第四百十三話 反撃をしよう
『本格的に化け物だな、こいつぁ』
ジン・バハルがそう呟く。目の前にいる肉塊マリーがいよいよその本性を現してきたのだろう。すでに人間らしい部分は頭部ぐらいになって、まるで魔物の塊のような姿へと変貌していた。
オーガの腕や、ドラゴンの口、ブルートゥザの頭部など、見たことのある魔物の部位も出てきている。見た目は完全に暴走したキメラ種だが、それらすべてが勝手に動いているのではなく、統制された動きをしている。恐るべきことだが、その状態であってもそのすべてがマリーの制御下にあるようだった。
(といっても、あれがマトモな頭をしているかどうかがそもそも怪しいモンなんだが)
ジン・バハルはそう思いながら、肉塊マリーから飛び出た鎌のような魔物の腕を避けて、その節部を貫いて本体から切り離す。それに対してマリーは「プギャウッ」と声を上げたが、ジン・バハルを見て笑う。
「待っでぇえ。骨ぢゃん、猫ぢゃん。遊ぼぉぉおお!」
『ええい。気色が悪いッ!』
必死に応戦するジン・バハルたちに対してマリーはその攻撃をまるで意に介する気配もなく、ひたすらにジン・バハルたちを追い続ける。炎を吐き、毒針を飛ばし、蜘蛛の糸を吹き出して、超音波で動きを封じる。
かつて、何度となく魔物討伐を行った経験のある歴戦の竜騎士だからこそジン・バハルはそれらを対処することも出来たが、それにしても恐るべき手数である。姿こそ醜いが、まるで白き一団のリーダーのようなことをするとジン・バハルは感じた。
『シップー、絶対に近付くなよ。召喚体じゃないお前は喰われたら終わりだ』
「ナーゴ」
シップーもジン・バハルの言葉に素直に従い、高速移動をしながら鎌鼬攻撃を行うことに注力していた。もっともシップーはジンライと共に戦うことを前提として高速機動用に生み出された猫だ。単体では攻撃力は期待できず、目の前の化け物の注意を引くことぐらいしか出来ないようではあった。
そして、ティアラも今は炎の騎士団を統合した最大出力の炎の有翼騎士だけで戦っている。フレイムランスの威力は高く、それなりのダメージは与えられている。しかし、肝心のマリーがそれを苦にしている様子はない。
『しかし、こいつは……まさかとは思ったが』
ジン・バハルは注意深くマリーの様子を見ながら呟く。おかしいとは思っていたが、もはや確定的であるとジン・バハルは結論づける。
(こいつ、再生してやがる!)
どうにも妙ではあるとはジン・バハルも思っていたのだ。
あの白熊ゴーラを盾にしていて、体内にいる魔物たちを使って吸収したり防いだりしたとはいえ、ルイーズのジャッジメントボルトに耐えきったというのがそもそも妙な話だったのだ。悪魔でなくともアレで死なないなど、闇の森の魔物クラスでもなければあり得ない。ドラゴンだって直撃では死に瀕する可能性があるのだ。
その上に今ではもう何事もなかったかのように動いている。キメラ種としての特殊性がカモフラージュになっていたが、喰らった魔物まで再生してまた攻撃を仕掛けてきているのを見てジン・バハルは己の推理が正しいことを確信する。
(あのクマも再生能力を持っていたようだが、こいつもか)
ここまで与えたダメージも蓄積された様子はない。ジン・バハルは自分の戦い方が間違っていたことに気付き、舌打ちをする。
(だとしてもだ。問題はどうするかだが……)
このまま再生力が落ちるまで叩き続ける以外にジン・バハルには出来ることがないのだ。先ほど見えた炎の柱。恐らくはライルの放ったものだろうが、あれほどの威力で燃やし尽くせば目の前の化け物も倒せるかもしれない。だが、ジン・バハルは槍使いで、相手を消滅させられるような技はない。
『ジン様。来ますわ』
思案しているジン・バハルにティアラの炎の有翼騎士が声をかける。
『来る? 何がだ?』
そう口にするジン・バハルの真上を何かが通過した。
『味方ですわ』
それは人型の黄金のドラゴンだった。
『いぃけぇえええ!!』
黄金の竜気を纏った完全竜化の弓花が、ジン・バハルより伝授された暴風を纏わせた広範囲ダメージの槍術『風神槍』を用いて特攻する。
「ドラゴンぢゃんも好ぎぃぃいッ! ブッギャッポォォオオ!?」
そして肉塊マリーの左肩部分をごっそりと削り取った。
『相変わらず、人間止めてやがるな。ユミカは』
そうしみじみジン・バハルは言う。さきほど見たライルがドラゴンの力を得ていることには竜騎士であるジン・バハルも気付いていたが、弓花は完全にドラゴンそのものである。そして弓花は、そのまま地面に土煙を上げながら降り立った。
また、その土煙の中から何かの輝きが見えたかと思えば、雷を纏った槍が投擲される。それはアダマンチウムの槍の『雷神槍』だ。
それがマリーの身体を貫通する。そして、ジン・バハルもそれを座して見ているわけではなかった。
『喰らえぃっ!』
続いてジン・バハルが特攻しながら放った『風神槍』もマリーに的中する。そのまま右半分も弾け飛び、ジン・バハルは弓花の前まで突き進んだ。
『遅くなりましたッ!』
弓花の言葉にジン・バハルは首を横に振る。
『そんなことはない……が、ライルはやったのか?』
ジン・バハルの問いに弓花は頷く。それにジン・バハルは『良し』と頷いた。そしてマリーに視線を移し、口を開いた。
『手短に言う。奴はキメラ種で再生能力を持っている。さっきから攻撃しているが、再生が止まる様子がない』
そして今も、すでにマリーの肉体は再生が行われてあらかた修復していた。
『うわぁ、あれもさっきのシロクマと同じですね。外から魔力が送られてるタイプだわ』
『何?』
ジン・バハルの驚きの声に、弓花が『今もルイーズさんが対応中なんですけど』と答える。完全竜化弓花ならば、ライル同様に力の流れを読む『竜眼』を使用できる。そして上空の赤い月からマリーに魔力のパスが出来ているのが確認出来ていた。
「ビッガビガのドラゴンぢゃん、あだじと一緒になりまじょぉ!!」
軟体生物の触手がマリーから放たれたが、それは遠くから放たれた矢によって防がれた。
「ようやく追いついた」
そうエミリィが口にする。無論、今放たれたのはエミリィの矢だ。エミリィが振動破壊の竜弓術『滅竜』により、弓花たちに迫る触手を破壊したのである。そして放ったエミリィに弓花は手を振りつつも、ジン・バハルに話し続ける。
『あのシロクマはライルが燃やし尽くして動けなくなったところをルイーズさんが今も封じてるんです』
『じゃあこっちはどうする?』
ジン・バハルの問いに弓花が唸る。
(私のブレスでもさすがにアレを燃やし尽くすのは無理か)
ユッコネエと同様に黄金の高温ガスブレスを吐くことが弓花には出来るが、マリーを燃やし尽くす前に竜気が尽きてしまうだろう。であればどうするか?
その答えを弓花はティアラに見いだした。
『……いけるか。いや、やるしかないか』
弓花は離れた場所で戦っているジンライを見る。遠目でしか見れないが、もはや人外の戦いとなっている状況のようで弓花はジンライには頼れない。であれば、今ある戦力でやるしかない。
『どうしたユミカ。何か、思い浮かんだのか?』
ジン・バハルの問いに弓花が頷く。
(実戦ではまだだけど、呼び出して力を使うことまでは出来ていたハズ。今はそれに頼るしかない)
そう弓花は考え、決断した。
『馬車の近くまで一旦後退します。そこでティアラと合流して』
そして弓花は言う。
『紅玉獣ルビーグリフォンを呼び出してもらいます!』
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv3[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』
風音「……アンタ、今私の背中で屁をコかなかった?」
直樹「こ、コいてねえよ」




