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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
黒竜討伐編

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第八十六話 大広間を抜けよう

 マッシブカメレオンとの遭遇後も風音たちは順調に先へ先へと進んでいった。初戦では不意を打たれたマッシブカメレオンも、集中して臭いを辿れば発見は不可能ではなく、以降は接近を許して不意打ちを食らうこともなかった。だが、この階層の魔物はマッシブカメレオンだけではない。



◎オルドロックの洞窟 第二十六階層


「でやああッ」

 風音が渾身の力を込めて剣を振るいストリートガゼルの首を刎ねた。何度も攻撃をしてようやく動きを弱めたところで『噛み殺す一撃』が発動したようだった。

「……終わったぁ」

 そのまま風音がぐったりと倒れる。

「あーやったわね。あんたにしても珍しく苦戦したわね」

 そういう弓花もそこそこに疲れていた。

「だって、恐ろしく速いしヒットアンドアウェイ繰り返すしでもう疲れたよ」

 二十階層中盤から登場するストリートガゼルはダンジョン内では無類の脚力を持ち、その角を突き出した突進をしてくるとそのまま離脱して再度攻撃を仕掛ける特性を持っていた。あまりにも脚が速いので逃げ出されると捕まえられず、再度アタックを仕掛けてくる際に反撃するしかない。

 ジンライと弓花はその速度でもカウンターを仕掛けることはできたが、風音はキリングレッグが当たらず、剣でチクチクとダメージを蓄積させて弱らせていくしかなかった。まあ、それが普通ではあるのだが。

「でも連中のスキルを手に入れたし、次からは今よりも上手く倒せると思う」

 風音はスキルリストを見ながらそう答える。リストには『ダッシュ』というスキルが表示されていた。これは短距離をストリートガゼル同様の速度で走れるスキルだ。

「あら、ミリタリーアントじゃあなんも手に入らなかったのにね」

「やっぱ種族が被ってたのがいけないんじゃないのかなあ」

 二十階層から出てくるシビルアントの上位種ミリタリーアントともすでに何度も交戦に入っているが、その魔物からはスキルはまだ取れていない。

「シビルと違って蟻酸を吐いてくるから、風音もそれを覚えると思ってたけど」

「蟻酸吐く女の子とかイヤだよ」

 風音が心底イヤそうな顔でそう返す。風音がダラーと垂らす唾液が地面を溶かす姿を想像して「まあ、そうだね」と弓花も頷いた。

「ところで、カザネ。テバサキさんであれを止められんか」

 すこし息の荒いジンライの質問に風音が唸る。さすがのジンライもチクチクとくる敵を相手にするのは大変なようだった。

「うーん。直接掴むのは無理だけど走るのを邪魔するぐらいならできるかも」

「試してくれ。ティアラ様のフレイムナイトで一旦一撃を受けたところを狙い撃つのもいいかもしれない」

「そうですわね。フレアバードだと追いつけませんし」

 移動速度だけなら対抗できるのに攻撃が全く当たらなかったティアラが落ち込んだ顔で頷く。

「状況に応じて使い分けるのが大事よね」

『さきほどのは酷かったからのぉ』

「むうう」

 ルイーズとメフィルスの容赦のない言葉にティアラがさらに顔を沈める。

「ジークはそろそろいける?」

「二発ぐらいなら」

 ヒッポーくんの前に座っているジークがそう返す。かなりぐったりとしているのは魔力が貯まってはホワイトファングを撃つのを繰り返しているからだろう。ジークが今求められているのは100パーセントのホワイトファングの実戦経験であった。

「まあ、そろそろ宿を取らないといけないし最寄りの隠し部屋に着くまでに敵がいたらよろしくね」

「はい、分かりました」

 疲れた顔で健気にそう口にするジークに風音は「頑張って」と言いながら頭を撫でる。ジークはそれに気持ちよさそうにしている。

 その風音の後ろではティアラが嬉しそうに風音により掛かっている。どうもオーク戦以降、ティアラの風音への依存度が上がっているように見受けられた。

 なんというか桃色というには穏やかな空気がそこから流れていた。



◎オルドロックの洞窟 第二十六階層 隠し部屋


「白氷球が5個か」

 風音が宝箱を開けて中のものを取り出す。それを弓花がしげしげと見る。

「爆炎球と同じようなものなの?」

「そうだね。あれの氷版だね」

 数刻前、夜営を行うためにすでに見つかっている隠し部屋に向かう途中のこと。風音が例のキュピーン的な奴でまだ隠れていた隠し部屋を発見し、本日はここで夜を過ごすことになった。


 その夜中。


「なんかすっごいアイテムがあると思ったのになあ」

 夜営の見張りの時間の交代時に風音がジンライにそうぼやいた。

「この階層で考えれば確かにレア度は低いがな。だが黒岩竜と戦うときには役に立つだろうよ」

「うーん、そだね」

 ジンライの言葉に風音も納得する。

「カザネー、布団敷けましたわよ」

「うん、今行くー。ジンライさん、それじゃあ見張りよろしくね。時間が来たら呼んでね」

「分かった。お前もゆっくり休むがいい」

 

「ティアラ、オッケーだよ」

「じゃあ寝ましょっか」

 風音とティアラが一緒に布団の中に入る。

 他の仲間はすでに就寝中だ。

「えへへぇ」

 布団に入った途端にティアラが風音に抱きついてくる。

「もう、なんか最近のティアラは甘えん坊な感じだよねえ」

 風音が苦笑する。抱き締めて寝るのは嫌いじゃないから別にいいのだが依存のし過ぎはよろしくない……と、風音もその辺はわきまえている。多分。

「ごめんなさい」

 自分でも自覚のあるティアラは風音の言葉にシュンとなる。

「やっぱりちょっと怖いんだよね」

「ええ、そうかもしれません」

 風音の言葉にティアラが頷く。

「あの姿を思い出すたびに震えてくる自分がいるんですの」

 ティアラの目が若干潤んでいる。あるいはかつてオーガに連れ去られたことを思い出しているのかもしれないと風音は思った。

 あの時、たまたま風音たちが駆けつけたからティアラも傷物にならずに済んでいたがティアラがオーガに連れ去られていたのは生殖行為が目的であったのはほぼほぼ間違いなかった。もっともダンジョン内の魔物のああした行為は欲情の発散でしかなく、実際に出産するまでを必要としていたオーガたちが遊びすぎて壊すような真似をしたかといえば、否である。

 まあ襲われる側に「だから貴方の方が危なくなかった」と言える類の話でもないのだが。

「でも怖いのはもっと別のことかもしれません」

「……別?」

「わたくしはまだみなさんに守られてるからいいんです。でもカザネは前に出てるじゃないですか」

「まあ、そりゃあ」

 風音は前衛であり、攻撃の要でもあるのでそれは致し方ない。だがティアラもそうしたことはわかった上での発言だ。

「心配で、気が付くとカザネに触れていないと不安で仕方がないんですの」

 そう言ってティアラが再度風音に抱きつく。

「カザネを離したくないんですのよ」

「そうは言ってもね」

 風音が困った顔をするとティアラは若干寂しそうに笑って抱きしめていた腕を弛めて「ごめんなさい」と答える。

「分かってるんです。だけど、もう少しだけ甘えさせてください。もう少ししたらきっと元通りに戻りますから」

「うーん」

 風音はうなるがティアラを見て頷いた。

「まあ、分かったよ。ティアラを信じる」

 風音の言葉にティアラも安心したのか、「ありがとうカザネ」と言って、そのままもたれ掛かって瞳を閉じた。

(まあ、ドラゴン退治も終えたら、少しのんびりするかなあ)

 ティアラもダンジョンに潜って探索を続けて、多分にストレスも溜まっているんだろうとも風音は思っていた。そして子供をあやすようにティアラの背中をポンポンと叩いて、自分も目を閉じた。

 明日も早い。キチンと体力を回復しておく必要があった。



◎オルドロックの洞窟 第二十九階層 夕方


 隠し部屋で一泊した風音一行は翌朝には二十六階層からさらに深く降り、夕方には二十九階層の大広間に出た。

「この階層まで来ると広い場所も多いねえ」

 風音がそう嘆息する。

 天井は完全に割れて紫色の空が広がっている。すでに青い太陽が落ちて夜になり掛かっていた。

「まあここも壮観だがな。今回はそこまでは降りないから見ないだろうが、ダンジョンの四十階層あたりは完全に洞窟ではなくなる。草原や火山や城とダンジョンによって様々な場所へと変化する」

「そこらへんピンとこないんだけど、きっとまた自分で見てみないと実感できなさそうだねえ」

 風音の言葉にジンライが「そうかもしれん」と返す。

「そしてB級の最深部は大体七十階層ほどで、このダンジョンは今のところ三十九階層までだな。攻略されているのは」

「39?」

 風音がその中途半端な数字に首を傾げた。

「拡大期に入る前は四十階層が最深部で心臓球があったらしい。最深部は一部屋だけでな。立ち入り禁止だから未攻略扱いだ」

「つまり拡大後にそこから先に進んだパーティがいないってこと?」

「そういうことだ。ドラゴンは三十三階層へ降りる階段の前を陣取っているらしいからな。それが倒されてない以上、先に進めるパーティは今のところ存在していない……というわけだ」

「なるほどねえ」

 風音が納得して頷く。

「それが僕らの倒すドラゴンなんですね」

「はい、そうです」

 ジークの確認にジンライが頷く。

「黒岩竜ジーヴェ、どういったドラゴンなんでしょうか」

 そうジークが尋ねるが、風音が肩をすくめて言葉を返す。

「ギルドの情報が古い上に、どうも強力な冒険者が数人で倒してしまったらしいんだよ。だから詳細な情報はないんだよね」

「数人で倒せるドラゴンなんですの?」

 ティアラの楽観的な問いをルイーズが即座に否定する。

「いいえ。違うわ。名付きのドラゴンは普通のものよりもよほど強力なはずよ。それに普通のドラゴンだって討伐人数が数人だなんて基本ありえない」

 今は50人が適正とされてるが昔は100人クラスの大人数で挑んでいた。そして黒岩竜はその時代に生きていた竜だ。

「恐らく倒した冒険者が異常な戦闘能力の持ち主だったんじゃないかしらね。記録には残ってないみたいだけど」

「そうですか」

 ティアラがションボリする。安易な期待は持てないようだった。

『まあこのメンツならば並のドラゴンでもやってやれなくはないかも知れんがな』

 メフィルスがルイーズの腕の中でそう口にした。それにルイーズも頷いて肯定する。

「それはそうねえ。あたしの魔術も悪魔ほどではないにしてもドラゴンの巨体相手ならかなり効くし」

 ルイーズの最大魔術『ジャッジメントボルト』は対悪魔に絶大な効果を持つが、単純に魔術としても強力な一撃だ。効果範囲も広く、特にサイズの大きい魔物に対しては多大なダメージを与えることが可能であった。

「カザネバズーカだったか? あれとタツヨシくんの投擲があればなんとかはなるだろう。ワシや弓花のような武器での戦闘だとダメージが通らずチクチクとやらざるを得ないので数が必要だがな」

 ジンライがそう補足する。単純に言ってドラゴン討伐の人数問題は時間内にダメージがどの程度通せるか……という問題でもある。

 ドラゴンの驚異的な能力はその巨大な身体から繰り出される攻撃とブレスが目立ちがちだが、全身を覆う鱗の防御力も相当に優れている。

 何度も攻撃して鱗を剥ぎ、そこを再度攻撃しダメージを与えていくのがドラゴン戦の基本だ。あまり鱗を剥がすのに時間をかけると不利を悟ったドラゴンが逃げ出してしまうし、空を飛べない人間では追いつくことができない。また時間が経ち過ぎればスタミナの問題で人間の方が音を上げてしまう。だから人間が動ける時間の中で倒せるだけの攻撃回数が必要で、そのために人数を多く取らざるを得ないということになる。

 だが短時間で倒せる攻撃手段があるならば、必要人数はグッと減ってくる。そしてその手段をこのパーティは複数持っていた。



「あ、マズいかもしれない」


 ちょうど大広間の真ん中辺りまで来たときである。風音が突然周囲を見渡した。

「なんだ?」

 見渡している風音の剣幕があまりにも険しかったためジンライは風音に何事かと尋ねたが風音はそれに答えず、大声でヒッポーくんに命令を下した。


「ヒッポーくん、走れぇぇぇえええええええええ!!!!」


 その言葉に反応し二体のヒッポーくんが勢い付けて走り出した。

「何、なんなの?」

 弓花も周囲の異常な気配を感じて顔色が変わる。ジンライも、続けて他の仲間たちもそれに気付いた。

「魔力の複数反応、まさか来る?」

 ルイーズが目を見開く。

 周囲に次々と幾何学的な文様の光が現れ、僅かな間にそれが魔物の形となって地面に降り立っていく。

「くっ、ここでか」

 ジンライが竜骨槍を握り締め、周囲を睨みつける。


 オーク、ミリタリーアント、ストリートガゼル、バロウタイガーなどの魔物が何十体とその姿を現出させていき、この大広間を埋め尽くしていく。


 強制召喚がすべて終わったとき、現れた魔物の数は200を超えた。そしてモンスターハウスと呼ばれるダンジョン内でも最大級のトラップが風音たちに突如襲いかかってきたのである。


名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪

レベル:25

体力:85

魔力:143+300

筋力:42

俊敏力:33

持久力:24

知力:43

器用さ:27

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『ダッシュ』


風音「うぎゃあああああ」

弓花「なんて数よ。これぇ」

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― 新着の感想 ―
正しくは後のタツヨシ王が単独で討伐してるけれども、 なんせ600年も前だからなぁ。おまけに情報の秘匿もされてそう。
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