第三百九十三話 本気の目になろう
「これがランクSの攻撃かぁ」
パーティ『流星の雨』のヴォッカが戦闘終了後のその場の光景を見ながら呟いた。
さきほどの砲撃がどれほどの威力だったのかは目の前の文字通り挽き肉となってしまった肉片を見れば想像はつく。それは凄まじいの一言に尽きた。
ハン・モックたちの力でブルートゥザが3匹立ち並んで停止していた、あの瞬間。ヴォッカの矢は確かにブルートゥザに当たりダメージを与えることは出来ていたのだろう。自分でも会心の一撃だったとは思っている。エミリィの矢も武器の性能に助けられてはいたがその威力はヴォッカに負けてはいなかった。弓花たちの雷神槍はその武器の威力の分、さらに強力なモノだった。そのいずれもが並の魔物相手ならば必殺の力を秘めた威力であったのは間違いない。だがジンライの放ったソレはもはや別次元のシロモノだった。
あの轟音と破壊力を思い出して、ヴォッカは思わず身震いをした。
「ハッ、考えたら負けっぽい感じだよな。あれは」
頭をかきながらヴォッカはそう呟いた。
冒険者のランクは最高でAまで。そしてその上に行くには人の力では本来到達できない何かを手に入れなければならないと言われている。
その一端をヴォッカは初めて目撃した。だがこの若い冒険者はそれで納得したわけでも満足したわけでもない。目標が定まったことを喜び、そして(自分もいずれはあの領域へ……)と考えて頷き、ほかのメンバーの元に戻っていった。ブルートゥザの素材回収はまだ終わっていない。こうしてぶちまけた分、手間もかかっているのだ。
そして今、彼らが回収しているブルートゥザの主な素材は頭部の、盾のような骨格部分である。それは実際にブルートゥザが見せたように硬く、物理攻撃をはじき、魔力を散らす能力もある。直樹の持つ魔法殺しの剣ほどではないが、盾、鎧にすれば魔術の攻撃をかなり軽減することができるようになる。特に盾メインのハン・モックら『シールド・バース』はこれで強力な盾を造ってもらうつもりだと意気込んでいた。
ちなみにではあるが、ブルートゥザはその骨格部分だけではなく防御用のスキルも接触の際に発動してもいる。その名を『イージスシールド』と言い、つまりはダブリだったので今回風音はスキルを手に入れられなかったようである。風音は自分のスキルウィンドウを見て何も追加されてないことに首を傾げていたが、つまりはそういうことである。
また、ザウルス系統のブルートゥザにはドラゴンにはある『竜の心臓』のような無機物のコアはなく、心臓部に有機質系のコアがあるのみである。この有機質のコアは魔物が死ぬと一気に劣化して腐ってしまうため、ドラゴンやゴーレムなどの無機物のコアでなければ素材として手に入れることは出来ない。その他にとれる素材は皮と肉に、骨にもある程度の物理と魔法耐性が備わっているようなのでそこそこの値段で売れるようであった。
なお、今回の魔物の素材の取り分は白き一団が2匹、各パーティ1匹ずつという分け方となっている。
そして白き一団の取り分は最初に撃たれてボロボロになったブルートゥザではなく、最後に穴から出てきた二体である。特にタツオが仕留めたブルートゥザはほぼ原型のままの綺麗な形をしていた。
この二匹については最初の落とし穴から最後に仕留めるまですべて白き一団だけで動いて倒した相手なので、当然文句など出ようはずもなかった。また最大の換金素材である頭部をそれぞれ分配させているので他のパーティの実入りも大きく問題にもならなかったのである。
「にゃー」
「なーご」
そして素材を取っている横ではユッコネエとシップーの巨大猫二匹が一緒にブルートゥザの肉を食べていた。それをジンライがうんうんと頷きながら満足そうに見ている。身体的変化はないようだが、防御力と魔力耐性くらいは上昇しているかもしれない。離れた場所では地竜のマルクスもハン・モックから与えられたブルートゥザの肉を食べていた。こちらも満足そうであった。
しかし、そんな和やかな雰囲気ではない空間もそこには存在していた。
『母上、私はこの肉を食べます!』
「なんだってーー!?」
くわーとタツオが主張し、その前に立つ風音が動揺していた。今まで風音の言葉に常に素直に従ってきたタツオが、たった今、風音の言葉に従わずにそう口にしたのだ。
『私はこのブルートゥザの肉を食べます。それが私が初めて食する肉となるのです!』
そうタツオは風音に言い放った。
実のところ、タツオももう生まれてから3ヶ月となる。それはアオに言われていた魔力体から変じたモノが物質として安定する時期に当たる。つまりは今までは風音の竜気で養われていたタツオがついに自分で食事をとることが出来る時期が来たということだったのだ。だが、風音としてもタツオの成長についてはナーガと共にじっくりと話し合っていた。
「でも、タツオ。私は旦那様とちゃんと相談してメニューも考えてるんだよ。ちゃんと、タツオの成長のためにさ。ね?」
オロオロする風音にタツオは力強い意志を持った瞳を持って答えを返した。
『これだけは譲れないのです母上。ドラゴンたるもの、施しだけで生きていて良いわけがない。最初の一口は、自分で狩り取った獲物をこそ食したいのです。それが神竜帝ナーガと神竜皇后カザネの息子である私の矜持なのです!』
再度くわーっとタツオが鳴いた。その言葉に風音は涙目だ。
(どうしよう。タツオが反抗期になってしまった。おお、どうしよう。これは旦那様に相談を)
オロオロオロオロとする風音の肩に、トンと誰かの手が置かれた。それにビクリとした風音が手を乗せた相手を見ると、そこにいたのはジンライだった。
「ジンライさん?」
そして涙目の風音にジンライがニッと笑って告げる。
「カザネよ。認めてやれい。タツオはここに来るまでにずっと考えておったようだぞ。そうだな、タツオ?」
そのジンライの言葉にタツオは強く頷いた。
『はい、シショー。私は母上を守れる強い男になりたいのです。そのための第一歩がこのブルートゥザなのです。あの力を手に入れて私は母上を護るのです!』
両手をあげてくわーと鳴くタツオに風音は目からこぼれた涙を拭う。その決意に打たれた風音も納得して頷いた。
「うん。分かったよ。だけど、お肉については私に取り分けさせてくれるかな」
風音の言葉にタツオがジンライを見る。それが漢としてセーフかアウトか、タツオにはまだ判定が出来ない。だがジンライは頷く。男子足るもの、母の愛情の込められた料理を残すことなど言語道断。母の愛を甘んじて受け、そして血肉とせよ!とジンライは目で訴え、それにタツオも頷いたのだ。
ソレを見て満面の笑顔を浮かべた風音はアイテムボックスから黒岩竜の牙で出来たナイフを取り出す。
「うん、それじゃあ待ってて。最高の一品を渡してあげる!」
そして風音が取り出した素材取り用の最高級の刃物が、主のやる気に反応してその形状を進化させていく。
(ふふ、そう。力を貸してくれるんだね)
魔物素材は主と共に進化する。そして生まれたのは『竜牙の食斬刀』。風音の意志を反映し、あらゆる形状に変化し、あらゆる食材に対応する刃がここに誕生する。なお、戦闘用ではないので食材以外は切れない。さらに言えば風音の料理の腕は普通、弓花曰くちょっと大雑把という程度だ。もったいない。
そして風音自身にも変化が起きた。風音が目を凝らし、ブルートゥザを見ながら決定的な部位を探す過程で『食材の目利き』がLv3へと進化したのだ。
その能力は『食材の活性化』。風音は『食材の目利き』によって部位を見極め、食斬刀によって最高級の部位であるエンジェル・ラダーを的確に切り取ると、その肉を自身の手の平に乗せた。その乗せられた肉は『食材の目利き:Lv3』による風音の愛情を受けて活性化していき、それはまるで黄金のような輝きを帯び始めた。さらには風音は肉と共に、取り出した丸いメロンのようなモノも共に切り分け、不滅の食器に乗せてタツオの前に出したのである。
「さぁ、おあがりよっ!」
その言葉にタツオもくわーと鳴いた。母の愛情が詰まった生肉となんだか分からないモノのぶつ切りである。そのご馳走をタツオは一気にかぶりついた。
『これが母上の手料理なのですね!最高です!!美味しいです!!!』
そしてタツオがボロボロと泣きながら食べていく。
人生初の食事は母親の切り分けお肉と切り分けなんだか分からないものでした。生肉だがタツオはドラゴンだ。まったく気にせずにモグモグと食べる。なんだか分からないものもシャクシャクとして美味しいようだ。
そのタツオの食する様子を見て頷くジンライだったが、謎の添え物を見て、それが見覚えのあるモノであることに気付く。
「カザネよ。一緒に出したあの植物はまさか?」
「うん。ドラゴンイーターコアだよ。旦那様と相談して、最初はソレって決めてたんだよね」
ドラゴン最大の弱点であり天敵であるドラゴンイーター。その耐性をつけるためにとナーガと風音はまずドラゴンイーターコアを最初にタツオに食べさせようと考えていた。成体になってからコアを食べても耐性がつきにくく、幼体のウチに食べたものの方が影響を受けやすいのだ。出来れば早期に弱点を潰しておきたいとナーガと風音は考えてその食材を選んでいた。
「ま、肉だけではなく野菜もバランス良く取らないとね」
「そういう問題かね」
そしてタツオがすべてを食べ終わりくわーと鳴くと、その身に纏っていた黒炎の偽装黒竜装備がすべて弾け飛んだ。それには風音もジンライも驚き、ほかの面々も風音たちの方に視線を向ける。
そして、その中心では光り輝くドラゴンの幼体の姿があった。
『パワーが満ちあふれてきます!!』
「タツオ、その姿は!?」
風音はタツオの姿が変わったことを把握する。
タツオの元々の透き通るような青い鱗はさらに際だった青へと変わり、関節部などに限定されて覆われていた水晶は全身を覆う鎧のようになっていた。さらには水晶の二本角は太く伸び、ソレとは別に前面へと突き出た三本目の水晶の角も生えてきていた。何よりもその全身から発せられる輝きが以前とは違う。より鮮明になった七色の光がそこにはあったのだ。
それは、生まれてから姿を固定されていたタツオの成長がいよいよ始まったという証でもあった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:39
体力:155+20
魔力:363+520
筋力:78+45
俊敏力:80+39
持久力:44+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv3』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』
風音「おお、息子よ。立派な姿になって」
弓花「アンタの姿見てると冗談のように聞こえるけど、素の言葉だよね」




