第四百二十九話 トンファーで戦おう
『ククク、漲りおるわ』
軍艦へと降り立った炎の鷲獅子騎士団長はフレイムグリフォンを駆りながら甲板の上を走り出した。その、他の炎の鷲獅子騎士たちよりも一回り大きい体躯での突進はスケルトンたちをまるでものともせずに蹴散らし、フレイムランスの一撃はスケルトンを貫き、一気に燃やし尽くした。
その炎の鷲獅子騎士団長となっているメフィルスは心躍っていた。
現在のメフィルスは普段の幼体のグリフォンの姿ではなく、ティアラの炎の騎士を強化した重武装の炎の騎士団長へと変じていたのだ。それはティアラの成長により同調能力が強化されたために可能となった状態だった。
そして、かつての己の全盛期をも容易く超える性能の炎の身体を操りながらメフィルスはひどく上機嫌になっていた。己の意のままに動くフレイムグリフォンに騎乗し、無数のスケルトンたちを弾き飛ばし、敵を打ち倒していく。
『ミンティア様は俺たちのものだぁあああ!!』
『戯けがッ!仕えるべき主になんたる暴言かッ!』
そしてメフィルスはフレイムランスでスケルトンを貫き、その力を込めて燃やし尽くす。この炎の鷲獅子騎士団長の持つフレイムランスは、かつてジンライの所有していた竜骨槍を核とした渦巻く炎で出来たランスだ。
元が炎系統のドラゴンの骨だったらしく、炎の塊であるメフィルスの手に恐ろしく馴染んでいる。さらには、わずかながらではあるが槍より発せられる竜気を帯びることでドラゴンのブレスに近しい火力にもなっていた。
そしてメフィルスは戦い続ける自分に久方ぶりの充足感を得ていた。一度死んだ身ではあるが、生きている喜びを感じていた。
『素晴らしいな、ティアラよ。ここまで開放的になったのは召喚体となってから……いや、冒険者を止めて王となってから初めてであるぞ』
『それは良いのですけれど、カザネに他の敵が寄らないように片づけてくださいねお爺様』
『任せよッ!』
心話によってティアラと会話をしながらメフィルスはフレイムグリフォンを操り、駆けていく。他の炎の鷲獅子騎士団もメフィルスの戦闘をフォローする方向で、ティアラの意志に従って戦い続けている。さらには足下の船内からはにゃーにゃーという鳴き声と共に様々な破壊音が聞こえ続けてることから、内部に侵入したユッコネエも仕事をこなしているようだった。
(カザネ、頑張ってくださいね)
そしてティアラは召喚体を戦わせながら甲板の中心で敵の大将と対峙している風音を見守っている。そして風音は存外に苦戦しているようだったのだ。
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「うりゃああ!!」
風音が空中跳びで一気に加速し、さらにドラグホーントンファーに込めたスペル『ファイアブースト』を用いて速度を上げてスケルトンジェネラルに攻撃を仕掛けていく。
『甘いわッ!』
しかし、スケルトンジェネラルは持っているトンファーを回転させて、その攻撃を受け流してしまう。
(攻撃が当たらない!?)
まるで柳を相手にしているかのように風音の攻撃は流される。それはかつて相対したトンファー使いアンガスのトンファー捌きに似ていた。
「おわっと!?」
そのまま風音は後ろへと流されるが。『身軽』と『柔軟』により態勢を整え直しながらバックステップで距離を取る。それをスケルトンジェネラルは悠々と歩きながら、風音へと向かっていく。
「くっ、うりゃああ!!」
そしてスケルトンジェネラルは、再び襲い掛かる風音に対してトンファーの握りをグリップから長い柄の方に変えて、そのグリップをまるで金槌のようにして風音へと振り下ろす。そして風音のトンファーと激突し、双方ともに弾かれる。その威力は互角、相殺となったようだった。
「強いッ」
『子供のくせになんという剛力か』
風音も驚いたが、一方的に弾き飛ばす勢いでぶつけたスケルトンジェネラルも驚愕していた。スキル『猿の剛腕』の力が風音の力を大きく上げていることをスケルトンジェネラルも知らなかったのだから無理もないが。
またスケルトンジェネラルは他にもトンファーを棍棒のようにも、剣のようにも見立てて扱ってくる。そのトンファーの扱いは変幻自在。T字のトンファーの形状を生かし、様々な武器の構えをとり、近中距離での対応をその都度変化させては風音の読みを崩してその防御を切り崩していくのだ。
対する風音はそれをスキル『直感』によりギリギリで対応してかわし、またマテリアルシールドなどを合わせて使用することで防いでいた。
しかし相手は基本的に受けの姿勢で風音と対峙しているために、技術的に不足している風音からの攻撃はここまでに一向に決まらない。マテリアルシールドも防御中心の相手には防がれやすく相性が悪かった。
『笑止ッ!』
「うわぁっ!?」
そして風音が叫び声をあげた。スケルトンジェネラルからの執拗な頭部への攻撃を気にしすぎて、お留守となった胴を強く殴打されたのだ。小さな体はその一撃で弾き飛ばされ、そのまま風音は甲板を転がっていく。それを見ながらスケルトンジェネラルは失笑する。
『ぬるいな小娘。お前もトンファーを使うようだが、まるでなっていない。ただの打撃武器としてしか使えてないのであれば、お前はトンファー使いとしては失格だ』
スキル『リジェネレイト』で傷を癒しながら立ち上がる風音は、そのスケルトンジェネラルの言葉に歯ぎしりをする。
悔しいが、そのスケルトンジェネラルの言葉は的確だった。だから風音も返す言葉がなかった。なぜならば風音が以前にトンファー使いアンガスよりもらったトンファー入門上巻には、蹴り技のことしか書いていなかったのである。
トンファーの技術を知るには下巻が必要なのだが、風音はまだそれを手に入れてはいない。今の風音はトンファーを拳の延長線上としてしか使えていない。そんな風音が目の前のスケルトンジェネラルとトンファー使いとして戦えば後れをとるのは当然だった。
(やっぱり、そう甘くないか)
風音もその点は反省する。実戦の中で己の実力を試そうなどと考えるべきではなかったのだと己を戒める。
『さて、これはどうかな?』
そんな風音を前にして、スケルトンジェネラルがトンファーを持った手を広げて、風音に迫ってくる。
(右からか? それとも左から?)
風音は妖気の集中するトンファーに目を光らせながら次の攻撃に備える。しかし、風音の読みは外れていた。それこそはトンファー使いの妙技。変幻自在の万能武器故の技。
「ぐぁっ!?」
唐突に風音の鳩尾に衝撃が走る。そして、
ドゴォォオ
という音と共に吹き飛んだのだ。
「うわぁっ!?」
そして風音が食らったのはキックだった。左右のトンファーを警戒し過ぎたせいで、正面からのヤクザキックを見落としていた。完全に風音はスケルトンジェネラルにやられたのだ。
「グッ、ハァアア」
風音は態勢を整えきれずに甲板に激突して転がっていく。だが、風音はすぐさま立ち上がる。上半身と下半身が千切れてもおかしくないほどの威力だったが、鎧の防御力はその攻撃を上回っていた。そしてスキル『リジェネレイト』により自動的に傷を癒しながら、風音は身構える。
『ほぉ、あのロリコンデブの仲間とは思えぬほどのしぶとさだ。だが』
スケルトンジェネラルのトンファーの先が光っていく。それはまるで太陽のように光り輝き、
『離れているからと言って攻撃手段がないと思うなよ。トンファーとは』
そして放たれる。
『ビームが出るのだッ!』
「当たるかぁあッ!!」
風音の『直感』は光線の発射を察知した。故に風音は瞬時にスキル『光輪』を発動させて僅かな間に自分の正面に光の輪を発生させたのだ。それは光に属する攻撃を吸収する天使の輪だ。風音の新たなる力だった。
『なんだと?』
トンファービームを光輪が吸収したのを目撃してスケルトンジェネラルが叫んだ。しかし、それは吸収しただけでは終わらない。
「お返しだよッ!!」
風音は即座に『光輪』に貯めた光撃を放った。トンファーふたつから放たれたその光は収束して一つの光線となってスケルトンジェネラルを貫いた。
光輪によって吸収した光撃は通常は減衰されて放たれる。しかし、ひとつに纏めて返されたためにその威力は予想以上に強力だったようだ。そして、ダメージを受けたスケルトンジェネラルに対し風音はスキル『ブースト』で特攻し、『キリングレッグ』を放つ。
『させるかっ!』
しかし、スケルトンジェネラルもやはり恐るべき戦士だった。ダメージを受けた直後であるにも関わらず、風音の『キリングレッグ』をトンファーでいなした。さらにはカウンターで風音にトンファーで殴りかかる。
しかし風音はここで退かなかった。風音は迫る攻撃を耐えるべく身構えた。スキル『赤体化』を発動させ気合いを込めてその攻撃をトンファーをクロスして受け止める。
『ぬぅ、堅い!?』
スケルトンジェネラルの攻撃を受けて、ミシリと足元が軋んだが風音は倒れなかった。耐え切った。そして、その様子に僅かに怯んだスケルトンジェネラルに対して風音は視線タイプの『魔王の威圧』を全開で放ったのだ。
『なんだとッ?』
スケルトンジェネラルがその重圧を受けて叫んだ。
実はジンライなどがそうであったように、この手の強敵相手に『魔王の威圧』の効きは弱い。しかし、相手の怯んだ瞬間に全開で叩きつければ、その効力は最大限に発揮する。相手の隙を生むことが出来る。
そして威圧が物理的な重圧となって、スケルトンジェネラルを押さえつけ、そこに風音の蹴りが炸裂した。
『グァアアア!?』
「まだまだぁあ!」
そこから繰り出されるのは打撃と蹴撃の連続攻撃。右から左からと繰り出されるトンファーの攻撃にスケルトンジェネラルは殴打され、さらには踵落としを喰らって、その左肩を粉砕させられる。さすがにスケルトンジェネラルも応戦しようとするが、風音の攻撃はさきほどよりも遙かに重い。繰り出すたびに上がる破壊力にさしものスケルトンジェネラルも抗しきれず、連続で放たれる蹴りに持っていたトンファーごとその右腕をも砕かれる。
『なんという娘だ』
右腕と左肩がイかれたスケルトンジェネラルの視線には、真っ赤に輝く少女の足が見えていた。ラスト10コンボ目。それは闘気が束ねられた恐るべき光だった。それを風音は解き放つ。そしてスケルトンジェネラルの身体が蹴斬波の赤い刃に砕かれた。
『グアァアアアアアッ』
その凄まじい一撃は軍艦の甲板をも砕いていく。
そのままスケルトンジェネラルの全身が粉砕され、残された頭部が甲板を転がっていくのが風音には見えた。
(倒したか。でもまだ死んではいない…かな?)
経験値もスキルも増えてはいない。風音は敵がまだ死んでいないと認識し、さらに畳みかけようと走り出したが、直後に異変は起こった。
スケルトンジェネラルの頭部が迫り来る風音を見ながらニタリと笑ったのだ。
そう、スケルトンジェネラルはすでに形勢が己等の敗北に近づきつつあると気付いていた。左右の軍艦も制圧されつつあり、己の船も、もはや終わり。
そう『相手は思っている』だろうなと考えていた。
しかし、それは間違いだ。600年という月日の中でため込まれた怨念は怨敵を討ち滅ぼさんと、更なる憎しみの力を溜め込んでいた。それが今、解き放たれる。
「何?」
その様子に風音が声をあげた。
砕かれた甲板が有機的な何かに変わっていく。スケルトンジェネラルの首が砕けた甲板の中へと落下していく。そして甲板がウネウネと動き出して、その破壊された箇所が修復されていく。いや、何かに変質していくといったほうが正しいだろう。
その事態を前に、風音は甲板から落ちたスケルトンジェネラルを追いかけていく余裕はもうなかった。その変化は風音たちの軍艦だけでなくほかのふたつの船からも起きていた。
「不味いね。総員、戦艦から退避っ!」
風音はスキル『情報連携』で仲間たちに指示しながら、その形状を別の何かに変えていく戦艦から跳んで逃げる。そして風音は空中を跳びながら、後ろを向いてソレを見たのだ。さきほどまで自分が乗っていた戦艦が巨大な軟体生物へと変わっていく様を目撃したのだ。
そして、戦艦から変化していくその姿は巨大なイカのようだった。
恐るべき海の巨大生物が彼らの真の姿だったということを風音は今、知ったのだ。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[1]』『光輪』『進化の手[1]』『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』
風音「でかいよっ」
弓花「うわぁー、なんだかトンでもないのが出てきた」
風音「あれってゲソ食べれるのかなあ?」
弓花「あの手のデカいのってアンモニアが充満してて臭いんじゃなかったっけ?」
風音「そうなの?」




