理解したが、外交目的は明かされていないのか?」
東洋諸国担当と名乗った男達に訊く。
「それがなかなかもって。イーズのファラム閣下は官話とは違う言葉を話されるようで、言葉が通じません。通訳を通さざるを得ず。話が全く進みません。それからレーゼンのゲゼルヴァ閣下は閣下で、中々に口が重くて。5日程接待しておりますが、笑ったのは王都からこちらに移動することを切り出した時だけです」
官話とはイーズ帝国の標準語だ。しかし、国の歴史は古く、文字は統一されているようだが、いくつもの有力の言語が存在するそうだ。
「私には、乗馬をするかと訊かれました。いいえと答えましたが、以降は事務的なことしか、会話がなくなりまして……なにしろ、ラングレン閣下がお越しになるまでは、交渉に入る気がないようでして」
馬か。
「先程我々がここに来る前に、ゲゼルヴァ閣下とその随員の方々と出くわしました」
アストラだ。
「そうでしたか? それで?」
「閣下は、ご自身の馬をゲゼルヴァ閣下に貸し出されました。初対面でしたが、親交が深まったことでしょう」
彼らが歯痒いことは分かるが、自慢することでもない。
「それは、すばらしい」
「はい。評判通りの外交手腕ですな」
俺を持ち上げても、自分たちの不首尾を糊塗できるとは思えないが。
「偶然だ」
†
「父上!」
「あら旦那様。ようこそ新居へ」
アリーが、ソファでルークを横に置いて笑っている。新居じゃなくて、御料地第6館だ。
「でも流石は王族用ね。内装の気品が高いわ」
確かに。外観は景観の邪魔をしないよう田舎の民家風だが、入ってみれば豪華だ。ただ全体的に色使いは穏やかで居心地が良い。プロモス大使館とは対照的と言えるだろう。
「さて、夕食まで特に行事はない。昼食を摂ったら、皆で探検に行くとしよう」
「やったぁ!」
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2022/02/11 少々加筆、表現変え
2022/07/28 誤字訂正(ID:632181さん ありがとうございます)
2022/08/20 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)




