第四百五十三話 炎を纏おう
◎ミンシアナ王国 ゴルディオスの街 近隣街道
「でかい岩のミミズが暴れてる……な。後は普通の魔物ばかりだが、遺跡に厄介なのいるみたいだ」
ゴルディオスの街から若干離れた、街へと続く街道。そこに風音たち白き一団は留まっていた。勿論、彼らは臆病風に吹かれたというわけではなく、直樹の帰還の楔による遠距離転移を待っているのである。すでにサンダーチャリオットは解除され、全員が戦闘準備してその場に立っていた。
「厄介なもの?」
「ああ、確かガルーダファイターとか言うヤツだ。それが二体に、もう一体強そうなのがいる。多分、ドンガルーダとか言うヤツだ」
風音の問いに直樹がそう答える。そして直樹は現在、『魔剣解放』で飛竜となった水晶竜の魔剣を街に飛ばしていた。魔剣に括り付けた左用の遠見のイヤリングを中継し、身に着けている右用の遠見のイヤリングで遠隔視を行っているのである。遠見のイヤリングは、単品では風音の叡智のサークレットの視野距離には及ばないが、中継を介することで叡智のサークレットよりも距離を伸ばすことが可能なのだ。
「むう」
そして風音が唸る。どうしようかと考える。
「街に散らばっている魔物は、基本レイダードッグやオークとかこの地方にもいる連中ばかりだけど、オーガも混じってるのは不味いな。それなりに被害が出ているみたいだ」
ダンジョンありきの街の住人であれば、こうしたことへの覚悟や対処は出来てはいるのだろうが、さすがにオーガクラスとなると街の住人の手には余るものがある。早急に対応しなければ、被害は増すばかりである。
「分かった。それじゃあ、予定通り風音組、弓花組、直樹組で分かれて行動しようか。風音組は」
「ガルーダだ!」
すでにやる気のジンライがそう言った。風音が「しょうがないなー」という顔で「遺跡に向かう」と言葉を続ける。特に反対はなかった。
「直樹組は、でかい岩のミミズの方に。弓花組はオーガを中心に討伐しながら街の敵を掃討の方向でいいかな」
その風音の言葉に全員が是の声を上げた。それを見て風音が頷く。
「それじゃあ、戦闘開始。直樹、人気のない場所に飛ばしてッ!」
「あいよっ」
そして直樹が帰還の楔付きの操者の魔剣『エクス』を掲げると、次の瞬間には全員が光に包まれてその場から消えていた。
風音たちは次の瞬間には元の場所から遠く離れた、人も魔物もいないゴルディオスの街の路地裏、そこに待機していた水晶竜の魔剣の前に出現し、その場で三組に分かれて行動に入ったのであった。
◎ミンシアナ王国 ゴルディオスの街
そして、街の一角で中規模の爆発が起きた。
「ありゃあ、直樹か」
「にゃー」
ユッコネエに乗りながら風音がそう口にする。
風音の視線の先にはビッグストーンワームという魔物が暴れているであろうエリアがあった。長距離転移後に直樹たちは予定通りにその巨大な魔物に向かっていったのだが、今風音が見た爆発は、その光からしてセブンスレイのようである。すでに戦闘は開始されているようだった。
『母上。嫌な臭いはダンジョンの方からしますね』
そして、風音の頭に乗っているタツオがそう口にした。それは魔素と呼ばれているものの臭いだ。瘴気とも呼ばれる淀んだ魔力である。
「だね。ジンライさん、やっぱりダンジョンから魔素が流れてきてるっぽい」
「ならば、なおさら急ぐぞカザネよッ!」
「ん。了解ッ」
そして風音とジンライを乗せたユッコネエとシップーが屋根の上を駆けていく。ダンジョン攻略用の分割パーティ風音組は本来はこれにロクテンくんとタツヨシくんドラグーンがいるのだが、移動速度の問題と広域での魔物の殲滅を目的としている弓花たちに今回は預けてあった。
「カザネ、空に魔物だ。あれはガルーダゾーヒョーだな。大した敵ではないが空からの攻撃がやっかいな連中だ」
ジンライの視線の先には鳥顔の翼を生やした人型の魔物が飛んで、こちらに向かっていた。その数は4体。
「確か、ガルーダってのは魔物を生んで従えるんだったよね」
「ふむ。魔物を従えるというのは聞いたことがあるが」
風音のゲーム知識ではあるが、ガルーダは他種族も従える希有な性質を持つ魔物である。それは実はテイムスキルで他の種を従えているのではなく、魔素を使って自分たちで使役する魔物を生み出しているのである。もっともジンライはその能力を知らないようだった。
「直樹が言ってたドン・ガルーダが、魔素を使って強力な魔物を生んでるんだと思う。それを他のガルーダが従わせてるって感じだね」
「なるほどな。もっともどうあれ、打ち倒すのみよ」
ジンライの視線がガルーダゾーヒョーたちに向けられる。魔物たちはその鋭利な爪で襲いかかろうと、風音やジンライたちに迫っているが、ジンライの動きの方が速かった。
「跳べぃ。シップー」
そして、ジンライの声と共にシップーが「ナーゴ」と鳴きながら跳び、そのままシップーとジンライの周囲に風の魔法を発生させて、空高く飛翔した。
「ああ、抜け駆けッ!?」
「はっはー、すまんなカザネーー」
ジンライは笑いながら、迫るガルーダゾーヒョーの首を一閃して斬り飛ばし、そして続けざまにさらに二体のコアを貫いた。それはまさしく一瞬の早業。空中で三体のガルーダゾーヒョーが崩れ落ち、その様子に慌てた最後のガルーダゾーヒョーには、無数の光る糸が襲い掛かり、無数の肉塊へと切り裂かれた。それは風音が射出したスキル『ワイヤーカッター』である。そして風音にスキル追加のウィンドウが表示される。
(手に入れたスキルは『カルラ炎』か)
風音の入手したスキルの名は『カルラ炎』。
それは背に炎を発生させて背後の防御を行うスキルである。ゲーム中でも不動明王装備の付与効果として存在していた、「炎を背負うとかなんかカッコいい」という理由で、それなりに人気のあったスキルである。
(ふーむ)
「スキル・カルラ炎!」
そして風音がスキルを発動させると背に炎が発生した。そしてユッコネエの上で風音が両手を広げて万歳のポーズを取った。それに併せてユッコネエも「にゃー」と鳴きながら、黄金の炎を身に纏った。どちらの炎も味方にはダメージの入らない優しいタイプの炎である。
「何をしとるんだ?」
しかし、ジンライにはその良さは理解できないようだった。ジンライの琴線に触れるのは基本、重厚さのあるものだからである。そのジンライを「この良さが分からないとは」と風音はジト目で見たが、ジンライは首を傾げるだけだった。
「もういいから、いくよジンライさん」
「お、おう」
急に不機嫌になった風音に、ジンライはやはり首を傾げながら追っていく。
(ふむ。年頃の女の子は難しい……ということか)
そして、風音の背を見ながら、ジンライはそう結論づけた。このジンライの『年頃だから』……という理由が適切であるかどうかはともかく、風音が難しい子であるのは間違いなかったのである。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『光輪:Lv2』『進化の手[1]』『キックの悪魔:Lv2』『蹴斬波』『爆神掌』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv3』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚』『カルラ炎』
風音「フェニックス風音。ファイアー風音。ジンライさんにはまだ分からない境地のようだね」
弓花「ごめん。私にも分からない」
風音「弓花もまだまだだね」




