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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
黒竜討伐編

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第七十二話 王子様に会おう

 余談ではあるが、物々交換ということで風音は不滅の布団2セットと引き換えにゆっこ姉から不思議な倉庫というものをもらった。

 これは不思議な袋シリーズの上位アイテムで形はドアとドア枠のみだが、ドアを開くと中が倉庫のような一室になっている。積載量ではなく体積管理であり普通の不思議な袋よりも多くのものが入るのだ。ちなみにゆっこ姉が冒険者時代に購入したものとのこと。購入した理由はこれが元々は達良くんのものだったからである。


「売ってるそれを鑑定したらあのこの名前が出てくるんだもの。驚いたわよ」


 そうゆっこ姉は軽く笑ったが、このクラスのアイテムだと1000000キリギアは下らないシロモノのはずで、貿易業などの人間が血眼になって欲しがるのでオークションなら競り具合によってはさらに恐ろしい額になるはずである。普通の冒険者の手の出るモノではない。エルダーキャット換算で100匹分である。

(いや、100匹ならゆっこ姉だったらいける?)

 まあそれはそれ、ゆっこ姉も色々と冒険して稼いでいたのである。「冒険に出ないわたしよりもあなたたちが持っている方があのこも喜ぶでしょう」とゆっこ姉は寂しそうに笑って風音に渡した。

 ちなみに不思議な袋シリーズはパッシブの亜空間魔術を使用しているため、探知が比較的されやすく関所などを通っての密輸には向かない。が、これがアイテムボックスの中に入っているとスルーされるので「風音たちなら密輸し放題ね」とゆっこ姉が言っていた。悪の道に誘うのはやめてほしい。

 なお、ドア枠のサイズだとさすがに不思議なポーチには入らないが、アイテムボックスなら問題ない。風音はアイテムボックス内のものを整理して不滅の布団などのすぐに取り出さないモノは倉庫に入れてからそのドアをアイテムボックスに仕舞った。


 余談終了。



◎王城デルグーラ


「いや勘弁してほしいっす。ちょ、熱いっす。ルイーズ姉は胸とか尻とか揉まないでー。すまんかったっすからー」

 と騒いでいるのは二十代半ばに見える短髪の女性。格好はどこか忍者っぽい。

 その女の人がジンライ、メフィルス、ルイーズに囲まれて「ッス! ッス!」と連発しながら謝っていた。

「うんうん。良かったわねえ」

 それをゆっこ姉は満足げな顔で見ている。

「なんだかおもしろそうな人だねえ」

「忍者なのよ、彼女。日本っぽい国が東にあるのよね」

「忍者に日本っぽい国か。ゼクシアハーツのなかでもあったっけ。妙に浮いてた場所だったけど」

「そうだったわね。彼女がわたしの影武者、ああ見えて一流の腕よ。竜にだって変化できちゃう」

 その言葉に風音、弓花、ティアラの三人が驚く。竜変化は変化のことわりでも最終章に該当するスペルだ。ちなみにグリモア最終章とは独立したユニークスペルであり、五章まで覚えてなくとも習得は可能であったりする。

「さて、あちらはあちらで交友を深めてもらうとして、こっちも紹介いたしましょうかね。若い娘らはこっちに来てー」

 そう言ってゆっこ姉が歩いていく。そして風音たちもそれに付いていった。



◎王城デルグーラ 修練場


「はぁああッ」

 覇気のある若い声が響き渡る。同時に激しい金属音が数度と鳴らされる。

「結構です、王子。ですが少々踏み込みすぎですね」

 まだ年端もいかない少年が剣を振るい、それを二十に届くかどうかの青年らしき騎士が持っている剣で受け止め、指導する。

「とっ、やあ」

 続いて突きを、それを弾かれてからは勢いのままに横に薙ぐ。

「やはり勢いに任せすぎです。私が反撃に出ないからと言って、ただ打ち込むのでは案山子を相手にしているのと変わりませんよ」

 再度弾かれ体勢を崩すものの、王子と呼ばれた少年は再び体勢を整え切り込んでいく。

「てええい!」

「ふむ」

 王子の上段からの一撃を騎士が弾く。それを王子はよろめくこともなく、踏ん張って弾かれた剣を孤の動きで流し、下段からの突きを見舞った。

「よろしい」

 騎士はそれを自らの剣で受け止める。鋭い金属音が響いた。

「王子、今のは悪くありませんでした。ここで休憩といたしましょう」

「は、はい。ありがとう。サキューレ」

 両者は剣を引き修練場の中央で礼をして、互いに修練場の端にある休憩処に戻る。そして王子はそこに見知った顔がいるのに気付いた。

「母上ー!」

 そうしてパタパタと走ってくる王子に対し後ろにいた風音たちはまるで子犬のようだと思ったという。

「ただいまジーク。修練は怠っていないようですね」

「はい母上。今日もサキューレとともに鍛えておりました」

「サキューレもご苦労様」

「ハッ、ありがとうございます」

 サキューレは姿勢を正し敬礼する。王子と違い、こちらはゆっこ姉に気付いていたようである。

「して、母上。そちらの方々はどなたなのですか?」

 王子が興味深そうに風音たちを見る。中でも自分と同年齢かそれよりも幼いようにも見える風音が気にかかっていた。

(もしや、僕の婚約者でしょうか)

 王子も歳は今年で十一、異性が気になるお年頃である。ましてや女王である母親が連れてきたとなれば、そういう可能性もあると考えておかしくはなかった。

「うん。わたしのお友達の風音に弓花にティアラ。ジークとは年齢も近いし仲良くなれたらと思って一緒に来てもらったわ」

 その母の言葉を聞き、王子はますます以て目の前の少女が自分に将来の相手であるのでは……と考えた。

「お初にお目にかかります。僕はジーク・ワイティ・シュバイナー。ユウコ・ワイティ・シュバイナー女王陛下の息子です」

「どうも風音・由比浜です。王子のお母さんの友達で冒険者……でいいのかな?」

 風音がゆっこ姉の方を向いて聞くとゆっこ姉は首を縦に振った。

「同じく弓花・立木です。風音と同じ王子のお母様の友人です」

 その言葉に王子はおや? と思ったが顔には出さなかった。身分が冒険者ではさすがに婚約者という線はないかと考え直したのであるが、

「お久しぶりですジーク王子」

「え?」

 最後のひとりが顔見知りで驚きの声を上げた。

 ティアラ・ツルーグ・ツヴァーラ、隣のツヴァーラ王国の今は第一王女である。現在はエルマー姓を名乗っているが、ルビーグリフォンを継承している以上は次の王位は彼女のモノとなるのは確定であり、王子の立場にもっとも近い存在でもある。

「これはティアラ……王女。お久しぶりです」

 王子の言葉にティアラは小さく微笑み、訂正する。

「いえ。今は王族を名乗れぬ身なので、ティアラで結構ですよ」

「はぁ、そうなのですか」

 事情はわからぬが何かしらあるのだろうと考え、王子はそれ以上の追及はしなかった。

「それとこっちがサキューレ。うちのディオス将軍の娘でなかなか見所のある娘よ」

「お初にお目にかかります。ご紹介に与りましたサキューレ・ガルバロスです。王宮騎士団の末席におかせてもらっている若輩者ですが、なにとぞよろしくお願いします」

 そのサキューレに風音たちは再び挨拶を交わす。遠目からでは騎士の姿がなかなか決まっていて青年のように見えていたが、確かに顔立ちはよく整っていて、よくよくみれば女性以外の何者でもなかった。

「それじゃあサキューレ。ちょっとこっちの風音と遊んでほしいのだけれども」

 挨拶を終えた風音たちにいきなりゆっこ姉がおかしな事を言い出した。

「は、構いませんが、彼女とですか?」

 サキューレは風音を見る。冒険者であることはさきほどの自己紹介で知っているが、サキューレと王子は風音たちの能力と実績は知らない。サキューレも王子と同じぐらいの少女を相手に遊べと言われてもその意味は測りかねた。

「風音、あなたちょっとこれを使って闘ってくれる?」

 そう言ってゆっこ姉はアイテムボックスから剣を取り出し、風音に渡した。

「む、いいの?」

 それを受け取った風音が遠慮がちに尋ねる。

「まあ、使えると分かるぐらいに全力で」

 ゆっこ姉はそうオーダーする。

「女王陛下。それは!?」

 その様子を見てサキューレが慌てる。なぜならば風音が受け取った剣とはホワイトディバイダー、即ち国の宝剣である『白剣』だったからだ。

「まあ、今の風音なら戦士の記憶も使いこなせるでしょ」

「多分ね」

 風音が剣を握るとブゥンと音が鳴った。

「発動した?」

 王子とティアラ、サキューレが驚く。ゼクシアハーツで装備していたゆっこ姉が扱えるのならばそのゆっこ姉に『白剣を譲渡した』風音にも当然使えるだろうと予測していたゆっこ姉と弓花に驚きはない。


 ガコンと剣が半分に割れる。そしてその隙間に魔力が走る。


「よし、動いた」

 風音はそう言って剣を振る。白い軌跡が走る。それこそが白剣の魔法光。ここ数代に渡ってミンシアナの王家が発動できなかった白剣の真の力である。

「じゃあやってみようか」

 風音は剣を振り、サキューレに向き合う。サキューレはその異様な威圧感にゾクリとし、剣を構えた。


 結果として、風音の剣技はサキューレを圧倒し、完膚なきまでに勝利した。それはサキューレにとっても、そして王子にとっても驚異的な場面であった。


 白剣を使える者は『戦士の記憶』というスキルが発動し、かつてこの剣の所有者であったであろう名もなき戦士の如く剣を振るう。だが王子には白剣を発動できてもそれがまだ使いこなせていない。魔法光も使いこなせていない。それは肉体と精神がそれを使うには追いついていないためだと周囲には言われていた。だがその白剣を同じ年頃の少女が難なく使いこなし、自分の師匠でもあるサキューレを倒したのだ。衝撃的でないはずがなかった。


 一方で風音も剣の発動を終えた後に起きた事態に驚きを隠せなかった。


ー『戦士の記憶』のコピーを完了。所持スキルをサクリファイスすることでスキル習得可能となります。サクリファイスするスキルを選んでください。ー


 突如現れたウィンドウにはそう書いてあった。そして風音はそれを訝しげな目で見たものの、最初に覚えたもののまったく使用してない『ゴブリン語』を選択しOKボタンを押す。するとスキルリストからゴブリン語が消え『戦士の記憶』が代わりに収まったのである。


名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪

レベル:22

体力:77

魔力:132+300

筋力:33

俊敏力:27

持久力:17

知力:34

器用さ:20

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』

スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』


風音「何、この機能?」

ゆっこ姉「ゼクシアハーツにはラーニングなんて機能は存在しないからよく分からないわね。でも覚えちゃったのよね?」

風音「うん。『戦士の記憶』が使えるのは分かる」

弓花「それってどんなもんなの?」

風音「これ単体だとキンバリーさんと剣技だけでやりあってもそれなりに善戦は出来るけど勝てないって感じだね。本人の技量がそれ以上だと効果はなくて、併用して魔術やスキルを使用してこそ活きるスキルだよ」


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