第四百四十六話 戦いの準備をしよう
◎レイサンの街 セスの宿屋 二階部屋
「ごめんね。王様にまでなったのにこんな僕でごめんね」
「いや、変わらないままの達良くんで良かったと思うな。私は」
すごくションボリ目の達良の前で風音が苦笑いをしながらそう返していた。弓花の言葉の刃がナビゲーターであるはずの達良コピーの心を切り裂いたのだ。さすが刀をその身に宿す女である。恐るべき切れ味だった。
『普通の部屋ですね』
風音の頭の上にいるタツオがそう言いながら周りを見回す。
ここはセスの宿屋の二階の一番奥の部屋だ。宿屋の主人であるシャーリーの父親に一晩分の宿代を払って風音はこの部屋にやってきたのだ。そして入った部屋を達良コピーも興味深そうに眺めている。
「僕がいた頃よりも建物も建て直されて大きくなってるし、部屋も綺麗になってるんだよね」
「まあ達良くんがいたのって600年前だもんね」
達良がミンティアと共にこの宿にいたのは遠い遠い昔のことだ。今でも宿屋が残っている方が不思議だったのだが、別に達良コピーの力によるものではないらしい。宿屋がつぶれても同じ座標に行けば譲渡イベントは開始されるとのことだった。
『むぅ、圧力をかけてでも宿屋を保存しておくべきだったのだ』
「無理ですよお爺さま。ここはミンシアナで、そもそもミンティア様の幼少時代は秘密なんですからここだって知られてはいけないんです」
一緒に付いてきていたメフィルスとティアラがそんな話をしている。その後ろではユッコネエが「にゃー」と鳴いていた。
この泊まり部屋もそれほど大きいわけでもない。なので他の仲間は今は食堂で待機していた。ついでに店の名物であるピーチタルトを頼んで舌鼓を打っている頃だった。風音もすぐさま引き返して食べたいのだが今は我慢である。戻ってきたらガツガツ食ってやろうと思っている。
「それじゃあ風音。これから準備フィールドへの扉を開くから、君は中に入って準備を整えたらバトルフィールドへと飛ぶんだ。そこに僕の傑作がいるからね」
「うん。殺魅オルタナティブ・白スクエディションだったっけ? あれは英霊の殺魅じゃないんだよね?」
風音はオンラインでは達良のキャラ殺魅を中心としたパーティにいたのだ。だから達良の英霊である殺魅のことも知っている。達良が英霊ジークや英霊ユーケーを知っているように。
そして、達良の持ちキャラの殺魅は紺スク水で装備もゼクシアハーツに準拠したものだったハズである。その質問には達良も頷きを持って風音の言葉を肯定した。
「うん、違う。英霊は呼び出す時間が短いし次に出すまでが長いよね。だから殺魅オルタナティブは常時動けるように人形使いのスキルを中心に作り上げた相棒代わりの自動人形だよ。レベルは300に届いてないけどいろいろと調整したおかげでレベルカンストのキャラだろうと負けないものに仕上がったんだ」
その言葉に風音が反応する。人形使いのスキルは風音がずっと追い求めているものだ。そして、達良コピーならば人形使いについても何かを知っているのではないかと考えた。
「人形使いのスキルって今だと失われてるって聞いてるけど?」
「うん。だから正確には殺魅オルタナティブはゴーレムなんだけどね。人形使いの動きを再現したプレイヤーがいたんだよ。殺魅オルタナティブはその人の制御法を見つけて組み込んだモノなんだ」
「えー、それ欲しいんですけど」
風音の言葉に達良コピーが申し訳無さそうな顔をする。
「旅の途中で見つけた本でね。戦いの途中に盗まれて手持ちはないんだよ。ツヴァーラにも置いてないしね。だから悪いけど力にはなれない」
「うーん。まあ、本があるかもしれないってだけでも貴重な情報かな」
風音もゴーレムメーカーで人形使いの動きを再現しようとしたことはあったのだが失敗している。自分と同じ試みをして成功した人の書物があるならば是非とも読んでみたかった。
「魔道大国アモリアのオークションとかなら見つかるかなぁ」
「僕が見つけたのはレアアイテムオークションだったから可能性はあるかもしれないね」
達良コピーの言葉に「なるほどー」と風音は答えて、タツオをその場のテーブルに降ろした。
「そんじゃ、行くから入り口を出して達良くん」
『頑張って下さい母上、ユッコネエ!』
タツオがギュッと拳を握ってそう声をかけると、風音とユッコネエが頷いた。
そして達良コピーが手を挙げると同時に部屋の中心に扉が出現したのである。それが譲渡クエスト用フィールドへの入り口だった。その門をくぐって、風音とユッコネエは準備フィールドへと向かう。
◎譲渡クエスト用準備フィールド
「あー、なつかしいなあ」
その場所にトンッと降りたった風音の周囲には青いワイヤーフレームで囲われた奇妙な空間があった。プレイヤーはここで準備や配置を整えてからガーディアンに挑むのである。
ーバトルフィールドへの移動を開始しますか?ー
目の前にはウィンドウが一つ開いている。これで『はい』ボタンをクリックすると風音はそのままバトルフィールドへと飛ぶのだ。もちろん準備後に押すので今は無視だ。そして風音は考える。
(とりあえずは英霊はなしって言ってたし止めておくか)
風音はウーミンや東の竜の里での悪魔との戦いのことを考えて、元より英霊は温存する方向で行くつもりだった。
(結局、最上位悪魔に即時対応できる戦力っていうと、ジークとジンライさんぐらいなんだしねえ)
そう風音が考える通り、いきなり悪魔に強襲されてもすぐさま対応できるのは英霊ジークとジンライのみ。
仲間を巻き込む可能性のあるセカンドキャラは論外として、他に勝ち目があるのはロクテンくん阿修羅王モードの風音や『深化』スキル使用の弓花、それにティアラのルビーグリフォンくらいだろう。
またウーミンの街で悪魔エイジが『英霊の指輪』のみしか盗めなかったのは、基本的にレア度最高アイテムを盗むとそれ以外のものを盗めなくなってしまうゲ-ム仕様によるためのものだった。この場合、仮に英霊の指輪が盗まれるとしてもそれで相手の『盗む』スキルを潰したことにはなるのである。
ということまでを踏まえると、風音はどうにもならないとき以外はやはり『英霊ジーク』の温存は必須であろうという結論になっていた。
「そんじゃあ、まずは狂い鬼と配下たち」
そして、風音は狂い鬼と23体のダークオーガを召喚する。
狂い鬼が白い翼を大きく広げて叫び、黒い竜爪が突き出ている棍棒を呼び出した。その胸にはオーリオルの海で手に入れた魔生石が埋まっており、それが狂い鬼のパワーを引き上げていた。
(重要なのは接近戦。手数を増やし、一気に攻めて打ち崩す)
そう思いながら風音は今度は大型収納スペースから黒マッスルミノスとロクテンくん、さらには神聖物質のバルディッシュ持ちのホーリースカルレギオンとアダマンチウムの槍持ちのタツヨシくんドラグーンも取り出していく。
なお、ヒポ丸くんは現在不調なために不参加である。早急な親方の修理が求められていた。
「さてっと、本チャンで使うのは久しぶりだね」
そして、風音はロクテンくんに乗り込んでいく。風音は久しぶりと口にしたが、事実として実戦での使用はウーミンの街でのジルベールとの戦闘以来であり、ここ二ヶ月近く実戦で使っていなかったことになる。
(まあ、実力は上がってるけどね)
もっとも実戦にこそ投入されてはいないが、風音は早朝訓練で日々ジンライとの模擬戦を繰り返してはいるのだ。そのため操縦技術も以前よりも大きく向上していた。
その風音を収容したロクテンくんは『第六天魔王モード』から『阿修羅王モード』へと変形していく。頭部からは黒岩竜の牙が角として生え、顔に被せられていた鉄板は外れて覇王の仮面が姿を現し、黒い翼を広げた紅蓮の炎と虹のオーロラを纏った六手の黄金巨人がそこに現れる。その手には第六天魔王の大太刀と斬馬刀『断頭』、さらには紅の水晶大太刀・信長式の4刀をそれぞれに握り、両足にもドラグホーントンファーが装着された。
その姿こそが神託で告げられた『魔王アスラ・カザネリアン』という存在だった。
「そんじゃユッコネエ。『戦士の記憶』をスキルセットして竜体化。今回はブレスも許可するからね」
「にゃーーーー!!」
その鳴き声と共に風音の裏では9メートルの水晶に覆われた黄金のドラゴンが出現した。
ユッコネエは蓄魔器チョーカーによりドラゴン形態での継戦能力も大幅に向上している。以前はブレスを吐けば魔力切れですぐに竜体化が解除されてしまったが今はそんなことにはならないほどにユッコネエの魔力は満ち溢れていた。
「そして、スキル『黄金の黄昏』をユッコネエに貸与ッ!」
『にゃーーーー!』
その風音のスキル発動により黄金竜ユッコネエの手の中に黄金の剣が出現する。『黄金の黄昏』は風音用の専用スキルだが僕であるならば貸与は可能である。そしてユッコネエ自身の黄金の輝きが『黄金の黄昏』に増幅され、さらに光が増していく。
その上に風音は自身に『赤体化』を、全員に『情報連携』をかけていく。
こうして揃ったのが、黄金の竜、四体の巨人、23体の黒鬼。それが今の風音の全力であった。
ーバトルフィールドへの移動を開始しますか?ー
「『はい』をポチッとな」
準備を整えた風音がウィンドウのボタンを押すと、周囲のワイヤーフレームの壁がバリンと割れた。そして、戦いのフィールドが姿を現していく。
「おぉ、こりゃあすごい」
そして風音が感嘆の声を上げた。
それは風音にとっては見覚えのある風景だった。
立ち並ぶ巨大な建造物に、立体的に何層かに分かれて設置された道路。その道路には、無造作に置かれた複数の『自動車』という爆発オブジェクトまで存在している。
それはゼクシアハーツ内でも特殊フィールドに該当する『摩天楼フィールド』。ゼクシアハーツではありえない、風音たちの世界の都市を元にしたバトルフィールドだ。
その、ビルが建ち並ぶ異質なフィールドの中に今、風音達は立っていた。そしてその正面には……
『さあ、お兄ちゃんの敵を倒そう』
そんなことを口にしながら、白いスクール水着を着た水色髪の無表情な幼女がそこにいた。もっともそれだけならばまだ可愛らしいものだが、それだけでは当然ない。
その右手には、巨大なレールカノンが、その左腕には筒状のモノが束ねられた巨大な何かが、さらには背負った赤いランドセルには天にそびえ立つように十連のミサイルランチャーが接続されている。
それは幼女の形をした兵器そのものだった。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『光輪』『進化の手[1]』『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚』
弓花「あ・か・い・ら・ん・ど・せ・る?」
風音「ダメだよ。そういうデリケートな部分にふれちゃダメなんだよ弓花!」




