第三百九十一話 誘導をしよう
本日でまのわ一周年にございます。
これからもよろしくお願いします。
大地の揺れる音がした。
木々の倒れる音が木霊した。
複数のうなり声が響きわたった。
そこに巨大な魔物が存在していた。
今やユイヘサルの森の主のごとき存在となった5体のブルートゥザがそこにいた。
全長15メートルはある巨体を振るわせながら、彼らは森を闊歩している。生えている木々など彼らのパワーを前にしては意味をなさず、メキメキと折られていく。そして何十本もの木々が倒れている道が彼らの背後にはできていた。
彼らブルートゥザの狙いはこのユイヘサルの森に生息している赤い熊『ブラッドベア』である。
闇の森から出てきた『巨大な化け物』に餌場を奪われたブルートゥザはこの東の森に餌を求めてやってきたのだが、それは成功だったと今の彼らは満足していた。
今の彼らの主食となっているブラッドベアは獰猛ではあるが、ブルートゥザの敵ではなかった。またブラッドベアはこれまで森に天敵も存在していなかったために、ブルートゥザ相手でもすぐさま逃げようとはせずに、時に戸惑い、時には立ち向かってきたりもした。そんな愚かしい魔物たちも今はブルートゥザの腹の中だ。
もっとも、多少暴れすぎたのか、ここ数日は餌が少なくなっていると感じている。あるいは居場所を移動したのかもしれない……と。
そのため、そろそろ狩り場を動く頃合いかとブルートゥザたちが考えているところではあったのだ。その奇妙なものを目撃したのは。
◎ツヴァーラ王国 ユイヘサルの森
「ほー、でっかいねえ」
思わず風音がそう声を上げた。
天使化により白き翼で大空を舞う風音は、木々をなぎ倒しながら進んでいく、その恐竜の姿を確認して思わず身震いしてしまった。それほどに大きく荒々しく感じられる様子だった。
これまでに風音が見てきた中では、巨体と言うだけならば全長30メートルの蒼穹竜パイモンの方がもっとも巨大ではあった。だが15メートル級が5体も並んで森の木々を倒していく様はそれはそれで圧巻であったのだ。さすがにゲームで見たときとは違う、生の迫力がそこには存在していた。
『どうしますのカザネ?』
風音の横で飛んでいる召喚体の炎の有翼騎士から、ティアラの声が響いてくる。他にもルイーズのライトニングスフィアとテラスの召喚妖精『シルフ』が一緒に飛んでいる。彼女らは風音と共におとり役をやるように編成されたチームである。
「とりあえず一発ぶつけてこっちに興味を引かせてみよう」
風音はそう言って、ブルートゥザの前へと飛んでいく。
それにブルートゥザたちも気付いたようだ。ブルートゥザから見れば小さな空飛ぶ猿が降りてきたという認識だが、見た目に反して魔力値が大きいことは感覚で理解できる。妙な迫力がにじみ出ているが、しかし良い餌だとブルートゥザたちは認識したようであった。
「各自、ブルートゥザの届く高さまで降下。私の攻撃と共にUターンして逃げるからそのつもりでっ!」
そして警戒しながら興味深そうに見ているブルートゥザに対して風音はスペルのファイア・ヴォーテックスを放った。それは頭部を覆う盾のような骨格を前に霧散するが、だが風音の攻撃意志は感じ取ったようである。
「グルゥォォオオオオオオ!!」
故にブルートゥザたちが一斉に叫び声をあげて、そのまま風音たちの元へと走り出す。
風音の放ったのは魔術。そしてブルートゥザのその盾のような頭部の骨格は魔法ですら弾く。ドラゴンのブレスに対抗するために進化したソレに自信のあるブルートゥザたちは、相手の攻撃手段を知り問題なしと襲いかかることにしたのだ。
「よし食いついた。逃げるよ!!」
それを見て風音たちはすぐさまUターンして、目的地へと向かい始める。そしてユイヘサルの森の中での命を懸けた鬼ごっこの開始となったのであった。
**********
「始まったか」
ハン・モックがそう呟いた。
昨日はミリティアの町で一泊した彼らは翌朝にすぐさま予定していた森の中の木々のない場所に向かい、すべての準備を整えて現在は待機中であった。
時刻はもうじき12:00、正午となる。
そして今、遠くの方からは何かしらの音が響いてくる。それはおそらくはブルートゥザたちの突進で木々が倒される音なのだろうとハン・モックは判断していた。
「はい。姉貴たちはこっちに向かっているようです」
ハン・モックの横では直樹が操者の魔剣『エクス』を握りながらそう返した。現時点では情報連携も風音との距離がありすぎて使用はできない。だが、直樹は遠見のイヤリングをセットした水晶竜の魔剣を飛ばして、上空から風音たちの状況の確認を行っていた。
遠見のイヤリング単体でもその様子はある程度は見れるが、基本的には距離が離れるほどに見え辛くもなってくる。だがイヤリング同士を中継させることで遠隔視の効果範囲を格段に上昇させることが可能ではあるのだ。その性質と交易都市ウーミンでの経験を元に直樹は魔剣飛行による偵察能力を磨きつつあった。
なお、今この場には風音と共にいる召喚体を操作しているティアラやルイーズ、それに風術士のテラスが一緒にいる。そのため、風音たちの状況を把握しているのは直樹だけではなかったりもするのだが、なにせティアラたちも召喚体を操るので精一杯で報告にまでは気を回せない。今のこの時点でも低空飛行でブルートゥザの攻撃範囲ギリギリを飛んでいるのである。木々を避けながらブルートゥザから逃げるというのはかなりの難易度の高い操作であるのだ。
故に状況確認をし、ハン・モックに報告するのは直樹の仕事となっているわけだ。
そしてこの場には彼らの他に、ユッコネエや、パーティ『シールドバース』のハン・モック以外の盾士2人とパーティ『風使い』全員も待機していた。また、それ以外のメンバーはまた別の場所で待機中で、現在も出番が来るのをジッと待ち続けている状態だ。
「誘導は今のところ順調。後、20分ってところですかね」
そう直樹はハン・モックに報告する。だがその顔は晴れない。他の囮役は召喚体だが風音だけは生身だ。何かあれば命を落とす危険性もあるのだと思うと心配でならない。そして何もせずにジッとしている自分に焦りを覚える。
「にゃっ」
だがそんな直樹に、一緒にいるユッコネエがポンッと肉球を頭に乗せて鳴いた。それは「大丈夫だ」と言っているようだった。それには直樹も苦笑する。どうやらユッコネエにまで自分が心配をかけていたようだと直樹は気付いたのだ。
「分かってるよユッコネエ。この作戦はお前がキモだ。頼んだぞ!」
「にゃーー」
直樹の声にユッコネエが高らかに鳴いた。勝負はもうじき、彼らの出番もそう遠くない内にあるのだ。今は風音を信じて待つのみである。
**********
「うりゃあぁあ」
風音の飛行からのキリングレッグが、目の前のブラッドベアに命中した。急激に現れたチンチクリンからの竜爪を解放した一撃はその場にいたブラッドベアを不意打ち、その首を跳ね飛ばした。同時にスキル『赤体化』を入手したと表記するウィンドウが出るが気にしている場合ではなかった。
「スキル・水晶化」
風音は殺したブラッドベアをすぐさま水晶化していく。残していてはブルートゥザの目がそちらに向かうかもしれない。そのまま食事にでも入られれば誘導した意味がなくなる。それは避けなければならなかった。だが背後からは当然ブルートゥザが迫ってきてもいたのだ。
『カザネ、後ろですわッ!!』
ティアラの悲鳴のような声が響くが、風音もそれは承知のこと。
(あーもう、忙しいなあ)
そう心の中で悪態吐きながら風音は下に降りて両手を地面に着ける。
「スキル・ゴーレムメーカー・でっかいヌリカベくん」
そして、迫ってくるブルートゥザの前に巨大な土の壁が現れた。だが、その直後に壁からゴンッと音がしてヒビが入ったかと思えば、数秒と持たずに一気にブルートゥザが壁を破壊して飛び出してきた。
「あっぶなー」
もっとも風音もすでに距離を取っている。ルイーズのライトニングスフィアが牽制に雷を放ち、その間にさらにブルートゥザと離れた風音は陽炎分身のスペル『フレアミラージュ』を使って分身体を作り攪乱させる。召喚精霊『シルフ』も『ウィンドミラージュ』という風属性の分身体でさらに見た目の数を増やしていく。
そして遊ばれてると思ったのか、ブルートゥザはますます鼻息荒く突進してくるようだった。
『ずいぶんと怒りましたわね』
「はっはー作戦通り!!」
ティアラの言葉に風音がそう返す。
『もうすぐで予定の地点よ』
ライトニングスフィアからルイーズの声が響く。ライトニングスフィアは自身を削って攻撃するタイプの召喚体だ。すでに幾度かの雷攻撃により、その姿は半分ほどになっていた。
「そんじゃ、もうひとふんばりッ!!」
そういって風音たちはブルートゥザに攻撃を加えながらも目的地へと飛んでいく。そして森が開けて、ついに木々のない不毛の大地が見えた。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:39
体力:155+20
魔力:363+520
筋力:78+45
俊敏力:80+39
持久力:44+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『赤体化』
風音「そんじゃ、よろしくっ!」
弓花「うっし、やったるよー!!」




