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Promise  作者: タカ
15/17

14話

ある日の昼休み。

優衣と美樹・真理は昼食をとり終わり、三人で話をしていた。

話しの途中で美樹は思い出したように優衣に話しかける。


「ねぇ、優衣。おばさんどうなの?」

「え?」

「そろそろ一ヶ月じゃない?確か入院は一ヶ月の予定じゃなかった?」

「うん。でも、この前行ったときは退院について何も話さなかったからまだじゃないかな」

「おばさん、元気なの?」

「うん。体のほうはすっかりいいみたい。まぁ、入院してすぐも元気だったけど」

「そうなんだ。退院したらどうするの?」

「なにが?」

「前の家に戻るの?」

「…うん。衛先輩の家に行ったのは生活が一人になるからだもん。お母さんが戻ってきたら元の家に戻るよ」


優衣は寂しそうな笑みを浮かべるが美樹と真理はそれに気づかなかった。

放課後。

優衣は一人で帰路を歩いていた。

どこかその足取りは重い。

優衣が歩いていると道路の角から出てきた人とぶつかってしまった。

優衣はこけそうになるがそれよりも先に手を掴まれた。


「悪い、大丈夫か?…あれ?お前衛の従兄妹?」


優衣は目を開けてぶつかった人を見ると深夜だった。

深夜の後ろから柚子葉も顔を覗かせた。


「あ、優衣ちゃん。久しぶり」

「お久しぶりです。すいません、ぶつかって」

「いや、俺も見てなかったから」


優衣がしっかりと立ったのを確認して深夜は手を離した。


「そういえば衛の家に住んでるんだっけ?」

「はい。お母さんが退院するまでですけど」

「確か…一ヶ月だっけ?ってことはそろそろ退院だから家に戻るのか?」

「…たぶん」


深夜の言葉を聞いて優衣は俯いてしまった。

それを見て深夜と柚子葉は顔を見せ合わせた。

そして、柚子葉は優衣に一歩近づいた。


「優衣ちゃん、どうかした?」

「いえ…」

「あ~…、良かったら家来るか?」

「え?」


深夜が頭を掻きながら優衣に声をかけてきた。

優衣が首を傾げると深夜は口を開いた。


「お前何かあったろ?俺と柚子でよかったら相談に乗るぞ?」

「何もないですよ?」

「あのなぁ…そんな顔をして言われても説得力ないんだけど。なぁ、柚子?」

「うん。私も優衣ちゃんに何かあったってわかるよ?」

「でも、本当に何もないんです」

「多分だけど、お前衛の家から出たくないんじゃないか?で、もうすぐおばさんが退院するからそれで落ち込んでるんじゃないか?」

「そんなことないです。確かに今の生活に慣れてますけど、それよりもお母さんと一緒に暮らしたいんです」

「じゃあ、何でさっき『家に戻るのか』って聞いて俯いたんだ?」

「…分からないですよ」

「そうか。…とりあえず帰ろうか」


俯いた優衣に深夜は声をかける。

優衣が顔を上げると深夜と柚子葉が数歩先で優衣を待っていた。

優衣が駆け足で二人に並び、三人で歩き出した。

歩いていると優衣に深夜が声をかけてきた。


「衛と一緒に帰らないのか?」

「そういえば一緒に帰ったことないですね。あ、この前買い物があったので一緒に帰りましたけど」

「衛と?」

「ええ。おばさんの締め切りが厳しくて夕飯の買い物をして帰ったんです」

「どうせあいつのことだから他のものも買ったんじゃないか?ジュースとか」

「あ、買いました。それに買い物袋が重いからって持ってくれました」

「…えらい嬉しそうだな」

「え?そうですか?」


優衣は自分がどんな顔をして衛のことを話していたのか分からなかった。

優衣が不思議そうな顔をしていると深夜は頷いた。


「嬉しそうだった。というより嬉しいんだろうなと思う笑顔だった」

「そうですかね…。よく分からないです」

「…衛と一緒にいるとどうだ?楽しい?」

「楽しいですよ。今まで知らなかった衛先輩を知ると嬉しいですし、もっと知りたくなります」

「優衣ちゃん…気づいてないの?」

「何をですか?」

「それって…私が深夜に対して思ってることと同じだよ?」

「え?」

「私も深夜のこともっと知りたい。それって…私が深夜のこと好きだからだと思うの。だって、好きでもない人のことを知りたいとは思わないでしょ?」

「…え?私もしかして」

「さぁな。それは俺と柚子は何も言えない」


優衣の言葉を深夜が遮る。

優衣が深夜に視線を向けると深夜は立ち止まって真面目な顔をして優衣を見ていた。


「それはもう一度考えてみろ。俺と柚子に言われたから答えを出すんじゃなくてな。多分家に帰って衛と会ったらお前が衛のことどう思ってるか分かると思う」

「…はい」

「じゃあ、足を止めて悪かったな。帰ろうか」


それから三人の間に会話はなかった。

というよりも優衣が黙って考えていたので深夜と柚子葉が話しかけなかったというほうが正しいかもしれない。

三人は深夜が住んでるマンションの前に着いた。

が、それに気づかない優衣に深夜は首に手を当てて声をかける。


「お~い、どうする?」

「え?…あ、もうマンションだったんですね」

「あぁ。どうする?上がってくか?」

「…いえ、帰ります」

「そっか。分かった、衛によろしく伝えてくれ」

「はい」


優衣は深夜と柚子葉に頭を下げて一人で家に向かって歩き出した。

家に着いた優衣が玄関を開けると衛の靴は見当たらなかった。

どうやらまだ帰っていないようだ。

優衣は栄美に一言声をかけて自分の部屋に入った。

部屋着に着替えて優衣は壁によりかかるようにして座った。

そして、目を瞑り先ほどの深夜達との会話を思い出す。


『嬉しそうだった。というより嬉しいんだろうなと思う笑顔だった』

衛のことを話していると優衣自身無意識のうちに笑顔になって話しているようだ。

それはどうしてだろう…


『だって、好きでもない人のことを知りたいとは思わないでしょ?』

衛のことを知りたいと思うのはどうしてなんだろうか…

やはり柚子葉の言ったとおり衛のことが好きだから知りたいと思うんだろうか…


優衣が目を瞑って考えているとふと衛の顔が思い浮かんだ。

その顔は笑顔のものもあったし、意地悪な顔をしてるもの、優衣に過去のことを話している真面目で、少し寂しそうな顔のものもあった。

この一ヶ月で優衣は衛の様々な顔を知ったと思う。

それでも『もっと知りたい』という気持ちは無くなることがない。

衛のことを考えると胸が苦しい、がそれだけじゃなく暖かくもなる。

優衣が考えてると階段を歩く音が聞こえ、そして優衣の部屋のドアが開けられた。

優衣が目を開けると衛がドアから入ってきた。


「ちぃ~す」


衛は笑顔で優衣に近づいてくる。

優衣が驚いて衛の顔を見ると衛は片手にビニール袋を持っていた。


「それなんですか?」

「これ?母さんが持っていけって。人からもらったパンなんだけど、カレーパンとクリームパンどっちがいい?」

「じゃあ、クリームパンで」

「ん~と、ほら」


衛は笑顔でクリームパンを優衣に差し出した。

優衣はクリームパンを受け取ろうと手を伸ばす。

ふと二人の指先が触れた。

今まで何度か衛と手が当たったことはあった。けど、今回だけは何かが違った。

優衣はビクッと手が震えてしまいクリームパンを落としてしまった。

衛はそれを拾うとテーブルの上に置いた。


「なにやってんだよ」


衛はポンッと優衣の頭を一つ叩いて部屋を出て行った。

優衣は触れた手を胸に当ててみた。

凄い勢いで心臓が鳴ってるのが分かった。


「私…好きだったんだ」


優衣は自分が衛のことを好きだということを自覚した。

その日の夜。

優衣はなるべく衛の顔を見ないようにして夕食を食べている。

衛と栄美は優衣の様子がおかしいことに気づいたがそれには触れずに箸を進めている。

三人で食べていると玄関が開く音が聞こえた。

どうやら英雄が帰ってきたようだ。


「ただいま」

「「おかえりなさい」」

「おかえり」


やはり、帰ってきたのは英雄だった。

英雄は顔だけ出して一度着替えに部屋に向かった。

栄美が台所に茶碗などを取りに行ったので今は優衣と衛の二人だけが座っている。

衛は優衣のほうに顔を向けると声をかけた。


「おい」

「な、何でしょうか…」

「なんか様子がおかしいけどなんかあった?」

「い、いえ別に何もないですよ?」

「…ならいいんだけど」


衛はまだ疑っていたが栄美と英雄が戻ってきたのでこの会話は終わった。

英雄を含めて四人で夕食を取っていると英雄は思い出したように優衣に話しかけた。


「そういえば今日亜由美ちゃんに会ってきたよ」

「え?お母さんにですか?」

「うん。母さんも今日の昼会ったんだろ?」

「ええ」

「なら、優衣ちゃんに言った?」

「あ、言い忘れてた…」

「あの…何かあったんですか?」

「亜由美、今度の土曜日に退院できるんだって」

「え!?」


優衣は栄美の言葉を聞いて驚いてしまった。

栄美も優衣がそんなに驚くとは思ってなかったので驚いてしまった。


「ど、どうしたの?」

「あ、いえ…。突然だったのでついビックリして」


それもあるが一番はこんなに別れが早いとは思ってなかったのだ。

ついさっき衛のことが好きだと気づいた優衣は自分の気持ちを伝えようとは思ってなかった。

衛が自分のことを恋愛対象として見ていないと思ったからだ。

衛は妹として自分と接しているようにしか思えないのだ。

だから、『好きだ』と伝えて今の関係を崩すなら従兄妹として衛の傍にいたかった。

けど、それももう終わる…

優衣は少し俯いて衛の顔をうかがった。

衛がどういう顔をしているのかが気になったのだ。

最初は驚いているようだったが衛は笑顔になって優衣に顔を向ける。


「良かったじゃん。おばさん、よくなったんだってよ」

「…は、はい」

「そういえば…俺一回も見舞い行ってないな」

「あぁ、そうだった。衛、悪いけど土曜日の退院のときに付き添ってもらえる?」

「俺が?」


衛が呟くと栄美が思い出したように声を出した。


「ええ。お父さんもその日は休日出勤だから手伝って欲しいの」

「あぁ、別にいいよ。俺もおばさんに会ってみたかったし」

「…ご馳走様」


衛と栄美が話してると優衣が席を立った。

衛は優衣の後姿を見送ると呟いた。


「何か元気なかったな…」

「そうねぇ。驚いたけどあまり嬉しそうじゃなかったわね」

「ご馳走様」


衛は残っていたご飯を急いで口に詰め込む。

そして、部屋から出るときに立ち止まって英雄と栄美のほうを振り返る。


「母さん、ちょっと早いけど約束破っていい?」

「約束?何の?」

「ほら、あいつが来たときに約束、っていうか忠告のほうが正しいかも。俺に言っただろ?」

「言ったかしら…」

「…覚えてないならいい」


衛はそれだけ言って階段を上がっていった。

それを聞きながら英雄は栄美に話しかけた。


「母さん、衛に言ったこと本当に覚えてないの?」

「覚えてるわよ」

「え?なら、なんで」

「別に今言っても変わらないでしょ。なら、別に言わなくてもいいかと思って」

「相変わらずだねぇ。ちなみに何て言ったの?」


栄美は笑顔で英雄に耳打ちをした。

英雄は最初驚いた顔をしたが栄美の顔を見ると笑顔になった。

そして、二人は顔を見合わせて息子と姪がいる二階に視線をむけた。

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