318話 長子誕生
追記:2000ブックマークありがとうございます。
長子誕生とタイプして。ふむ、生誕の方が格好が良くね? だけど違和感あり。生誕、生誕……国語辞典「生まれること」 騙されませんよー、ネット検索「(主に偉人の)死後、生まれてから今年は何年目というような使われ方が多い」 なるほど腑に落ちました。
亜空間──
広大無辺の闇に吸い込まれた。
───久しいな ラルフ
この波動は。
虚無の空間に、突如紅い光が渦巻くと焔と化した。
イーリス。我が国の聖獣が姿を現した。
どういうことだ?
その問いが発せられる前に、左に白き焔、右に蒼き焔が次々と燃え上がる。
蒼白い光が大きくなって受肉すると、俺に抱き付いた。
「セレナ! 帰って来たのか」
「ラルフ、ラルフ……」
頭を撫でてやる。
「イーリスにサクメイ。何の用だ?」
───フフフ
イーリスが紅き鳥相、サクメイが4脚の獣相となる。
「3聖獣揃って我が館を訪問か?」
───如何にも
まさかな。
───汝の子息の誕生を祝福に参ったのだ
はあ? 冗談は……
「なんで男子と分かっている?」
俺ですら、魔感応で診たのだぞ。
───それはともかく
おい。
「ローザ が 居ない」
───妊婦が数時間前に急に見えなくなった
───吾らのように亜空間にでも居るのでは無いかと妾は見ておる
───辻褄は合うな
「わかった。生まれたら、お前達にも見せよう。しばらく待て」
†
公館に戻ると1時間もしない間に男児誕生の報が届いた。
離れ2階に駆け付けると、1時間ほどして顔見知りの助産師が出て来た。
「おお、子爵殿。おめでとう。母子共に健康。問題なしだ。奥方の事後処置も終わった」
「そうですか。ありがとうございます」
「うむ。いやいや。それで……」
「はい」
「最初は少し泣いたんだが、それ以降泣かなくてな。少し心配だったが、元気いっぱい手脚を動かしている」
ふむ。
「中に入っても?」
「ああ、奥方は眠っているがな。見る分にはよいぞ」
助産師殿の許可も下りたので、消毒魔術を念入りに自分へ行使して、分娩室に入った。
ローザは台の上で、布を掛けられて寝息を立ててい……なっ!?
「薄ら光ってるし」
朝、顔を会わせた時とは段違いにローザの霊格値が高まっている。
2千いや3千近い。なぜだ? 子供を産んだからか?
ありえない。出産したら霊格値が跳ね上がるなんて話は聞いた事がない。お袋さんは一般人より少し多いぐらいだぞ。
ともあれ……
「ご苦労だった」
妻の頭を撫でてから、その横の台上に置かれた籠に向き合う。
中にはお包みに包まれた、赤子が居た。
結構でかいな。4.5パルダ(3kg)ぐらいだろう
助産師の言う通り、しきりに手を動かしている。生まれてすぐこんなに動くものなのか? まあ、ローザの腹を蹴りまくっていたから、不思議でもないのか。
瞼が腫れぼったい。まあ赤子は大体そうらしいが。薄く生えた髪の毛は、俺と同じ金色だ。だが何よりも、霊格値の高さがまざまざと波動を伝えてくる。
この子の霊格値がローザに移ったかとも思ったが、こちらは変わっては居なかった。
無事生まれてくれた。ふつふつと嬉しさが込み上げてくる。
おっ!
まだ呼んでも居ないのに、聖獣達が扉から入って来た。そして、俺を押しのけて籠の周りに首を並べた。
まあ、良いか。
───ほぅ これはまた……
───聞きしに勝る霊格値 本当に人間か ああ反証がすぐ横に居たわ
───ラルフ と ローザ の子 ……猿みたい
おい! まあ正直そうなのだが。
「で。祝福してくれるんじゃないのか?」
───せっかちだのう では始めよう
聖獣たちが鈍く光り始める。燃えるのではなく、もっと穏やかにだ。
光の微粒子が漂い渦巻き始める
───吾ら 3体の聖獣は
───赤子が この世界に生まれしことを
───祝福する
サクメイが口火を切り、セレナが締めると。
渦が収束して赤子の眉間に吸い込まれていった。
むぅ。これは……。
数瞬呆然としていただろうか。光が消えた後、セレナしか居なかった。
あわてて、赤子を探ったが、他に異変は見えない。霊格値も変わっていない。
「ふぅぅ。やつらは?」
「帰った」
帰った?
「そうか。セレナは……行かなくて良いのか?」
「セレナは ラルフに 代わって この子を 守る」
「は?」
「ラルフは すぐ どこかに 行く」
その通りだ。
「わかった。護ってやってくれ。だが、ここに居るのは駄目だ。一緒に外で待とう」
†
夕方ようやくローザと赤子が分娩室から出て来たと聞き、再び離れに向かった。
「あなた」
妻は既に目覚めていてベッドに横たわっていた。
伸ばして来た手を取って、上体を起こしメイドが差し入れたクッションにもたれさせる。
しっかりと手を握り返す。
「ローザ、よくやってくれた。ありがとう……ありがとうな」
「はい。ローザは無事任務の第1段階を達成しました」
なっ!
「うふふふ。冗談です」
満ち足りた表情だった。
ローザと一緒に赤子の入った籠をのぞき込む。
「この子に、名を付けて下さいませ」
「ああ、ルークにしようと思う」
俺がこの子を探った時、脳裏に燦然と輝いた名。光神の異名。
迷ったが流石にそのままでは畏れ多い。
「ルーク……ルーク・ラングレン」
「ああ、俺とローザの子の名だ」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2020/10/03 前書きに追記、誤字訂正




