161話 ラルフの2次実技試験前哨戦
いよいよラルフの実技試験(2次という名の)本番です。
─── 2次実技試験記録員の視点
6番の試験が早めに終わったので、しばらく間が有ったが、次の候補者の馬車が到着した。
ほう……。
降りてきた候補者のローブは白一色だ。無論深緋連隊ではなく、ホーズや靴からして軍人でもないようだ。
つまりは、魔術師協会推薦の候補か。
1次はともかく、2次実技試験受験者に民間人は珍しい。居ない年の方が多いだろう。
「候補者7番です」
そう特別審査員様に告げながら、よく2次実技試験まで来たなという賞賛と、だがこの試験ではなあという侮る気持ちが相半ばした。
私が記録員になってからはもちろん、相当遡らなければ非軍人の合格者は居ないはずだ。
7番は降りるなり、なぜかじっとこちらを睨み付けている。まるで、ここにイーリス様がいらっしゃることが分かってでもいるように。
「2次試験を始めさせて頂きます。その魔導器に掌を当てて下さい。魔力を吸引致します。魔石珠が蒼くなりましたら戦闘開始です。ではお願い致します!」
その指示にしたがって、7番は手を乗せた。
おっ。
一瞬で1番目のランプが点いた。まあ1個目はたまにあること。そう高を括った10秒後だった。
「むっ!」
ランプが続けざまに点灯していく。
ありえない。
5秒に一つの割で点いていく。瞬く間に魔力が吸引されている。ぞっと冷たいものが背筋を走る。
「まさか、不正……」
一旦止めるか? 戦闘に入っていない今なら!
────不正はない! 続けさせろ!
イーリア様の念の迫力に押される。
「はっ、はい。承知しました」
そして1分も経たない内に、全てのランプが点灯した。
戦闘開始──
嘘だ!
背後に生まれた紅い渦が、眼にも留まらぬ白い礫に襲われた。
収束し掛けた魔気体が雲散する。
おお。
確かにそうできる候補は居なくも無い。だが、漏れなく何らかの痛手を被る。
それなのに何事もなかったように、7番は立っている。余裕綽々だ。
嘘だろう……こんなことは初めてだ。
いや、驚くの早い。吸引した魔力は半分以上残っている。
分身体は、瞬時に三頭火鳥の形態を取った。目まぐるしい魔術が応酬され始めた。
焔、礫、目映き光が飛び交う。
押されている……。
候補者がではない、分身体が、だ。
余りも信じられない光景を目の当たりすると、頭は冷えてきた。そして、あることに気が付く。
7番は何時詠唱してるのだ?
1発目だけならば、魔力吸引中に詠唱していたかも知れない。
しかしだ! 現時点で連続して発動しているのは? 説明が付かないぞ。
数秒経たずして次々と炸裂する魔術など……。
もしかして、詠唱していないのでは?
我ながら、馬鹿なことが頭を過ぎる。
我が国最強魔術師、賢者が1人、電光バロール。
噂では、その名の通り、瞬く間に発動できると言うが。
それを、まだ元服したてのような7番が? でも、そうとしか考えられない。それだけではない。
分身体の魔術は、避けられ、弾かれ。およそ7番に損傷を与えていない。
が、7番の魔術は、幾度も分身体を捉え、その度に魔力残量が減っていく。
ヤバい!
まだ3分と経っていないのに、早くも最終状態だ! 慌てて鎧戸を閉めた。
席に戻り、記録魔導具を見る。
分身体は、プクプクと膨らんで昇華の前兆を見せていた。
「なっ! なんだ、あれは!?」
† † †
─── ラルフの視点
あれが魔導器か──
拡声魔術の声の指示にしたがって、地から生えた魔導器の上端、魔石の上に掌を乗せた。
魔力が吸い取られる。
うーん。大した勢いでは無い。
それ以前に、なんか滞っているじゃないかという気すらしてきた。吸引に時間を掛けるのは芳しくない。その分、戦闘時間が減るからな。
そうだ!
セレナに魔力譲渡するときにみたくやってみるか。ただし、慎重にだ。
右手に魔力を収束してみる。おお、やっぱり吸引の速度が上がってきた。
いいぞ。もう少しずつ上げてみるか。
そんな感じで続けていくと、最初と比べると10倍位まで上がった。
それが良かったのか、1分弱で魔石が蒼く輝いた。
よしよし、大して持って行かれなかったが、ただ吸われるの待っていたら5分くらい掛かっていたところだ。
敵襲! 後ろ──
【氷礫!!】
反射的に礫を放つと、至近に蔓延ろうとした靄が霧散した。
試験で不意打ちはないんじゃないか?。
それに……。
むっ!
消えたと思ったら今度は前兆無しに、魔獣が出現した。
三頭火鳥だ!
【光壁!!】
いきなり火を吐いた。しかも結構な広がりで噴きやがった。しかし速度が遅い、余裕で阻む。
【閃光!!】
光束が怪鳥を貫通したが、効いてない……光魔術とは相性が悪い。悪霊系とは違うか。
うおっ!
黒い衝撃波が光壁を回り込んできた。慌ててトンボを切って避ける。
光が駄目なら!
着地。そのまま大地の両手を突き──。
【地極垓棘!!】
物理攻撃だ!
地面から無数の蔓が急速に伸びる。
怪鳥が危機を感知し、高度を上げようとしたが、間一髪茨が勝った。下半身に巻き付いた。
よし! 絡め取ったぞ!
キィーキィーと耳障りな悲鳴を上げて激しく羽ばたき続ける。
無駄無駄! がっちり棘が喰い込んでいるからな。
さて! どうやって茨を剥がさないように斃せるか……ぁあ?! おいおい。
怪鳥の身体が解けるよう分散すると、茨が取り付いた下半身を自ら引き千切っていく。
大きく羽ばたいて、上半身を宙に逃し遂せた。
それでも大きな痛手を与えたはずと思ったが、ものの数秒で再生しやがった。
これならどうだ!
指を差し出し、魔力を収束──
【金剛迅雷!】
瞬時に極太の紫電が迸ると雷光が網膜を灼き、空間絶縁が破れる轟音が膚を震わせる。電撃が絶大なる熱を生じさせ、数十ヤーデン前の怪鳥が刹那に蒸発して消え失せた。
まただ! 手応えがなさ過ぎる。
実体が薄いのか? 受肉魔術で作り出しているのだろう。
そうか! 俺が、いや、受験者が供した魔力を使っているのか。つまり魔力が尽きるまで、何度斃しても再び魔獣として発生する。
ならば元凶を絶てば!
俺は、先程の魔導器を睨み付ける。
いや、だめだ!
普段なら良いが、これは試験だ。その器具を壊して解決するのは、反則に違いあるまい。
異物感知──
反射的に首を巡らせると
僅か手に乗る程の光球が突如として発現、虹色に輝いた。
【加速!】
怖気が、魔術を使わせ10ヤーデンも後ろへ退く。
なんだ?
半拍遅れ、一気に膨張した。パンが2次発酵するように数倍に膨れ上ると、俺が居た場所すら飲み込んだ。
これは──
試験場の敷地に入る前、僅かに感じた違和感。
この魔界強度なら分かる、俺が8歳の頃目の当たりにした魔導的爆発。
超獣の昇華だ!
そう考える内にも一段と巨大化した。
まずいな。もはや、いつ弾けても不思議ではない。
どうする、いっそ燃やし尽くすか。
それとも──
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