第六十五話 さる方に会おう
◎ザルツ峠
風音たち一行はロジャーら騎士団の馬車に乗りミンシアナ王都シュバインに向かっていた。
「いや、お二人ともお強いですなあ。特にユミカ殿はジンライ殿のお弟子さんだとか。我が輩が勝てぬのも分かるというもの」
若干落ち込みながらも努めて明るく振る舞うロジャーにジンライはフンッとひと睨みして先ほどの戦いのことで口を出した。
「負けたのはお前の実力以前の問題だろう。いきなり飛び出しおってからに。だからイノシシと呼ばれるのだろうが」
ロジャーが縮こまる。相手の実力も確かめずに突進してカウンターでやられてしまったのである。返す言葉もない。
「まあ、先手を打ってアドバンテージをとりたかったのは分かる。だが、カザネ相手のは最悪だ」
むむ……と風音が急に自分がやり玉に挙がったので眉をひそめる。
「大方、あいつの噂に脅えたのだろうが腰が引けすぎだぞ。確かにカザネの切り込みは鋭いが素人の剣だ。お前の方で手数を増やしてコントロールすれば打ち込むどころではなくなり、対処も可能だったろうに。それをむざむざいいようにやられおって」
ロジャーが見る見る小さくなっていくのが周りの人間には幻視できた。
「このカザネはさらにいくつもの手を持っているんだぞ。手加減の手加減の手加減をされて情けないと思わんのか。まったく!」
「お、思います」
辛うじて振り絞ったロジャーの言葉がそれであった。
風音はキリングレッグと魔術や他スキルも封じていたのである。これにユッコネエとタツヨシくんまで入れば騎士団全員とでもやり合えるだろう。
「まあ、我が輩の不甲斐なさはさておき、お二人がお強いのは分かりました」
「それで? お前自身が挑んで腕試し。この二人になにをやらせようというんだ?」
ジンライはさらに鋭くにらんで尋ねる。一介の冒険者に騎士団が実力を見て、その主が何かを頼むというのであればロクな話ではないのは目に見えていた。風音たちに何かを頼むのであればギルドに指名依頼をかければ良いだけのこと。だがそれを介さず王族から直接となれば拒否という選択肢を奪わざるを得ないほどのやっかいごとに違いなかった。
「いえ。特に何かをというわけではなく、とりあえずどんなものなのか見てこいというだけの指示でして」
だがロジャーの回答は予想に反したものだった。
「それだけで挑んできたんですの?」
ティアラが呆れたとばかりに声を荒らげた。
「はぁ。すみません。ともかく我が輩等はお二人とそのお仲間様に、ある方に会っていただきたいだけなのです」
「誰なのかは教えてもらえないのかしら?」
「申し訳ありません。それもそういう指示ですので」
ルイーズの質問にロジャーがさらに申し訳なさそうに回答する。
そして風音たちと騎士団はカロンゾという村で一泊した後、朝には村を出てその翌昼に王都シュバインにたどり着いた。
◎王都シュバイン 王城デルグーラ
「白いねえ」
風音がつぶやく。
王都を通り過ぎ、そのまま王城の一室まで案内された風音はその城の外も中も白に統一されているのに感心していた。
「なんか病院みたいで落ち着かないかも」
「ああ、分かるな。それ」
ときおり風音と弓花によく分からない単語が出てくるな……ティアラは横で見ていて思った。
(故郷の言葉なのですかね)
風音の故郷についてはティアラはまだ聞けていない。両親にはもう会えないだろうといった風音の顔がちらついて迂闊に聞けないと感じていたためである。
「このミンシアナは白を基調とした装飾を好むからな。国の宝剣である『白剣』の白で統一された意匠が元になっていると聞くが」
ジンライの言葉に「へえ」と風音がつぶやく。そう言った後になにかがひっかった。
(あれ、白剣?)
どこかで聞いた覚えがある名だった。
(親方のところで聞いたんだったっけ?)
だが思い出せない。話の話題で一度出ただけなので仕方ないかも知れないが風音は黒牙を譲り受けた経緯で聞いた話を忘れていた。
「ねえジンライさん、その白剣ってのは何?」
「ふむ。知らんのか?」
風音は逆にジンライに問い返されたが、素直に頷く。
「500年前に建国した王が携えていた一振りで白い大理石のような刀身でな。決して折れぬと言われているほどに硬い。というよりも何をしても刃こぼれ一つしないらしい」
(ああ、親方たちが言ってたアレか)
と、風音の記憶がよみがえる。たしか風音が拾ってきた剣を親方たちが同系統だとか言っていたのを思い出した。
「二対に並ぶ刃が特徴的で、放つ剣撃は白き軌跡となって遠くの敵をも斬り殺すのだと聞く。またその剣を握ると持ち主の力量に関わらず恐るべき剣技を扱えるようになるらしいな」
「……ホワイトディバイダー」
その剣の特徴を聞いて、風音が記憶に一致した武器の名をボソリと呟いた。
それはかつて風音とともにいたあの女性の使用した武器だった。本来魔術師であった彼女が近接戦闘力を求めた結果、装備するだけで並の剣士以上の攻撃が可能になるその武器を手に入れたのだ。
(なんの因果かなあ。まあこっちに来たとしてもプレイヤーキャラで来るワケじゃないから建国の王ってのがそうなわけはないんだろうけど……)
「今はその剣はこの国の王子が受け継いでるという話だが。と、聞いてるのかカザネ?」
「え、うん。ごめんなさい」
「どうした? 何かあるのか?」
ジンライは自分の話を上の空で見ていた風音を心配そうにみる。話を聞いてなかったことを怒らなかったのは風音が今までにこの手の話を聞き逃すことがなかったからだ。であれば、なにかしら重要なひっかかるものがあったのだろうと推測してジンライは尋ねたわけである。
「うーん。ホワイトディバイダーって言ってね。そういう剣を私も聞いたことがあったんだ」
「その剣の名は知らんな。どんなものなんだ?」
「剣が二つ並んでるような剣でね。剣と剣との間に発生させた無属性の力で遠距離攻撃もできる。後、柄に戦士の記憶が刻まれていて、その戦士と同じように剣が振れるんだって。おまけに耐久力は無限」
「白剣と似てるな」
「同じものかも。随分昔に聞いた話だし」
そんな伝承もあるのかとジンライは感心する。
風音たちがそのように軽い談笑をしていると、ロジャーが部屋に入ってくる。
「ご客人方、もうじき、こちらにまいります」
誰がとはロジャーは口にしない。最後までそれで通すようだった。
「了解した」
ジンライは返事を返す。今さら問わなくても本人が来れば分かることとジンライも分かっていた。
(誰が来るかなあ)
(さあ、髭チョビデブのおっさん的なやつじゃない)
(それはやだねえ)
風音と弓花のヒソヒソとした会話も、だがやがて来る緊張した空気の前に静まっていく。
扉が開く。
騎士団の面々が一斉にガシャンと姿勢を整えた。
そしてロジャーが声を張り上げる。
「ユウコ・ワイティ・シュバイナー女王陛下のおなーりぃいい!!」
その言葉にジンライ、ティアラ、ルイーズ、メフィルスの4名は目を丸くする。ミンシアナの最高権力者の名前がここで出てきたのは全くの予想外、ましてや本人の登場など想像もしていなかった。
だが、風音と弓花はまったく別の意味で驚いていた。
扉から見える人物は風音たちの知っている人物で、だが知らない年月を重ねた顔をしていた。
「……えっと」
「うそぉ」
どちらも本当に驚いている。ありえないわけではなかった。達良の例を見ればその可能性はあったのだ。だが、それが目の前に来ても果たしてどれほどの人間がその事実を驚きもせずに受け止められるというのか。
少なくとも風音と弓花には無理だった。
「本当に久し振りね二人とも。もう20年と会っていなかったから」
その女性はさも可笑しそうにコロコロと笑い、風音と弓花を見た。
「あら、でもあなたたちにはつい最近なのかしら? なんだかあの頃のままのようだし」
だが、対して二人は笑顔ではいられない。それは夢にまで見た光景のひとつだった。
「ホントに? 本物なの?」
「うう……うううう」
弓花が目を潤ませ、風音はすでにボロ泣きでその人物に駆け寄る。騎士団が一瞬動いたがロジャーがそれを手ぶりで制する。
「ゆっこ姉、ゆっこ姉だぁああ」
風音がその女性に抱きついた。そして女性は風音を優しく抱きしめて、頭をなでる。
「まさか本当にゆっこ姉なの」
「あなたは感動して抱きついてくれないの弓花?」
そう言っている女性の目にも涙がたまっている。
「分かんないよ。もう、嬉しすぎてわかんない」
そう言ってその場で泣き崩れる弓花をも女性は優しく抱きしめる。そして三人で抱きしめあって涙を流した。
周りは呆然とそれを見ていたが、三人の特別な空気を感じ取り、口を挟むことはなかった。
こうして遠き世界で親友であった3人は再会を果たした。
ユウコ・ワイティ・シュバイナー、かつてはゆっこ姉、三井原 優子と呼ばれた女性は女王となり、この国に生きていたのである。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:22
体力:77
魔力:132+300
筋力:33
俊敏力:27
持久力:17
知力:34
器用さ:20
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』
風音「うううう、良かった。会えたよー」
ゆっこ姉「もうほら、泣かないの。風音」
弓花「うううう、嬉しいけどゆっこ姉はこっちでも話せるんだ」
ゆっこ姉「そりゃあ、これはウィンドウの機能の一つのテキストチャットだもの。だから「」の横に名前が入ってるでしょ? プレイヤー同士なら話せるわよ」
風音「あ、そういうもんなんだ」




