第七十六話 ダンジョンに再度入ろう
噴き出した。
何が噴き出したかと言えば温泉である。
「ハ、ハハハハハハ。やった。やったよ。私はやったぁあああ!!」
そして、そこにいるのは高笑いをしているひとりの少女。まあ風音である。
事の始まりはマルクニ温泉街で聞いた話である。それはオルドロックの洞窟付近に源泉が眠っているかもしれないという噂だった。
元々オルドロックの洞窟はアルゴ山脈の麓にある洞窟でトルダ温泉街からマルクニ温泉街の中間にある。ある可能性はあった。そこで風音はある程度のポイントを絞り古の伝説的な探知法ダウジングを敢行した。
探査法は無限の鍵のチェーンをぶら下げての振り子式である。無限の鍵を使用した理由は『解除する』という概念を持ったアーティファクトだったからで温泉の在処も解除してくれんじゃねえ? とかテキトーに思ってやっただけだったのだが、これがものの見事に成功です。『直感』のスキルの効果もあったっぽかった。なんかこの場所を見つけたときにキュピーンってなってたし。
後はゴーレムメーカーで源泉を掘り当て、前と同じようにタツヨシくんに川から水を引いてもらい、ゆっこ姉との共同製作の温泉コテージ(魔力消費が激しいので簡易版)を作成して出来上がりである。うまく行き過ぎて笑いが止まらない。
仲間たちは、あのティアラでさえ「いや無理じゃあないですか」と言ってたのだから、出来上がったそれを見て呆然としていた。
なんにせよオルドロックの洞窟の拠点はここに決まった。
温泉万歳である。
◎オルドロックの洞窟 入り口 翌朝
マルクニ温泉街で二泊し、風音がオルドロック付近で天然温泉を発見した翌朝。風音たちは目的地であるオルドロックの洞窟の入り口まで来ていた。
「こんちはー管理官さん」
風音が入り口で見知った顔に挨拶をする。
「どうもみなさん。お久しぶりです」
オルドロックの管理官も風音たちの姿に気づき、挨拶を返した。大体一ヶ月ぶりくらいの再会である。
「なんだか外が結構騒がしくなってきたよね」
「ええ、このダンジョンもC級からB級に上がりましてね」
ダンジョンが成長すると基本的には出てくる敵が強化され階層が増える……だけではなく宝箱の出現頻度や中身も良いものが出やすいのである。よってそれを求めて冒険者の数も当然増える。
「色々と人の出入りも多くなってきたんですよ」
「そういえば前に言っていた掃除は行われたのか?」
ジンライの問いに管理官は「ええ、滞りなく終わりました」と返す。
「ですが、今は32階層に想像以上の大物が現れましてね。現在は足踏みしている方も多いようですね」
「それってドラゴンのことだよね?」
「おや、聞いていましたか。そうです。なんでも600年前に滅ぼされた竜の再生体のようでして」
「再生体?」
風音の疑問をジンライが説明をする。
「ダンジョン内の魔物は、繁殖ではなく過去に生きていた個体を再度蘇らせて増殖させるんだ。だからダンジョン内には全滅させてもいつの間にか魔物がいるわけだな」
「地上でも魔素が高まれば同じように魔物が出現するけどねぇ」
ジンライの説明にルイーズが補足する。
「で、チャイルドストーン持ちの中でも過去に地上で災厄をもたらした名ありの魔物が出現することがある。名ありは記録に残っているし、はっきりと再生されたものと分かっていることから再生体と呼ばれているわけだ」
「じゃあそのドラゴンは昔に地上で暴れてたってわけだね」
風音の確認に管理官が頷く。
「はい。古いギルドの依頼に黒岩竜ジーヴェ討伐が存在していました」
「それでまだ挑んでる連中はいないのか?」
「いませんね。今のところランクAの冒険者が3名常駐していますが、残りはランクB以下の冒険者です。B級ダンジョンならばクランが来てもおかしくはないのですが、まだ認定されて一ヶ月も経っていませんので」
「なるほどな」
「どゆこと?」
風音がジンライに尋ねる。
「ダンジョン内だと相手もそんなに場所を変えんし、ダメージも蓄積できるからな。普通だとそういう大物にはヒットアンドアウェイを繰り返しての冒険者同士のチキンレースが始まるわけだが、まだ集まりが悪いらしい」
「となると私らが一番槍ってことですね」
弓花の問いにジンライが頷く。
「まさか挑むのですか?」
管理官が驚きの目で風音たちをみる。
「あなた方の実力は理解していますが危険すぎるのではありませんか?」
「まあそれはおいおい判断していくさ。それに風音、あれを」
ジンライの言葉に風音が「あいよー」と言いながら依頼書を取り出し管理官に見せる。
「これは討伐依頼!? 依頼人はじょ、女王陛下にギルドマスターの承認に」
管理官は内容を見てから、以前にはいなかった子供がいるのを見る。
「ま、さか?」
その驚きの顔に風音は「シー」と人差し指で自分の口を指して言う。
管理官もそれには頷くしかなかった。
「一応、ギルドに問い合わせだけはさせていただきますが」
上擦った声で管理官はそう口にして風音は「いいよー」と頷いた。
「じゃあ、いこっかジーク」
「は、はい」
風音がジークの肩を叩く。
「ほらリラックス、リラックス。そう滅多なことじゃあ死なないから」
「はい。大丈夫です」
ジークは緊張した顔で風音にそう口にする。
「大丈夫ですわよジーク。あなたと白剣ならば低階層ならば問題なく通用するでしょうし」
ティアラもそう言ってジークを励ます。
「はいっ」
ジークは言葉少なくそう答え洞窟の奥を睨みつけた。
(怖くない。僕はやれる。カザネの役にだって立てる)
そう心の中で繰り返す。そして一歩を踏み出した。
◎オルドロックの洞窟 第一階層
「うっうわああああああ」
ビュンビュンビュンとジークが叫びながら剣を振り続ける。振った先から白い魔法の刃が飛び出て目の前のシビルアントらを切り刻んでいく。
「なかなか強力な攻撃ねえ」
ルイーズが裏から見てそう口にする。
「まあ、無属性なんで魔法防御にも強いし結構便利なんだよ。けどオーバーキル過ぎだねえ」
5度、6度目のホワイトファングが撃たれた辺りで攻撃がようやく止んだ。シビルアントはすでに倒され、息を切らしたジークが未だにシビルアントの死骸に向けて剣を構えていた。
「はっ、はぁあ。終わった」
しばらく剣を構えていたジークだったが、土煙が晴れて敵が全滅しているのを確認したところでようやく剣を下ろした。
(やった。倒した)
「ご苦労様っ」
後ろから風音が声をかける。
「あ、いえ。やりました……よね?」
ジークはその声に振り向き、本当に終わったのかの確認をする。
「まあね。シビルアントを五匹退治。初陣の戦闘なら大金星と言うところかな」
風音がうんうんと頷きながらジークを誉める。
「本当ですかっ」
ジークが嬉しそうに風音に答える。
「ま、ね。けど魔力消費はどんなもんかな」
しかし直後の指摘にジークが渋い顔をした。
「う、結構減ってます」
ジークはそう答える。無我夢中で戦ったあまり、配分などが頭の中からすっかり抜けていた。攻撃力が高いのは分かっているのだから倒せて当たり前、内容を考えるべきだった。そうジークは思い至る。
「とりあえず初戦闘としては大勝利だから、喜んでいいよ。でも次からはちゃんと見て戦おう。そうすれば問題なーしだからさ」
「はい」
風音の言葉にジークが改めてシビルアントを見て頷いた。
(でも、やれる)
ジークは自分の力が魔物に通じると理解する。であれば次はもっとやれるはずだと考えた。
「じゃあこれ」
風音がニコニコしながら金属瓶をジークに渡す。
「なんです、これ?」
ジークの疑問に風音がぼろぼろのシビルアントを指さす。
「素材回収までが冒険者のお仕事だから。よろしくね」
回収する過程でシビルアントの蟻酸は酸っぱい臭いがすると、ジークは初めて知った。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:22
体力:77
魔力:132+300
筋力:33
俊敏力:27
持久力:17
知力:34
器用さ:20
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』
風音「ホワイトファングって無属性攻撃だからオールマイティにダメージがあたるんだよね」
弓花「弱点属性を突いて攻撃できないって面はあるけどね」
風音「安定性能こそ正義だよ」




