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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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292話 ラルフ 恫喝する

握手するテーブルの下で、脛を蹴り合うってのが外交らしいすね。 ……うーむ、もうひとつ。

 プロモスの都市間転送を使ってラーラットの町に移動し、その後、馬車で丸2日進んだ。夕方、今度はクラトスの都市間転送を使って同国王都ベラクラスに辿り着いた。

 転送を終えて出て来ると、先行させたパレビーと、ベラクラスに待機させたペレアスが出迎えに来ていた。


「ご無事のご到着何よりでございます」

「うむ。出迎えご苦労」


「宿舎は、プロモス出立前と同じく迎賓館に用意戴いております」

 何やらパレビーの歯切れが悪い。

「どうした?」


「はあ。お疲れのところ恐縮ながら、大使館へお出で戴きたいとのウォーテル大使閣下からのご伝言です」

「ああ、構わん……アリーはどうする。先に迎賓館に行っておくか?」

 数ヶ月前なら確実に愚痴を零していたのに、今日は静かだ。


「いいえ。お邪魔でなければ旦那様と一緒に参ります」

 しおらしいな。まあ今回の派遣を通じてみても、大使の妻の自覚ができてきたようだ。


「では大使館へ行くとしよう」


    †


 ああ。怒りながら、この門を潜ったのは、もう半月前か。

 9月も中旬だ。


 アリーと騎士団を別室で控えさせ、俺とアストラが通された応接で待っていると、ウォーテル大使が入って来られた。


「これは、ラルフェウス卿」

「ただいま戻りました」

「お待ちしていました。プロモスでもご活躍されたと聞き及んでいます」


 ジョスラント大使とは対照的だな。話していると、気分が良くなる。言葉より雰囲気と表情だ。

 それにしても上機嫌だな。


「いえいえ」

「そんなことはない。外交行李で知らせて貰ったが、プロモスに条約検討を正式に同意させたのは、現時点で望みうる最良ですな」

「恐縮です」


「お陰で、こちらも進展がありました」

「クラトスも」

「左様、左様。それまで10日というもの、こちらから交渉を打診しても反応がなかったにも拘わらず。3日前に、プロモスからカルヴァリオ(聖君試練)の結果が伝わると、蠢動を始めたのですよ」


「ほう」

「そして、今朝は急遽マルグリット外務卿から召喚されましたよ」

「へえ。病気は治ったんですね」

「ははは、ご存じの通り仮病ですよ。で、行ってみれば、ラルフェウス卿がこちらに戻られる前に、条約の付帯条件をとりまとめたいとか言い出しましてな」


 鬼の居ぬ間にと言うことか。


「ほう、どの程度の条件ですか?」

「ええ、結構譲歩はあったんですが、まだ関税面がいかんとも。特にプロモスとの経由物資の関税割引を認めないのですよ。それ以外は初期の当方提案にかなり近付いて来ましたが」


「ふむ」

 経由物資とは、仕向地というか宛先がクラトスでない、ただ通過する物資だ。

「プロモス以外の割引は認めているのですよね?」


「ええ。ですから突き返してしてやりましたがね」

 流石抜かりないな。


「また明日交渉することになって居りますが、今頃ラルフェウス卿が戻ってきたことを知り、蒼くなっていることでしょう。あっはははは」

 都市間転送所から、連絡が行っているだろうからな。


「よろしいのですか」

「ええ、もちろん。交渉権をお返しします。かましてやって下さい」


 達観しているのか。ウォーテル閣下にも葛藤はあるのだろうが、俺から見える範囲では恬淡(てんたん)としたものだ。人物だな。


「ありがとうございます。では明日は私が」

「ただ状況は変わりましたからね。今晩押し掛けてくるかも知れませんよ。そう思って、お疲れのところ来てもらったのです」


     †


 迎賓館に再び入館した。

 中々佳い石を使っているので、最近興味を持ち出した俺としては、繁々と見て回りたいのだが、そうも行かない。


 ウォーテル大使の予感というよりは、洞察通り夕食中に外務卿がやって来た。

 まったく。

 俺は良いが、アリーや随行が気を使うだろうが。


 30分程待たせ、応接室へ入る。


「ラッ、ラルフェウス卿」


「これはマグリット卿。もうお加減はよろしいのかな」

 片脚を退いて優雅に礼をする。


「こっ、これは失礼」

 慌てて礼を返してきた。


「あぁぁええ、体調の方はまあまあというところで」

「そうですか。しかし、外務大臣ともなると、大変ですな。私がプロモスへ旅立った次の日には、既に精力的に執務をされていたと聞き及び、感服しました」


 睨んだまま口角を上げると、頬をヒクつかせる。

 本当は聞いてないけどね。


「それで、御用の趣は?」

「はっ、はあ。ああ、まずはご面談を約しておきながら、不義理をしてしまい申し訳ない」

 本当に謝する気はあるのか知らないが、取りあえずは謝ったな。


「はあ、今夜はそれを仰りに来られたのですね、それは、それは」

「ああ、いや。こっ、ここからが本題でございます」


「ほう、随分お急ぎなのですな」

「はっ、はあ」

 焦れてきたのか、複雑な表情がくるくる入れ替わる。


「ああ、お訊きしたかったのは、プロモスとの交渉はどのようだったかということでして」


 なかなか。あたふたしている割に、えげつない質問をして来るじゃないか。逆に、混乱しているからこそ聞けるのかも知れないが。


「外交の秘密に関すること、言うまでもなくお答えしかねるが」


「そっ、それはその通りとは存ずるが」

「まあ触りだけを言えば……」


「ほぅほぅ」

 浅ましくも乗って来たな。


「……上首尾でしたな。影響を受ける通商の品目、貿易額、経路、それに」


 マグリット卿の顔色が変わった。

「通商の経路ですと!」


 行き先がプロモスに限らずミストリアから見て西南方向の陸路は、クラトスを通ることが多い。が、他の経路がなくもない。少し遠回りとなるが、一旦少し北寄りのラグンヒル王国に出てから南下する経路もある。単純に費用対効果の都合で、プロモス向けの経由関税割引がなければ割高となる可能性もある、これまではそうだったと言うことに過ぎない。国内は投資も必要だが、いずれにしても我が国内ではアグリオス辺境伯領を通る、さほどの抵抗はないだろう。


 しかし、クラトスとしては、大事だ。

 今後増収となると踏んだ経由関税に固執して通商路を変えられたりすれば、プロモス向け以外の経由関税や商人達が落とす金すら危なくなることに、思い至ったのだろう。


 むろん話はそれだけでは済まない。人の流れが変われば、街道周りの住人の雇用も減り、採算を割り込めば宿場町ごと消える可能性すらある。


「通商は安全こそが生命線。おっと、これはマグリット卿に論じることではありませんな」

「ああぁぁ、はあ」


「それでは、安全保障特別条約について、そろそろ貴国の結論をお訊きしてもよろしいかな。何日も前に決して居たのですから」

「うぅぅ、うむ。ご回答申し上げる」


 俺の恫喝が奏功したのか、クラトスは俺が当地に来る前にミストリアが提示された、条約および付帯条件を全部受け入れることに同意すると回答があった。

 さらにこちらから条件を追加することも頭を過ったが、それでは潜在的な不和を助長しかねない。外交では勝ち過ぎは危険だ。


 翌日。

 既に我が外務卿であるテルヴェル閣下の仮署名してあった条約調印証に、クラトス側の仮調印をさせた。条約の本調印は10日以内に同国代表がスパイラスに赴いて、行うことになった。

 さらに翌日。在クラトス大使館のウォーテル閣下や大使館員を労って、クラトスを後にした。


   † † †


 9月20日夕刻。

 ようやく俺達は、王都スパイラスに到着した。

 同地を出発したのは8月23日なので、ほぼ1ヶ月王都を空けていたことになる。


 レティアとレーゲンス達とは転送場で分かれて、我々は公館へ帰って来た。情報は外務省に速報させているから、報告は明日で十分だ。

 


「お帰りなさいませ」

「「「お帰りなさいませ!!」」」


 馬車から降りると、ダノンやバルサムや騎士団の面々に出迎えられた。

 随行の騎士団の解団式を行って、本館へ引き上げたときには、日が暮れていた。


 こちらでも、住人と執事やメイド達が揃って、出迎えを受けた。


「ただいま。ローザ」

「お帰りなさいませ。旦那様」


 ああ、やはりローザは美しい。

 思わず近寄って、肩を抱く。


「大きくなったなあ」

「はい。もうすぐ6ヶ月ですから」

「おっ!」

 しゃがんでローザの腹を撫でると、中から小さな衝撃が来た。


「最近、よくお腹を蹴るようになりまして」

「そうか。これからもよろしくな」

「畏まりました」


 立ち上がって、ローザの背後に立つメイドと執事を見る。


「留守中、ローザを支えてくれて礼を言う」

 胸に手を当て頭を下げる。


「だっ、旦那様。勿体ない」

 玄関がざわついた。


「では、まずは夕食に致しましょう。今日は久しぶりに、私が作りました」

 ローザはにっこりと笑った。


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ブクマもありがとうございます。

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ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2020/06/24 誤字、少々加筆

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

2022/08/03 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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