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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
12章 青年期IX 国外無双編
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246話 正解のない詰問

本作品も連載三年目を迎えました。本年もよろしくお願い致します。


なお次回投稿は1月11日の予定です。

「「「お帰りなさいませ」」」


 王宮から戻ると、本館の者達に出迎えを受けた。

 最近顔を合わしていない(ソフィー)は……居ない。そうだ。まだ学校に行っている時刻だ。


「いかがでしたか?」

 問うた家令(モーガン)の顔は、穏やかに笑っている。


 そういうことか。

 上着を、ローザに渡す。


「ああ予定通り、子爵となった」

 モーガンは大きく肯いた。ここで、俺の口から皆明かしておけということだろう。


「へっ?」

 反応は意外にも祝辞ではなかった。

 皆が注目した、メイド頭のマーヤが驚いた顔をしている。


「あっ、あのう。申し訳ありません。御館様の爵位の事でしょうか?」

「そうだ」

 知っている者には口止めしていたし、意外過ぎて理解できなかったようだ。


「おっ、おめでとうございます」

「「「おめでとうございます!」」」 


「うむ。ありがとう」


 王宮に同行したローザは肯いているが。帰り道まで少し悄げていたのだ。

 理由は今回は定例の式典ではないので、彼女は広間までは入れなかったからだ。陞爵で嬉しい。でも、俺の姿が見られなかったと、がっかりと複雑だったようだが。馬車の中で改めて定例の式典に呼ばれると告げたので、思い切り機嫌が戻った。

 俺に対して喜怒哀楽が素直に出て来るようになった。


「ご陞爵おめでとうございます」

「どうした、アリー。そんなに鹿爪らしい挨拶。らしくないな!」


「もう、折角! お淑やかにしてたのに!」 

「あははは……」


 皆も笑った。


「ああ、モーガンまで笑ったでしょう!」

「これは申し訳ありません。でも朗らかな御家で結構なことです」


「ああ、着替えたら、公館へ行く。モーガンも同席せよ」

「はっ、はい。承りました」


     †


 公館の執務室に行くと、既にダノンとバルサム、ヘミングが待っていた。


「おかえりなさいませ」

「ああ、ただいま戻った」


 宰相閣下から渡された巻紙をダノンに渡す。破顔した彼は、上着で自分の手を拭うと、ゆるゆると開いていく。

 珍しくバルサムも興味深そうに、後ろから覗き込む。


「ラルフェウス・ラングレンに子爵を与える。なお爵位に対しては領地ではなく金銭をもってするが、同人の生存中に限るものとする!」


「「おめでとうございます!!」」


「うむ。ありがとう……と、言いたいところだが」

「えっ?」

「ひとつ読み違いがあった。それが、モーガンを同席させた理由だ」

 皆がこちらを向く。

「と、仰いますと」

 皆構えた。


「大使の職を解かれなかった。それも臨時ではなく、特任大使となった」

「特任大使とは?」


「うむ。どこかの国向けではなく特定の任務を継続的に担う大使だ。今回、うまく行って、味を占めたと言うか。元々陛下の構想の内なのだろうが。アガート王国以外のいくつかの小国にも、超獣対策職の相互派遣を可能にする条約締結を申し込んでいる。それを交渉をするのが特任大使だ」


「仰っていた方向性ですが。それを、御館様にですか」

 少し、バルサムが嫌そうだ。


「今のところ、軍人でない上級魔術師は俺だけだからな。条約締結前に軍人を送り込むのは、外聞が良くない」

「そこで、臨時ではなく特任に変えて、何カ国かを御館様にということですな」

「なるほど」


「うむ、子爵を先渡しされたのだから、がんばるとしてもだ。何時までもモーガンに大使秘書官をやって貰うのは問題だ」

「はあ、私のことはともかく。前回は臨時でしたから良かったものの、長い期間となりますと、専任の方を置かれた方がよろしいかと」


 ローザが少し不満そうに俺には見える。自分では駄目なのかということだろうが、その話はモーガンの時にした。


「誰か心当たりは居ないか?」

「うーむ、いやあ……」

 ダノンは顎に手を持って行く。何か言い淀んでいるところもあるようだが、確かに心当たりがあるなら、アガートへ行く前に言い出すだろうしな。


「私も、斬った張ったという人材ならご紹介できるのですが。どうもそういう方面は、不得手で……家令殿は如何か」

 バルサムも渋い表情で、モーガンを見る。


「失礼ながら、どの程度猶予を戴けるのでしょうか?」

「半月程で決まらなければ、外務省が送り込んでいる者を使うことになる」


 皆唸った。

 外交官ならば、能力としては問題ないはずだ。

 だが、俺とヴァレンス審議官は和解したものの、外務省自体には不信感が残っているからな。


「承知しました。心します」

 おっ!


「おお、脈がある人材が?」

 やや、顔を歪ませがらモーガンが問うてきた。


「いやあ、まだなんとも。当たって見る価値がある人物は居りますが」

「では、家令殿のご子息ではないということかな?」

 ああ、確かダンケルク家に居るのだったな。


「うーむ、(せがれ)は……修行させておりますが。この(おもむき)には、まだ若こうございます」

「立ち入ったことを聞いて申し訳ない」

「いえいえ、ダノン殿」


「ふむ。大使秘書の人選は任せるが。いずれにしても、ダノンについて貰うことになる」

「むう。やはりそうなりますか」

 家宰だからな。この手の取りまとめは、ダノンになる。


「はあ……私、決心しました」

「バルサム?」

「私、正式に冒険者ギルドを抜けて、こちらに専念します」

「良いのか?」


「ええ、団長殿を少しでも助けませんと」

 たしかに、騎士団の総覧だけでなく大使団も任せるとなるとなあ。ダノンの負担は確実に増える。


「あとは、文官を雇わないとな」

「どの程度でしょう」

「最低でも5人というところか」

「ええ。財務は団の人員と共有できるとしても。それぐらい要りますか」

「しかし、スワレス家の方は、既に厳しいかと」

「でしょうね」

「ああ。あまり、彼の家に頼り過ぎるのは、複数の意味で良くはない」


「ダンケルク家も結構厳しいものがあります」


「であれば」

「バルサム殿、何か案が?」

「公募というのは、いかがでしょう」


 バルサム以外が上体を少し引いた。

「……公募なあ」

 ダノンの声が皆を代弁している。貴族は、使用人に身元が確かな者しか雇わないと言っても過言ではない。


「基幹の者はともかく、その他の者は如何でしょうか」

「うーん」

 ダノンは唸りながら俺を経由してモーガンの方を見た。唸ったのは演技か。


「良いかも知れませんね、バルサム殿。広く求めた方が案外良い人材が集まるかも知れませんよ、ダノン殿」


 ダノンの口角が一瞬上がったのは、俺しか見えていない。

「分かりました。ただ審査を厳正に、そしてスードリに調査をさせましょう。 よろしいでしょうか? 御館様」


 うむと肯く。


「とは言え、どうやって周知させるかもなかなかの難題だ」


「それには、御館様の手を煩わせることになりますが、策はあります」

 バルサムが胸を張った。


     †


「お兄様は、私が何に怒っているかご存知なのですか?」


 むう。

 学校から帰ってきたソフィーの部屋で、ソファに座って向かい合って、頭を垂れている。

 パルシェに部屋へ呼びされたのだ。

 陞爵の件で祝ってくれるのかと来てみれば、このザマだ。


 その背後に彼女の従者であるパルシェが立っているのだが、背が高いので圧迫感がすごい。まあ、こちらに罪悪感がそこはかとなくあるから、そう見えるかも知れない。


 何に怒っているか、かあ。


 俺がアリーを側室にしたことに、妹様はご立腹なのだ。それは間違いない。

 開口一番、アリーお姉ちゃんを側室にされたそうですね! そう詰問されたからな。


 ご立腹で済まず、館に居るにも拘わらず、俺を避けて、ここ数日間食事にも来なかったのだ。その前もしばらく会えなかったのにだ。兄は悲しかったぞ。

 無論、以前故郷でやった食事抜きなどは、優秀な従者が許す訳もないので、そこは安心なのだが。

 

 おっと。今はこの怒れる少女をなんとかしないと

 これは迂闊なことを答えれば、大炎上するなぁ。


 側室にした……は、皮相であって。怒気の焦点はそこではないのか。


「ソフィーに側室のことを言わなかったから」 


「むぅぅうう!!」

 うわっ、外した?!


「分かっていて。なぜ仰ってくれなかったのですか、お兄様は!」

 げっ! そもそも正解なんて存在してなかった。


 というか、したり顔で肯くな! パルシェ。


「申し訳ない」

 8歳児妹に叱られ、謝る16歳兄の図。


「そもそも妻を2人も持たれるなど不潔です。貴族の悪いところを見習う必要などありません」

 ぐぅ。

 なんとなくお袋さんに似てきたな。


 だから肯くな! パルシェ。

 ご主人様の仰る通り! そういう顔だ。


 まったく。この女、俺を雇い主とは見ていないな。

 なんというか、セレナより余程番犬ぽい。

 ソフィーに危害を加えようとする者が居たら、本気で噛みついて離さないのではないかとさえ思う。

 まあ、雇った意向と合致しているから、何も言わないが。


「それと、もうひとつ申しておくことがあります!」

「ああ」

「ローザンヌお姉様は、お兄様にふさわしいと思いますが……アリーお姉ちゃんは、どうも」

「んん? アリーが嫌いなのか?」

「いえ、とても好きです。ですが、お兄様の妻に成られるのは……特に最近は、何やらひっかかるところがあります」


 確かに、最近のアリーは何か変だ。

 うわの空の時があるしな。もともと賢いアリーが、猶子縁組の官報が出ることを失念しているのは、不自然だったしな。


 ソフィーは勘が良いからな、何か俺が見えてないことを。

「もう少し詳しく……」

「申したら、側室のこと取り消されるのですか?!」

 おおぅ。


「分かった。側室にしたことは覆せないが、心に留めておく」

 日を改めよう。


「そうでしょうね。お兄様をお呼びした、ご用は以上……いえ。もう一つありました。ご陞爵おめでとうございます」


「ありがとう。兄は嬉しいぞ!」

 立ち上がって、ソフィーを抱きしめると、パルシェの鋭い目が俺を睨んでいた。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/01/12 誤字訂正(ID:118201さん ありがとうございます。)

2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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