第八十二話 軍人風を尾けよう
風音が続けて軍人風を追っていると、軍人風はこのオルドロックの洞窟付近の中でもすでにある程度形になっている宿の前まで辿り着いた。外装はまだ作りかけと言う感じだが内装はしっかりとされていて、実際に価格、クォリティともにこの付近でも一番の宿屋であった。
「あれ?」
風音はその宿屋の近くまで来て、その中からの匂いが知っている人間のモノだということに気が付いた。
「レイゲル団長。アンソル、ただいま戻りました」
「うむ。入れ」
軍人風がアンソルと名乗り一室に入る。
「失礼します」
「首尾はどうだった?」
中にいたのはツヴァーラの王宮騎士団長レイゲルだった。
「性交渉は白、接吻はグレー、肉体的接触は黒です。ジーク様はカザネ様に一目おいているようでして、そういった関係には見られないというのは報告通りです」
「なるほどな。だが敬愛もまた愛だ。それが情愛に変わったとしても不思議ではない……かもしれん」
レイゲルはそう言って顔を赤くしていた。
アンソルは(恥ずかしいなら無理して言わなくてもなあ)と思ったがさすがに上官に対してそうしたことまでは口にはできない。
「それと冒険者たちが報酬の上乗せを要求しています。あの方々の実力を踏まえば妥当な要求かとは思いますが」
アンソルの言葉にレイゲルが皮肉げに笑う。
「まあ確かにそうだろうが……無理だな」
「無理ですか?」
アンソルの怪訝な顔にレイゲルはドアの方を見て言った。
「調査は打ち切りだ。カザネ様には気付かれてしまったようだしな」
「は? えっ!?」
レイゲルの視線の先にアンソルが目を向けると、そこには腕を組んでムスッとした顔の風音が立っていた。
「いつの間に!?」
軍人風が驚きの顔で風音を見る。
「お前が中に入ったときに一緒にだ」
「よく気付いたね?」
風音が仏頂面でレイゲルに尋ねる。
「これでも王宮を護る騎士の長です。その手の類のまやかしを見破る目を持っておりますので」
そう言うレイゲルの目が若干薄く光る。それは幻術の類などを見破る魔眼の一種だった。
「インビジブルでしたか。その能力は確かに強力ではありますが、見破る術がある人間には容易く気付かれます。ご自身のお力をあまり過信されませぬように」
「うん、あんがと。気を付ける」
そのアドバイスには風音も素直に礼を言う。
「けど、それはそれ。これはこれ。レイゲルさんがなんのためにここにいるのかを教えてもらいたいんだけど」
「それは……」
アンソルが言葉を濁すがレイゲルは観念したように「分かりました」と答える。
「団長。よろしいのですか?」
「下手に不審がられて騒ぎを大きくする方が拙かろうよ」
レイゲルはアンソルにそう言って風音に向き合う。
「実は国王陛下のもとにある不審な情報が入ってきましてな」
「不審な情報?」
風音の問いにレイゲルが頷く。
「なんでも王の后候補に他国の余計な虫がついたのではないかということでして」
「后候補も余計な虫もいないけどね」
アウディーンが風音を好いているというのは風音も知っている。が、求婚など冗談の類だろうと考えていた。しかし、そうではないのかもしれないことに風音も今ここで気が付いた。
「風音様がそれをお受けしていないということは重々承知。しかし王のお考えが私めの考えにござりますれば」
「宮仕えの苦しさってことだね」
「分かっていただければ幸いです」
風音がため息を吐く。そちらを話しても平行線ということだろう。であれば、もうひとつの誤解を解くまで。
「というかジークと私がなんてありえないから。あのこ、まだ子供じゃないのさ」
そう言う風音にレイゲルが苦笑する。
「あなた様も同じような年頃でしょうに」
「違いますー。私はティアラと二つ違いだし。さすがにあんな子供に手を出すなんてムリムリだってば。逆の意味で王様もだけどね」
「ふむ。しかし、王子の方はそうではないやもしれませんよ」
今度は風音がレイゲルに苦笑した。
「あのねえ。あの年頃のこに何を求めてるのかなあ。全然まだまだだよ。そんなの」
と風音はジークが聞いたら泣いちゃいそうなことを断言した。男の立場からすればジークを擁護もしたくなるレイゲルだったが、王の恋敵に塩を送るわけにもいかない。
「なるほど」
すべてを飲み込んでレイゲルはそう返した。
「王はいざとなればミンシアナとは戦争になるやもしれんと言っておりましたがその可能性はないと」
「いや、するなよ戦争!」
風音が叫んだ。
「傾国の美女というわけですな」
レイゲルのその返しに風音は「うっ」となって若干顔を赤くする。風音はかわいいと言われることはあるが、美女という言葉には耐性がなかった。案外、チョロいかもしれん。この女の子は。
「ともかくそういうことだから、王様にもちゃんと言っといてよね。私、ティアラのお母さんにもなるつもりはないんだから」
「その伝言承りました。して、この件をティアラ様には?」
「言えるか。こんなこと」
風音の答えにレイゲルも頷き、アンソルに命令を出す。
「そういうわけだアンソル。任務失敗、冒険者たちにはそう伝えておけ。こちらの不手際もある。当初の報酬は払っておくようにな」
「分かりました」
「では行け」
「ハッ!」
アンソルはそう言って、姿勢を正しレイゲルと風音に礼をして部屋を出ていった。そしてレイゲルが風音に向き合う。
「それでは私めどもはこれにて退散とさせていただきます」
その言葉に風音が「帰れ帰れ」と口にしてレイゲルが苦笑する。
「分かりました。ティアラ様をよろしくお願いいたします」
「言われなくてもそうするよ。そっちこそもうコソコソ尾けてこないでよね。ちゃんと顔出せばお茶くらい出すから」
風音の言葉に「肝に銘じておきます」とレイゲルが返すと風音も「それじゃっ」と言って部屋から出ていった。実は風音は風音で不法侵入したのを指摘される前にさっさと逃げ出したかったようだった。
そして部屋にはレイゲルが1人残された。
「確かティアラ様は17であったか。であればカザネ様は15。そうは見えぬが、事実であれば婚姻には問題はないだろうな」
任務には失敗したがこの情報があればお釣りがくる成果だろうと考え、レイゲルは良しとしていた。そしてレイゲル自身、風音のことを高く評価していたし彼女が自分の主となるのであればそれもまたよしと考えていたのである。
元々アウディーンが風音にアタックしなかったのは、風音が10歳程度の子供だと思っていたからだ。年齢に問題がないのであれば我慢をする理由もない。アウディーンはロリでもペドでもないが愛があれば子供体型だって愛せる男だ。風音の貞操がピンチだった。
まあ直接描写はNGだから、いざとなれば「昨晩はお楽しみでしたね」とか宿屋の主人に言わせて誤魔化すしかあるまい。
さておき、風音はコテージに戻ってきた。
「あれ、もういいの?」
弓花の質問に風音は「問題なかった」と返して家の中に入り、不滅の布団に身を沈めた。そして先ほどの会話を思い出しボッと顔を赤くする。
(私とジークが……ってるとか。朝確かめに来たとか、信じらんない。うーー)
唸る。唸るしかないのである。耳年増の限界である。風音も女の子だった。
「どうしたんですかカザネ。顔赤いですけど」
その風音の様子を心配してジークが無邪気に尋ねるが「な、なんでもない。なんでも」と風音はさらに顔を赤くして布団をかぶって答えるしかなかった。
その横でルイーズが「若いわねえ」とニヤニヤとしていたのを見て(おばさん臭いなあ)としみじみと弓花は思った。つくづく失礼な奴である。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:24
体力:83
魔力:140+300
筋力:40
俊敏力:30
持久力:21
知力:41
器用さ:25
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』
弓花「どうするの?」
風音「うん。来たら蹴るよ。全力で」
弓花「相手王様だよ?」
風音「死んだら次の王様はティアラだから大丈夫だよ」




