110話 ラルフ、心配を掛ける
意図せず不可抗力で心配を掛けてしまうことはありますよね。相手は親とか多いですけど……親には勝手に心配すんなぁとか、ついつい思っちゃいますけど。結局甘えているんですよねえ。
次回の投稿も変則で、来週の日曜日(8月19日)の予定です。
軍施設を辞し帰路に就いた。東街区まで来た。
この辻を左に行けば冒険者ギルド。まっすぐ行くと館があるロータス通りだ。
心配掛けているだろうから、ローザ達と合流したいが。どっちへ行くか? このまま館に戻ると、動きたくなくなるだろうから、ギルド東支部に足を向ける。
おっ! こっちに居たか。
玄関前のいつもの場所に、セレナが寝そべっていた。
俺の足音に気が付いたのか、耳がピンと立って、こっちを振り返った。
「ワフォフ!」
「ああ、少し疲れてるが……大丈夫だ。ローザ達は中だよな?」
訊くまでもないが、彼女は力強く肯いた。
「じゃあ、もう少し待っててくれ!」
手を振ってギルドに入る。
「らっ、ラルフ君!」
ロビーで俺の姿を見付けたサーシャさんが、窓口奥から飛んで出て来た。今まで接客されていた冒険者が凄い顔でこっちを見ているけど。いいのか?
「あっ、あの、ラルフ君は連れて行かれ……ああいや、その……大丈夫だった……ようね」
落ち着け、サーシャさん。
衆目監視のロビーで治安部隊に連れて行かれたとは、ぎりぎり言わなかった。だから、動転し切っては居ないと褒めるべきか?
「ご心配掛けたようで、済みません。あのう仲間は?」
「あっ、ああ。いいのよ! 支部長室に。一緒に行きましょう!」
「ありがたいんですが……あの人を待たせているのでは?」
窓口を指差す。
「えっ? ああ、そうだったわ。まっ、また後でお話聞かせてね!」
手を振って戻っていった。何人か見ていたけど、変な噂にならないと良いけれど。
1人で2階に上がると、勝手知ったる支部長室へ行き、ノックする。
「おお、ラルフ!」
「ラルちゃん! 無事?」
「ああ。この通りだ」
ローザが長い溜息を吐いた。
「みんな、心配掛けたな。済まなかった! ギルマスも……」
ローザは、少し目を瞬かせながら首を振った。
サラは、ローザの肩に手を置いて居る。
「ふん! 心配なんかしてないもん! ラルちゃん、別に何も悪いことしてないし!」
アリーはむくれた。
「まあ、その通りだが。アリーから,黒い制服の軍人に連れて行かれたと聞いたときには驚いたぞ。なにしろ無事で良かった。そして、君達が、南門前広場に居た人達を救ってくれたことに、改めて礼を言う。この通りだ」
ギルマスはわざわざ立ち上がると、胸に手を当て感謝を示した。
「どうしたんですか? ギルマス」
「救ってくれたのは、広場に居た者だけじゃない。冒険者ギルドを救ってくれたんだ。改めて感謝する」
「はあ……」
言いたいことは大体分かったが、アリーとサラはピンと来ていないようだ。
「君達が南門に戻ってくれてたお陰で、冒険者を王都から引き離していた罪を軽くしてくれたんだ。その所為で危険に晒してしまった。済まなかった」
「いやいやギルマス。調査動員は、あなたではなくて西支部がやったことですから」
「いや、俺も実施を認めたし。危機感が薄かった」
ふむ、言い訳しないな。ギルマス。
「今回の報酬は西支部が差配するが、俺からも注文は付けておく。ラルフも無論だが、アリーの治療、サラにローザ殿の看護も素晴らしかったと報告が入っているからな」
「よろしく」
「でだ。状況については、大体訊いたが、黒衣連隊だったんだろう。ラルフに何の用だったんだ?」
「取り調べを受けました」
「やっぱりか! で、何の容疑だ?」
まあ、治安維持部隊だ。好意的な用とは思わないのは当然だよな。
「広場に出て来た馬車の乗員を、なぜ真っ先に救わなかったのか? と告発されましてね」
ギルマスは顔を歪め、サラとローザも呆れた表情だ。
「ばっ! バッカじゃないの?!」
そんな中、アリーが1人立ち上がって激昂した。
「ふざけんじゃないわよ! ラルちゃんが倒れるほど魔力を遣って助けてくれったっていうのに。何よ! その言い草は! 黒衣連隊? お前達は軍人じゃないのかよ!!!」
「おお、アリー。良いこと言うじゃないか! 全くだ! ギルドから正式に抗議してやるぜ!」
ギルマスの同調に、後ろでびっくりした人が居る。
「まあまあ。尋問した軍人も、同じように立腹してたんで。役目上仕方なくと言ってたし。ギルマスの気持ちは嬉しいけど、穏便にね」
後ろで、ヒヤヒヤしてるであろう秘書さんが何度も肯く。ギルドは、軍から対魔獣に関して協力要請を受けて、傭兵を出して居るからな。実際に物が言える立場だ。
もぅと吐き出してアリーが座ったが、ブンむくれている。
「そう言えば、告発を受けてと言ったが」
「ええ、馬車の乗員か、その随員でしょうね。告発したのは」
「あの紋章……」
「何、お姉ちゃん。心当たりがあるの?」
「レガリア王国」
アリーが俺を振り返ったので、肯いておく。
「やっぱりレガリアか。全権大使が来てるとは聞いていたが」
ギルマスが、何度か肯いた。
「レガリアって、西の方の国だよね」
「そうだ。うちの国とは接していないがな。さほど遠くはない。間にウエルテン公国が挟まっているけどな」
「で、ギルマスさん。ミストリアとは仲良いの?」
「うーむ。難しい質問だな。良いと言えば良いし、悪いと言えば悪い」
「どういうこと?」
「あんまり他で言うなよ。あの国はな、少し前から揉めていてな」
ああ、そう言えば聞いたことあったな、修学院の授業で。
「穏健派である前の国王が退位してな、嫡子が今上の国王になったんだが、妾腹でな」
なぜか、アリーがぽかんとしてる。
「ショウフク?」
「側室の子だ。で、次男の公爵が……評判が良くないんだが、正室の子でな貴族達が2分しちまってる」
ありがちな話だなぁ。
「その全権大使は、ミストリアと仲が良い穏健派というわけですか」
「なんだ知ってたのか、ラルフ」
「知りませんよ。興味ないし」
「ラルちゃんが興味あるのは、魔術と魔導具と魔獣位だし……って、痛ったぁ!」
後頭部を摩る。
「お前の嫁さん、見た目と違って手が早いな……ああ、結婚おめでとう」
「はあ、どうも」
アリーが喋ったんだろうなあ。別に構わないけど。
「ああ結婚の件は、サーシャにはしばらく黙っとけ。ラウラもだ」
「もちろんです」
秘書さんが大きく肯く。
何が、もちろんなんだろう。心配は掛けたから、その礼はすべきかも知れないが。サーシャさんと俺の結婚は何か関係があるのか? さっぱりわからん。
「それはともかく。じゃあ、なんで大使が穏健派だと思ったんだ?」
「穏健派の前国王が譲位したんだから、現国王も穏健派でしょう。対外強硬派だったら、次男が即位しているでしょう。その国王が選ぶ大使も穏健派でしょう」
「そうだな」
「それで、わが国と関係強化を目指す国王派が大使を送ってきたが、公爵派は面白くないと」
「えっ、じゃあ。今日の事件は、その公爵派がやったってこと?」
「さあどうかな」
「で、見つけた魔導具はどうした?」
「ああ、バジリスクの魔結晶1つと共に、軍に提供しましたが」
「賢明だな。その辺りの詳しい話も聞きたいが。皆疲れてるだろう。とにかく、今日はゆっくり休んでくれ」
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