第四百三十話 怪獣大決戦で行こう
「ちょっと、マジかよ!?」
ついさきほどまで軍艦の中で砲台を破壊していた直樹だったが、今は焦った顔でガムシャラに走り続けていた。周囲の壁はすでにヌルヌルとした軟体生物の表面のようになっている。窓もすべて閉じられてしまったようで、短距離転移も外が見えない以上は使えない状態だった。
「俺、大ピンチじゃねーか!?」
直樹が慌てるのも無理はない。さしもの直樹もスク水着用で死亡は上級過ぎたのだ。それは、姉に関する一点を除けば基本イケメンである彼には耐えられない事実だったのだ。
幸いなことにスク水という存在自体を知らないこの世界の住人のエミリィたちには直樹の格好がおかしいものだと気付かなかったようだが、弓花のあの(苦笑)的な顔を直樹は忘れられない。そんな風に見られたままの人生終了なんてまっぴらゴメンなのだ。
『死ねぇええ!』
「うっせえ。邪魔だッ!」
そして、唐突に飛び出してくるスケルトンを直樹はなんなく切り裂いて倒す。船中にいたスケルトンたちも今はこの軟体の壁の中に入って同化しているようだが、時折飛び出してきて攻撃してくるスケルトンがいるのだ。端から見ればエイリアンとかそっち系統の映画のようなシチュエーションであったが、直樹はそれを恐れることもなく、慎重に警戒しながら走って移動していた。
(まったく、なんて展開だよ)
直樹が心の中で悪態づく。すでに風音からの『情報連携』伝達により、直樹も状況は把握している。敵がいよいよ本気になり、乗っていた軍艦がクラーケンへと変わっていってるらしいとは伝えられていた。
外にいれば、その様子を驚くなり苦笑するなりしただろうが、今は必死に走るだけだ。ただ、通路の先を見る限りでは、甲板への道はもうほとんど閉じていた。
「ちっくしょー、間に合わねえかッ」
直樹はそう叫んで、やむなく壁へと水晶竜の魔剣と竜炎の魔剣を向ける。そして、風音の『直感』スキルに近しい『察知』スキルを使って外へと通じている箇所を見いだす。
「ブッ壊れろッ!!」
そのまま魔剣の力を全力で放ち、壁を破壊する。
「よし、見えたッ」
その攻撃により壁の外の光景が見える。海がそこにはあった。しかし船の修復速度も速い。すぐさま直樹が通り抜けられるサイズではなくなったが、外の風景はまだ見えている。そして、直樹は帰還の楔を使用して、視界内に収まった外へと転移座標を定めて、短距離転移を行った。そして、外の世界への脱出を成功させたのだった。
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「遅かったねえ」
「ハァ、ハァ……これでも急いできたんだけどな」
風音の言葉に直樹が息を荒げながら返事をする。外に出てすぐにまた転移を行い、ようやく水晶ガレー船の上に戻ってこれたのだ。大変ではあったのだろう。しかしである。そこにいるのはスク水姿でハァハァ言ってる男が一人。大変と言うよりは変態であった。
それを風音は生ゴミを見るような目で見た後、すぐにクラーケンたちへと視線を向けた。弟の気持ち悪い姿が見るに耐えなかったのだ。しかし、その姿にしたのは風音だった。実は直樹に非はなかった。
(さてっと、どうするかな)
今も目の前で戦艦がクラーケンへと変じていっている。
昨日見たものとほぼ同じサイズのクラーケンと、それより二回りは大きいクラーケンがそこにいる。それはスケルトンジェネラルのいた軍艦が変わった魔物で、ウィンドウの表記はジェネラルクラーケンとなっていた。ジェネラルの表記がスケルトンと違い、頭に来ているがその理由は分からない。
また、右側の戦艦を攻撃していた狂い鬼はダークオーガ軍団の召喚を一旦解除しているようだった。そして自分は空を飛びながらアタックを仕掛けている。なお、元々狂い鬼たちは船そのものにもダメージを与えていたために、変身後のクラーケンにもそのダメージは継続しているようである。
(あー、船の方をもっと叩いておくべきだったかなぁ)
メガビームを使えばかなりのダメージ量になった筈だが、もう後の祭りである。また、他のメンバーはすでに水晶ガレー船へと戻って、遠距離攻撃可能な者は牽制攻撃を与えていた。
「どうする風音?」
近付いてきた弓花の言葉に、風音が「うーん」と唸って少し考えた後「よしアレをやろう」と口にした。そしてその意図は『情報連携』を通じて弓花にも伝わる。
「了解。本チャンでは初めてか」
そして弓花も頷き、手のひらからヌラリと刃身一刀『マサムネ』を取り出した。風音もスキル『竜体化』のセットスキルを『メガビーム』から『友情タッグ』へと変更しながら、周囲に指示を飛ばす。
「それじゃあユッコネエは竜体化で狂い鬼と共闘。私と弓花で真ん中をしとめるから、みんなは左のをお願いするよッ」
ユッコネエはその指示に若干遅れて「にゃー」と返事をする。狂い鬼との共闘よりも風音と共に戦いたいと思ったのだが、今はそんな我が侭を通す場面ではない。さらにはティアラの方も珍しく不満げな顔を風音に向けていた。
「カザネ、弓花とするんですのね?」
ティアラがブーという顔をしている。ふてくされてると言ってもいい。風音はその顔に「まあまあ」と言いながら言葉を続ける。
「ここ海面だし、ティアラのだとちょっと難しいかもしれないしさ。今回はしょーがないじゃない……ね? ティアラは次ね。次、お願いするから」
風音がティアラに「めんご」と謝る。それは珍しい光景だった。ユーイもそんなティアラの姿を見るのは初めてで目を丸くしていた。
「うー、仕方ありませんわね。次こそはわたくしとですよカザネ」
「りょーかい」
そして不満げな顔のままのティアラが後ろに下がるのを見て風音はホッと息をついてから弓花を見る。
ティアラにとって真に残念なことながら『友情タッグ』の能力は風音と弓花の方が効果が高いのである。ティアラも自分と弓花とどちらが風音と親しいかといえば弓花であるのは元々分かってはいたのだが、それが形となって現れたことで最近は少しストレスが溜まっているようだった。
「スキル『竜体化』ッ!」
ともあれ、今は戦闘中である。風音は己のスキル『竜体化』を発動させて9メートルのドラゴンへと変じていく。
「そんじゃこっちもいきますか」
風音の変化に併せて、弓花も握る刀を中心にその身体を輝かせていく。そして、刀から手からと徐々に自身を刃の塊へと変えていく。それは刃身一刀『マサムネ』による刃身一体化。凶刃イジカの使っていた能力だ。
しかし化生の巫女である弓花はイジカの変身から、さらにもう一歩を踏み出すことが出来る。
「スキル『深化』」
そして、弓花がそのスキルを発動させることでさらなる変化が訪れた。
まるで結晶化を早送りで再生しているように、その身をさらに変形していく。金属の塊が増殖していく。そうして出来上がったのは刀そのものだった。弓花は己を巨大な大太刀へと変えたのだ。
その姿は6メートルの大太刀。銘は己の名である『弓花』が刻まれている。
巨大なその刀を風音ドラゴンが右手で握るとスキル『友情タッグ』の力により風音の竜気と大太刀『弓花』の妖気が上昇していく。さらには風音ドラゴンは竜専用の黄金剣『黄金の黄昏』も召喚して左手に握った。
神竜帝ナーガの愛剣と、友の変じた大太刀を風音は持ち、宙へと浮かび上がってジェネラルクラーケンを睨みつける。
なお、風音はドラゴンへと変わっているために『二刀流』スキルは発動していない。しかし、ここまでそのスキルを使用してきた風音の身体にはその動きが刻まれている。スキル使用時ほどではないにしても、直樹への特訓と同時に自身をも鍛え続けてきた風音は二刀流を扱うことが出来るのである。
そしてその姿を見たジェネラルクラーケンが声を震わせる。
『ロリコンデブの仲間、ドラゴン、竜帝ガイエル……そうか、すべては繋がった。そういうことだったのか』
繋がったらしい。人と人とが分かり合うことのなんと難しいことか。そしてジェネラルクラーケンは叫んだ。
『竜帝ガイエルに組みし逆賊を討つぞ。正義は我にあり!』
その叫びと共にクラーケンたちがいよいよ風音たちに襲いかかる。
『にゃーー!!』
右手側のクラーケンに黄金の水晶竜となったユッコネエが飛び出し、左手側は炎の鷲獅子騎士団と直樹の魔剣解放状態であるニ体の飛竜とイケメンホストのエネルギー体が立ち向かう。エミリィの矢やルイーズのライトニングスフィアもその戦線に加わった。
『ガイエルの手先がーーーー!!』
『誤解過ぎるわ、こんのイカ頭ぁ!!』
巨大イカとドラゴン、2体の怪獣が叫び声を上げて激突する。
『最大出力でいくわよ風音ッ!』
『黄金の黄昏』も一気にぶっ放す!』
風音ドラゴンがその剣と刀とともに両手を振り上げる。そして、
『『ダブルブレイカー!!』』
二人の声が重なり、振り下ろされたふたつの刃からはそれぞれ、黄金と紫のエネルギーの刃が放たれた。なお『ダブルブレイカー!!』は特に言う必要はない。かけ声とかあったほうがタイミングが分かっていいよねってことでなんとなく言うことになっただけである。別に『ごはんまだー』でも『ナオキキモイー』でもなんでも良いのだ。
『甘いわッ』
対してジェネラルクラーケンに焦りはない。そして、水の中から触手で掴んだ小型の戦艦を持ち上げてきた。
『うぉぉぉおお!!』
ジェネラルクラーケンはそれをトンファーとして扱い、オーラを身に纏わせてエネルギー波を受け流した。
『なにそれ?』
風音が驚愕し叫んだ。そして軌道を反らされたエネルギー波はそのままジェネラルクラーケンの後ろの海に激突して水柱が上がった。
『戦艦をトンファーにしたっての?』
弓花も刀身を振るわせて驚いている。メチャクチャである。風音と弓花は友情タッグの合体技でラクショーと考えていたのだが、そうはいかなかった。敵はジェネラルクラーケンの巨体で小型戦艦トンファーを自由自在に繰り出せるのだ。
目の前のイカはただのイカではなかった。それはそれは凄いイカだったのだ。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『光輪』『進化の手[1]』『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』
弓花「戦艦トンファーとかメチャクチャだなぁ」
風音「いや、弓花の方も相当にメチャクチャじゃん……刀って……」
弓花「あん?」
風音「いえ、なんでもないです」




