366話 証(あかし)
お知らせです。恐縮ながら投稿ペースを落とさせて戴こうと思っております。次回は17日に投稿する予定です。ご了承願います。
超獣を斃した礼に、歓待すると言われたのだが辞退した。まあ今回は、まだ都市から遠いところで撃滅したので、被災者も少なかったのだが
俺は映像魔導具を複製して託すと、カゴメーヌへ取って返した。
都市間転送所を出ると、結構日が傾いている。
思ったより早く終わったので、今日の内に済ませるべきことはやっておこう。
パレビーと魔導通信で繋ぎを付けて巨大超獣を撃滅したと告げ、大使館と本国に第一報を入れるよう命じた。
辻馬車を拾うと、ラグンヒル大使館へやって来た。
石造りでなかなか瀟洒な建物だ。門に衛兵が2人居る。
近付いていくと止められた。
【本日の査証発行業務は、終了した!】
どうやら、入国志望のプロモス人と思われているようだ。
【ミストリア王国大使ラルフェウス・ラングレンが参ったと、マゥレッタ閣下にお取り次ぎ願いたい】
【大使?】
怪訝な顔をしている。まあ、一国の大使が前触れ無く、しかも供も連れずに現れるとは思えないか。
「ミストリア王国大使ラルフェウス・ラングレンが参ったと、マゥレッタ閣下にお取り次ぎ願いたい」
少し威圧を込めながら、エスパルダ語で言い直すと、ようやく1人が取り次ぎに入っていた。
数分待っていると、転げるように大使が出てきた。その後を2人の大使館員が追ってくる。
「なっ、何をして居る。お通しせよ!」
「「はっ!」」
ようやく門内に通される。
迷っていたようだが、前庭の中程まで来て、ようやく切り出してきた。
「あのう。ラ、ラングレン閣下。お昼に御出立されると仰っておられましたが!」
「ええ。行って参りました」
「はっ?」
「行って超獣を斃し、パコニスのマルガリス伯爵と会ってきました」
「はっ、はい…………ぇぇぇえええ?」
瀟洒な壁に谺して、先行している大使館員が振り返った。
ここなら人目も少ないから、問題ないか。
「では、建物に入る前にお見せしましょう」
「はぁ……」
石畳で止まると、魔結晶を再び出庫した。
†
直径4ヤーデン程の巨大魔結晶を見た、マゥレッタ大使は数分呆けていたが、気を取り直した。それから考えられる限りの美辞麗句を持って、俺に感謝の意を表した。
まあ、都市一つを破壊する超獣の憂いを除いてもらったのだ、気持ちは分かる。
それで魔結晶の所有権についての話になった。
俺としては、ラグンヒル国内で出現した超獣であるので、ミストリア国王の宣言に順って大使に引き渡すと主張した。
しかし、向こうとしては、依頼をした身だ。その依頼の報酬も支払うことなく受け取る訳には行かないと主張され平行線となった。
結果として、どうなったかというと。所有権はラグンヒルとミストリアの国王同士で決めて貰うという話になった。なお決まるまでは、とりあえずミストリア政府が預かるという事となった。要するにミストリア王都に戻るまでは、俺が所持すると言うことだ。
ラグンヒル大使館を出た足で教皇に連絡を取ろうとしたのだが、王宮に参内しているとわかった。ミストリア大使館に入り状況報告を行ってから、宿舎に戻った。
†
翌朝。
教皇と会うため、大聖堂に向かった。
玄関前に鎧の上に蒼い制服を着たマグノリア騎士が居る。その1人が俺を認めたのか、近付いて来た。
「ラングレン卿。ご祈祷の途中であるが、もうすぐ終わりだ。どうぞ通られよ!」
扉を手で指した。
昨日と打って変わって慇懃だ。ちゃんとマゥレッタ大使から、連絡が届いているということだ。会釈して、聖堂に入っていく。
聖堂に入ると荘厳な賛美曲が流れている。音量を抑え、教卓の前に立った教皇の口舌を、額ずいている者達に聞こえる様にしているのだろう。跪いた者達は聖衣を着ているから全て神職だ。
ラーツェン語の朗読が俺の耳にも入った。これはサザール伝第12章8節の聖句だ。天使が遣わされ、地から這い出た堕天使を調伏する一節。
巨大超獣は、俺が斃したヤツだけではないからな。
最後の聖句を唱え終わると、高く伸ばした腕を折って胸の前で交差させた。
おそらくこれで終わりだろう。隊長が言った通りだったな。
賛美曲の余韻が漂う中、教皇と眼が合う。
「ラングレン卿」
教皇の声で、神職が皆こちらを振り返った。我が国の大司教の顔も見える。
「ラルフェウス・ラングレン。ラグンヒルの地より立ち戻った」
「伝言は聞いた。巨大な超獣を斃されたそうだな」
「いかにも。撃滅致した」
「うむ、撃滅するとは、空前のこと、いや壮挙と言えよう。よくやってくれた。心から礼を……」
「お待ち下さい、猊下」
枢機卿が、教皇との間に割って入った。
「仰る通り、巨大超獣を撃滅したのであれば、壮挙に違いありません。しかし、言葉のみでは信じられません」
「アマデオ!」
「教皇が間違いであったでは済まされませぬ。確たる証拠を見てからでなければ」
「枢機卿の仰る通りかと」
「ラングレン卿?」
映像魔導具を出庫すると、魔力を加えた。
魔石部分から光条を発して、聖堂の壁に像を結んだ。
「こちらを見て戴こう。これは超獣を戦いながら映した物」
響めきが上がり、教皇と枢機卿、それに上級な神職が寄ってきて映像を見始めた。
光景としては、ちょうど超獣が変色したところだ。
「うぉ」
視点が大幅に変わり、皆が呻き声を上げる。
「ふーむ。これはどういう……そうか。ラングレン卿は、空に在るのか」
「はい」
「空を飛ぶとは、こういう視界になるのだなあ」
変な述懐はあったが、その後は激しい戦闘魔術に移行したので、静まり切った。
最後に魔結晶が宿ったとこで、拍手が起こった。
だが、教皇は呆然としているような表情だ。
「たった……」
拍手が止む。
「はっ?」
「たった、これだけの間で斃されたのか」
教皇が俺を睨み付ける。
「ああいや、見始める前のことですが、5分程魔導障壁を破るのに掛かっております」
「それにしても、強すぎる」
「猊下の仰る通り、正に奇蹟。ラングレン卿の力は光神のお恵みにございます」
むっ!
小太りの年配神職が笑みを浮かべている。彼としては褒めたつもりなのだろう。
「大司祭、それは違うぞ」
「はぁ……?」
教皇は険しい視線を向けている。
「ラングレン卿は、幼き頃より魔術の研鑽を積み、毎回毎回命を懸けて強大な超獣と対峙して居るのだ。神の扶けは有ろうが、けして主客を転じてはならぬ」
「はっ、はぁ。承知しました」
ほう……神職とは、大司祭と呼ばれたような思考形態が多いのだがな。
何かにつけて、神のお恵み、お導きと言う。穿った見方をすれば神職が貢献して居るぞと顕示欲が強いのだ。
だが、三重冠を被った方は違うようだ。これからは心の中でも敬称を付けて呼ぶとしよう。
「それはともかく。どうかな、アマデオ枢機卿。これで文句はなかろう」
「はっ、確かに、ラングレン卿の実力は当代随一でありましょう」
枢機卿は、胸に手を当てて恭順の意を示した。
「さて、この映像。超獣に対抗できるという証にせよ。卿はそう言うのだな」
「御意。この魔導具10基。全て今見られた光景が映っております。猊下に進呈致します」
両手に出庫して、差し出すと、枢機卿が受け取った。
「ありがたい。西方諸国をこれで説得してみせよう! ところで1つ訊きたい。最後に球体から出て来た物……あれは、もしや?」
† † †
「もう帰るのかや?」
「はっ! これでも忙しい身でございまして」
女王陛下より、帰国する前にもう一度参内するよう言われていたのだ。
つまり、今日プロモスを発つ予定だ。
「ふむ。忙しないのう。少しここで骨休みしても良かろうに」
「ありがとうございます。御礼を兼ねて、こちらを陛下に献上致します」
進み出た執事に、魔導具を渡す。
「これは?」
「はい。一昨日ラグンヒルにて、超獣を斃した光景が映っております」
「ふふふ。ラルフは妾が欲しい物を心得ておるようだ。後でじっくり見るとしよう」
艶冶な笑みは改めて臈長けた美しさを思い知らされる。
「それにしても、巨大超獣を人間が斃せるものなのだな。斃せるとすればラルフだと思っておったが」
「いえ。私以外でも斃せると思います。その手順については別途論文にまとめます」
「ふっふふふ……論文ときたか。学究肌のラルフらしい」
「光栄に存じます」
「うむ。それは、世界にとって大いなる宝となろう」
「はぁ」
「どうじゃ、褒美の先渡しにクローソなど? なに、正妻にせよなどと野暮なことは申さぬ」
隣に立っている侍従が何度も瞬いている。
「ご冗談を。そのような仕儀とならずとも、殿下は我が国がお守りしますゆえ」
「そうか、頼むぞ。そのために大使としたのだからな」
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訂正履歴
2021/04/10 少々加筆
2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




