212話 ラルフ盗賊になる?
007シリーズ好きですねえ。やっぱりチリチリ来る緊張感ですかねえ……。
光学迷彩魔術を使い、辺境伯の城内に忍び込む。
廊下を歩いて、とある部屋に入る。騎士団の臨時詰所だ。
【解除光学迷彩】
中に居た団員は、すっくと立ち上がると敬礼した。
まるで、迷彩を解く前から気付いていたようだ。
「ご苦労。サダール」
「はっ!」
仮名だ。本当の名は、俺も知らない。彼は諜報班の一員でスードリ配下の者なのだ。
「城内の見取り図はあるか?」
「はっ、これに」
四つ折りの紙を受け取る。
言うまでもないが、城の軍備情報などという物は、かなり上級の軍事機密だ。それを事もなげに出した。どう言う人材を集めているのか。
少し感嘆しつつ紙を広げると、一目見る。
【赫火】
手にした紙が緋炎に包まれると、一瞬で灰も遺さず燃え尽きた。
「それで、調査の方は?」
「大凡は終わっておりますが、最後の詰めが未だ足りません」
「うむ。これから家令の執務室に行く」
「はっ!」
【光学迷彩】
詰め所を出て城の廊下を進む。
間もなく、非公開区画に入った。
不寝番の衛兵横を通り抜け、中核の区画へ入る。
擦れ違うとき気付く気配は全くなかったが、僅かばかりに背筋に何かが走る。
この先は事務方の執務室やら会議室が並んでいる。明かりの消えた無人の区画を数十ヤーデン進みつ曲がりつして、一つの部屋に辿り着いた。
家令執務室。扉に懸かった札にもそう書いてある。
宝物庫かと思っていたが、さっき地図を見たときにここだと目星が付いた。特殊な波動を発する魔導器の反応を辿ってきたのだ。
【解錠】
普通の機械錠は意味ないんだが。
ふむ。まるで盗賊だな。
やることが窃盗だから仕方ない。
法的に言うと、上級魔術師というか超獣対策特別職は、公務遂行のためには殺人以外の刑法に触れる行為でも棄却される。
よって、問題はない。
まあ正面切って出せと言っても、白を切るに違いないし、時間も掛かりそうだ。
部屋に侵入し、なかなか豪華な造りの調度の中を迷わず真っ直ぐ歩いたが、足が止まる。この少し奥行きのある本棚か。隠したつもりかも知れないが、俺には本の奥に魔導器が見えている。
それに向けて腕を向け、脳裏で唱えた。
【魔収納】
†
これでよしと。
最後の魔導器を岩を刳り抜いた箱に収め、据え付け終わった。
さっき掘った地下50ヤーデンの坑だ。
【地壁】
箱を納めた空間を塞ぐ。後は──
【萬礫】
そのままゆるゆると曲がりくねりながら、後ずさりして穴を塞いでいった。埋めた痕跡を分かり辛くする為だ。
最後に魔導器から60ヤーデン離れた縦坑から飛び出し──
【魔収納──出庫】
【頑強】
掘った土を取り出して埋め、硬化した。
これで3箇所埋め終わった。
むっ!
「御館様ぁぁあ!」
セノビアの声だ。
「ワフゥゥゥ!」
うれしそうな声と共に、セレナが飛んで来た。
頭を撫でてやっていると、3人も追い付いて来る。
「御館様、ご無事でしたか。良かった」
「ご無事に決まってるでしょ。セレナもそう言ってたし。まあ、ちょっぴり心配してましたけど」
トラクミルが、後ろで肯いている。
「ところで。御館様……」
バルサムだ
「先程、皆で入った洞窟なのですが。もう一度行ってみたのですが、入り口がなくなっておりまして、御館様はどちらに居らしたのですか?」
「ああ、地下だ」
「なるほど」
「それで、さっき地面の下から飛び出して来られたのですか」
ゼノビアの高い声に、バルサムが顔を顰める。
「それと、先程来より竜脈の雰囲気が変わった気がしますが、何か関連が?」
あいかわらず、バルサムは鋭い。
「そう言えば。気分の悪さが治ってる!」
「ああ。竜脈と呼ばれる大地を透る直流魔界が乱れていたのでな、それを正してきた」
「うゎあ。そんなこともできるんですね。流石、御館様!」
ゼノビアの嬌声に、横でトラクミルが肯く。
バルサムは、一人釈然としない顔というか、いつもの憮然とした顔だ。何か感付いているのかも知れん。
「すると、これ以上の魔獣大発生は起こらないと言うことでしょうか」
ニトクリスと名乗ったあの人型は、竜脈という1つ間違えれば災厄をもたらす極点を健やかに保つために古代エルフが英知を結集して造った機構だったのだろう。しかし、想定外の出来事が起きた。
それが、聖配置を作る魔導器が自然災害により地上に力場を露呈し、人間に発見された。その挙げ句、持ち出されてしまったことだ。これにより、統御の働きが喪われたのが、魔獣大発生に繋がった。
俺は魔導器を奪い返し、竜脈が正常化に繋がったと言うわけだ。
ただ、同じ位置に埋めたのでは再びあの魔導器を手に入れようするという者が現れないとも限らない。だから正三角形を保った上で、別の位置に埋めた。これで少しはその確率を下げられたはずだ。
「ああ、今回の大発生と同じ原因ではな」
「承りました。以降は魔獣の掃討に移りますが」
「ああ、原則は体高1ヤーデン以上のみを斃せ」
「それで、1ヤーデン未満は?」
ゼノビアが訊いて来た。
「もはや狂った竜脈の求心力は無い。屯している魔獣も散って行くだろう。それにボアンにも冒険者はいる」
「承りました」
「うむ。まあ、余り無理するな大型は、俺とセレナに任せておけ」
「はっ!」
「手分けすることにして、夜が明けぬ内に、この周辺の主立ったヤツは片付けるとしよう」
†
バルサム達と別れると魔術を使って舞い上がり、大型魔獣の反応があった地点の上空に飛ぶ。
居た!
デカいな。
巨牛の群が疾走している。
6頭余りの中に、一際大きい個体が1頭。黒々とした体毛に双角だけでなく、頭頂から前方に大きい角が突き出ている。
巨隗牛。
上位種だ。群の主であろう。
【並行励起×5 【閃光!】】
広げた右手の爪1本1本に紫電が宿り、群れに向けて翳す。
すると蜘蛛の糸のごとき精細な光束が放射状に莽った。
5閃皆中とは小気味良い。
突然群は濛々とした土煙に覆われた。数秒後突き抜けてきたのは、たった1頭。
眷属を従えていた姿はなく、巨牛の首魁は今や丸裸だ。しかし、毫ほども意に介することなく疾駆し続ける。
【閃光!】
むっ! 外した。
狙い違わず首魁を撃ったつもりだったが、発動途中に姿が歪み、光束が曲がったのだ。
屈折か。
光は真っ直ぐ進むが、あくまで媒質に対して真っ直ぐである。媒質が歪んでいれば、見かけ上歪む。
直上を追跡していく。
【閃光!】【閃光!】【閃光!】
ほう……面白い。
射線をわずかにずらして撃ってみたが、それぞれがあらぬ向きに曲がって直撃はなかった。
曲がる方向が予想がつかない。当てることに固執するのは無駄だ。
両腕を上方に突き出し念じる。
【氷晶尖錘】
広げた掌の間に氷の槍が生まれる。
「行けぇえ」
空中でも大地に居るように腰を入れて投げつけると、みる間に加速し疾走する巨体に見事直撃した。地に縫いつけたかに見えたが、慣性は殺せず後身が潰れ、そのまま輝く粒子に化した。後には槍だけが地に刺さっていた。
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訂正履歴
2019/08/31 誤字訂正、細々加筆
2022/07/28 誤字訂正(ID:632181さん ありがとうございます)




