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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
15章 救済者期I 終末の兆し編
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350話 洗礼再び

15章開始です。章の名前が物騒になって参りました。

 刻は流れ、季節は巡る──


 時に光神暦384年6月。

 俺が賢者となって2年が経ち、ルークも2歳となった。

 今では離れに留まらず、フラガと共に庭を所狭しと走り回っている。


 子供と言えば、プリシラが妊娠した。産み月まではまだ1ヶ月有るが、離れに寝起きしており、ルークが懐いて居るようだ。何度か膨らんだ腹を摩っているところを見た。


 ここ2年で変わった所と言えば……。

 製薬事業だな。

 アンプル単位での販売で、需要に火が付いた。さらに香水の器を流用した噴霧でより柔軟な用法を提供したことにより、注文が殺到している。さらに量を小分けしたことにより、軍事的な脅威が下がったと言うことで、同盟国への輸出も始まっている。


 これに対応した設備増強に加え、原料調達の円滑化で販売量は月5万単位を超えている。無論市価は当初の半分程度に落ちては居る。だが貴族が経営する事業の税は低いため、いささか儲かりすぎることを一時期懸念していた。


 しかし、1年前に始めた頭巾巫女基金による孤児育成事業の評判が良い。

 不安だった売名行為とも受け取られていない。基金の主な出所はラングレン家と分かって居るのだろうが。ともかくも、新参のラングレン家は貴族の界隈に受け入れられている。


 俺だけならば、貴族の評判がどうであれ、嫉妬をどれだけ受けようが意に介すことはない。だが我が家には、ローザ達も居ればルークも居る。貴族を敵に回すのは構わないが、貴族達と複数になればそうでない。多数派になる必要ないが、つまはじきになるのは避けるべきだ。


 さて、儲けた金だが。

 基金への拠出は一部に過ぎず、多くを騎士団に注ぎ込んでいる。特に救護班だ。去年初頭の魔獣大発生で活躍を見せた彼女らの人気が盛り上がり、回復魔術師と看護師の入団希望者が殺到した。 


 今では救護班常勤だけで30人を抱えており、第2騎士団とさえ呼んでいる者も居る。比類のない活躍もしているが、剛毅なモーガンが鼻白むほど経費も遣う。

 入ってくる金が増えれば、出て行く金も増える。

 世の中とは良くできているものだ。


 とはいえ、救護班が回り出したことで変化が出て来た者が居る。

 アリーだ。


 10日前の午餐後。

『ねえ。私ってまだ、救護班に必要かな?』

 ソファーで向かい合った彼女が訊いてきた


『必要だ』

 エリザ先生は非常勤に退いたしな。代わりに新たに副班長2名を置いた。救護班の運営は彼女達が回し始めているが、精神的な支柱というか、求心力の源はアリーだぞ。


『うーん』

『辞めたいのか?』

 言ってから少し後悔した。居間での話だが、壁際に何人もメイドが並んでいたからだ。


『うーん。私も子供が欲しいんだよねえ』

『子供か……』

 甥としてルークを可愛がっては居るが、プリシラがもうすぐ産むからな、競い心が湧いてきても、分からなくもない。しかし、そんなに本気とも思えないが。


 気持ちはともかくも、まだアリーが身籠もった兆候はない。

 しかし、この発言をどこから聞きつけたのか、他の救護班員が火消しに回っている。


 俺はと言うと、自分で言うのも何だが、無難に賢者の任務をこなしている。

 2年間で超獣向け出動は4回だが、撃滅が3回、人口希薄地での昇華が1回だ。全て成功しているが、我が騎士団単独で出動したのは国外遠征1回含む2回だ。


     †


「失礼します。あっ! ルーク様お待ち下さい」


 執務室の扉はフラガが開けたのだが、彼と扉の隙間を擦り抜けて、ルークが入って来た。一目散にソファセットを抜けようしたが、モーガンが立ちはだかった。


「ルーク様。こちらは、お父上が仕事をなさる部屋。お分かりですか?!」

「あい」

「ならば、お父上が入れと仰るまでは、入ってはなりません。よろしいですね」

「うぅぅぅ」


「お返事は如何に?」

「はい」

 少し顔が曇った。


「ルーク」

「はい!」

「うむ。モーガンはそなたの傅役(もりやく)。ちゃんとモーガンの言うことを聞くのだぞ」

「はい!!」

 表情は却って入って来た時より好転しているが。これは……。


「では、入ってよろしい」

 モーガンが傍らに避けた。


「とうさま、とうさま」

「何かな?」

「えっと。えっとねえ」

「はあ……」


「モーガンとフラガ、席を外してくれ」

「はっ!」

「はい」


 2人が部屋を出て、扉が閉まった。


 ルークと向かい合う。


(とう)様。用というのは(かあ)様から、大聖堂へ行く時刻が近付いたので、お支度をと言付かりました」


 身長1ヤーデンばかりの幼児が、明らかに口調を変えた。短い舌ながら流暢な言葉遣いだ。


 そう。ルークは2歳にして相当な知性を……一般で言えば基礎学校生高学年程度の知性を有している。が、さして驚くほどのことでもない。俺もそうだったしな。

 それだけでも、ルーちゃんはラルフの小さい時そっくりとお袋さんが何度も言うのを待つまでもなく、俺の子に間違いない。


「うむ。わかった。それはいいが。ルーク、何か気に入らぬ事があるのか」

 それを訊くのが人払いした理由だ。


「ああぁ。また漏れてましたか」

 ルークは、自らの額を押さえた。

 彼の魔界は強い。が、まだ制御は拙く、俺には彼の喜怒哀楽が伝わってくる。


「それで?」

「はい。実は洗礼を受けるのは、どうも……」


 そう言えば、洗礼のことをアリーと話していたな。


「光神教に入信するのが嫌ならば、元服の後に信教を変えれば良い」

「いえそうではなく、儀式が……でも母様が悲しむので、洗礼は受けます」


「そうか。だが、子供は、親のことなど気にするな。俺はこの決裁を済ませたら、そちらに行くとローザに伝えてくれ」

「はい」


 一礼して踵を返すと、ルークは扉まで戻って叩いた。外から扉が開くと。

「あのね、とうさまはすぐくるって」

 大きな声で、外に居る者に告げた。


「お越しになるです。ルーク様。ともかく奥様の元に参りましょう」

「うん!」

 可愛い足音が、ホールを遠ざかって行った。


 ただ、ルークが俺と違うのは、なぜか自分を普通の幼児と装っていることだ。ローザを含めて、俺以外の者達に。


「ルーク様は、いつも元気がよろしいですな」

「そうだな。これも終わりだ」

 署名し終わり、モーガンに渡す。


「ありがとうございます」

「では、着替えに行くとしよう。ああ、モーガン」

「はい」

「悪いが、今しばらく気付かぬふりをしてやってくれ」

「心得ております」


     †


 少し薄暗い聖堂に入ると、ルークとフラガが早足に先へ行った。


「だいしさいさま。こんにちは」

「こんにちは」

「ルーク君にフラガ君、良く来ましたね。ラングレン殿。ようこそ」


 サンプトン大聖堂の内陣の前に、2人の神職が待っていて下さった。

 既に何度か連れてきているので、ルークは顔見知りだ。


「エルディア大司祭様。この度は、息子のために造作を掛けます」

 遅れてきたローザも、隣で感謝の意を示している。

 そう。これからルークの洗礼をして貰うのだ。


「いやあ。あの日が昨日のことのようです」

「ははっ。17年も前のことです」

「そうですか。もう17年も経ちましたか。私も年を取るはずです」


 確か70歳に成られたのだったかな。

 あの日とは、俺が、当時エルディア司祭様に洗礼を受けた日のことだ。場所は、シュテルン村の、比べるべくもない小さな教会だが。


「感謝に堪えません」


 お世辞ではない。

 俺はエルディア大司祭様に相談ごとをし、貴重な助言を戴いている。


 例えば、頭巾巫女基金も大司祭様の発案だ。

 慈善事業をやること自体は考えていなかったわけではないのだが、頭巾巫女つまりアリー名義でやることは思い付かなかった。


『相談されるのならば、私などより、徳の高いデイモス司教などがよろしいのでは』

 そうは言ってくれている。徳について一般的にどうなっているかは知らないが、やはり相性というものが有る。同じことを仰っても、聞く俺の感じ方が違うからな。


「あぁ、いやいや」


 そのとき鐘が鳴った。


「10時ですな。昔話はこの辺にして、洗礼の儀式を始めましょう。内陣へどうぞ」

「ルーク!」

「あい」

 嬉しそうにやって来て、手を出すと繋いできた。


 一緒に内陣に入る。既に若い神職が緋色の敷物を敷いてくれていた。


「では、ルーク君。そこに膝を付きなさい。そうそう、そうだ。それで手を……」

 敷物の上に四つん這いになった。


 大司祭様は金色の杯に向かい、何事か呟きながら翳した腕を動かした。

「光神よ聖絶を……」


 若い神職が、ルークの下に、銀の盆を置く。


「光神よ! 貴方(あなた)の御前に(ぬか)ずきし 東街区ロータス通り2丁目 ルークを 新たな(しもべ)と認め 祝福を与え給え」

 金の杯を傾け、聖水が零れ、ルークの小さな頭に注がれた。


 結構な量を掛けるものだなあと思っていると。


 おおぉ……内陣の外から響めきが起きた。付いて来たモーガンだ。


 丸窓から射した光がルークの頭上に差し、金色の輪を作った。

 ふむ。

 これは髪の照り返しなどではない。魔界が光りを曲げ散乱しているのだ。


(しもべ)に幸多からんことを」


 大司祭が肯くの待って、ローザはルークの頭を持参の布で拭き始めた。


「ははは。いやいや。密かに思っておりましたが、ラングレン殿と同じ瑞兆でありましたな」

「ぼく、とうさまといっしょ?」

「ああ、一緒だな」

 直視はしたことはないが、大凡そうだ。


「よかったぁ」


 ああ……ルーク。ここに来るのが嫌だったのは、そういうことだったか。

 アリーが何か吹き込んだのだろう。


「俺と同じだったが、違っていても良いのだぞ。ルークはルークだ」

 ルークは一瞬嬉しそうにしたが、すぐ淋しそうな目をして、俺の足に抱き付いた。


「まあ、まあ。それでは旦那様の脚が濡れてしまうわ」

「かまわないさ」


「ラングレン殿……司教より、今日のことは事細かに報告するように言われておりますが」

 俺の時は、教団への報告は控えて貰ったらしいが。


「特に問題はございません」

「そうですか」


 いくら光神教団でも、子爵の子息をいきなり取り上げたりはできないからな。


「本日は、真にありがとうございました」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/02/13 光輪の記述を追記

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