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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
9章 青年期VI 騎士団旗揚げ編
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167話 人材狩り ~一番大事な要役~

フラットな組織というのが昨今の流行のようですが、それでも要役が必要なようです。況んや、騎士団ともなると。

 発給してもらった都市間転送許可証を使って跳んだ。


 転送を使うのは2回目だが、別の感慨がある。前回は王都に行く限定だったからな。この許可証を使えば、国内どの都市間転送場でも制限なく使える。超獣が現れた時にすぐ行ける。俺が上級(アーク・)魔術師(ウィザード)を望んだ理由の内、大きなひとつだからな。


 スワレス伯爵領都ソノールへやって来た。

 門から出ることもなく、そのまま殿舎に入って伯爵様にお目通りを請うと、驚いたことに応接室に通された。10分も経たずして、目通りは叶った。


「おお、ラルフ! 戻ったか! ああ、男爵になったのだったな、もう呼び捨てではなるまい」

 満面の笑みだ。そして、なんか息が荒い。慌てて来られたようだ。跪く。


「はっ、伯爵様にあらせられては、ごきげん「ああ、堅苦しい挨拶は抜きだ」……」

 挨拶の途中でひっぱり立たされると、両肩をバンバンと叩かれる。


「うむ。よくやった。信じてはいたが、あの難関の選抜試験に合格し、上級(アーク)魔術師(ウイザード)となったのだからな。我が事のように嬉しいぞ」


「はっ。伯爵様のお陰でございます」

「ふははは。謙遜は止せ! そうだ、ラングレン主査を呼ぶとしよう!」

「あの伯爵様。申し訳ありませんが、時間がございません。両親には改めて会いに戻りますので」

 眉が下がる。


「うーむ、そうか。卿も多忙であろうからな。手紙に書いてあった戦士人材の件、選定を進めて居るぞ」

「ありがとうございます」


「うむ。まあ、もう少し待て。ただ……」

「はあ?」

「協力は惜しまぬが。我が家からは多くとも5人程度にしてな、他からも集めた方が良い。その方が外聞も良いからな」


 協力は頼んだが、余り多く推薦されたらどうしたものかと思っていたところだ。その辺は、あれこれ注文を付けるのは難しいが、流石は伯爵様。こっちの立場も考えてくれている。


「まことにありがとうございます」

「うむ。貴族の嫡子は送らぬようにする。任期は1年とするが、余り堅く考えるな。決まり次第王都に送り込む。ああ、そやつらの住む場所は心配するな、しばらくは下屋敷に寝泊まりさせよう」

 下屋敷は王都の城外外縁にある。西門から1ダーデンぐらいのところだそうだ。


「何から何まで、お心遣い感謝致します」

「着任したらだ。半分くらいは、オルディンにも感謝してやってくれ。ヤツは卿のことを本当の弟のように思っているからな」

「はい。私も兄のように思います」

「そうか、ははっ! それは良い。オルディンの弟は、我の弟でもあるのだから」


「これは、失礼致しました。畏れ多いことを」


「ははは……これぐらいで恐れ入ってどうする。今後は大都督たる侯爵とも渡り合わねばならぬのだぞ」

「はっ。心します」

 仰った通りだ。すぐに要請されるとは思わないが、大都市の領主となる侯爵にも呼ばれた場合、有り得ないことでもない。


「うむ。しかし、人材集めか、叙爵早々忙しいことだ。その手の仕事は本来家宰が差配するものだがな。そちらの方はどうなっているか?」


 家宰とは、一般的に言えば家臣の筆頭だ。

 最も実力がある家臣ではない、主君に代わって家を取り仕切る家臣だ。

 騎士団でもそうなることだろう。


「以前から親交があるダノン殿に手紙でお願いしました。これから直接掛け合おうと思っています」


 俺が上級魔術師に合格して、ソノールへ送った手紙、オルディン様に託した手紙の内の一通は、ダノンさんに送ったのだ。


「ダノン……ああ。我が領軍、首席魔術師だった男か。しかし、あの者は」

「はい。辞められた理由は聞き及んでおります」


「ふむ……確かに騎士団を束ねる家宰の存在意義は、卿の補佐と言うこともあるが。政府がわざわざ置けと強いる理由から言えば、ダノンは悪くない人選かも知れぬ」

「別の理由があるのですか?」


 伯爵様は、微かに表情を崩した。後悔が滲んでいた。

 家宰の件は、確かに少し不自然だなとは思っていたが。


「卿はまだ15歳だったな。卿の能力、外見から十分成人とつい見てしまう……が。ああいや、これも良い機会だ。卿も男爵、そして上級魔術師に成った訳だ、知っておくべきだろう。上に立つ者とはな、綺麗事だけでは済まないこともある」


「はっ、はあ……」

 何を仰るお積もりだ?


「武力を持った集団とは、大なり小なり問題を起こすものだ。金も絡むからな。その時、誰が責任を負う?」

「それが、家宰……ということですか?」


「政府としては、何十万人に1人の貴重な上級魔術師をだ、些末なことで失うのは割が合わないということだ」

「つまり、私の身代わりが役割だと?」


 伯爵様は肯くと、カップを持ち上げ一口喫した。


 後は俺次第ということだな。

 やはり予定通り進めよう。誰かを据えないわけにはいかないのだ。

 確かにどっちか選ばざるを得ないことが、これから何度もあるだろう。


 伯爵様は俺をじっと見ていたが、次の話を切り出した。

「そうだ、ラルフには良いことか悪いことか分かりかねるが……知らせがある」

「はい」


「ガスパル男爵領の件だ。いよいよ、まずいことになった」

 やっぱりか。

「と、おっしゃいますと?」

バズイット(寄親)が見限ったのだ。信用保証を打ち切った」


 ああ……そこまで行っているのか。(今話末補足を参照)

 子爵以下の小領主である与力が、寄親の信用保証を失うのは経済的に致命的だ。貸し付けている商人が取り立て騒ぎを起こすだろう。借金財政のガスパル男爵が破綻するのは目の前か。


「しかし、また急な話ですね」

 寄親が与力を見限るのは外聞が悪いし、求心力に傷が付くのだが。


「やつは機を見るに敏だ。ラルフが陞爵されたことに、危機感を持ったのであろうよ。しかも、そなたは単なる宮廷男爵ではない」


 以前伯爵様が行っていたように、ガスパル家の後釜には、親父さんが擬されていることも知っているのだろう。


「はっ。どのようになりましても、動揺せぬよう心します」

「うむ。それでよい。我も気を付けておく」

 鷹揚に肯いた。


     †


 ソノールの城を辞して、ダノンさんの家へ向かう。

 扉を叩くと、中から出て来たのは奥さんだ。


「まあまあラルフちゃん、いらっしゃい! 上級(アーク)魔術師(ウイザード)になったんだってねえ。本当に凄いわ!」


 なので、ちゃん付けはそろそろ止めて欲しいのだけど。

 どうも、この人は調子が狂うんだよなあ。きっと俺がこの家に初めて来た時点と同じように俺のことを思っているのだろう。


「ああドリスさん。こんにちは! あっ、あのう。これお土産です」

 王都で買ってあった物を、魔収納から出庫して渡す。


「まあ何かしら。ありがとうね。ああ、そうそう。入って入って」

 居間に通された。ダノンさんはソファーに座って目を瞑っている。


「ダノンさん!」

「ンンン……おっ、おおお、ラルフじゃないか。良く来た」

 うたた寝してたようだ。


「こんにちは。ダノンさん」

 立ち上がって、こっちに歩いて来る。


「ああ、おめでとう。よくやったなあ」

 そう言いながら、俺の手を取るとブンブンと振った。

「はい。ありがとうございます」

「まあ、座れ」


「はい」

「ねえ、ラルフちゃん、お昼食べたの?」

 台所方から声がする。


「ああドリス、後にしろ!」

「なによ! 後って!」


「手紙の件か?」

「ええ、はい」

 さっきのこともあって、心は重い。


「上級魔術師の活動、補佐、支援してもらう人員を束ねてもらう仕事、それが家宰だと思ってお願いしたのですが。政府の方針で、騎士団とすることになったので、規模が拡大します」


「騎士団だと?」

「はい。軍人以外が上級魔術師をやる場合に、今回から特例として騎士団を設けることになりました。幹部に士爵を任命できる他、政府の意向としては規模をある程度大きくせよと」


「具体的には?」

「最大50人までには、1人頭年間で50ミスト補助金が出ます」


「50人か。そうか、騎士団な……それでも、俺にそれの長をやれと言うことか?」

 もう後には引けない。


「はい。お願いしたく。ダノンさんは、魔術戦闘の実績があり、特にスワレス伯爵領首席魔術師として、隊を率いた経験があります」


「ううむ。それは昔のことだ、もう引退した」

「一線は引かれましたが、今でも魔術師を指導されていますよね」

「それはそうだが……言いたくはないが、俺は欠乏症なんだぞ」


 魔力欠乏症。

 確率として魔術師の1割程度が壮年期に罹患する疾病だ。

 発病すると、魔力値上限が大幅に減少する他、加齢したように見える。

 そう。ダノンさんは、俺の爺様と同じく60歳代に見えるが、実はまだ50歳前だ。慢性の場合、それ以外の症状はなく、ある程度魔術も使えなくもないのだが。魔術戦闘を生業としていた者には、原因不明で不治なため戦闘員としては致命的な疾病となる。


「ダノンさんにやってもらいたいのは騎士団の抑えです」


「抑え……」

「はい。王都に居て、俺の代わりになる人物です。駆除や救援の依頼を取捨してもらうことも必要です。だから気心知れてるダノンさんに! やってもらいたいんです」


 そう。軍人の背景を持ちつつも、政治向きの手腕も持っていないと駄目だ。


「わかった。引き受けよう」

 おおう!

「あっ、あり……」

「流石! あんた!」


 えっ??!

 大声の後。台所の方から、どんどんと足音が近付いて来た。


「なっ、なんだ、ドリス!」

 奥さんが乱入してきたのだ。


「いやあ。惚れ直したわ! それでこそ、うちの人よ。私も及ばずながら手伝わせてもらうから」

 ドリスさんは、大きく肯いた。

 うーむ。やる気があるのは分かったが、何を手伝ってくれるつもりなんだ? ドリスさん。


「お二人とも、ありがとうございます」



「ああ……ああ、でも伯爵様に、言っておかないとなあ」


「あああ。さっき、一応許可は頂きました」

「おい! ラルフ……おっと、ラルフ様だった」


「そうよう、何て言ったって男爵様なんですからね。で? ラルフちゃん、お昼ご飯は?」

「いっ、頂きます」 



─── 補足 ───────────────


 地方の小領主が、近隣の大領主である伯爵や辺境伯の麾下に入る理由は2つある。

 大領主は、領軍を組織し領内の治安維持に努めると共に、対外戦争などの折には国からの動員に応える必要がある。


 比して小領主の義務は、永続的な活動としては大幅に軽いものの、動員には応じなければならず、別途決まった兵数をもって駆け付ける必要がある。そうなると、ばらばらと小規模な戦力が乱立することになり、軍団を運営する側にとっては指令が末端まで行き届かせる労力が大きくなり甚だ都合が悪い。よって、この場合は内務省が寄親・与力(寄騎)制を推奨しているという軍事上の理由が1つ。


 もう1つは経済的な理由だ。

 平和なミストリアにおいては、こちらの理由が大きい。


 大領主にとっては、与力に入った小領主の数が多い程、軍事的な貢献期待値が高くなるだけでなく威信が高くなる。つまりは宮廷での発言力が増えるなど色々な特典がある。故に何くれとなく、集まってくる与力の面倒を見てやることになる。その最大の1つが信用保証だ。


 小領主の経済基盤は、庶民のそれとは次元が違うが、大領主ほどの安定感はない。飢饉など起これば、厳しい状態に追い込まれる家が多い。

 領地というと、何やら全て領主の財産のように思えるかも知れないが、そうではない。

 大きく分けると2つだ、私領とその他だ。

 私領はそこから上がる作物や資源を、全て収入とできる。無論経費は必要だが。

 また私領は換金もできるが、王より領地に封じられたときに下賜された私領は売買禁止だ。

 言うまでもないが、その他の領地にその多くで徴税権を持っているに過ぎず、売ることはできない。


 もし収入が不足した時、小領主はどうするか?

 処分できる財産は換金するだろう。

 それでも、足りない場合はどうするか? 当たり前だが借金だ。

 無論商人も担保は取る。担保がなければ?

 ここが庶民と領主の違いで、後者は今は存在しない来年以降の徴税権を担保とする。無論違法だ。

 だから、もし領主の家が断絶となり、新領主がやって来たときには、担保が差し押さえられなくなる。そのような、危ない担保を商人が認めるか?


 その時に保証するのが、寄親の信用保証だ。

 来年以降の領主も現領主またはその継承者だ。そうなるように寄親が便宜を図ると言うのが信用保証だ。無論借金の肩代わりまではしないが。

 これとて万全ではないが、商人も寄親たる大領主には逆らいにくい。よって借金を認めると言うのが実態である。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/03/14 誤字脱字など細々修正

2020/07/05 スワルス→スワレス

2020/12/29 誤字訂正(ID:6bTy1Bfrさん ありがとうございます)

2021/09/11 誤字訂正

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