第四百一話 群れを突っ切ろう
イッセンマンバッファローの群れに向かって七色の閃光が無数に放たれていく。その一撃で数十を超えるイッセンマンバッファローが吹き飛び、その群れの中心部に亀裂が走る。さらにその亀裂に向けて地面を這うように紫の稲妻が特攻していく。
(派手だな。たくよー)
そして稲妻の中にいる直樹がそう嘆息する。風音が呼び出した神竜帝ナーガの『セブンスレイ・オーバーキル』は10日に一発しか放てない大技だが、風音はここで出し惜しみをする気はないようだった。風音はただこの一点を突破することに集中し、正面の群れを見ていた。
対して攻撃されたイッセンマンバッファローの群れは、実のところ光りながら盛大に轟音を響かせて走るサンダーチャリオットに興味を惹かれて集まってきていた集団だった。
彼らはこの高原で動いているものを発見すると集まって追う習性があるのである。そして、音と光の正体が人間の乗り物だと知れば彼らは一斉に突撃して殺し喰らおうとするだろう。それが自然の魔物というものだ。
だが突然喰らった先制攻撃に、巨大な威圧。何とも恐ろしいものがその先にいるとイッセンマンバッファローたちは感じていた。恐怖がよぎり、歩みも遅れた。だが止まらない。
普通の魔物であれば、その時点で身の危険を感じて逃げるだろうが、イッセンマンバッファローたちはその駆ける足を止めることはない。
時にはその判断で自分たちが全滅しようとも、強大な敵には全群で特攻して跳ね退け、時にはドラゴンすらも打ち破るのがイッセンマンバッファローという魔物であった。故に今回も例外なく彼らは突撃していく。
後先など考えない。充血した目で、激突に命を懸ける。そして全身が真っ赤に染まっていく。それはスキル『赤体化』による現象だった。
(あーまたスキル被りだなぁ)
その様子に風音は眉をひそめる。イッセンマンバッファロ-のスキルが風音がこの前の戦いで手に入れた『赤体化』であると気付いたからだ。
『赤体化』は魔物のみならず、体術家の職業でも修得可能な比較的ポピュラーなスキルである。もっとも、だからといって闘わないという選択肢はない。ここから蹴散らして進むのみである。
「タツオ、右側から近付く魔物をメガビームで倒して。ユッコネエは左側をスキル『スパイダーネット』で対応。ふたりとも足を狙ってね」
『了解です』「うにゃっ」
風音の指示にタツオとユッコネエが返事をする。あれだけの特攻だ。その足をもつれさせるだけで、後続にまで多大な影響を及ぼすだろう。また、そう指示をする風音に、正面で御者席に座っている直樹から質問が飛ぶ。
「そんじゃあ姉貴はどうすんだよ?」
もっともな質問だが風音もそれにはあっさりと答えを返す。
「私はテキトーに片付ける」
そして風音は天使の羽を広げて飛び立った。その行動に迷いはまるでない。
「おいおい、無茶すんなよ……ってもう止まらないな、姉貴は」
無理をしているようだと直樹は感じた。弓花からの連絡こそノンビリめだが、現時点においてティアラたちの生死は不明のままだ。焦りがあるのは直樹も同じだ。
(さっさと追いつかねえとな)
そう思いながら直樹はヒポ丸くんをさらに加速させる。無茶をする姉のフォローをするのが自分の役割だとばかりに目の前の敵を睨んだ。
「ま、ここで出会ったのが不幸だったと諦めてくれ。魔物相手じゃ同情もする気にはならないけどな」
そしてイッセンマンバッファローの群れへと紫の稲妻が激突する。直樹が叫び声をあげながら、片手で手綱を握り、まるで縫うようにイッセンマンバッファローの群れを進んでいく。正面衝突は危険だが、数の多さはどうにもならない。粘られそうなら直樹が切り裂いて、跳ね退けさせる。タツオとユッコネエの足狙い攻撃も効果ありだ。タツオのメガビームは強力で牛たちの足を切り裂き、ユッコネエも前足をにゃんにゃんと振るって猫なでパンチを繰り返しながら『スパイダーネット』を射出しまくって牛たちを転倒させていた。
そして足が切られて、或いは絡まってもつれて転ぶイッセンマンバッファローに後続が次々とぶつかり牛たちの山が出来る。勢いあるイッセンマンバッファローはソレを突き抜け飛び出していくが、サンダーチャリオットはその頃にはとうに先に進んでいる。
そして風音は風音で直樹やタツオたちがフォローしきれない相手を見つけてはスキルの『スパイダーネット』で足をからめ取ったり、マテリアルシールドで跳ね返したりと牛たちの突進を妨害していく。
そこに何体かの黒毛の牛たちが飛び出してくる。クロゲワギュウクラスと呼ばれる美味しい連中だが、風音はそれを涙を拭って倒していく。スキルウィンドウが開き『食材の目利き』が点滅している。それはまるでお肉がただ倒されて放置されていることに嗚咽しているようであった。
だが風音はソレを無視する。空を飛びながらブーストで特攻し、トンファーをひっかけさせて転倒させ、蹴りを放ち、マテリアルシールドで飛びかかる二頭を同時に弾き、さらには並みいる牛たちの頭部へと蹴りを繰り出していく。そして『キックの悪魔』スキルの効果で両足が真っ赤に染まり10コンボ目に地面スレスレから真横に『蹴斬波』を蹴り放つと十数体というイッセンマンバッファローの足が切り裂かれてその場で崩れていった。その光景は圧巻の一言に尽きる。
「よし、群れを越えたッ!」
直樹がそう叫んだ。イッセンマンバッファローの集団を斜めに切り裂く形で進んでいた『這い寄る稲妻』がようやく群れの横断を終えたようだった。
「おーしっ、そんじゃ撤収ッ!!」
そしてブーストや空中跳びも繰り返しながら戻ってきた風音の言葉に従い、直樹たちはその場を一気に走り去る。
何匹かのイッセンマンバッファローがUターンして追いかけようとしたが、後続のイッセンマンバッファローと激突して列は乱れて、追うことは叶わなかった。
その間に風音たちの姿はイッセンマンバッファローたちの視界から消えてゆく。だが、群れのすべてが追うのをあきらめたわけではないようだった。
「撒いたか?」
「いや、そうもいかないみたいだねえ」
直樹の言葉に後ろを見ながら風音がそう返す。その視線の先には土煙を上げてこちらに向かう牛の姿があった。
後ろから猛烈な勢いで近付いてくるそれは一頭の巨大な牛、いや背にはさらにもう一頭の牛を乗せて突進してくる二頭のイッセンマンバッファローであった。それは超重量級のイッセンマンバッファローにさらにもう一頭のイッセンマンバッファローが乗っているのだ。それはつまりニセンマンバッファローである。見る限りその速度もパワーも二倍に上がっているようだった。
「え? なんで背中に乗ってて速く?」
直樹は混乱している。無理もないことだ。だが今この場においては常識などなんら意味を持たない。
「直樹、ふざげてる場合じゃないよ。手綱をしっかり握ってて!」
風音の言葉に直樹は釈然としない顔のまま気を引き締めて前を向く。
「けど、どうすんだよ姉貴?」
「どうするって、相手が勝手に突っ込んでくれるんだからキチンと応対してあげるに決まってるでしょ」
そう言って風音は翼を広げて飛び上がる。
紫電結界の範囲内なので風の影響なども受けずに風音は馬車の上で浮遊する。ドラグホーントンファーにはすでにファイアブーストを装填済み。準備は整っている。
そしてスキル『赤体化』が発動した。それは全身の肌を赤く染め上げ、体力を消耗させながらも身体能力を強化するスキルである。直樹の『狂戦士』の下位スキルではあるがデメリットは興奮作用ぐらいと少なく使い勝手は悪くない。しかし、風音のウィンドウのステータス画面では減っているのは体力ではなく魔力であった。
(相変わらずリジェネレイトが働いてるなぁ)
そう風音は考える。今の風音は体力が減ることで魔力を消費しながら体力を回復し続けているのだ。つまりは早々に倒さないと魔力垂れ流しということである。さらに風音はスキル『チャージ』で攻撃力を増幅し、スキル『ブースト』とトンファーから発した『ファイアブースト』を用いてその場から一気に加速して飛び出した。
それはまるで、サンダーチャリオットから巨大な砲弾が発射されたかのようだった。そして風音は己の脚部に集中し全身全霊を込めてスキルを発動させ、
「スキル・キリングレーーーーッグ!!」
そのままニセンマンバッファローと激突する。
通常の二倍のパワーとスピードを持つニセンマンバッファロー。その上に乗っている牛は片角が異常に大きく、太く伸びていた。だがそれに相対する風音の脚甲の先にあるのは黒岩竜の爪だ。そして竜爪は風音と共に成長し、より強固になっている。
故に風音は止まらない。威力も速度も風音はニセンマンバッファローを超えている。さらには今回、発生率の低さによりほぼ忘れられているスキル『噛み殺す一撃』までもがボーナスで発動していた。
風音は激突した大きな角を折り、そのままニセンマンバッファローの肉体を破壊していく。
それはそれは凄まじい破壊力だった。その威力により、上に乗っていた牛は完全に粉砕されて角しか残らず、乗せていた方の牛も併せて頭部が破壊された。
そして風音は頭部だけを破壊されて死んだ下の牛を見るとアイテムボックスから食斬刀を取り出した。その場で崩れ落ちるニセンマンバッファローを一気に切り裂き、『食材の目利き』を使って最高級の霜降りの部分を切り分けていく。
そうして手に入れた肉を水晶化すると地面に突き刺さった巨大な角と一緒にアイテムボックスへと仕舞うと、すぐさま停車していた馬車へと戻ったのである。
今夜はステーキだ。
なお、この戦闘で風音はレベル40へと上がっていた。それはつまり風音にもスペリオル化の選択肢が発生したということである。そして、その選択ウィンドウが風音の目の前に出ている。そこには……
・無色の竜帝(竜族)
・千技の魔王(人間ベース)
・光輪の天使長(天使族)
・進化の魔獣王(キメラ種)
(……あかん。これ、完全に人の道を絶たれた)
なんだかヤバい選択だけが表示されていて、風音は「あー」という顔をしていた。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:40
体力:156+20
魔力:378+520
筋力:81+45
俊敏力:83+39
持久力:45+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』『友情タッグ』
直樹「これってボスの職業じゃないか?」
風音「あーマジにそうだわ、これ」




