第六十六話 再会を祝福しよう
◎王都シュバイン 王城デルグーラ 女王の寝室
「えへへへへへ」
「うふふふふ」
(甘えっこや! 甘やかしっこもおる!!)
次第に冷静になっていく弓花は完全にダメな存在に成り下がった風音とゆっこ姉の前で佇んでいた。
さきほどの涙の再会から、風音と弓花は女王の寝室へと案内され、この場にいるのは3人のみとなっていた。
「うふふふ、もう風音はホント変わらないわねえ」
「ゆっこ姉はフケ……ちょっと変わったねひぇ、ひはいひょ」
フケのところで止めたが許してはもらえなかったようだ。風音はほっぺをにょーんとされている。
「わたしはかれこれもう20年はここにいるのよ。ちょっとくらいお姉さん度が上がっても仕方がないのよ」
お姉さん度って……と弓花は思ったが口には出さない。風音のようににょーんとはされたくない。
「20年。また随分と離れてるねえ」
風音がほっぺを撫でながら言う。
「ゆっこ姉は達良くんのことは知ってるの?」
風音の問いにゆっこ姉は寂しそうにほほえんだ。
「あのこが600年前にいたのは知っているわ。王様になって余生を過ごしたんですって?」
ゆっこ姉は達良をあのこという。ゆっこ姉のが年下なのに。
「みたいだねえ。温泉饅頭とか美味しかったよ」
「温泉、いいわねえ温泉は。何日か泊まってゆっくりしたいわねえ」
「いい湯だったよ」
その風音の言葉にゆっこ姉は再度にょーんとせざるを得なかった。腹の底から湧き出る怒り故に。
「にゅにゅにゅ」
解放された風音がほっぺをさする。熱を帯びている。
「くう、こっちにだって温泉街があればあ」
ゆっこ姉は悔しそうにツヴァーラの方を見た。
「ああ、温泉ならコンラッドに一応施設を作ったけどね」
「あるのっ!?」
再び風音を見るゆっこ姉。風音はほっぺをガードする。
「いや施設っていっても簡易のコテージじゃない。さすがにゆっこ姉も女王様だし連れてけないんじゃないの」
「大丈夫。わたし、レベル96の冒険者でもあるし」
「高ッ!?」
弓花は驚くが、20年経ってるんなら寧ろ少ないように風音には感じられた。ゆっこ姉の操る殲滅の魔女ユーケイはジーク同様レベルカンストキャラだった。
「んー、本当に行くんなら連れてくけど」
風音の言葉に「行くーーー!」と手を挙げる。
どうやら本気のようだ。
「譲渡クエスト? なにそれ?」
温泉はどうやら本当に行くことに決定し話題は達良の事に移った。それは石碑に書かれていた日本語でのささやかな贈り物についてだった。
「私たちがそれを読んだら出てきたんだよね、譲渡クエスト」
弓花も頷く。風音たちが言っているのは公式改造ツールであるMODツールで作成した改造アイテムを他のユーザーに譲渡するためのクエストだ。石碑には名前が入ってなかったが弓花の譲渡クエストもウィンドウのクエストリストに現れていた。
「ゆっこ姉は見てないの?」
「わたしがあのこのことを知ったのは女王になって、情報を多く集められるようになってからだものねえ。それに直接は見にいってないわ」
「達良くんがどんなのを用意したのか分かれば無理にでも取りに行くことも考えるんだけどなあ」
譲渡クエストの通常の達成可能レベルは100以上、規格外の能力を持つ風音やジークを駆使すればあるいは……というところだ。
「残念だけど分からないわね。まあ無理に挑んで死んでも馬鹿らしいわよ? あのこもそれを見越した内容のものを入れてると思うわ」
「そっか。まあそうだよねえ」
と風音も納得する。
「まあわたしは国力を使えばそんなに手間かけずに取れるかもしれないし、便利なアイテムだろうから機会があれば手に入れてみるわ」
「さすが女王様だね」
「当然よッ」
権力の乱用である。国の未来が危なかった。
「便利なアイテムと言えば風音たちはコーラル神殿には行ったの?」
「うん。そして取ったよ」
そう言って風音は紅の聖柩を見せる。ちなみにゆっこ姉の額にかけられているサークレットに見覚えがあったので風音にはゆっこ姉がどのアーティファクトを手に入れたのかすぐに分かった。ゆっこ姉のアーティファクトは名を『真実の目の額飾り』というジークの叡智のサークレットの上位装備だ。
(嘘は吐けないんだよねえ。あれ)
あらゆる偽装を見抜き、チャットログの形でその場の過去の発言も分かってしまうというアーティファクト。ゲームの仕様では一部でしか活躍できない能力だがこと現実の中では相応の力を発揮するはずだろう。権力者となれば尚更だった。
「私は二周目してないし。行ってないの」
そう口にした弓花にゆっこ姉が不思議そうな顔をして尋ねる。
「あれ? 弓花はたしかメインクエストはクリアしたのよね?」
「うん。したけど二周目はしてないし」
弓花がそう言ったところで風音が「あーーーーーー!!」と声を上げた。
「そっか。勘違いしてたよ。今が周回プレイ相当なら可能性はあったんだ」
「え? なに?」
弓花が頭の中をハテナにしてるとゆっこ姉が口を開いた。
「弓花、コーラル神殿は周回プレイヤー用のイベントよ。メインクエスト攻略後にプラスニューゲームが出てるはずだから、その上で今の状態を周回プレイとするならば条件を満たしてると思う」
「そもそも今が周回プレイ扱いなら無条件で入れる可能性もあるよね」
風音の言葉に「かもしれないわね」とゆっこ姉。
「え? 私も英霊召喚の指輪、手にはいるの?」
「アーティファクトもね。あの時は残りふたつだったけど」
「わたしのときも2つだったわね。紅の聖柩と無限の鍵が残ってたはずだけど、所有者が亡くなると自動的に戻るみたいなのよね」
つまりゆっこ姉がコーラル神殿に訪れてからプレイヤーが二人死んだという事だった。寿命か殺されたのかは分からないが。
「あれ? どっちも風音、持ってるよね」
弓花の問いに風音が頷き、ゆっこ姉が驚く。
「なんで二つ? 何か仕様上の抜け道とかあったの?」
そのゆっこ姉の質問に風音は「まあ、そうだね」と答える。そして無限の鍵を取り出した。
「これは私の1年前に来てたヨハンさんていう人が手に入れたみたいなんだけど。そのまま死んじゃったみたいで、実は所有者登録されてなかったんだよね」
「そうか。使用してなかったのね」
ゼクシアハーツ内では実際に装備、或いは使用しないと所有者とはならない。そして状況証拠からコーラル神殿でヨハンは無限の鍵を使用していなかったと思われた。
「そういうことだろうね。なので私が持ってるわけで。たぶん私が死んだら両方コーラル神殿に戻るんじゃないかな」
「運が良かったわね。というよりもそのヨハンさんの運が悪かったのね」
「そうだね」
その言葉にうっすらと申し訳なさそうな顔を浮かべて風音が頷く。
「それで、そうすると残りは何があるわけ?」
弓花は自分が手に入れるであろうアーティファクトが気になって仕方がないようだった。
「閉じていた扉は『神狼の腕輪』と『帰還の楔』のものだったよ」
「『帰還の楔』は刻んだ指定ポイントに転送するヤツだっけ?」
「そうだよ。ワープ、魔族しか使えない設定だから重宝はするんだけどね」
正確には単一の属性のファクター持ちのみが使えるが正解で、誤魔化して転送する術もあるのだが、この大陸では伝わっていないようだった。そして弓花はその『帰還の楔』よりももう一つの方に関心がいっていた。
「『神狼の腕輪』がある!?」
その弓花の目を見たとき、風音とゆっこ姉はもうこれしか選ばねえだろうなと思ったという。
「銀色でふっさふさになれるアレがある!」
「まあ、誰か取ってなければだけど」
もっとも風音の前に来たプレイヤーが一年前なのでまだ残っている可能性は高そうではあるのだが。
「あと、英霊召喚だけど……弓花のはあの残念剣士よね?」
ゆっこ姉が話題を変える。なにを手に入れるかの結論はもう見えていたからである。
「うん。あのヒドいヤツ」
「ヒドいって言わないでよ。かわいいでしょ、あれ」
弓花が抗議をするがカザネとゆっこ姉の白けた顔は変わらない。
「最初、弓使いでやろうとして器用さ上げてたんだけど、やっぱ普通に戦いたいってんで剣士に変えて筋力に振ったんだけどダメージ食らいまくるんでその後は体力に降りまくってたんだよね」
「レベル93でジーク並の体力は凄いと思ったけど攻撃力が全然なくて、最終的に難易度をベリーイージーに変えて固定ダメージのルナティックストライクシールド殴りのごり押しでクリアしたんだったっけ?」
弓花は完全にポイント振り間違えてる人だった。そのこともあって弓花は当初、筋力全振りの強攻撃力で行こうと考えていた。すぐに風音にある程度はバランスをとるように指導されたが。
「いやーたしかあの盾は卑怯っぽいんで今はハートシールドに変えちゃってると思う」
「マジで?」
もうダメだと風音とゆっこ姉は思った。ようするに雑魚過ぎる。
「下手すると弓花、自分のキャラ相手なら一人で勝てるんじゃないの」
「いやーさすがにそれは……どうだろう?」
弓花も振り返って考えてみるとそんな気がしてきた。
「でもアーチと一緒なら勝つのは難しくなさそう」
ちなみにアーチとは弓花の持ちキャラの名前である。
「えっとゆっこ姉、温泉には本当に行くんだよね?」
「モチのロンよ」
弓花の質問にブイサインでゆっこ姉は返答する。やっぱり本当に行くらしい。
「だったらそのついでに私コーラル神殿に行ってみる。ちょちょいといって取ってくる」
その言葉に風音はあの山で死んだルーを想い出したが、サンガクくんをベースに改造したヒッポーくんもあるのでとりあえず大丈夫だろうと考えた。
「じゃあそれで」
ともかく頑丈でちゃんと弓花が帰ってこれるヒッポーくんを作ろうと風音は考えた。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:22
体力:77
魔力:132+300
筋力:33
俊敏力:27
持久力:17
知力:34
器用さ:20
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』
風音「弓花の英霊召喚のありがたみのなさはヒドい」
ゆっこ姉「盾か囮か。悩むところね」
弓花「……ヒドいこと言われてる」




