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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
10章 青年期VII 非番と冒険編
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214話 濡れ衣と露見

日本の法律で、何か起こったときに早々に対応しろと義務を課す場合。条文はその急ぎ具合で、概ね3種類書き分けられています。「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」です。この中で直ちには待ったなしなので,一番急げというのは分かるのですが。速やかにと遅滞なくはどっちやねん!って思ったことがあります……遠い目。正解は前記の順番通りなんですけどね。

 国家危機対策委員会の監察官は、翌6月9日の昼頃ボアンの町に着いた。

 俺の所にやって来たのは、それを感知してから1時間後だった。

 挨拶を交わして、ゲル内で向かい合って座る。


「なるほど、これがゲルという物ですか。組立式住居を使うとは機能的ですな……。この辺りが魔獣撃退の早さに通じるのかも知れませんな。正直、あと10日は掛かると踏んでおりました」

「そんなものですか」


「今日時点で当地に入られてから5日しか経っていません。昨日安全宣言されたわけですから、実質4日と言うことになります。ああいや、まずは、職務を果たすべきでしたな。この話は、またの機会に」


 肯く。


「先程当地の代官と冒険者ギルドの支部長に面談し、状況を確認しました。また我々の独自調査の結果と総合し、現時点を以て、ラルフェウス卿に発行された381年6月綸旨(りんじ)記載の魔獣撃退指名出動に関し、監察官の名において任務達成を認定致します。お疲れ様でした」


 ふむ。この男、結構おしゃべりだと思っていたが、仕事はしっかりこなしているようだ。


「監察官こそ、ご苦労に存ずる」

「はっ! つきましては、こちらに署名願います」


 任務終了通知確認書。

 要するに、監察官より任務達成の通知を受け同意したという書類だ。

 これに署名した瞬間、俺ならびに騎士団は、本任務から解放される。が、この任務の行く末に関しては、委員会に責任が委譲されて口出しできなくなる。


「この署名に関しては、領都ワナークでの辺境伯への報告を終えてからにしたいと考えて居るが」

 指名出動といえども、任務終了は監察官が認定する。とは言え、形式的に指名してきた領主、首長に報告するのが慣習だ。


「ほう。確認書への署名は、終了認定の後、速やかにとの規定はあります。直ちにではありませんので、多少の保留は可能と考えます。できますれば、そうお考えの理由をお聞かせ願えますか?」


「無論です……」


   † † †


 同日、午後3時。町民の盛大な見送りをして貰いつつ、騎士団はボアンを後にした。

 一晩夜営をした後、6月10日10時。住民達の歓呼を受けて、領都ワナークへ入城した。恐らく、スードリ達が喧伝したのであろう。


 そのまま城に入って、6日前と同じ部屋で、辺境伯と相見えた。

 俺は軽く会釈すると、口上を始めた。


「我、ラルフェウス・ラングレン超獣対策特別職並びに騎士団は、6月8日に指名依頼となった魔獣を撃退し、先程当地へ帰還致した」


 言い終えると、横に監察官が進み出た。

「辺境伯に申し上げます。国家危機対策委員会の名において、先に口上のありました通り、任務達成を認定致しました。以上です」


 辺境伯は、立ち上がると二歩三歩とこちらに近付いた。

「こたびは、ラルフェウス卿にご尽力により、領民の安寧を回復戴いたことに、このルドラ・メディル、衷心より御礼……」

「あいや、暫く。暫くお待ち戴きたい」

 家令のリシャールが、大仰に小走りで進み出てきた。


「主殿、その尊きお言葉は、彼らに掛けるに値しません」

「なんと?」

  監察官が反応した。


「監察官殿がお認めになっているのですから、確かに魔獣は駆逐戴いたのでしょう。しかし、僅か6日前に申し上げたことお忘れですかな?」


「リシャール、どういうことか。分かるように申せ!」

「はっ! なんと、ファルトゥナ遺跡が壊れていると、連絡がございました。ラルフェウス卿、どう申し開きされますか?」


「はて? 申し開きとは?」


 家令は腕を広げ、呆れたと言う風情だ。

「これは、驚きました。魔獣を駆逐する為、致し方なく壊れたと言い訳すらされないのですな」


「家令殿、待たれよ。それではラルフェウス卿、もしくは騎士団が、その遺跡を壊したと申されるか?」

「それ以外に考えようがございませんな。どうあってもお認めにならないのであれば、致し方ござらぬ。これ以上は水掛け論となりまするゆえ、メディル辺境伯領政府としましては、王国政府に抗議させて戴く方向で検討致しますゆえ。ご承知起きの程を!」


 鬼の形相で俺を睨んだ。

 この男は俺に深い恨みを持って居る。なぜだ?


 音すら固めるような重苦しい空気が広間に充満した。


「あはっはっははは……」


 監察官の大きな嗤い声が、それを破った。

 皆、呆気にとられていた


「はは……おっと、これは失礼!」

「失礼? 監察官殿! 無礼ではないですか我が主人、辺境伯の御前ですぞ。例えあなたといえど、許しませんぞ!」


「いやあ、失礼。王都に戻った暁には、監察官として彼らが無罪と証言致しますゆえ、抗議なされるがよろしかろう」


「さては! 監察官、そなたもグルか!?」


「ラルフェウス卿。これは予想2に該当しますかな?」

 口角を上げて観察官に肯いておく。


「なにを訳の分からないことを!」


「超獣対策特別職ならびにその配下は、出動中には魔導具を携帯する必要があります。戦闘時に記録されますが、それには戦闘が始まる以前に遺跡が壊れていたという、映像の記録がございます。ラルフェウス卿無実の証拠として採用されるでしょう」


「でっ、デタラメだ! デタラメに違いない。衛士、この者達を捕らえよ!  ……どうした!? 衛士、我が命に従え!」

 家令が動転して喚くが、壁を背にした兵は動かない。


「見苦しいぞ! リシャール」

「はっ、伯爵様?」

 辺境伯は、俺達ではなく家令を睨み付ける。


「リシャール。家令職を罷免する! 衛士、この者を捕縛せよ!」

「「はっ!」」


「なっ、何をする」

 辺境伯の命令一下、衛士は動き出し、ジタバタする家令の両腕を取って床に引き据えた。


「伯爵様。ああ、あんまりでございます。このたびの件、私はただただ領政府のことを思い……」

 顔色が一変し、下唇がブルブルと震えている


「このたびの件? 何か勘違いしているのか。そなたの罷免は、領政府軍事費横領等の罪状に拠るものだ」

「ぬっ、濡れ衣です!」

「そなたの執務室の本棚に設えた隠し金庫から、帳簿が見つかって居るぞ!」


「そっ、そんな馬鹿な! 濡れ衣……」

「あべこべだ。濡れ衣を着せたのは、そなただろう」

「はっ、伯爵様……」

「既に証拠は固まっておる。そなたの罪、厳しき詮議の上、洗いざらい明らかにしてくれる。引っ立てよ!」


「離せ! 離せ! どいつもこいつも、このような余所者に誑かされおってぇぇ」


 罵詈雑言を喚きつつ、往生際悪く退場していった。


「監察官殿、ラルフェウス卿、お見苦しい所を見せた。ご容赦願いたい。彼の者の情報について……」


 監察官は掌を辺境伯に見せて言を止めさせた。


「はて、何のことにございましましょう? 当委員会はあくまで国家の危機に備えることが、趣旨にございます故。領政府の内政には干渉するものではありません。ラルフェウス卿は如何か?」


「あの者の背後関係については懸念あるが、こちらの領政府に含むところはない」


 そう、あの夜のことだ。

 隠し金庫に魔導具以外の物、裏帳簿を見付けた。

 それを、委員会からとして、辺境伯の元へ昨晩届けさせた。監察官はこちらの意図を理解して動いてくれたのだ。


「なるほど、ご懸念については承知した。これで同意書に署名戴けますかな?」


   † † †


 恒例の指名者による接待もなく、午後にはひっそりと領都ワナークを後にした。

 都市間転送であっと言う間に王都へ帰還だ。

 

 今回は超獣に対する出動ではないし、国王に呼び出されることもないはずだ。


 真っ直ぐ館へ帰って来た。。

 ダノンとバルサムに、あとはお任せ下さいと言われて、ローザと本館へ戻る。


 皆がホールで出迎えてくれる。


「お兄ちゃん、おかえりなさい! えっ、何? 何? うわぁぁぁあ」

 俺は飛ぶように近付き、ソフィーを抱き上げると、くるくると回った。


 無事だとは知っていたが、その姿をみると抑えきれなかった。

 ああソフィーは、こんなに小さくて軽かったかっただろうか。

 床に降ろして、ぎゅっと抱き締めた。


「ソフィーもね、お兄ちゃんが居なくて淋しかったよ」

「そうか、ごめんな」

「いいよ! だって、お仕事がんばってるんだもの」


 可愛くて仕方ない。思わず頭を撫でてしまう。


 すると、ソフィーは、彼女付きのメイドであるパルシェを見た。

「ああ、お兄ちゃん。うれしいけど、まだお勉強の途中なの」

「そうか。じゃあ、また夕食の時にな」

 こっくりと肯くとパルシェと一緒に階段を昇っていった。


「お戻りなさいませ。ご無事のご帰還お喜び申し上げます」

 頷き家令(モーガン)を見ると硬い面持ちだった。


 執務室へ促す。

 中に入ると、モーガンは謝罪の礼をする。

「この度は、お留守を預かりながら、ソフィア様を危ないめに遭わせ、申し訳ありませんでした」


「いや。ソフィーの警備体制を決めたのは俺だ。責任ならば俺にある」

「しかし……」

「未然に防げたのだ、恐縮する必要はない」


 いつもの通学時に襲われ掛けた、それが俺が王都を離れているときだったと言うだけのことだ。


 王都の外郭に居れば、馬車に乗せて通学させるのは不可能だ。さらなる安全に向けて、警備陣の増強を図ることはするが、それが限界だ。通学させず家庭教師に教えさせるのでは、そもそも王都に居させる必要がなくなるからな。


「はっ! ありがとうございます」


 モーガンが部屋を辞して行く横で、静かにローザが肯いていた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。



Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/09/07 誤字、少々加筆

2019/11/10 都市間転移→都市間転送

2020/02/16 誤字訂正(ID:1523989さん ありがとうございます)

2020/02/21 誤字訂正(ID: 702818さん ありがとうございます)

2021/04/14 誤字訂正(ID:668038さん ありがとうございます)

2022/08/01 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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