11話
テストが終わって数日がたった。
授業でテストも戻ってきて、優衣はいつもより返してもらうテストの点数が高かった。
優衣が机に座っていると美樹と真理が近づいてきた。
「ゆ~い~、順位表見に行こう」
「優衣、順位上がったんじゃない?」
「う~ん、どうだろう」
三人は連れ添って廊下に出た。
優衣の学校では、点数は書かないが一年・二年・三年それぞれの順位を廊下に張り出している。
生徒が多いので紙を三枚に分けて張り出される。
廊下ではすでにいろんな学年の生徒がたくさん集まっている。
優衣達は廊下の後ろに立っている香の姿を見つけ声をかける。
「香」
「あ、優衣達も来たんだ。私下がっちゃった…」
香が肩を落としたので優衣達は香の肩に手を置いて順位表を見た。
優衣はいつも真ん中の紙に名前があったので真ん中から見始めた。
すると、真ん中の最初あたりに名前を見つけた。
前回の試験から順位が7つ上がった。
美樹も自分の名前を見つけたのか優衣に近づいてきた。
「私も下がった…。優衣は?」
「私上がったよ」
「いいなぁ~。…先輩に教えてもらったの?」
「違うよ!あ、でも先輩の知り合いの人に教えてもらったよ。凄い分かりやすかった」
「男の人?」
「うん。それと、彼女の人からも教えてもらった」
とりあえず二人は話をしながら香のところに戻った。
どうやら真理も成績が下がったようで、結局上がったのは優衣だけのようだ。
四人で話してると香が急に声を上げた。
「あ!加藤先輩だ!」
優衣も香が見ている方向に顔を向けると衛が友人と一緒に順位表を見ている。
衛が順位表を見始め、ガッツポーズをしたので恐らく順位が上がったのだろう。
ふと衛が優衣達のほうを見る。
少し驚いた顔をした後、衛は笑みを浮かべた。
そして、友人達とまたどこかに歩いていった。
衛が立ち去った後香のテンションは最高潮になっているようで真理に話しかけた。
「今の見た!?こっちみて笑ったよね!」
「う、うん…」
「今の笑顔ってすっごいかっこよくなかった!?」
「う、うん」
「順位下がったけどそんなの関係ないぐらいもう嬉しい!今日はいい夢見れそう!」
「そ、そう…」
香と真理のやりとりの横で優衣と美樹は小声で話している。
「あの笑みって優衣に向けたものだよね、きっと」
「多分…」
「何かあったの?」
「衛先輩、このテストで順位が下がったら小遣いカットなの…。多分、順位が上がったから私に笑ったんだと思うの」
二人が会話してるのに気づいた香が近づいてきた。
「二人で何話してるの?」
「え!?なんでもないよ!ねぇ、美樹?」
「そうよ!ほら、順位の話よ。ねぇ、優衣?」
「そう、そうなの!」
「そう…?」
「そうなの!」
「それならいいけど…。でも加藤先輩カッコイイなぁ」
またうっとりし始めた香を見て優衣達は顔を見合わせて笑みを浮かべた。
その日の夜。
優衣が部屋の中でテストの見直しをしているとドアがノックされた。
「はい?」
「俺だけど入っていいか?」
「大丈夫ですよ」
優衣が了承すると衛が携帯を手にして部屋に入ってきた。
衛は優衣に近づいてきて机の上にテスト問題を置いているのを見て顔をしかめた。
「…何してんの?」
「テストの見直しです」
「うわぁ…、真面目だな。もう俺問題どこ行ったかわからねぇけど」
「それは早すぎですよ」
「うるせぇ」
「それでどうかしたんですか?」
「あぁ、そうそう。お前順位上がった?」
「上がりましたけど…」
「深夜に結果をメールしようかなと思ってな。俺も上がって一安心だよ…」
「勉強した甲斐ありましたね」
「それで母さんに小遣いアップを頼み込んだら怒られた…。上がったから何かしてくれてもいいのになぁ」
衛は床に座って携帯をいじりながらしみじみと呟いた。
優衣は苦笑いを浮かべテストの見直しを続けた。
メールを送信し終えたのか衛は携帯を閉じて優衣に視線を向ける。
その視線に気づいた優衣が顔を上げる。
「な、何ですか?」
「ん~、そろそろお前が来て一ヶ月だなと思っただけ。じゃあ、俺部屋戻るわ」
「あ、はい…」
「勉強頑張れ」
衛は立ち上がり優衣の頭をポンっと一たたきして部屋から出て行った。
優衣は衛の言葉を思い出していた。
忘れていたが衛の家に来てそろそろ一ヶ月がたつ。
その間に母親の病院にも行っているが順調に体調が戻ってきている。
ということは、もうすぐこの家から元の家に戻る…
最初は不安を抱えてこの家に来たが今はとても楽しい。
その生活ももう終わる…
優衣は少し落ち込んでしまった心を振り切るかのように首を振りまたテストの見直しに戻った。




