228話 光あれ!
神は言われた。 「光あれ。」 こうして光があった。(創世記 旧約聖書 新共同訳 日本聖書協会)
おお!これってビッグバンじゃない? と一瞬思いましたが。その数行前に「初めに、神は天地を創造された。」って書いてありました。orz
それから、ヴァフラム国以外にもいくつかのアズダー教団や宗派の異なるところへ赴いた、災厄を告げるために。
時は流れ、衝突の前日となった。
俺はまたアズモンドの町に来ていた。
ヴァロス彗星が迫ってくるのは南半球だからというのは、もっともらしい理由である。
しかし、一番の理由はこの少年だ。
奥聖堂から丘を100m程登った林、その中にある小さなお堂に一人で居た。
憑依した彼に、もう少し話してみたくなったのだ。
丸い輪が連なった象徴。それが架かった祭壇に額ずき、なにやら呟きながら祈っている。
数mの高みから見下ろしていると、ベリアルがこちらを見上げた。
「戻って来られたか」
【光託身!】
【擬人装 改!】
「そのような姿でありましたか。我等が神には在らせられぬ」
今は神ではなく、俺自身の姿に近く見えていることだろう。
───わかるか ベリアル
「ええ。初めて頭上に顕れた時から分かっております。神に代わりて遣わされた方」
───なぜ神が遣わしたと思う?
「奥聖堂まで入って来られた故にございます。あそこは、念入りに聖絶したところ故、物の怪など入り込むことなどできませぬ」
なるほど。
───アズダーでないと知って なぜあのとき拒まなかった?
「わかりません。私よりも佳きことを宣うと。そう思いました。して、貴方様は如何なる神にございますか?」
───神ではない 別の星の人間だ
「人間、別の星……それは、真で?」
───今は肉体から離れては居るが がっかりしたか?
「いいえ。我らを救って戴けるものなら、人であろうと崇め奉ります」
なかなか現金だな。
───200年も生きていると達観するものだな やってはみるが 正直なところ 救えるかどうかは分からない
「そうですか、十分です。我らは神の思し召しにて生かされているのですから。畏れながら御名をお聞かせ給え」
───俺は ラルフェウス・ラングレンだ だが この星を救えた場合は アズダーで頼む
「よろしいので?」
───ああ 俺に命じた者の意向だ
「承りました。御名は私の心の中のみで崇めさせて戴きます」
───駄目だった場合は 罵って貰って構わない
「フフフ……そのときは我らが信心が足らなかったと省みます。ときに……」
他愛もない話をして、ベリアルとは別れた。
† † †
駄目か。
夜空に少し大きく見えるようになった彗星を見遣る。
距離にして120万km。衝突はざっと11時間後だ。
諦めたのは、ヴァロス彗星の進路を曲げる案だ。
試してみたが、困難なことが実感できた。
彗星の進路を曲げるには、空間を曲げれば良い。大袈裟に聞こえるが、重い物を置くなりして重力源を発生させれば良い。
問題は、魔力で発生できる重力が、天文スケールとしては大したことはないことだ。
仮に恒星並みの重力波が出せれば、数億kmの彼方から進路を曲げることができる。無論無理だ。
まあできるとしても、この星の進路すら曲げそうだからやる気はないが。
重力は距離の2乗に反比例だ。小さい重力でなんとかするためには、波源を曲げる物のすぐ近くに置けば良い。だが相手は秒速30kmだ。
今近くだったとしても、数秒後には遙か彼方だ。
重力波源を高速に動かすことを実験してみたが、できなかった。まだまだ修行が足らないな。
やはり、あの手しかない。
だが、そのためには十分彗星を引き付ける必要がある。無論リスクは高くなる。
やるだけやってみるさ。
ベリアル始め、知り合いができたからな、この星にも。
【勇躍!!】
転位魔術で惑星を半周し、昼の面の遙か上空に出る。成層圏を通して見える眼下は大海原だ。
ここならば良いだろう。
この惑星の主星に向き合う。
もらうぞ!
左腕を伸ばす。
【黒冥獄!】
開いた掌に闇の珠が生まれた。何物も発せず反射すらしない完全黒体は、球体に拘わらず平板に見える。
おおっ。
思いの外、膨張力が大きい。放置すれば抑えが利かず霧散しそうだ。
魔界強度を印加する。
さてさて、ここからだ。
【聖光蝕!】
主星が消えた。それだけでない、周りに見えていた星々もなくなっていた。
直径数百kmもの暗黒が生まれたのだ。
振り返ると、大海原にぽっかりと夜の帳が降りている。
うまくいった。そう考えた途端、闇の珠が疼いた。
内部の圧力が上がってきている。
そう。
魔術で作った光学的な穴が、恒星の光を閉じ込めているのだ。
秒速30kmの光は、黒冥獄の内部では真っ直ぐ進むことができず、絶えず反射屈折を繰り返している。
その反作用が黒冥獄を膨張させようとしている。
くっ、もう一杯か?!
数分も溜め込んだ時、遂に抑え切れなくなってきた。
【黒冥獄!】
右掌に2つ目の珠を生み出す。
【魔収納!!】
左掌にあった闇の珠が消えた。
肩の力が抜ける。
呼吸はしていないが、一息付いた。
予想以上に内圧高くなるな。
魔収納の中では時間が経たないから良いが。
この魔力消費と緊張感を何時間も維持し続けるのかと思うとぞっとする。
生身では無理だな。
ミストリアに戻っても、これほどの魔力が使えれば良いのだが。
そんなことが脳裏を過ぎっていると、2つ目の珠の満杯を迎えた。
【黒冥獄!】
†
ヴァロス彗星と近接方向が夜を迎えた。
主星の光を反射して白く尾を牽く姿が大きく見える。その距離20万km
遂に勝負の刻だ!
【魔収納!!】
百を超える珠が眼前に犇めいた。
一発勝負。
キシッ。
真空の宙に衝撃が、音のように聞こえた。
黒冥獄にヒビが走り、それが珠であることを主張した時、一瞬も閲せず連鎖した。
光あれ──
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訂正履歴
2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)
2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/09/25 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




