230話 賞賛なき帰還(11章最終話)
世界は誰かの仕事でできている。良い言葉(CM)ですよね。他人の賞賛を受けなくても立派な仕事されている人は、それこそ星の数程いらっしゃるのでしょうね。
さて、今話で11章の終わりとします。
現状は、原稿の在庫が全くなくなっていますので、すこし書き溜めしたく。
12章は、11月9日から再開する予定ですが、その後滞るかも知れません。ご容赦下さい。
暗い部屋の中で、空間に浮かんだ浄玻璃の鏡のみが、煌々と輝いた。
光が治まった時、その目映さを物ともせず、凝視していた首席がこちらを振り返った。
───人間の分際でよくやりおる
確かに。ソーエルが使役した人間は、恒星の光を蓄積し、亜空間に閉じ込め圧縮することで、小天体そのものを昇華させる熱量を得た。
端倪すべき発想と実行力だ。
───はっ! 彼の者の霊格は 既に下級天使に迫っておりますので
───むう
そうか。首席は懸念されているのだ。
つまり、あの者の霊格は、人間としては高すぎて根拠にならない。そう北方の者達に例外だと言い張られるかも知れないということだ。
───では 付与を控えさせますか?
───いや 信賞必罰とは人間の言葉だが 今後のこともある
───はあ
───過剰な負荷ではないのだろう? 成果に見合った付与をな
───それはもう……承りました
───まずは手駒ができたことを歓迎しよう
念の響きが途切れた時、部屋から首席の気配が消えていた。
† † †
肉体を持っていたときの習慣で、肺の辺りが動いた。
ついさっきまで凶悪な力場を湛えていた、ヴァロス彗星は存在していない。
振り返ると惑星は、何もなかったように夜の貌を見せている。
どうやら救えたようだ。じわじわと達成感が押し寄せて来る。
───救えた救えた 流石だねえ ラルフ君は 本当に予測を超えてくる
相変わらずソーエル審査官の言葉は胡散臭い。
───恐縮です
───また心にもないことを それにしても 恒星光を蓄えて 周波数を変換し 一気にぶつけて 瞬時に昇華させるとはねえ 大した物だ
まるっと理解されている。
───では任務完了と言うことで
───うん 今回はね
───完了と……で 報酬の方は
達成感や満足感は無論あるが、それはそれだ。貰う物は貰わないとな。第一ここでゆずると後々良くないからな。
───するっと流したね まあいいや 報酬の話ね
───はい
───ああ 今回のことで君が使った魔術は戻っても使えるようになってる まあ同じようにとはいかないけどね
だろうなあ。
───それから霊格ポイント ああ君の星では霊格値だっけ? いくつになったかなあ……うわっ すっごい増えてるよ!
おっ!
───1千万超えてるよ ああ もちろん下界に戻ったら 100分の1にされるけどね それでも10万超えるね もう人間辞めたら?
辞めるわけないだろう。
───話も済んだし 元の世界へ帰ろうか? ん? この星が名残惜しいとか? 1回降りてみる?
───いいえ あまり接触しない方が良いでしょうし
そう答えつつも、ベリアルが居る大陸の方を見ていた。
†
ベリアルは、空を見上げていた。
もはや空に凶兆は存在しない。
ただ、名残だろう。ヴァロス彗星があった位置には白く霧のように残骸が煙っている。
やってはみるが、分からない。そう仰っていたが。
我々は救われたのだ。しかし、感謝することさえ許されていない。私以外は、アズダー様が救って下さったとそう信じることになるのだ。何と申し訳ないことか。
ラルフェウス様。
もうお目に掛かれないのでしょうか?
気が付くと頬が濡れていた。
何十年となかったことだ。
この身体になってから、気持ちも子供の頃に少しは近付いたのだろうか?
人間と仰ったが、やはり神ではないのだろうか? その念が消えては去来する。
もう一度御姿を見たかった、せめて……。
───さらばだ ベリアル
えっ?
あの声──我知らず地面に跪くと、御名を叫んでいた。
† † †
虹色の力場が消えると、ダートン迷宮の入口から少し入った転層陣に転位した。
うっ、水平線が傾いて行く……。
まずい!
咄嗟に足を踏み出し、体を寄せてきたセレナに捕まって転倒を回避した。
「ははは。なぁにラルちゃん、格好悪ぅ。転層陣に酔ったとか……?!」
アリーのからかう笑顔が凍り付いた。
「ちょっと! ラルちゃん!」
「あなた!」
「大丈夫だ。問題ない」
嘘は言っていない。体力も魔力も十分だ。
だが、一瞬で全身から汗が噴き出した。足に力が入らず、平衡感覚がまともでなくなっている。
なんだ、これ?
体の違和感だけでなく、夥しい喪失感が押し寄せてきた。鬱だ。
あれだ。眼が醒めたとき、良い夢を見ていたと思うような。それが何千何万倍の強度で襲ってきた。
「あなた、本当に? お顔がこんなに蒼く」
ローザのこんなに心配そうな顔は、久々に見た。
「ああ。少し気分が悪いだけだ」
「お姉ちゃんちょっと、ごめん!」
アリーは姉を押しのけると、俺の眼前に掌を翳した。数秒経つと泣きそうだったアリーの表情が戻ってくる。
「お姉ちゃん。確かに……大丈夫みたい、よかったぁぁぁあ。心臓が潰れるかと思った」
「ああ。大丈夫だ。そう言ったろ。だが昼食を摂るだけではなく、宿まで戻ろう」
ローザも引き攣った顔つきが少し和らいできた。少しは、ほっとしたようだ。
「うん。先に行って馬車を着けてもらうよ」
アリーはそう言って、階段を駈上って行った。
「ローザ。心配掛けて悪かったな」
「ええ、少し驚きました……」
「ん?」
ローザの視線が。
「頭が。その、煌々と輝いて」
そんなはずは。
手を額まで持って行くと、結構明るく見える。
光背が強まっているのだ。
無駄に目立つから、いつも抑制するように魔圧を加えている。今もだ。
本来なら暗闇でもなければ目に付かないはずなのだが。魔圧を上げてみる。
「これでどうだ?」
「ああ、まだ」
「そうか」
答えて、さらに魔圧を上げる。
「ああ、やっと見えなくなりました」
「そうか」
いつもの倍以上加えているのだが。ただ全く負担にならない、このまま維持だな。
セレナも心配そうに、俺に纏わり付いて、体を擦りつけてきた。
「ああ、セレナにも心配掛けたな」
「ラルフ 病気じゃない でも疲れてる セレナに乗って」
神獣の眼力で俺を見つめる。
「悪いな。だが、歩いて行ける」
「クゥゥ……」
眼を伏せると、喉を鳴らす。
俺は頭を撫でて、階段を昇った。
宿に戻ると王都から書状が届いていた。
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訂正履歴
2019/11/10 転移→転位
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/01/30 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




