第五十八話 街に帰ろう
◎オルドロックの洞窟 入り口 夕方
「そうですか。チャイルドストーン持ちの魔物が四階層に」
風音たちはギルドの管理人に事のあらましを告げ死亡した冒険者のギルドカードを提出していた。
「ランクB以上の方々を招集して一度掃除をした方が良さそうですね」
管理人の言葉にジンライが頷く。掃除とは高ランクの冒険者を大量に呼んで低階層を狩り尽くす行いだ。今回のようにダンジョン拡大期の影響で高レベルの魔物が低階層にまで足を運んだときなどに行われる。
「それでチャイルドストーンはいかがなさいますか。こちらで買い取ることもできますが」
「ううん。なんだかなつかれたらしいし、このまま持っておくよ」
「ほう。ということは召喚できるのですか」
「風音は元々ゴーレム召喚師だ。あらためて登録する必要はないぞ」
「おや、そうでしたか。了解いたしました」
ちなみにゴーレム召喚師は本来は付呪技術者に該当するのだが、戦闘時の扱いで分かれるギルドのカテゴリでは召喚者となっている。
「エルダーキャットの毛皮とチャイルドストーン持ち討伐報酬を出させていただきます」
「それで頼む」
ジンライの言葉に管理官は頷き、約10000キリギアを出して手渡した。
「多いね」
「まあチャイルドストーン持ちの討伐はダンジョンの華だからな」
と言いながらもジンライは風音を厳しい目で見る。
「その分リスクがあるからなんだってのは分かってるよ」
「ならいいさ。お前に頼る部分は多いがあまり無茶はしてくれるなよ」
「うん、それも分かってる」
ジンライはルビーグリフォン戦から風音に対し微妙にその手のことを口にするようになっていた。弓花は弟子だしそのように扱うが、風音に対していると孫と接しているような気分になってくる。自然、対応が甘くなるのだ。
「ま、明日は温泉だし、今日は早めに寝よう」
その言葉にジンライも頷く。元々は明日はここで休んでから明後日に温泉にいく予定だったが、このダンジョンの周囲が想像以上に何もなかったので温泉にいくのが繰り上げになっていた。ジンライもエルダーキャット、ディアボと相手をして腕が痛んでいた。湯治の意味でも早めに浸かりたい気持ちもあった。
(……歳か)
認めたくはないが、そうした部分は年々強まっていく。特にここ最近は面白すぎる状況が連続してつい年甲斐もなくハシャいでいると感じていた。あるいは街暮らしが続きすぎて弛んでいたのかもしれない。
(鍛えるかな)
そしてジンライが最終的に出した答えがこれであった。この老人、まだまだ元気である。
◎マルクニ温泉街 翌昼
風音たちがこのマルクニ温泉街にたどり着いたのは昼に差し掛かった頃。温泉饅頭はここでも売られていた。「ご先祖様が作ったらしいですのよ」と言って饅頭を頬張るティアラに風音と弓花は優しい気持ちになって2人でティアラを抱きしめた。弓花にまで抱きしめられたのでティアラは「???」となった。
また、こちらの温泉は湯治を目的とした面が強く、癒術師らの治療院があり、風音たちは揃って回復と検査を受けたが、特に問題は発見されなかった。途中でルイーズが「あたし、デキちゃったかも」とこっそりと告げてジンライがムセた。いたしてからまだ三日しか経っていない。この老人、動揺しすぎである。
風音たちは予定通り次の日も温泉街でくつろぎ、さらにその翌日に街をでた。
◎アカナ街道近辺 ザンバラの森 昼
森の中を二体の馬とそれに乗る5人の冒険者の姿があった。無論、それは風音たちのパーティである。
「ここも久方振りだねえ」
「半月は離れてたからね」
ヒッポーくんを操りながらの風音の言葉に弓花が頷く。
「わたくしも久方振りですわ。あまりいい印象はないですけど」
このザンバラの森はウィンラードとツヴァーラ王国の国境との中間に位置する、ティアラがオーガに捕らえられた森だった。
「まあ、ここでリベンジって……いうのも、うーん。違うかな」
「ええ、そうですね。なんと言いましょうか」
弓花の言葉にティアラがあまり得心いかぬように頷いた。元々ティアラを襲ったオーガは風音たちが退治している。今現在オーガ狩りを行なっているのは私事ではなくギルドからの依頼によるモノだ。
特に答えのあるわけでもない問答に弓花と風音が頭を悩ませている中、風音は周囲を見回しながら「うーん」と唸っていた。
「どうだ。いるか?」
風音たちに併走しているジンライが尋ねる。
「いや、この付近にはいなさそうだね。臭いの跡もないや」
「そうか。まあ、それだけ確認できただけでも良しとするべきかな」
それはそれで情報としては有用ではある。
「あら、時間もあるし、もう少し回ってみたらどう?」
ジンライの裏にいるルイーズの言葉に、ジンライは「どうだ?」と風音に尋ねる。結局のところ、魔物を探す鼻も追いかける足も風音のものなので、そこら辺は風音の判断次第となる。
「そうだね。北にそのまま進んで、ザルツ峠の前辺りで引き返してウィンラードに戻ろうか」
「なるほどな。確かにそれでもここからなら夕方には着くことになるしな」
ジンライも妥当と頷いた。風音も自身のレベルアップや紅の聖柩、そして温泉などで落ち着いた時にヒッポーくんの改善点の洗い直しを行なったことで、移動速度や移動時間をかなり延ばしていた。以前よりも一日に動ける距離が増えたのはかなりの強みだ。また、以前にゴーレムメーカーがLv2に上がったことで魔力が尽きても形状は継続するため再度魔力を補充すれば使用可能になったことも大きい。
なおゴーレムメーカーに限らないが魔術の類でもっとも魔力が消費するのは最初の発生プロセスの構築である。出現させた後の持続にかかる魔力は発生に比べると大幅に減少する。風音もゴーレムを作製する際には「ヒッポーくん及びヒッポーくん」というようにひとつの発生プロセスで複数体を同時に出していたが、燃料となる魔力を注入するだけになったことでその手間も省けたため、大幅なコストダウンが実現していた。
「それにユッコネエとも一緒に戦ってみたいんだよねえ」
風音はポケットの中に入れてあるチャイルドストーンを取り出す。風音は召喚するエルダーキャットにゲーム仲間のゆっこ姉の名前を付けた。達良くんも候補に挙がったが弓花に猛烈に反対された。理由はデブになるからだそうである。
「あー私も見たい」
そして、風音の言葉に素早く食いついたのは達良くんを反対した弓花である。弓花は大の猫好きであった。反対にティアラは魔物の印象が強いユッコネエはそれほど好きではなかったりする。
「ふむ。機会があれば見れるだろうよ」
ジンライもそうした弓花に特に厳しいことを言うこともなかった。あのディアボとの戦闘以来、弓花は『振』をマスターした。現状のジンライの態度は一成長しつつある弓花の力に対し一定の敬意を払った結果であるといえる。まあ、程度にもよるのだが。
ともあれ、風音の言葉通り一行はザルツ峠の方面に向かっていった。
◎アカナ街道近辺 ザンバラの森 ザルツ峠近く
「うーん」
森の近くで風音の石馬が立ち止まる。
「どうしたの?」
当然何事かと考えた一行の中でいち早く風音に尋ねたのは弓花であった。立ち止まってから一定時間考えて結論を出した風音へのジャストなタイミングでの問いかけにティアラは「こやつ、デキる」的な戦慄を覚えたが友人歴の差はそう簡単には覆せないのである。そんなティアラの思考に気付くはずもなく風音は弓花の問いに答える。
「ガーラさんたちが通ったっぽい。ジローくんもいるみたいだねえ。10人かな、人数は」
「ふむ。ガーラたちは今3人のパーティだったからな。オーガ狩りの混成パーティかもしれんな」
「ん、どうしよっか?」
このままそのパーティに合流してもあまり意味はない。風音たちは自分らでオーガに対処できるしヒッポーくんの機動力に他のパーティはついてはこれない。
「連中が先に進んでいるのならば、任せておけばいいだろう。少し早いがウィンラードに戻るでいいんじゃないか?」
「そうだねえ。ジローくんたちには会いたかったけどまあ仕方ないか」
そう風音は言って、ヒッポーくんをウィンラードの街の方に向けた。そして途中、魔物との遭遇もなく風音たちはそのままウィンラードの街にたどり着いた。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:22
体力:77
魔力:132+300
筋力:33
俊敏力:27
持久力:17
知力:34
器用さ:20
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』
風音「今回からユッコネエとタツヨシくん編だよ」
弓花「ユッコネエはいいけどタツヨシくんって何よ」




