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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
女王様の散歩編

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第七十話 銀髪で飛びだそう

 襲撃は明け方。そう考えていたのだが、予定は変更することとなった。暗殺ギルド所属のクラーバル・デイオンはリーダーである獣人のオルダからそう聞かされた。どうやらこちらがいることがバレているらしい。

「連中、昨日から交代で寝てやがったが、さっきは全員普通に起きてるようだった」

 鼻がそう告げているらしい。相変わらず便利ではあるが、どういう理屈なのかと聞くと「知らん」と返ってくる。寝ているときと起きているときでは臭いのたち方が違うとは別の獣人から聞いた話だが、どちらにせよよく分かっていないらしい。

「確かに勘が鋭い女王様らしいな。しかし騎士がひとりに、残りは冒険者だ。名の知れた槍使いがいるらしいが、残りは新人。まあ我々の敵ではないだろう。殺せ」

 雇い主から手に入れた冒険者ギルドのステータスだけでそう判断したオルダを責めるわけにもいくまい。多少腕が立とうとも、わずか二ヶ月足らずの冒険者では侮られても仕方ないのが普通なのだ。ましてやオーガ戦のこともツヴァーラのことも(これは依頼者の失策で)オルダは聞かされていなかった。なおルイーズのことに関しても情報が間にあっていなかったらしくノーデータである。

「偉大なる盟主の名の下に」

「「「偉大なる盟主の名の下に」」」

 依頼主はわざわざ西のヌマと呼ばれる共和国にある暗殺ギルドへ依頼をかけていた。女王を殺すという大命を帯びて、はるばる彼らはやってきたのだ。ギルド長より命を賭けて任務に当たるよう指示をされている以上は彼らにとってその命令は絶対であった。

「予定は変更。連中が食事のタイミングを見計らって仕掛ける。いいな」

 オルダがそう言い、全員が頷いた。


 その時である。

 仲間のひとりが撲殺され、もうひとりがぶっ飛ばされたのは。


「は?」


 クラーバルが間抜けな声を上げてそれを見た。


 そこにいたのは血まみれの巨大なクマと全身がカラフルなお花畑な鎧を纏った金髪の女である。


「あ、が」


 誰もが呆気にとられてる中、クマがまるで鮭を取るように下手から振り上げた爪で3人目をぶっ飛ばしたところで

「さ、下がれぇ」

 正気を取り戻したオルダが叫び、全員が一斉にクマと女の前から退いた。

(なんだ、こいつらは)

 クラーバルが己の正気を疑う。

 まずは目の前の熊だ。2メートルはあろう姿をしているが血まみれである。クラーバルは知らないが名をグリントグリズリー、レベル70の巨熊種最大の熊さんだ。それがフーフーと息を吹かし色々と全開状態の模様。意味が分からない。


 だがその横にいる女はさらに正気の外の存在だ。


 まず容姿だがこれが人形のようにえらく整っている。髪はブロンド。身長は女性にしてはある方だが高過ぎというわけでもなく胸も結構ある。だが街中でこれが歩いていても声をかけることはないだろうという格好だった。

 まず身につけている装備がお花畑をイメージしたようなサイケデリックな装飾とガラの鎧で、背中には天使の羽をイメージしたような翼がある。頭上には光るワッカ。右手に持っているのは血にまみれた黄色いひまわりの形をした鈍器だ。そして左手にはこの世の絶望に直面したかのような狂った老婆の顔を象った盾を持っていた。その盾は殴りつけられるように盾の端が拳のような形に加工されていた。

(狂ってやがるぜ)

 クラーバルがつばを飲み込む。

 目の前の女は、ただでさえそうした異様な格好なのだが、さらに恐ろしいことに身に付けている装備は熟練の戦士のそれのように相当に使い込まれていた。昨日今日にファッションで身に着けたわけではない辺りがクラーバルには信じられない。

(毎日あの格好で生きてやがるのか。あの【放送禁止用語】は!?)

 何より異様なのはその女は本当に人も殺した事もないような顔でこちらを見て笑っているのである。返り血を浴びたままで。

「オルダ、アレはまずい」

 クラーバルはリーダーであるオルダにそう進言する。クラーバルの勘が告げている。アレは何かマズいものだと。対してオルダもそれは理解している。

「わかってる。あれは殺すことになんら感慨すら持たない狂った奴の目だ。ボルジアナのピエロどもと同類の狂人だ。あれは仕事でやってる俺達とは違う」

 その言葉に目の前の女が反応する。

「ひっどいなあ。ぼくはそんなことしないよお。ほら、これだって非殺傷武器なんだよ。どんだけ殴ったって死なないんだからー」

 そう言って返り血を飛ばしながらひまわり型の鈍器をブンブン振る。

 そんな馬鹿なとオルダが殴られた男を見るが確かにわずかだが息がある。

(まさか。だがそうだとすれば)

 オルダにはアレに覚えがあった。あのひまわりの形をした鈍器に覚えがあった。あれは組織でも伝説とされたハズの……

「『血と肉の徒花』。伝説の拷問具がなぜここにある?」

 その声は悲鳴に近かった。

「あれがまさか……」

 クラーバルを始め誰もが顔を青くした。伝説の拷問具『血と肉の徒花』、それは彼らの組織の中でももっとも極悪な拷問用の道具だ。どのような理屈かは定かではないがあれで殴られ続ける限りは相手は死ぬことがないのだ。そしてどんなタフネスでも強固な精神力の人間でも一週間休みなく暴行され続けては口を割らないものはいない。

 なぜか発狂すら赦さない、無限の苦痛を与え続ける人の道の外にある外道兵器。最悪の非殺傷武器を目の前の女が持っていた。

(つまりは死すら許さぬということか)

 オルダはガタガタと歯をふるわせていた。ようやく自分がとんでもない相手を敵に回しているということに気付いたのだ。放浪癖のある日和見主義の愚かな女王の抹殺? 否、そんな生易しい相手ではないだろう。わざわざ自分たちをこんな山奥にまで誘い、拷問のスペシャリストを使って秘密裏にすべてを吐かせるつもりだったのだろう。ここに来て自分たちがハメられていたことを彼はようやく理解した。プロの勘がそう告げていた。無論、誤解である。

「う、うわああああ」

 仲間のひとりが恐怖に駆られてスローイングナイフを投げつける。とりあえず得体の知れない女よりも物理的に戦えそうなクマの方に向けて。

「馬鹿やろう、そんなものでこの化け物が」

 オルダが叫んだが


 サクッ


 と、クマの額に当たり、クマは倒れた。あっさりと死んだ。

「は?」

 オルダとクラーバルも呆気にとられたが一番驚いたのは投げた本人だろう。血塗れのクマはどうやら本当に重傷で血塗れだったようだった。

「は、はははは、脅かしやがって」

 あまりにあっけないクマの最後に思わず拍子抜けしたその男は


「グリリンがぁあああああ」


 直後にひまわりの鈍器にブッ叩かれて血を噴いた。

「グリリン! グリリンが!! グリリンがぁああ!!!」

 突如叫びながら何度もひまわりを打ち付けるお花畑女。泣いていた。心底悲しそうに泣いていた。そして激情のままにひまわりの鈍器を振るう。

「これはグリリンの分。これもグリリンの分。そしてこれがグリリンの分だぁあああああ!!!」

 大絶叫しながら打ち付ける。怖い。

 オルダたちはもはや恐怖で硬直していた。仲間を瞬時に殴りつけた動きで力量の差を知り、何度打ち付けても死なぬ仲間を見ながら、その後の己の運命を悟った。そして涙を流して座り込んだ。動けないのだ。何かすれば次が自分の番になるのではないのか思うと心が折れてしまった。その背後に風音たちが来ても気付かぬほどに彼らは僅かな時間で打ちのめされていた。


 そしてもうひとり、お花畑女の後ろにいる銀髪の少女もまた呆然としていた。

「ああ、手に入れたんだ、神狼の腕輪」

「うん……頑張った」

 感情のない風音の言葉に、銀の長髪で犬っぱなになった弓花は返す言葉を辛うじて振り絞る。

「あれ、なに?」

 あれとはあれのことである。弓花の残念召喚英霊アーチ。だが残念の度合いが大幅にズレていた。激変していたと言っても良い。

「忘れてたんだけどさ。実はこっちに来る前にグリントグリズリーのテイムをやっててね。ルナティックストライクシールドは再装備してた。そいつで殴って体力削ってひまわりポコポン(正式名称)でギリギリまで弱めて捕まえた直後だったんだろうね。オートセーブされたの」

 アーチは魔物を操る『テイマー』のスキルも持っていた。移動用の巨大ツノウサギのシルキーもそのスキルがあるから乗れていたのだ。そして倒して従えた直後だったのでクマも死にかけ直前で出てきたようである。つまり今後もあのクマ、グリリンは瀕死で登場するのだろうか。かわいそうに。


 なお獣人のオルダが弓花に気付けなかったのは神狼化に伴って使えるようになったスキル『スニーク』の効力だ。風音同様に『犬の嗅覚』も備わるので暗殺集団もすぐに発見できた。

 英霊召喚で私ひとり大活躍!ひゃっほー!!の予定だったのだ。風音たちが来たときには「あら、私ひとりで片付けてしまったわよ」とか言う気だったのだ。こんなはずじゃなかったのだ。


「アレは仕方ないよ」

 そう風音が慰めるが弓花はうなだれたままだった。ジンライはかける言葉すら見つけられなかった。


 弓花はパワーアップデビューに失敗したのだ。


名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・紅の聖柩・英霊召喚の指輪

レベル:22

体力:77

魔力:132+300

筋力:33

俊敏力:27

持久力:17

知力:34

器用さ:20

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』

スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』


弓花「ぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

風音「弓花……」

ゆっこ姉「今はそっとしておいて上げなさい」


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― 新着の感想 ―
泣くしかねぇ、これは泣くしかねぇよ…
[良い点] ぐ、グリリーン!?(野沢○子ボイス
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