第九十三話 親方に頼もう
※時間的に後日の折れた槍の話と整合性が取れなくなるのでジンライさんの槍が折れたのを2年前から4年前に変更してました。(2013/06/03)
◎ウィンラードの街 バトロア工房
「こんちはー」
風音の挨拶に破顔一笑の親方がいた。
「おうよ。カザネじゃねえか。今日はユミカにジンライもいっしょかい」
「えへへ、どうも」
「久しぶりだなジョーンズ」
風音の後ろにいた二人も親方に挨拶をする。
「話には聞いてるぜ。王子様連れて竜退治だってな。豪気なことしてやがるな、ホントに」
親方の情報の早さに風音たちは舌を巻いたが、まあゼニス商会の代表の情報網はそれだけのものなのだろう。
風音達が二体の竜アオとアカと出逢ってから一日経っていた。風音一行は依頼を正式に受けて竜の心臓も受け取った。だが急ぎでなくても良いとのアオの言葉に甘え、ダンジョン探索の疲れをとることと今後のための準備をするべくウィンラードへと一度戻っていたのだった。
また昨日のアオのプレイヤー発言には確かに風音と弓花も驚いたが、
「私はずっと竜の里にいましてね。あまり人との接触もなかったものですから。まあ何人かとのプレイヤーの方とは会ったことはあるのですが」
とのことで、それ以上の話はなかった。一周目をクリアしてないので召喚英霊も呼べないらしく、コーラル神殿の中にも入れなかったらしい。以前に風音とゆっこ姉が考えていた『今が二周目扱いなら未クリアでも入れるんじゃなかろうか?』という推測は外れていたようだ。
そして風音達はゆっこ姉から、元の世界への帰還の門があるかもしれないというダンジョンの名もその場で聞いていた。
「A級ダンジョン『ゴルド黄金遺跡』か」
親方は風音からその名を聞いて眉をひそめる。
「確かにあの場所は、ソルダードとの国境近くだったせいで色々と面倒な場所だったんでな。上位ランクの冒険者もあまり行かなかったんで途中で攻略が止まっちまって、その間にA級にまでなっちまったっていう厄介なダンジョンだ。後10年超えれば封印処理するしかねえ」
「らしいねえ。それの深層まで攻略したいんだよ」
風音の言葉に親方も「まあ、ドラゴンまで倒しちまうんじゃあ、止めるわけにもなあ」と言いながら、風音を見る。
「行きたいんなら止めねえよ。それに俺の拠点は近々あっちに移す予定だしな。そういう意味では歓迎ではある」
「マジで?」
親方が風音に頷く。
「ソルダードとの膠着状態が半月前にようやく解除されてな。今国内外の有力な冒険者がダンジョンのあるゴルディアスの街に集まってきている。強力なチャイルドストーン持ちもいるし、レア素材もわんさか採れるからな。武器工房の主としちゃあ今垂涎ものの場所なんだよ」
(だからゆっこ姉、親方に話しとけって言ってたのかぁ)
と風音は心の中で呟いた。
「だが、オルドロックの中間まで行ったお前達でもA級ダンジョン攻略は相当なもんなはずだ。心しておけよ」
「うん。そんなすぐに行くつもりもないんだけどね。けど、行くことになったら色々頼むと思う」
「わかった。で、今日はそのことを聞きに来たわけでもねえんだろ?」
「うん。もしかしてもう話来てるの?」
親方がにやりと笑うと首を横に振る。
「もうモノまで来てるぜ。竜葬土とついでにマジッククレイ、飛竜便でぶっ飛ばしてきやがったからな。連中もお前に繋ぎ入れておきたくて仕方ないんじゃねえのか」
親方がそう言って風音に尋ねる。
「で、次は何を作りゃいいんだ?」
風音自身にではなくこの工房に持ってくるように指示したということはつまりそういうことだろうという親方の視線に風音が頷く。
「うん。まずは竜骨を使ったタツヨシくんの強化ボディを一つ新規で作ってほしいの」
風音の言葉に「そう来るとは思ってたぜ」と親方。
「できれば不滅の布団も組み込んで防御力を強化しときたいんだよね」
「そうなると変形機構が邪魔になるかも知れねえな」
親方は風音の言葉からイメージして、実作業における問題点を指摘する。
「そのためにこういう風に分割で持とうと思ってる」
風音が簡単な図面を出して親方に見せる。以前に比べると随分と本格的になっているのは実際に組んだタツヨシくんの設計図をもらって書き方を覚えたからだが、知力の増加で理解力も高まっていることと『直感』によってある程度の目安をピンと決められることで細かい調整に迷わず線を引けるということも大きかった。
「なるほどな。確かに分割して変形機構を減らせばマッスルクレイの搭載量も増えるし悪くはねえ。不思議な袋を二つ用意する必要があるがいいか?」
「お金は結構貯まってるからね。問題ないよ」
風音はそう言って、続ける。
「それと投擲専用のタツヨシくんを二つ。これは不思議な袋は要らない」
「じゃあ持ち運びはどうすんだよ?」
親方の言葉に風音が気持ちワルい方の笑顔を浮かべて、別の図面を出してくる。
「私専用ヒッポーくんを作って、そこに乗せるつもりなのー」
「ふむ」
親方はその図面を見て考える。風音の用意したのは既存の装甲馬具の内部にフレームとマッスルクレイを追加し、両面部などに幾つかのギミックと兜状のタツヨシくんを二つはめ込むようにしたもの。
「まあ、造れなくはないな。馬だけならモンドリーに徹夜させりゃあ仮り組みで明日には用意できるだろう。フルプレートの装甲馬具ならウチにはいくつかあるしな。軽量エンチャント付きになるから金はかかるがあるんだろう?」
竜退治依頼の報酬にダンジョンでの素材の換金で風音の懐は相当に潤っている。
「勿論ッ」
風音はそれら全財産が入った硬貨袋をドンとテーブルに置いた。ジンライが驚き、弓花が「ホント、パッパと使うなあ」とぼやいた。親方はその中身を確認して半分ほど返す。
「こんだけありゃあいいだろう。タツヨシくんはすでに設計図はある。竜骨もマッスルクレイも自前だしな。まあ足りなくなったらまた請求するし余ったら返すさ」
風音は返された硬貨袋をアイテムボックスにしまい込む。
「どれくらいでできそうなもんなの?」
「戦争の用意も終了になったことだしな。人手はあるからモンドリーに指揮させて突貫で作らせて一週間ってところだ」
「いいの?」
自分のためにそこまで人を割いてよいのだろうかと風音は思ったが、親方は久方ぶりに聞いたガハハ笑いで返す。
「問題ねえ。今は臨時で集めてた鍛冶師の連中を帰したり次の職を斡旋したりしてるところだから、繋ぎの仕事は大歓迎だ。ま、そういうことだからこっちはいいんだが、お前等はそれまでここにいるのか?」
風音は「いるよー」と頷く。
「王都に戻るかコンラッドの温泉にいってるかもしれないけど一週間なら基本的にはこっちの方にいると思うからすぐに来れるよ」
「ああ、温泉な。そういやそっちの件もあったんだっけか」
親方は、そういえばと思い出したように口にする。
「あれ、親方の方に話がいってるんじゃなかったっけ?」
ゆっこ姉がそうしたことを話してたはずだが。
「話は来たがな。俺は門外漢だし確か宿とかそっち方面の代表をしてるマッカって怖いおばちゃんが今行ってるはずだぜ」
「そうなるといきなり行って温泉とか入れるかな?」
知らない人間が相手では融通が利かないかも知れない。
「大丈夫じゃねえの。源泉の所有者はお前になってるし」
「え、こっちもなの?」
平然と口にする親方の言葉に、風音は目をパチクリとした。
「商人ギルドに入ったんだって? それ聞いてウチの女王様がさっさと手続きしたらしいぜ。確かゼニス商会の観光部門に籍が置かれたとか言ってたな」
「聞いてないけどね、そんなこと!」
本人も知らぬ間にだんだん風音の立場が複雑になっていく。
「まあ王族のやることなんぞ無茶があって当たり前だからな。気にしても仕方ねえ。もらえるもんならもらっちまえばいいのさ」
経験者である親方の言葉である。
「そんで納期は一週間だが馬の方は明日とりあえず用意するからそれを使って調整してくれ。タツヨシくんときも最初に結構かかってただろ?」
「そうだね。明日も寄るとしてこれで私のお願いは終わりかな。後はジンライさんが用事あるんだよね」
風音はそう言ってジンライを見た。
「うむ、ワシの用事はこれだ」
そう言ってジンライは腰に下げていた腕一本分はある竜の牙を二つドンドンと置いた。
「へえ」
親方の目が光る。
「牙の槍兵の復活ってわけだ」
その言葉に風音と弓花が同時に首を傾げた。
「牙の槍兵ってジンライさんの字だよね。復活ってどういうこと?」
風音が疑問をそのまま口にする。
「話してねえのかい?」
親方の視線にジンライが頷く。
「まあ、二度と使わんと言ってたわけだしな。心変わりしたなら俺としては面白いからいいけどよ」
そう言って親方は風音と弓花の方を見て、こう話した。
「この爺さまはな。元々両刀使い、いや二槍使いなのよ」
「そうなの?」
風音の問いにジンライが首を縦に振る。
「ああ、そうか。だからなんですね」
弓花はようやく分かったとばかりにジンライを見た。
「教えてもらった槍技のほとんどが片手を前提とした技だったのが気にはなってたんです」
「まあ、そうだな。ワシは元々そちらしか使わんかったから両の手で握った技というのはあまり覚えておらんのよ。いずれはそちらも扱える師を紹介しようとは考えていたのだがな」
「私の師匠は一人で十分です」
ジンライの言葉に弓花が即答する。それにジンライは誇らしげな顔ではあるが苦笑し、だが弓花を諭すように言葉を重ねた。
「だがそれでは強くはなれん。ワシの二槍流は本道から外れすぎていてな。正道を走るお前の才能とは方向が違う」
そう言われて不満そうな顔をする弓花にジンライは、だが笑って答える。
「もっともまだ手放す気もないがな。お前に教えることはまだまだ多い」
「はいっ、ずっと教えてもらいますから」
弓花が笑顔でそう返す。ジンライがやれやれという顔をするが、風音と親方は微笑ましげな目でそのやりとりを見ていた。
「それでなんで今は一本しか使ってないの?」
そして話に区切りがついたのを見計らって風音は疑問に感じたことを口にする。
「年だな」
対する答えはあっさりしたモノだった。
「あれを扱うには色々と腕力や集中力が必要なのだ。4年前にしくじって槍が一本破壊された時に身体の衰えを感じてな。以来そのまま一本で戦ってきた」
「まあそれまでのこいつは異常に強くてな。二本の牙を突き立てるように魔物を葬り去る姿から付いた字が牙の槍兵ってえわけだ。それがようやく復活たぁ、楽しみだね」
「少しばかり若返ったのでな。やれるのであればまた二槍をとるさ」
それに……とジンライが口にする。
「やはりドラゴン相手に一本では少々心許ない。ちょうど良いものも手に入ったしここでお前の腕を借りたいと思ったのだ」
「嬉しいねえ。へへ、まあこの上物の牙があればドラゴン鱗だって易々と貫けるはずさあ」
「お代の方は……」
「いらねえよ。ダチの新しい相棒を作ろうってんだ。ロハでやんのが男ってもんだろうが」
「親方ー、私のはーー」
「金は返さねえよ?」
「チクショー」
風音の罵倒に親方がやれやれという。そして風音の足下を指さした。
「大体テメエ、その足はなんだ? せっかくウチで作ってやったのに新しいもんにさっさと代えやがって」
「濡れ衣だよ。これ、親方の作ったヤツだよ。出っ張っちゃったけど」
風音がホレホレと足を突き出す。
「む、確かに俺も手を加えた部分の面影がある。もしかして成長したってのか?」
「そうだよ。ホーレホレー」
ピロピロと片足をあげてフリフリ動いている子供とそれをホウホウと見ているオッサンの構図は犯罪のニオイがした。そして「恥ずかしいから」と弓花が風音の足を止めた。
「なるほどな」
親方は腕を組んで、風音の足の甲冑靴を見ながら口にする。
「確かに魔物の素材の武具は成長することがあるし、俺も何度も見てるが、しかしこんな短期間で成長するとはなぁ。どんだけ戦ってたんだよ」
「いっぱいだねえ。モンスターハウスにも当たっちゃったし」
風音から平然と口に出た死地の経験に「マジか」と親方はぼやいた。
「よく生きてやがったな」
「まあ余裕……とまではいかなかったけどね」
その疲れた風音の表情に親方は出会った修羅場の多さを悟り、ならばと告げる。
「まあそんじゃちょっくらサービスしてやるか」
「マジで!」
風音が喜び勇んで顔を上げる。
「竜の爪はあるかい?」
「あるっ!」
風音が言うと親方はニヤリと笑って「そいつをその甲冑靴に組み込んでやるよ」と言った。
「マジで!」
「それならそんなには掛かんねえから、今日渡してもらえればすぐだな。やるかい?」
風音はさっさと脱いで「どうぞっ」と渡した。
「そんじゃあ確かに預かった。ジンライのはちょっと時間とって風音といっしょの一週間後に渡すでいいか?」
「ああ、待っているさ」
ジンライも頷いた。
「で、ユミカ。おめえさんも竜の武器でも作ってみるかい?」
親方は一人立っていた弓花にそう尋ねたが弓花は横に首を振る。
「親方にいただいた槍は最高ですし私ととても相性がいいですから」
実際に神狼化時に白銀は共鳴反応を起こし、槍自体の威力も上がっている。親方は「言うねえ」と鼻をすすって笑った。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット
レベル:29
体力:101
魔力:170+300
筋力:49
俊敏力:40
持久力:29
知力:55
器用さ:33
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』
風音「おや、通常営業のつもりが今回も説明回だよ?」
弓花「次回でジローくんの話題が出ます」
風音「ジロー君本人は?」
弓花「出ません」




