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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
温泉巡り旅編

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第五十六話 後片付けをしよう

 その異常に対し最初に動いたのは弓花だった。

「うわぁあああああああ!!!」

 愛槍のシルキーを持ち、突如現れた『それ』に特攻する。

「良い反応だな」

 『それ』はそう口にする。しかし突き立てようとした直後、ギィインという音が響き、突き出した槍は弾かれた。

「チッ」

 弓花はそれが魔法障壁によるものだと分かった。濃密な魔力のうねりがその目に入ってきた。

「ならばッ」

 弓花は槍に力を込める。そしてジジジジと音を鳴らせ、再度突き立てる。

「ほぉ?」

 そして今度はその槍が魔法障壁を破壊していく。

 それはジンライより教わっていた振動破壊の技『振』、実践では初めて使うような覚束ない技だが今は失敗などしている場合ではない。その『振』の攻撃に高い魔法対抗力を持つ白銀の槍が相乗効果を生み、振動と共に障壁を削り取っていく。

「ふむ。なかなかやる」

 だが、悪魔は揺るがない。弓花が攻撃した『ソレ』は巨大な影であった。物理的に存在するその影から右腕が現れ、弓花に対し光の弾を放った。

「!?」

 弓花は攻撃を止め、瞬時に槍を真横に構えて防御するが、その圧力には簡単に吹き飛ばされた。

「ブレァアアアア!!」

 その間隙を突いてスライディングから槍を突き出したのはジンライ。だが、魔法障壁は既に修復され、槍は止められる。

「ぬう」

 ジンライはうめく。先ほどのエルダーキャットとの戦闘で無理をした両腕が悲鳴を上げた。悪魔はその様子を見ながら、弟子の時と同様に光弾を撃ち込んでジンライも弾き飛ばした。

(どうやら先ほどの戦闘で力尽きていたのであろうな)

 まあ、万全であったところでいかほどのものかな、とせせら笑う。  

「舐めるなよッ」

 だが、その笑いがジンライの力を引き出したのか、倒れた体勢から捻るように腕を振り上げムリヤリに槍を投擲した。それは『振』の威力を伴いジジジと音を鳴らしながら魔法障壁に突き立てられる。が、弓花ほどの魔法抵抗力のないジンライの竜骨槍では突き破るには至らない。後一歩力が足りない。

「足りんなぁ」

 ディアボが笑う。

「ルイーーーーズ姉ぇえええ!!」

 だが、その足りぬ力を補うべく、補う相手の名をジンライが叫ぶ。

「わかってるわよ」

 そして声は返される。


「裁定の雷よ、魔なるものを砕け」


 ルイーズの杖より特大の雷が放たれる。

「やはり貴様かッ」

 ディアボの顔がゆがむ。ジャッジメントボルトと呼ばれるそれは退魔を目的とした光と雷の混合魔術。グリモア最終章に該当するユニークスペルだ。それはルイーズが真にこのパーティにいる理由でもあった。対悪魔のスペシャリスト、王女を護るためのツヴァーラの切り札。そのルイーズの一撃が走る。

「届けえええ!!!」

 そして、物質を伴わず、闇のファクターのみの魔力で構成されたアストラルタイプにとって最悪の反属性攻撃が、魔法障壁に突き立ったジンライの槍に直撃し、魔法障壁を砕いて槍と共にディアボへと突き刺さった。


「グッガガガガガアアアアアアアアア!!!!」


 絶叫と共に光が溢れ、魔力風が吹き荒れる。

 それは誰が聞いても絶命の声だった。土煙が舞い、その姿は見えないが誰もが勝利を確信した瞬間に


「一撃では効かんのだよ」


 ディアボが土煙の中から飛び出しルイーズに向けて走り出す。

「なんでよッ」

 渾身を込めたはずの一撃をなかったことのように突進してくるディアボにルイーズが絶叫する。ルイーズには確かに捉えたはずのディアボが無傷でいることが信じられなかった。

「こういう体質でな」

 ディアボはそう言い捨ててルイーズへ向けて両手から伸ばした爪で串刺しにしようと構える。


「護ってフレイムナイト」


 そこにティアラは炎の騎士を飛び込ませた。

「その程度の召喚騎士でッ」

 ディアボは両手の爪を交差し、手に持つ大盾も含めて召喚騎士を紙のように易々と切り裂く。その攻撃をフィードバックされたティアラが悲鳴を上げた。そしてもう障害はない。悔しそうに睨みつけるルイーズにディアボは今度こそ爪を振り上げ

「風音エエエエ!!」

 そのままルイーズが殺されようという状況で弓花が絶叫する。この事態を打開するであろう人物の名を。


「あいよっ」


 その声が届いた。

 風音はインビジブルで気配を消し、壁歩きによる天井からのキリングレッグをディアボにぶつける。が、

「当たらない!?」

 風音の身体ごと、ディアボの本体をすり抜ける。

「インビジブルかな。気配を断っていたので気付かなかったよ」

 ディアボは嬉しそうに言う。

「確かに魔法障壁は物理耐性もあるから逆にその蹴りも効果もあったがね。しかし私本体に物理系攻撃は効かんのだよ」

「ならッ」

 風音は真正面のディアボに魔術を出す。

「スペル・ファイア・ヴォーテックス!!」

「無駄」

 それは魔法障壁によってかき消される。

「うりゃあ」

 続けて両手剣の『黒牙』を突き立てようとするが、

「それはちょっと危ないな」

 影が足払いをかけ、風音が転がった。

「うあっ!?」

 風音は受け身を取るが、そこにディアボの蹴りが

「寝てるんじゃないよっと」


 飛んだ。


「カザネエッ」

「うわぁああああ!?」

 風音がゴム鞠のように跳び、2度ほど跳ねて壁にぶつかって止まった。

「くっ、うう……」

 鼻血がこぼれる。ソレを見てディアボが意外そうに言葉を口にする。

「おや。まさか、本当に勝算があると思ったのかね。君のことだから何かしらの手があると思ってたんだが」

「ルイーズさん、さっきの攻撃は!」

「あれはもう無理よッ」

 ルイーズの悔しそうな顔にディアボが嬉しそうに答える。

「くくく、無茶を言うなよ。あれは君のジーク以上に制限が厳しいんだぞ。一ヶ月は溜めないと出せないはずだ」

 その言葉で風音の目は細まる。ジーク以上、それはつまりジークの召喚期限、明日には召喚可能になるのを知っているということだろうか。

「まさかジークのことを知ってて今日来たの?」

 風音の言葉にディアボが笑う。

 だが、それを知る機会は王都を去った時の弓花との会話だけのはずだ。

「もしかしてずいぶん早いタイミングで見張ってた?」

「ふっ、私が君たちを見逃すはずがないだろうに」

 そしてルイーズを見る。

「さすがにそちらの女と接触されたときにはさっさと殺すべきだったと思ったがね」

「ルイーズさん?」

「ルイーズ・キャンサー、悪魔狩りのエキスパートだ。知らなかったか?」

「うん。まあ、さっきの攻撃で理解はした。ルイーズさんがパーティに入ったのはあんたへの護衛だったんだね」

「ま、そういう面もあるわ」

 ルイーズも頷く。

「さてと」


 ディアボの目が見開く。


「ッ!?」

 風音以外が声にならない悲鳴を上げた。

「何?」

 風音が周囲を見渡すと風音以外の全員が目を見開いて固まっていた。

「金縛り、私はこうやって動きのとれない人間の目を見ながらゆっくりと首を落とすのが好きなんだ。とても良い顔をしてくれるからね」

 風音は王都近隣で発見された盗賊の話と中庭で死んでいた衛兵を思い出す。

「だが、どうやら君には効果がないのか」

 それは風音の持つスキル『タイガーアイ』の同系統の状態異常を相殺するという副次効果によるものだった。

「まあ、それでもここで詰みじゃあないかな?」

 そう言われて風音は唸り、そして大きく息を吸い込んで、はいた。

「やっぱり私たちだけじゃあ無理か。君の言う通りにね」

「ああ、無理さ」

 風音の言葉にディアボはそう返す。

「うん、確かに結果論だったかもね。あの時も今も誰か死んでいた可能性はあった。それは私の落ち度だ」

 しかし風音はディアボを見ずにそう言い返した。

「ふむ」

(なんだ?)

 違和感がある。

「分かってるよ。鼻血とか、そんなのはどうでもいいし。もう、あとはお願いするから」

「なんだ?」

(こいつ、何を言ってるんだ?)

 そしてディアボはゾワッとした何かを感じた。

「うん。ジークじゃなくて『君』を呼んでれば終わってたのは分かってるから」

 いつの間にか。そう、いつの間にか風音の横には誰かがいた。

(なんだあれは?)

 それは全身を覆う金の刺繍の入った黒い衣を纏っていた。ボサボサの長い黒髪に顔には角が生えた呪術的な文様の入った骨の面を被り、骨の隙間から見える眼は金色で、白目の部分は充血して赤く染まり、血の涙を流し続けていた。その口は真っ赤なルージュが引かれて裂けるような笑みを浮かべ、右手には恐ろしいほどに巨大で血で染まった真っ赤な鉈、左手にはギロチン台の刃のようなものを鎖で縛って握っていた。さらに、周囲には怪しく輝く大小の眼球らしきものが無数、浮かび漂っている。

「だから今君の力がいるんだよ。分かるでしょ? 君は私の『半身』なんだから」

「なっ!?」

 いつの間にかそれはディアボを見ていた。ジーーーと眺めていた。

 その金色の瞳に吸い込まれるようにディアボは眺めてしまい、

(マズいッ)

 本能の奥底から恐怖が這い出てくる。

(マズいぞ、あれは!?)

 逃げるしかない。あれには勝てない。あれはそういうシロモノじゃない。

 そう、正しく理解する。だが、その判断は少し遅かった。

「逃がさないよ」

 風音の言葉と同時に昆虫のような足が無数に地面から這いだし、ディアボをつかんだ。

「あ、ああああ」

 その足がディアボの身体を突き刺し、とどめる。アストラルボディが固定される。

「なんだ。これは?」

 ディアボが叫ぶ。だがいくら動こうとしても逃げられない。ジークにすら対抗できた魔法障壁がまったく役に立たずに貫通されている。

「何が起きているッ!?」

 そのディアボの叫びに風音が「ごめんね」と返した。それはディアボにとってまったく予想の外のことで

「ホントはさ。ちゃんと戦って勝ちたかったんだよね。色々考えてどうにかしてやれんじゃないかって思ったんだけど」

 やっぱ無理そうでさ……すまなそうに口にした。

「だから、こいつ呼んじゃった」

 ギャハハハハハハハハハハ……と狂ったような笑いがその何かから発せられた。そして周囲を浮かぶ目玉が一斉にディアボに向けられる。

(なにぃ!?)

 石化、即死、混乱、恐慌、呪い、麻痺、狂化、忘却、睡眠、火傷……魔眼と呼ばれる恐るべき無数の眼球の視線が一斉にディアボを襲う。

「うぁあああああああ!!!!?」

 ディアボはアストラル系の悪魔として魔眼には耐性がある。だが、そのほとんどをレジストしたものの物量に押し切られ、身体の一部が石化し固まっていく。

「なんだ、それは? なんなんだ!?」

 ディアボは叫ぶ。その訳の分からないモノはなんなのだと?

「これはジークと同じ。私の半身、セカンドキャラクターだよ」

「ジークと?」

 言葉の意味は分からないが、ジークの同類というのは理解できた。

「しかしジークは明日まで呼べぬと」

 ソレは懇願のような問い。あって欲しくないという願いが込められたもの。そしてそれはあっさりと肯定される。

「うん、だから呼べないよ」

 風音は続けて諭すようにこう口にした。


「ジークはね」



名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・白銀の胸当て・白銀の小手・銀羊の服・甲殻牛のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪

レベル:21

体力:76

魔力:123+300

筋力:32

俊敏力:25

持久力:17

知力:30

器用さ:20

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』

スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』


弓花「私、アレ知らないんだけど」

風音「あれは私の黒歴史。触れてはいけない禁断の過去」

弓花「えっと……何その中二的な奴?」

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