第三百九十九話 ルートを決めよう
弓花たちがボルジアナのピエロの結界に捕らわれている一方で、その間に風音たちが何もしなかったのかと言えば、当然そういうわけではなかった。
直樹の帰還の楔が24時間経たなければ使えない以上、別の手段で向かうことを風音たちは考えていたのだ。かといって24時間以内にトルダ温泉街とジランの街の間に行くというのは通常の移動手段では不可能な話だ。
そもそも、街々を経由して休息をとり、魔物退治も行ってはいるが、弓花たちはカザネ魔法温泉街からそこまでに到達するのに一週間はかかっているのだ。
直線距離ならばいざ知らず、風音のサンダーチャリオットでも道の上を通ったのでは時間内に到達するのは不可能である。であれば、直樹の帰還の楔で転移した方がマシだ。
だとすれば、どうするか。
その答えは風音の竜体化であった。
◎ツヴァーラ王国 ジリティア山脈
「うぉっ、さみーな」
「にゃー」
直樹の言葉にユッコネエが同意する。実際、寒いなんてモノではないはずだが、直樹たちの周囲には風の加護の防壁に、直樹自身は周囲に炎を起こす紅蓮のマントを纏い、ユッコネエも自身の黄金の体毛を燃やして暖をとっていた。そのふたりのやりとりを聞いていたタツオがくわっと鳴きながら尋ねる。
『叔父上はそのマントがあるから暖かいのではないですか?』
そのタツオの問いに直樹は苦笑しながら答えた。
「んー、つっても顔の部分はさみーのよ。顔も全部覆っちゃうと前見えないしなあ。まあ、タツオは青竜だし、寒さには強そうだよな」
『そうですね。心地よい感じです』
直樹の言葉にタツオは素直に頷いた。どうもタツオには寒さに対する耐性があるらしい。
元々タツオは氷属性の青竜である風音の因子を受け継いだドラゴンである。メガビームが強力でソレばかりを使ってはいるが、タツオはクリスタルドラゴンであり、氷を司る青竜でもあるのだ。
『むー私の背中で楽しそうにお喋りとか』
「あ、ワリー姉貴」
風音の言葉に直樹が素直に謝る。
その風音の声は直樹たちの前方から聞こえてきた。
そして直樹たちの左右には鳥類の翼がはためいていた。さらに直樹たちの座っている下は青色の鱗が並んでいた。そこには虹色のオーラを煌めかせる水晶を生やした青いドラゴンがいた。つまりは直樹とタツオ、ユッコネエは竜体化でドラゴンとなった風音の背の上にいたのである。
『そんで、方角はこっちでいいんだよね?』
「ん、問題なし。ユッコネエ、高さもオーケーか?」
「にゃー」
風音の問いに地図を広げている直樹がそう答えて、直樹の質問にユッコネエも頷いた。
風音も直樹もウィンドウのマップを一緒に開いているが、直樹の見ている物理的な地図は飛竜便や竜騎士など竜使いが用いている魔力の川と呼ばれる自然魔力の通り道を示した地図である。
ドラゴン等を含む空を飛ぶ魔物などはこの魔力の川の濃い場所を渡って進む生き物なのだ。またドラゴンの平均速度は大体時速120キロ程度である。風音は天使の腕輪の力で通常よりも速度は出せるが、それでも時速140キロ程度でサンダーチャリオットと変わらない。なお、小型竜船は時速100キロでさらに遅かった。
そして当初の予定では、魔力の川の流れと山脈の迂回も考慮して10時間でたどり着ければ早いだろうと風音たちは予測していた。また現在は夜間ではあるが、ユッコネエがスキル『夜目』を使って、周囲を見渡しながら山などにぶつからないよう警戒して進んでいた。
だが、それももう必要がなくなったようだった。
「おお、綺麗だなあ」
『すっごい光ってます』
「にゃっにゃー」
直樹たちの視線の先、雲の中から朝日が上がってくる。
『朝か……』
そう風音は呟いた。夜通し飛ばしてきたのだ。風音もここまで長時間の竜体化は初めてで、疲れも溜まっていた。気を抜くとぐらつくのを気力で抑えている状態だ。
ここまでに弓花からの連絡は一時間ごとに行われている。夜が明けたと同時にツヴァーラのジランの街に駐留しているグリフォンライダー部隊も、ジランの街からトルダ温泉街の街道付近の捜索に出るらしいとはアオから連絡があったので今頃は街を出発している頃だろうと思われた。
(弓花によれば敵の動きは今は止まってるって話だけど)
ティアラたちの状況が分からない。ユッコネエはシップーがまだ生きていることを何となく把握しているらしくジンライは無事だろうとは思われた。
「姉貴、正面に開けた場所がある。そこで一旦休憩しよーぜ」
『うーん、けど。いや、了解』
まだ行けると言おうと風音は思ったが、その気持ちを抑えて休むことに決めた。まだ道のりは半分程度。やはり夜の移動は慎重に進まざるを得ず、予定よりも大きく遅れていた。
ならば早くという気持ちもあるが、疲労によって倒れては元も子もない。そうした自己管理や自制の心も冒険者として過ごすウチに風音は身につけていた。お金の管理についての自制は除くが。むしろ、そちらは悪化していたが。
ともあれ風音は翼を広げてゆっくりと、そこに下り始めた。
◎ツヴァーラ王国 ジリティア山脈 麓
「よーし、出来た。姉貴、ほらよ」
「ん、あんがと」
風音が直樹からコーンスープのカップを受け取る。
ジリティア山脈の麓に下りてから風音たちが休憩に入ってもう30分が経過していた。風音コテージを出すには時間がかかるため、今は風音が作った風を防ぐ程度の簡易コテージの中での休憩となっている。
『美味しいですね』
「にゃーー」
ユッコネエとタツオも横でスープを飲んでいる。
「思ったよりも時間がかかるもんだな」
そしてスープを飲みながら直樹がそう口にする。
その言葉には風音も頷いた。当初考えていたよりも移動に時間がかかっている。それは夜間飛行だったこともあるし、魔力の川の移動は思いの外、不安定で移動速度にもムラがあるためだった。風音自身の疲労の問題も当然ある。
またミンシアナとツヴァーラは山の多い土地だ。高い山脈は迂回が必要だし、下手に飛行系魔物の多い地域に飛び込んで時間をとられるわけにも行かない。
「日も出てきたし、ここからは飛ばせるだろうけど、正直飛行は疲れるね」
風音は己の体調を踏まえてそう口にした。早く進みたいが、己の体調を無視するわけにもいかない。無茶は出来ても無謀は出来ない。頑張ったからとイイワケをして仲間を殺したくはない。
「そうなるとやっぱり、地上ルートの方を考えてみる?」
「うん。魔力の回復も必要だし、そうしようと思う」
直樹の問いに風音がそう返す。今二人が話しているのは、ジリティア山脈を超えた先、ヴェッサ高原の移動手段のことである。
このまま、風音がドラゴンになって進んだ方が速いのは間違いないが、風音の体力の方に不安が出てきている。そのことは当初から考慮しており、比較的平坦であるヴェッサ高原はサンダーチャリオットでの移動も最初の移動ルートを決める際に検討案件にはなっていた。そして、実際にここまで来て風音は自身の休息を必要としていた。ならば地上ルートだろうと直樹も考え、風音も同意する。
しかし問題もあるのだ。
「ただ、イッセンマンバッファローを回避するのは難しいだろうね」
「やっぱりサンダーチャリオットでも難しいよな?」
風音の言葉に直樹がそう尋ねる。
「『這い寄る稲妻』ならいけるだろうけどね。ずっとやってるわけにもいかないし、まあダメならそっから飛んでくしかないか」
ヴェッサ高原。そこは重量級であるにも関わらずすさまじい速度で攻撃を仕掛けてくる魔物イッセンマンバッファローが大量に生息している、人が踏みいることが難しい地であったのだ。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:39
体力:155+20
魔力:363+520
筋力:78+45
俊敏力:80+39
持久力:44+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』
風音「弓花はとりあえずは休憩も済んで周りを探ってるけど、やっぱり同じとこをぐるぐるしてるっぽいってさ。穴も掘ったけど土以外はでなかったって」
直樹「やっぱり槍が消えたっていう穴を探すしかないんじゃないか?」
風音「けど、それも今は感じないって言うしね」




