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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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259話 生前贈与

生前……もちろん亡くなる前の事という意味は分かってますが。なぜ生なのか?

「お兄様、お姉様、おは……」


 食堂に入っていくと、ソフィーが立ち上がり、いつものように挨拶をしかけたのだが、表情が強張った。


「どうした? ソフィー」

 だが妹は俺の声に反応せず、一緒に入って来たローザを凝視している。


「お嬢様!」

 主人の異変に気付いたパルシェが、背中から支える。

 ソフィーはローザの顔は見ていない。視線の先はもう少し下向きだ。


「お嬢様! お嬢様!?」

 ソフィーはようやく瞬いた。

「あっ、ああ、失礼しました。おはようございます。ああ、パル。大丈夫だから離して」

 しかし、メイドは肩を支えたまま、椅子に座らせた。


 慌てた俺も寄っていったが、パルシェにやんわり遮られた。

「いえ、まるでお兄様が2人いらっしゃるように見えたものですから。でも、よく見たら太陽と月ほどの違いがありました」


 どう言う意味なんだと問いたかったが、思い留まる。

 ローザか?

 まじまじと見ても異常はないが、最近気にしてるのを……。


 霊格値が高くなっている。3000を超えてるじゃないか。いや、何か変だ。ローザじゃない、これは!

 しかし、この状況を一目で感じ取ったのか、ソフィーは。感知する能力には末恐ろしいものがあるな。


「あなた!?」

「ああ……」

 ローザを座らせると、自分も食卓に着いた。

 おかしい。

 彼女の霊格値は200未満だったはずだ。人並み以上ではあったが、決して異常値ではなかった。


 スープと前菜が運ばれてきた。

 心配されるので平静を装って、一匙掬って口にする。味が分からない。


 ローザの腹を見る。

 もしかして……俺の霊格値が、ここに行ったのか?

 馬鹿な。

 

 そんな都合の良いことが、有り得るのか?

 まあいい。それが事実であろうと無かろうと、俺から減った霊格値は微々たるものだからな。


「ふっ、微々たるか」

 どうかしている。もし霊格値が移動したとするなら、人が一生善行を積んだとしても届かない量なのだ。


 しかし、俺は自然と笑みがこぼれ、朝食を終えた。


     †


「おはようございます」

 執務室に行くと、すぐモーガンがやって来た。


「おはよう」

「お手紙が届いております」


 2通か。

 片方は親父殿、もう一方は王宮からだ。

 後者の封筒を開け、中を検める。


 子爵 ラルフェウス・ラングレン殿

 招待状

 今般 王宮西苑の改築に用いる石材が揃ったことを祝し 勿体なくも国王陛下より披露せよとのありがたい御諚を戴きました


 つきましては 貴殿を披露の宴に招待致します


「8月8日。王宮の宴に招かれた」

 4日後だ。

「例の宴ですか?」

「ああ。最後の署名は王宮庁長官殿だな」


 モーガンには話してある。便箋を渡した。

「おめでとうございます」


「うむ。これで、こっちの手紙の内容も察しが付くな」

 封を切る。


「やはり、親父殿達は、7日に王都へ来られるそうだ」

 その日に一度ここに寄られて王宮内宿舎で2泊。9日には戻るのか。早いな。

 文面はごく短い。この前に会ったばかりだからな。


「準備を頼むぞ」

「お任せ下さい」


      †


 公館に移って、軽く執務した後に王宮へ向かう。東側の外務省の庁舎に入り、会議室に通される。

 

 指定時間の10分前に着いたが、そこから15分程待った時。


「来られたようだ」

 一緒に来たアストラが怪訝な顔をした5秒後、扉が開いた。


「ああ、ラルフェウス卿。待たせて悪かった」

 外務卿は、やや済まなさそうな表情で入って来た。サフィール・テルヴェル伯爵だ。

 立ち上がり、挨拶する。

 続いて随員が2人入って来たが、彼らは扉脇に控えた。

 

「閣下、この者は新たな秘書官にした者です」

「アストラと申します」


 閣下は眉根を寄せた。

「はて? そなた、どこかで見掛けた気がするのだが?」

 そう言いながら椅子に腰掛ける。

 鋭いな。

「おそらく王宮だと思います。先日まで王宮庁に居りましたので」


「ほう。それは心強い。大使を頼むぞ」

「はっ!」


「うむ。まあ、座られよ」

 腰掛けると、表情が緩んだ。

 若いと言っても俺よりは10歳は上だが、良い面構えだ。初対面の時は線の細い貴族の子息に見えたが、人は見掛けによらない。なかなかのやり手だ。


「本題の前に、アガートの交渉の件、助かった。外務省を代表して礼を言う」

「ああ、いえ。恐縮です、閣下」


「15日からになるが、臨時が取れた大使の方も、よろしく頼むぞ」

「はっ!」


 特命全権大使──


 いわゆる大使は、国王陛下の代理であり形式的には外務省の一員ではない。

 しかし、任務は外交であるため、実質的に外務大臣の部下と言っても過言ではない。特に外国に駐在する大使の人選の多くは元外務官僚だ。それ以外の大使を含めても、俺のような出自は異例である。


「それで本題だが」

「はい」

「大使の2回目の仕事として、プロモス王国に行って貰う」


 んん?

「プロモス……ですか」

「どうした? 卿は同国の名誉男爵なのであろう?」


「それはそうなのですが、彼の国は……」

「ははは……」

 笑い声で遮られた


「……我が国とは接していないというのだろう?」


 そう。我が国の南西の端から、およそ700ダーデン(630km)離れており、その間には別の国が挟まっている。俺自身が行くことには障害が考えにくいが、大使としての任務としては大きな問題──いや、待てよ?


「もしや」

「そうだ。プロモス王国との間の国クラトスとは、既にアガートに続く第2の安全保障特別条約国として内諾を得ている。卿だけでなく本省も仕事をしていると言うことだ」

 やはりこの男はできる。


「感服しました」

「ははは、いやいや。これも卿のお陰なのだ。クラトスは小国でよく言えば機を見るに敏、悪く言えば節操がないのだ。アガートの動きに乗ってみた、今でも我が国の被保護国のようなものだからな」


「はあ」

「クラトスまでは行かなくても、条約に興味を示している国は複数ある。卿の役割も高まっているというわけだ」

「はっ! 微力を尽くします」

「うむ。とはいえ危機管理委員会からも、卿に対する要請が寄せられているからな。配慮はさせて貰う。そう言っておいてなんだが、プロモスへの派遣は今月下旬になるだろう」


「承りました」

「それと、卿には不要かも知れないが、敢えて言っておこう。プロモスは誇り高き国だ。武力を背景にした示威的行為は逆効果となる」

「心します」

「うむ。その辺は本省からの随行者と案を詰めてくれ」


 15日の大使任命式の内容を詰め、会議室を辞した。


「こちらでございます」

 総務の係官に案内されて来たのは、外務省庁舎内の高級官僚が詰める区画だ。


「御任官までには、滞りなく準備を進めます」

「分かった。大使と私は少しここで過ごして、勝手に帰る。仕事に戻ってくれ」

「では。失礼致します」

 係官が会釈して去って行った。


「こちらが執務室です」

 アストラは勝手が分かっているのか、案内してくれるようだ。


 縦15ヤーデン幅10ヤーデン程の執務室。

 奥に執務机、手前にソファーが置いてある、個性のない部屋だ。


「左が配下の執務室、右が応接室、左手前が小さいですが台所です。何か必要な物があればお申し付け下さい」

「ああ、そうだな。ローザとも話してみてくれ」


 超獣対策特別職の控え室がある建物とは違うが、数分で歩ける距離だ。王宮に来ることがあれば、こちらを使う方がいいだろう。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2025/04/27 誤字訂正 (イテリキエンビリキさん ありがとうございます)

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