第六十二話 温泉を捜そう
自分で口にしていた通り、ジンライは温泉の湧き出る場所は知らなかった。そこで風音たちはまず温泉の湧く場所の情報を求め、コンラッドの街で情報収集を開始していた。
◎コンラッドの街 クックの鍋処 夜
「あれかい。ああ、知ってるよ」
と言ったのは宿屋の女将のリンリー。
「ホント?」
予想外にすんなり出た答えに風音は尋ね返してしまう。
「知ってるさね。なんでも前にツヴァーラの温泉街にならって、こっちでも似たようなものを作ろうって話があってね。よく覚えてる。場所は地図があれば書けるよ」
「じゃあこいつにお願いしてもいいかな」
風音は羊皮紙に描かれたこの近辺の地図を取り出し、リンリーの前に出した。「あいよ」といってリンリーは温泉のある場所を書き込んでいく。
「一緒に今日もスープを買ってくれるんだろう?」
「うん。これがなくても買わせてもらうよ。一緒にいる仲間にも好評だったしね」
そうだろう、そうだろうと鍋を混ぜるリンリー。
「ところでリンリーさん」
「なんだい?」
金属器にスープを入れながらリンリーが聞き返す。
「温泉街と似たようなものを作ろうとしたって言ってたけど、それって結局作らなかったんだよね。なんで?」
そう言われるとリンリーは、少し考えてからこう言った。
「なにぶん昔の話だからあんま覚えてないけど猿の魔物が出るとかなんとかで探索メンバーが全滅したらしいのよ。確か群れのボスの討伐に結構な冒険者が呼ばれたって聞いたね」
「へえ、そういうのがいるんだぁ」
(猿の魔物か。素早そうだなあ)
あとでジンライに聞いてみようと風音は心の中のノートにメモを取った。
◎コンラッドの街近隣 ゴーレムコテージ
風音はリンリーから温泉の場所を聞き終えるとスープを受け取り、お代を払って宿屋を出た。そして集合場所に決めていた、以前作成していたコテージへと向かっていく。
宿屋に泊まることも考えたがパーティ人数はひとり増えたが風音とティアラがいっしょに寝てるのでベッドの数は変わらなかったし、前に入り口を塞いで去ったので中を誰かが使用した形跡もなかった。そして寝泊まりするには申し分のない環境だったのでそのまま今晩はコテージで休むことに決めたのである。
「モーターマシラだな。それは」
風音は全員が集まった後、手に入れた情報を出し合い、そしてリンリーに聞いたことをジンライに尋ねるとそうした答えが返ってきた。
「ワシは参加していないがボスのイモータルマシラの討伐が20年ほど前にあったらしいな」
魔物の群れには時折ボスと呼ばれる統率力の高い強力な魔物が出現することがある。一ヶ月前に討伐した狂い鬼などがそれに当たった。
「強いの?」
「モーターマシラは力はそれほどでもないが、数で攻めてくるタイプだ。動きも速い。それなりに討伐ランクも高い。コンラッドのようなレベルの高くない冒険者たちでは対処が難しいので直接被害が出てこない限りは無視しているようだな。イモータルマシラは相当だったらしいが討伐以降は特に発見報告もないから今はいないだろう」
「数が多いというのは怖いですね」
弓花が不安そうに口にする。
「乱戦は嫌いだわ。あたしの雷撃は範囲メインで味方もやっちゃうし」
「ルイーズ姉たちには近付けさせないし乱戦に参加なんてさせませんよ。それにモーターマシラは獣です。風音なら近付かれる前に気付けるだろう」
ジンライがそう言って風音を見る。
「そうだね。まあ集団戦ってのは経験ないから、そこだけは不安だけどね」
範囲魔術も覚えておくべきだったかなぁ……と風音は少し後悔する。
「幸い数はこちらも多い。ユッコネエだったか? あのエルダーキャットならば的確に猿どもを退治してくれるはずだ」
「そうだね。タツヨシくんもいるし」
タツヨシくんはそこまで素早くはないが投石などの遠距離攻撃はある。
その後は温泉の湧いているポイントを確認しジンライもそこらへんならと案内を請け負い、明日に備えて寝ることとなった。
◎アルゴ山脈 温泉地帯 翌昼
「よーしこんなものかな」
風音がゴーレムメーカーのクリエイターモードを閉じる。
ここはアルゴ山脈の中腹にある岩場。ジンライが案内をして、途中からは風音が硫黄の臭いを辿ってここまで来た。ほぼ直線に風音が源泉までたどり着き、手間取るようなこともまったくなかった。つくづく便利な鼻である。
また風音たちは途中でグレイゴーレムの群れを発見。奇襲に成功した風音はテバサキさんなどでグレイゴーレムを捕らえながらタツヨシくんの手でほぼ無傷でコアストーンを取り出すことに成功する。そして計6個のコアストーンが手に入った。
「風音、こっちもOKだよー」
少し山の上の方から弓花の声が届く。弓花とジンライにはタツヨシくんを使って近辺の川の水の一部をこの湧き出ている温泉まで繋げる作業をお願いしていた。源泉の温度が高いのでそのままでは入れそうになかったのである。
「了解。こっちも準備するよ」
そういって風音はゴーレムメーカーを発動する。
できるのはいつも通りのコテージだが、今回は内装を一部変え、露天風呂にしている。そして源泉と川の水の通路を用意し適量が流れるようテバサキさんに押さえてもらいつつ調整していく。
「本当に便利なこねえ」
ルイーズがいつものように感心する。
(直感である程度の調整が可能になってるのは楽でいいなあ)
風音もエルダーキャットから得た『直感』により細かい調整がかなりスピーディに行えることに感動している。
「どうだ、上手くいったか?」
川沿いから弓花、タツヨシとともに降りてきたジンライが風音に尋ねる。
「問題ないよ。ティアラ、湯加減はどう?」
「悪くありませんわ。これならすぐに入れそうです」
ティアラが湯船に入れる前のところに溜めてあるお湯を触って測っている。
「ジンライくん、いっしょに入るぅ?」
「どうぞ。お先に」
ルイーズの意地の悪い質問にジンライがぴしゃりと返す。
(むぅう……)
風音の視線が辛い。ジンライは孫のように見てる風音の視線に冷たいものがあるように感じられてちょっと顔を背けた。ちなみに風音は出来上がった風呂に感動して特になんも考えてなかったのでジンライの考えすぎなだけである。『夜の稽古』を指摘されたことが後を引いているのだろう。
なお弓花に対してジンライは弟子として扱っているつもりだが、周囲からの印象は親子のそれであった。
「いや、その前にコアストーン狩りにもういっかい行くんですよね?」
弓花の指摘にルイーズは「そういえばそうだったわねえ」と返す。
「川から引いた水はまだちょっと綺麗じゃないしお風呂は戻った後だね」
風音がそう口にしてルイーズが「はーい」と返す。ティアラが後ろ髪引かれていたが、ヒッポーくんは無情に温泉コテージから離れていった。
そして、グレイゴーレムの群れを3つほど襲撃し、コアストーンを14個収穫。併せて20のコアストーンが手に入る。指名依頼は15個収穫だったが、数が増えればその分ボーナスがつくとのことで明日もまた狩ってその翌日に戻ることに決めている。
しかし、温泉コテージに戻る途中で風音の表情が変わる。
◎アルゴ山脈 温泉コテージ近隣の森
「いるね」
ヒッポーくんを止めた風音が一言つぶやく。
「いるってモーターマシラのこと?」
弓花の問いに風音が頷く。「また先に言われましたわ」とティアラが戦慄しているが風音も弓花も気にしない。
「コテージを囲んでる感じかな。多分あっちもそこそこ鼻が利くんだと思う。あの場にいた私たちの匂いに気付いたっぽい」
「数はどうだ?」
「50くらいかな?」
ジンライが多いな……とつぶやく。
「とりあえずコテージ付近では戦いたくないなあ」
風音の言葉にティアラとルイーズが頷く。
「ならこちらに呼び寄せるか?」
風音はジンライの言葉に頷き、チャイルドストーンを出す。
「魔力は今日かなり使ってるからユッコネエを呼んだら打ち止め。タツヨシくんはまだしばらく動くけど」
「結構だ。そいつらで猿どもを誘導しこちらにおびき寄せる。ティアラ様、フレイムナイト4体いけますか?」
「そうなると今日は私も打ち止めですが、問題ありませんわ」
無垢なる棺のプラス補正もあってその数ならばティアラにも対応可能だ。
「フレイムナイトで敵を足止めし、ルイーズ姉のサンダーストームで攻撃。ワシは二人を護衛するからユミカとカザネは遊撃を頼む」
「分かりました」
「了解。こっちにまでビリビリは勘弁ね」
「あら、ちゃんとよけてよね?」
と、ルイーズが返す。自ら避けてくれる気はないようだった。
「じゃあ始めるぞ」
ジンライが愛用の竜骨槍を握り、そう言った。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:22
体力:77
魔力:132+300
筋力:33
俊敏力:27
持久力:17
知力:34
器用さ:20
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』
風音「弓花の槍が白銀の槍シルキーでジンライさんのが竜骨槍、ティアラのレイピアはまんまのナイトコールで、ルイーズさんの杖は迅雷っていうジンライさんと同じ名前の杖だね」
弓花「いきなり何?」
風音「いや忘れそうだからメモっとこうと思って」




