第六十話 顛末を聞こう
風音は人形のタツヨシくんを兜状に戻して専用の不思議な袋に入れるとそれを腰に結んだ。
「後は調整しながら使ってみるよ。手直しをまたお願いするかもしれないけどそれはお願いね親方」
当初の想定からは外れた仕様となるのでまた設計を洗い出す必要があった。風音はマッスルクレイの部位配分を見直し、バランス調整、そして再度作り直してもらう必要もあると考えていた。
「楽しみにしてるぜ。まあ組立はし易いようにしたから自分で調整もできんだろうが」
実は風音の懸念であるマッスルクレイの部位のバランス調整ぐらいならば蛇腹部分の配置換えで対応できる遊びはある。そこらへんは後ほどもらう仕様書に書かれてあった。
「それとこれ以上は追加料金になるぜ。ここまででギリギリ足が出ない程度だからな」
つまり親方の儲け分はほとんどないに等しい。もっとも個人的にも技術者としても良い経験と知識を得て、料金以上のモノが手に入ったので親方は満足はしている。
「それはなんとかするよ」
風音は「うーん」と考えてから答えを返す。エルダーキャットなどの金額はまだ手付かずだが分配しているので今の手持ちは3000キリギア程度。日雇い労働者に近い一般の冒険者としてはそれでも手持ち金としては高額なのだが、追加料金はこの金額では桁が足りなさそうだ。弓花に借りるかな〜と風音は友情の崩壊しそうなことを考えていた。
「それと言いそびれていたんだが、お前が出掛けてる間にミンシアナの王宮騎士団がお前を尋ねてきたことがあったぞ」
「え、なんで?」
「知らねえよ。いるか聞かれただけだしな」
「風音、何かしたんですの?」
ティアラの質問に風音も首を傾げる。
「さあ? オーガ退治のことでまたご褒美くれるとか」
タツヨシくんの改造費が頭に浮かぶ。
「ちげえんじゃねえか。ま、険悪な感じではなかったし、悪い話ではねえとは思うんだが後々おめえんところに連中がいくだろうから、一応伝えておくぜ」
「うん、あんがと」
その後、風音たちはギルドの事務所に向かう。オーガの現状についての確認と依頼に出されたクエストのチェックにである。
◎ウィンラードの街 冒険者ギルド隣接酒場
「ちゃーっす」
風音が中にはいると何人かの冒険者等がそれぞれに挨拶をする。
「あらあら、結構な人気者ねえ」
「むう、でもみんな微妙に距離をとってますわね」
鬼殺し姫で名の知れた風音はこのウィンラードでは英雄と呼ばれても間違いではないのだが、そのエピソードは蹴り殺す、叫び声でオーガを逃走させる、浮気をバラすなどと殺伐としたモノが多く冒険者の間では畏怖の対象となっていた。特にここ最近オーガ討伐に明け暮れオーガの力が骨身に染みている冒険者には尚更である。
ちなみにこれらの噂にツヴァーラからの、お姫様をさらった盗賊を皆殺しにした(未遂の辻褄合わせでそうなった)、国の守護獣と素手で殴り合って勝った(遠くから見ていた兵士にはそう見えた)、化け猫をひと蹴りで従属させた(ギルドからの報告)等のエピソードも合流することとなる。なおディアボに関しては情報規制がかけられているため、ジークの存在共々秘密となっている。
その鬼殺し姫の連れであるティアラとルイーズもある意味ではこの街のギルド内の安全証明を受けたに近かった。もっともルイーズに関しては古株を中心に知っている冒険者も多かったのだが。
「よう、カザネ。随分とご無沙汰だったじゃねえか」
その風音一行に声をかけたのはやはりこの人、ギャオだった。
「おひさ〜。昼から飲んでんの〜?」
「まあな。すげえ美人連れてるじゃねえか」
出会って早々にこれである。よくよく考えれば親方も同じ反応だったがあっちは受付の人の入れ知恵もあった。
「こっちはティアラに、隣がルイーズさんだよ」
風音の紹介に
「よろしくおねがいします」
「よろしくねぇ」
と2人が返す。ギャオがかつてない満面の笑顔である。
「えーと、ティアラに手を出したら殺すけどルイーズさんは好きにしていいよ?」
ティアラは「カザネェ」と若干潤んだ目を向けていたが風音から見ればティアラ云々ではなくギャオがダメなのである。仮に相手がキンバリーならば風音も快くかは別としても良しとしただろう。それがモンドリーだったとしても同様である。しかし目の前の獣人の男はノーである。自分で話すのはともかく、男としてはクズそのものであり、決して友人を近づけてはならない相手だ。それが風音のギャオに対する評価であった。
「あたしはいいの?」
「んールイーズさんは言わなくてもお好きにするだろうし」
どちらが捕食者側なのかを見誤るつもりもない。新たに得た風音の『直感』もそう告げていた。なお風音にも直感自体は元より備わってはいるので、正確にはスキルに昇華するほどに直感が先鋭化されたという表現のほうが正しかったりする。
「じゃあ好きにしますかね。ねえ、ルイーズさん」
こちらはこちらで笑顔が崩れない。ギャオとしてもティアラは年齢的には許容範囲だが、その物腰から高い身分の人間だろうと予想していたし「なんか重そう」という予感が働いてもいた。確かにかなりの美人だが、後腐れのありそうな女はノーサンキューである。
対してルイーズはギャオにとってクリティカルストライクであった。包み込むような笑顔、エルフ特有のすらりと洗練されたスレンダーなボディ、にもかかわらずあの乳のボリュームはなんだ? あれを掴めば宇宙の真理を掴んだに等しいとさえ思えた。
もっとも掴んだ後に手にはいるのは(元)国王の愛人に手を出したという事実であり、ルイーズが望めば最悪ケツの毛までむしり取られる可能性は大であった。あとジンライや親方(!?)とホールブラザーになれる特典付きである。
「ごめんなさい。あたし、誰かの男を奪う趣味はないのよねえ」
嘘である。妻子持ちのジンライくんが美味しくいただかれていた。ようするにルイーズの好みではなかったということだろう。ルイーズの好みは出来る男、成功する男なので色々とギャオにとっては多重に残念なお断りであった。
そしてギャオがガクンと肩を落としたところで風音は本題を話すために食事に誘う。風音がこの酒場に来たのはギャオがいるのを受付のニーナから聞いていたためである。
「そんでさあ。オーガの群れが黒い石の森に戻っていったってのは本当?」
風音はティアラ、ルイーズ、ギャオとともに席に座り注文を頼んだ。
「ニーナにでも聞いたか。マジだよ。少なくともおれっちの鼻は数十体の群れがそっちに向かったって認識してる」
風音はギャオの下半身は信用できないが鼻に関しては一定の信頼を寄せているのでその言葉を素直に受け止める。
「だとすれば討伐は終わりってことかな」
「昨日からガーラの旦那が確認に行ってる。まだ残ってるのがいるかも知れねえけど臨時の討伐依頼は明日明後日には解除されんじゃねえの?」
ギャオは若干残念そうに言った。オーガの相手は危険が伴うがギャオの腕ではボーナス付きの美味しい相手でもあった。
「昨日、ジローくんたちの匂いがザルツ峠の方に向かってたのはそのためかあ」
「なんだよ。ザルツ峠まで行ったのか?」
「近くまではね。魔物一匹会わなくてボウズで終わったよ」
「そいつはお気の毒様。オーガが臭いを散らすもんだから他の魔物まで逃げてやがんのさ。おかげでここ数日魔物の被害報告が一件もねえ」
「平和なのはいいことなんだけどね」
風音の言葉に「ちげえねえが、そしたら俺ら廃業じゃねえの?」とギャオが返す。
「ここらで仕事なくなったらダンジョン潜りでもしたらいいんじゃないの」
「それも手なんだけどよぉ。メロウと2人だとな。ダンジョンは最悪4人はいねえと何かあったときに対応できねえっていうしな」
罠や魔物の集団の待ち伏せ、それらにソロや2人程度で対応するのは難しい。かといって数が多すぎても狭い道幅では身動きがとれないし、リスクに対して分配される成果では帳尻が合わないという問題もある。
「だったらジローくんらのパーティと組んだら? あっちも今3人だよね」
「それはメロウが交渉中。最悪あいつだけあっち行くかも」
ギャオが渋い顔でそう言う。
「なんかあったの?」
「浮気がバレた」
ガックリと肩を落とすギャオに「アホだねえ」と大笑いでギャオの肩をバンバン叩く風音。その状況でルイーズにモーションをかけてきたのだからなおさらである。
そんな2人のやりとりを横でティアラとルイーズが見ていた。
「なんだか……仲がよいようです……わね?」
どう反応していいかわからないティアラと
「む、もしかして? むむむ、難しいわね。これは?」
と考え込むルイーズ。両者とも、この2人は仲良いな……とは感じていた。それがどのような思いによるものかはさておき。
なお帰りにルイーズが風音に「ちゃんと相手は選びなさいね」と忠告する。風音は首を傾げたが、ルイーズは「ま、いいわ」と言ってそのまま先に進んでいった。ルイーズの女の勘が若干の警報を鳴らしていたものの、まだ判断するには時期尚早と考えたためである。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:22
体力:77
魔力:132+300
筋力:33
俊敏力:27
持久力:17
知力:34
器用さ:20
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』
弓花「まさかアンタ、ダメ男に惚れるタイプの……」
風音「止めてくれたまえよ親友。ぶっ飛ばすよ?」




