第四百五十六話 本命に突っ込もう
◎ミンシアナ王国 ゴルディオスの街 ゴルド黄金遺跡 入り口
「あれかぁ」
ユッコネエに乗った風音はジンライたちと共にゴルド黄金遺跡前までたどり着いていた。そして、風音たちは現在気配を消すスキル『インビジブル』の力でその姿を隠していた。スキルを使用したのはユッコネエで、ユッコネエに乗って接触している風音とタツオだけでなく、シッポを絡めることでシップーとジンライにも効果は及んでいる。故にガルーダたちはまだ風音たちの接近には気付いていなかった。
そうした状況の中で、風音はダンジョンの入り口の様子を確認している。そこには大柄のデブった鳥人間ドン・ガルーダと、武器を持ち鎧を纏った鳥人間ガルーダファイターと、さきほどのマッパの鳥人間ガルーダゾーヒョーがいた。
(数は併せて50……もっと、いるかな?)
風音は、それを見た後、続けて戦いの音が響きわたっている、ゴルド黄金遺跡からやや離れた場所の方へと視線を向けた。どうやらゴルディオスの街の常駐軍が遺跡の敷地の入り口前で魔物たちと戦っているようであった。
「なるほど。ここで兵隊さんが魔物を抑えてたんだね」
「うむ。A級ダンジョンに常駐しているくらいだ。それなりの腕はあるのだろう」
風音の言葉にジンライも頷いた。元々ジンライはミンシアナに道場を開いて住んでいたし、兵たちに槍術を教えてもいた。目の前で戦っている兵隊たちにはそれなりにシンパシーを感じているようだった。
そして、風音は再び遺跡の入り口に視線を戻す。そこではデブのドン・ガルーダが入り口の内部で何かを実行しているようだった。
「あれは、新しい魔物を生み出そうとしているのか?」
ジンライは先ほど風音に聞いたガルーダの能力を思い出しながら、そう口にする。
「だね。チャイルドストーンを媒介に魔物を造ってるみたいだよ」
風音の指摘する通り、ドン・ガルーダの前に集まっている魔素の塊の中心部分にはチャイルドストーンらしき丸い玉が浮かんでいた。魔力体であるが故に今はまだ半透明な姿ではあるが、何か巨大な存在が出来つつあるのは間違いなかった。
「して、どうする?」
そして、ジンライは風音にそう問いかける。そしてその言葉を聞いて、風音は周囲を再度見回す。
この街の常駐軍であろう兵士たちは正面門から出ようとする魔物たちと戦っている。近くに冒険者たちの姿が見えないところから、両者の間で何かしらの分担が決まっているのかもしれない。もっとも、それは途中参戦の風音たちは知らぬ事であるし、それに従う理由も現時点ではない。それに、いざとなれば風音の王族権限でも、ジンライの、冒険者ギルド支部長クラスに準じるらしいランクS権限でも使えばどうとでもなるのも今の白き一団の強みだった。権力とは誰もが憧れる偉大なる力なのである。
(まあ、何か難癖付けられても大丈夫だろうけど、それはそれとしてあっちはあっちであまりよろしくはないようだね)
風音の見る限り、どうも今の状況は常駐軍にあまり有利に動いているわけではないようであった。実際、風音の目にも常駐軍の兵たちがそれなりに腕が立つのは分かったのだが、レイダードッグやゴブリン、ホーンドラビット等といった並の魔物以外にそれなりの数のオーガが混じっているようなのだ。
さらには上空からはガルーダゾーヒョーが攻撃を仕掛け続けていて常駐軍に被害を出していた。その上に遺跡の中からはまだ魔物がゾロゾロと出てきているのである。
(けど、中からまだ出てきてるって事は、もしかしてドン・ガルーダは二体いる……のかな?)
風音が眉をひそめる。今遺跡の外にいるドン・ガルーダが大型の魔物の作成に集中している以上は、中から出てくる魔物は別の何かが造っているということになる。ガルーダはテイマースキルを持っていないのだから野良魔物は従えられない。であれば、当然魔物を造り出しているドン・ガルーダか、それ以上の存在が中にもいるはずだと風音は考えた。
(んー、なんか厄介っぽいかも?)
風音はそう考えて、ジンライに口を開いた。
「よし、ジンライさん。まずは遺跡の入り口のヤツを潰そう。どうもダンジョンの中にもなんかいるっぽいけど、どこに陣取ってるか分からないし、とりあえず目の前のをさっさと片づけておきたい」
中から何が出てくるか分からない。故に警戒はしつつも、目の前の魔物をとっと片づけておきたいと風音は考えていた。そして、風音の言葉にジンライが頷いた。
「うむ、了解した。シップー、それでは暴れるとしようか」
「ナーゴ」
そのジンライの声にシップーが鳴いて答える。
「ここからは、タツオとユッコネエにも活躍してもらうからね」
『はいです』
「にゃー」
続く風音のかけ声にタツオとユッコネエも力強く返事をする。そして、その場にいる全員が遺跡入り口の方に視線を向けた。
「そんじゃ、行くよ。ゴーゴーゴー!!」
風音のかけ声と共に二匹の巨大猫が、屋根の上を飛び越えながら走り出した。その勢いにインビジブルの効果もかき消え、それが兵士たちとガルーダゾーヒョーたちの目にも止まり、どちらも何かを叫んでいる。
(んー、どっちも私を見てる。なんだろね?)
風音は気付いていなかったが、風音が発動させたまま背負っているカルラ炎は非常に目立っていたのだ。なぜ今まで気付かなかったのかというほどに。
だが、どうあれ彼らの攻撃が届く距離ではない。風音とジンライは無視して遺跡に向かって突撃する。
「ジンライさん、そんじゃあ、チョイとビビらせるよ」
「思う存分やれッ」
そのジンライの言葉に風音は頷くと、天使の腕輪を発動させ、白き翼を広げて天高く舞い上がった。
それを遺跡の入り口前にいるドン・ガルーダとガルーダファイターたちが目撃する。風音はその彼らと視線を交差させると、
「スキル・魔王の威圧ッ!」
今や使い慣れたそのスキルを発動させた。そして『魔王の威圧』の巨大な威圧がその場を支配していく。
「クギャッ!?」
それは瞬間的な上に覇王の仮面なしのため、物理現象にまでは至ってはいないがそれでもガルーダファイターたちには十分に効果があるようだった。鳥人間たちが一体を除いて、恐怖でその身を硬直させた。
(ドン・ガルーダには通じないか。なかなかやるってことだねぇ)
そう考えながらもスキルの効果を把握した風音は直滑降に地上へと加速し、そのまま続けてキリングレッグを放った。
「クギャアアア」
鳥人間の悲鳴が木霊する。風音が硬直しているガルーダファイターを蹴り飛ばしたのだ。同時にシップーに乗ったジンライも接近してその両槍で二体を貫き、続くユッコネエも目の前にいたガルーダファイターたちに体当たりして跳ね飛ばし、それをユッコネエの頭に移っていたタツオがメガビームで焼き切った。
そして、同時に6体のガルーダファイターがその場で倒されたのだ。
『魔王の威圧』の影響を受けてたじろいでいる相手に風音たちの攻撃が当たらぬワケがなく、さらには風音たちの攻撃は鍛えに鍛え上げた一撃必殺の威力を持っている。ガルーダファイターはガルーダゾーヒョーよりも強いとは言え、今の風音たちには物足りない相手であったのだ。
「ゼッコーチョー」
「油断はするなよ。今のは奇襲みたいなものだ」
炎を背負いながら両腕をかかげて万歳ポーズで叫んだ風音にジンライがたしなめる。しかし、そのジンライの顔にも笑みが浮かんでいた。ジンライにしてみれば久方ぶりの戦場である。血湧き肉踊る気持ちであったのだ。
そして、風音たちがゴルド黄金遺跡の入り口の前に留まっていると、残りのガルーダファイターたちが警戒しながら下がりつつ、遺跡から出てきたドン・ガルーダを囲んで防御の態勢を取っていく。常駐軍へと攻撃を仕掛けていたガルーダゾーヒョーたちも戻ってきて、風音たちの周囲を取り囲み始めた。
(よーし、こっちに集中してきたね)
もっともそれも風音の計算通りではある。ガルーダゾーヒョーが去り、空からの攻撃がなくなれば常駐軍の負担も減るはずだった。さらには周囲を見ながら風音は口を開いた。
「狂い鬼。出てきていいよ」
「グォォオッ」
その咆哮と共に、風音の前に狂い鬼が出現する。相変わらずの一瞬の召喚速度である。そして、狂い鬼は目の前のガルーダたちを見て舌なめずりをした。それらすべてを餌だと狂い鬼は考えていた。
「それでカザネ、どちらにする?」
ジンライは敵の視線が自分たちに向けられているのを気にもせず、風音の横によりながらそう尋ねる。それはドン・ガルーダか、今産まれつつある魔物のどちらを選ぶか……という問いである。そのジンライの質問に、風音はガルーダファイターからのスキル入手がないのにションボリしながらも「ガルーダは私がやるよ」と答えた。数の差を考えれば、集団戦は風音の方が向いている。その言葉を聞いてジンライの笑みがさらにつり上がった。
「では、ワシは遠慮なくデカい方をいただこうか。シップー!」
「ナーーーッ!」
そして、ジンライの言葉にシップーが駆け出していく。シップーは風を纏いながら、地面に足が付けば雷を発して加速していく。その速度は風の如く、そして雷の如く、ガルーダの群れを一瞬で飛び越える。
だが、ガルーダファイターとガルーダゾーヒョーも、さすがにもうたじろぎはしない。ビビっていられる時期はとうに過ぎていた。故に声を張り上げて追いかけようと動きだそうとするが、しかし、それは許されなかった。
「グルォ」「ガァアア」「ォォォ」「ウガッ」
何故ならば唐突に、ガルーダファイターたちの周囲にいくつもの太い叫び声があがったからだ。
「クェエエ」「ギュギギ」
それには思わず、魔物たちも声を上げて驚愕する。そして、ガルーダファイターたちは自分たちの状況がジンライを追いかけるどころではないと気付かされた。彼らを23体の黒いオーガたちが取り囲んでいたのだ。それは狂い鬼が喚んだ彼の同胞。新たに誕生した魔王の従僕たちである。
さらにはそこに風音が飛びかかり、続いて狂い鬼とユッコネエがガルーダの集団に突撃していく。それらを尻目に遺跡の中で産まれつつある何かにジンライとシップーが突き進むのをドン・ガルーダは見逃さなかった。
『グキャァアアアアアアアアッ!!』
そして、ドン・ガルーダは叫んだ。すると遺跡の入り口の中から、ドン・ガルーダの声に答えるかのように大きな叫び声が轟いてきたのである。
そして、ズルリとそれは現れた。遺跡の中から、それはやってきた。
「おお、出てくるのが早すぎたようだな化け物。まるで腐っているようだぞ」
ジンライはそう言って笑う。
そのジンライの言葉の通り、出てきたのは表皮が爛れたような状態となっている化け物であった。下半身はまだ未完成のようで、ズルズルと上半身だけを這わせながらその魔物は日の下に出てくる。
その魔物の名は一つ目の巨人『キュクロープス』。
それはかつて風音がブルーリフォン要塞の最奥で相対した魔物の……なり損ないであった。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『光輪:Lv2』『進化の手[1]』『キックの悪魔:Lv2』『蹴斬波』『爆神掌』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv3』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚』『カルラ炎』
風音「再生怪人は弱いってのお約束だけど、まあ、ブルーリフォンのヤツよりはかなり弱体化してそうだね」
弓花「窮鼠猫を噛むともいうし、まだ分からないよ」
風音「だーね。まあ、あっちはジンライさんに任せて私は鳥人間を倒すよ」




