第四百四十一話 贈り物を受け取ろう
女王の間にいた達良は達良の人格をコピーしたナビゲーターだった。
そのことについては風音も予想していた事実だっただけに特に疑問に思うこともなかった。
そして、目の前の存在が達良本人かと問われれば、それはノーと言わざるを得ない。ナビゲーターはあくまでナビゲーター。自身の判断によって行動はせず、クエストの案内と受け答えに対応できるだけの存在であり本人ではない。
もっとも、それでも打てば響くのだ。達良の残滓との会話は可能だった。故にメフィルスと風音は達良コピーと話したくて仕方なくてウズウズしていた。
「はい、おふたりさん。ちょっと待ってね」
だが、それにゆっこ姉はストップをかける。今回、風音達が女王の間に来た目的はそれではないのだ。ゆっこ姉としてもサプライズの意図はあったが、きっちり線引きはつけなければならない。
「ここでティアラ王女とメフィルス前王に達良ちゃんを引き合わせたのは、両国間においてのわだかまりが発生するのを防ぐためです」
そうキッパリとゆっこ姉は告げたのである。
「どゆこと?」
首を傾げる風音にメフィルスが答える。
『なるほど。600年前とはいえ、ツヴァーラの王であるからな。それにタツヨシ王陛下はツヴァーラの裏側も知っているどころか、我が国最大の防衛手段ルビーグリフォンをもたらした方だ。当然その秘密も知っているのだろう。ツヴァーラ王国としては捨て置くのは難しい話ではあろうな』
かつてのツヴァーラ王国の英雄王を、本物ではないとはいえ隣国の女王が使役しているような状況である。後々に知れればもめ事となるのは当然の話ではあった。
そして現在、女王の間にはゆっこ姉、王宮騎士団長ロジャーと達良コピー、そして白き一団の面々しかいないのも、プライベートだから気を利かせた……のではなく、機密性の高い話が行われるために人払いがされていたということであった。
「とはいえ、現在王家から離れているティアラ王女や現役を退いたメフィルス前王とでは正しい交渉は出来ないわ」
『なるほどの。余をアウディーンへの繋ぎにしようというわけか』
メフィルスがそう返すとゆっこ姉が頷く。
「対価として、タツヨシ王の知識をお渡しすることもできましょう。恐らくはそちらでは失われているモノも多くあるでしょうし」
「それはそうでしょうけど……」
ティアラが眉をひそめる。その重要性は分かるがティアラは事の大きさを考えて言葉が出ない。だからメフィルスが代わりに口を開いて答えた。
『よかろう。アウディーンには今日にでも夢を通って伝えておこう』
メフィルスはルビーグリフォンの契約を介して、アウディーンと意志疎通が可能であった。手紙などで情報をやりとりするよりは安全な連絡網である。
「お願いします。まあ私としても達良くんを使ってこの人の国を攻めようとは思っていませんし、その存在を表にも出したくはないの。とはいっても達良ちゃんを手放す気も毛頭ない」
その言葉と同時にその場の温度が急激に下がったような感覚が女王の間にいる全員を襲った。
「故に奪おうとするのならば戦争も辞さないと最初に申し上げます。それはよろしくお伝え願いますね」
鋼鉄の笑みである。魔王の威圧にも似た本当の威圧がその場を駆け抜け、それには風音を含めたその場の全員が一瞬で凍り付いたのだ。
『承知した。女の情念、侮るべからずと伝えておこう』
メフィルスの返しにゆっこ姉はニコリと返す。そして威圧が消えていく。
(これって魔王の威圧みたいな?)
(お前のスキルのようにそれを特化して放出するものではない。本物だ。あれがな)
風音の呟きに、横にいたジンライが小さい声でそう返した。そのジンライですら強ばっているところからも、その恐ろしさが分かるというものだった。人間の魔術師としては恐らく最強の座にいる人物の意志より放たれたものだ。それは、あくまでスキルとして使用する風音の『魔王の威圧』とは別種の重さがあったのである。
「さてと、達良ちゃんの紹介もここまで。本題に入りましょう」
そうゆっこ姉が言ってパンッと手を叩くと達良コピーがゆっこ姉の後ろに下がった。わきまえるナビゲーターである。
そして、風音たちがこの場にきた本題だ。
「それじゃあ、白き一団の皆さん。『アングレー・メッシの背後関係調査』ご苦労様。今回は背後関係の調査だけではなく、魔物の大群や悪魔やドラゴンからウーミンを救ったと聞いているわ。よくもまあ、ここまでやらかしたものだと思うくらいに大活躍してくれたわね」
若干ゆっこ姉の顔がひきつっていた。どうしたら背後関係調査のクエストでそこまで大きな話に進展するのだろうかと疑いたくなるレベルであるが、事実ではあるのでどうしようもない。結果として街一つ救ったのだから大したものでもある。
「この功績により、領主カザネ・ユイハマに対しては隣国ウーミン王国とミンシアナ王国の両面からカザネ魔法温泉街に多額の融資を投入することを約束することになったわ。これは本日より私の承認印により確定し、書類は領主代行であるマッカへと引き渡します。これについては何かあるかしら?」
「ないよ」
餅は餅屋だ。そんなことを考えながら風音はいつも通り丸投げする。そろそろ人員を補充しないとマッカがピンチである。
「それと今回は色々とあったからね。白き一団に対しては別途報酬金を用意してあるわ。そちらは冒険者ギルド経由となるので冒険者ギルド事務所で受け取ってちょうだい」
それにも風音は頷いた。国家と冒険者ギルドと冒険者はそうして仲介と中間マージンによって成り立つ関係である。そうして冒険者ギルドも運営されているのであり、だからこそ冒険者全体に利益が分配されていくのだ。
そして、風音の瞳はまだ期待に満ちたままだった。本命が出てきていない。その視線にゆっこ姉が微笑みながら、頷いた。
「それと約束していた報酬の品ね。ロジャー持ってきてちょうだい」
「ハッ!」
それは念願のアレが手に入るということだった。つまりは……
「風音が蹴り壊して入手し損ねたベビーコアがようやく手に入るってワケね」
「む、いい気分になってるんだから、茶々入れないッ!」
弓花の言葉に風音がブーという顔をする。
そう、ハイヴァーンのブルーリフォン要塞で『カザネ・ネオバズーカ』で全力破壊して入手失敗したベビーコアがようやくここで手に入るのである。
そしてロジャーがそれを持ってきた。スイカほどもある大きさの、チャイルドストーンによく似た赤い宝玉である。
「北部のアントハイムで入手されたベビーコアです。どうぞお受け取りください」
そう言ってロジャーがそれを風音に受け渡した。
「ふふーーー」
それを持った風音が満面の笑顔を浮かべる。
「ずいぶんと嬉しそうね」
「うん。これをヒポ丸くんに移植できれば時速200キロを超えられるかもしれないからね。楽しみだよ」
それはすでにヒポ丸くんへの移植が決まっていた。動力球(小)を超える出力のベビーコアだ。ヒポ丸くんのパワー、スピード共に格段に上昇するはずであった。さらにタツヨシくんシリーズ強化案の最大の懸念であった出力問題もこれでクリアできる。
なお、ヒポ丸くんに移植されていた雷竜の心臓はタツヨシくんドラグーンに、タツヨシくんドラグーンに入っていた地核竜のチャイルドストーンは量産型タツヨシくんBに渡され、量産型タツヨシくんBに納まっていた20階層クラスの竜の心臓がひとつ余ることになるが、これの用途はゴルディオスの街で用意する拠点の護衛ゴーレムにでもしようかと風音は考えていた。
「そう。後で私も乗せて欲しいわね」
ゆっこ姉がそう口にするのを風音は鼻歌交じりで「了解ー」と言いながら、ベビーコアをアイテムボックスにしまい込んだ。女王様のお墨付きである。暴走が捗りそうであった。
「それで、風音たちはこれからA級ダンジョン『ゴルド黄金遺跡』へと向かう訳よね」
「うん。途中でレイサンの街には寄るつもりだけどね。けど、あのガーディアン。あれはさすがにないよね? 英霊でごり押しするくらいしか勝ち目がなさそうだったよ」
風音はそう言いながら達良コピーを見る。あのガーディアンとは殺魅オルタナティブ・白スクエディションである。少なくともメールで知らされた凶悪性能はレベルカンスト英霊持ちの風音はともかく、弓花や直樹ではどうやっても勝ちを拾えそうもなかった。その風音に達良は心外だとばかりに首を横に振る。
「風音。僕は君たちに解けないものを用意しないよ」
風音の意図を正しく察して達良コピーはそう返す。ナビゲーターとして、それははっきり伝えなければならないという意志があった。解けないものではないと。その言葉に風音がピクリと眉を動かす。
「それと英霊は使わない方がいいね」
「なんで?」
「殺魅の能力全力解放が発動される。英霊に関しては非殺傷モードが適用されないから、逆に危険だと思う。風音のジークたちは基本的にはゼクシアハーツ内から性能は変わっていないはずだからね。悪いけど僕の殺魅なら読み切って仕留めることが出来る」
「本気すぎるよッ」
風音が思わずツッコミを入れた。達良は仲間たちの装備やその傾向を把握している。如何に英霊ジークであろうと、すべての能力が丸裸にされていては対戦は厳しい。さらに達良が断言した時点で風音は白旗をあげざるを得なかった。
だが、達良コピーは強い口調でこう続けた。
「あれはゼクシアハーツの仲間たちへの僕からの最後の挑戦状だ。絶対に手を抜くつもりはない。だから全力で楽しんで欲しい」
そう口にする達良コピーに風音も「むう」と唸った。偽物とは云え、達良にそう返されては風音も何も言えない。
(達良くんが嘘をつくとも思えないし、私たちでも倒せて、英霊を使わなくても問題ない……ってこと? あの殺魅の能力で?)
風音は考える。達良が言うからには間違いはないのだろうが、それでも本当に倒すことが可能なのだろうかと。
「挑戦は何度でも出来る。だから頑張ってみて」
その達良コピーの駄目押しの言葉に風音は頷くしかなかった。パーティ『TATU☆YOSHIと愉快な仲間たち』のリーダーは普段は気弱だが、こうした状況で口にしたことは違えないし、言ったことは必ず実行する男であった。
そして答えは、イベントポイントであるレイサンの街のセスの宿屋でハッキリするのだろう。風音はゆっこ姉とは違う。達良の贈り物を手に入れる気満々であったのだ。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『光輪』『進化の手[1]』『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚』
風音「達良くんの贈り物か。結局教えてはもらえなかったんだけど、なんだろうねえ」
弓花「全属性防御に全ステータス強化の紺色スク水とかじゃないの?」
ゆっこ姉「ありそうねえ。達良ちゃん、お茶目だし」
風音「達良くんは時々、妙に大胆に行動する時があるからね」
弓花「あー、ありそうなんだ。そうなんだー」




