第三十九.五話 王都に行こう
◎ゼニファー高原
「ぐっすん」
「ほらほらカザネ、元気だして」
石馬ヒッポーくんに乗ってのティアラとの二人旅。
実は昨晩出した花火のことで風音はジンライにむっちゃ怒られていた。あんな風に目立つ真似をしてどういうつもりだと。仲間を殺すつもりかと。そして別れ際にもキツく注意をされていたので絶賛落ち込み中である。
風音も相応の年頃の女の子なのだ。マジで叱られるとスゴくヘコむ。
「うん。大丈夫だからティアラ」
そう涙を拭っている風音を見てティアラは恍惚とした顔をしていた。涎が垂れていないのが不思議なくらいである。
風音もティアラさんではなくティアラと呼び捨てにしていることから昨晩の出来事がかなり心境に変化をもたらしているようだったが、対するティアラのソレは露骨に態度にでるほどだった。具体的に言えば、昨晩は寒いからと風音の布団に入ってきて一緒に寝たり、何かにつけて風音にベタベタと触ったり抱きついたりするようになっていた。
風音としてはティアラが心を開いてくれたことが妙に気恥ずかしくもあり、この世界で出会った同年代の友人を歓迎しているのだが、実際内面がそこまで完全ウェルカム状態であることには気付いていなかった。それに女子の間でもペット的な扱いであることが多かった風音はこの手の扱いをされるのにも慣れてはいたのでティアラの内面の変化に余計に気付けなかったということもある。
横で見ていた弓花が何かを察した顔をしていたが、その場では特に口を出すこともなく、また本日の予定は別行動なので今や完全にティアラの独擅場となっていた。
なお、今後の予定はインビジブルが使えて隠密に動ける風音がティアラと一緒に先に進み、ジンライと弓花は近隣の街に寄って情報を収集して二日後に王都手前の街ジランで合流するという手筈である。
「カーザネ」
「うん、なーに?」
「ただ呼んだだけー」
そういってティアラは抱きつく。ちなみにヒッポーくんに乗って風音の背中に抱きついているティアラの胸はタプンタプンとたいそう揺れながら風音の背中に当たっているのだが、同じ女の風音は柔らかくていいなあ…ぐらいにしか思っていない。実に勿体ない話である。
「もうまじめにしててよねー」
「はーい」
とはいえ、ティアラの意識はその方面をのぞけば好ましい方に改善されていた。具体的に言えば自分から何かを手伝おうという意識が芽生えていた。
薪拾いや料理、ベッドに布団を敷いたりと、色々とこなすようになった。もともと器用だったのだろう。別段手慣れてるわけでもない風音達と同じ程度にはやれるので、普通に役立っていた。
「わたくし、今まで何も知らなかったんですわね。食事もただ出てきたものを食べていただけ。作った人のことなど考えてもいなかった」
(好きな人に食べてもらうことがこんなに嬉しいことだなんてね)
ティアラはそう思ってまたギュッと風音を抱きしめる。
「キツいーー」
「あら、ごめんあそばせ」
そうティアラは微笑むと風音の顔も赤くなる。コーカソイド系のモデルのように整った顔立ちのティアラだ。同じ女性の風音が少しドキッとしてしまうのも無理のないことだろう。
「うー」
言い返す言葉のなくなった風音が前を見てヒッポーくんを走らせることに専念し直すとティアラは再び風音を抱きしめる作業に努めていた。
後にティアラはそのときのことを「我が世の春であった」と語ったそうな。
◎ジランの街 カナイの宿八 夕方
「いらっしゃーい」
弓花とジンライが指定の宿屋の風音達の部屋にたどり着いたのは風音たちと別れてから二日後の夕方だった。
「うん。ようやく合流できた…ね?」
部屋に入ってきた弓花たちの目に入ったのはウィンドウを開き目の前で人形をひたすら動かしている風音と、それにピッタリとくっついているティアラであった。ちなみにさっきいらっしゃいと言ったのはティアラの方。
「ティアラ様もカザネも問題はないようだな」
「うん、インビジブルで隠してたから私の姿しかこの宿の人も気付いていないと思う」
風音はジンライを見ずにそう答えていた。集中しすぎて最低限以外の周りのことが見えていないらしい。
「ユミカ、カザネは何をしているんだ?」
宿の中に入りジンライは荷物を置くと風音の様子を見ながら弓花に尋ねた。
「ええと、ゴーレムの作成みたいなんですけど、あそこまで複雑だと私にはもうわかんないです」
ウィンドウは弓花にも見えているがクリエイターモードのさらに複雑処理用のアドバンスドモードまで開かれては弓花には何をしているのかまったく分からない。風音の作業がゴーレム作成のものであることを理解したジンライは続けてその風音に抱きついているティアラを見て聞く。
「ではティアラ様は何をしてるのだ?」
「病気でしょう。ただの」
そちらは弓花にとっては慣れた光景の一つであった。時折風音を溺愛する人が出てきてああなることがある。
(吉永さんの時以来かなぁ)
今は懐かしい相手を思い出す。弓花はこういう場合、そうした相手には付かず離れずで接するのが精神的に良いと経験則で悟っている。下手に嫉妬されると厄介なのだ。風音とは親友ではあってもそれ以外ではないのだから。
「よし、大体のセットは終えた」
風音がそう言うと目の前の人形がニョルと崩れた。
「何それ?」
弓花は風音の操っていたものに興味を惹かれ尋ねてみる。
「マジッククレイだよ」
「あれかあ」
その言葉に弓花は顔をしかめた。あのミミズの化け物を思い出したからだ。
「今親方に頼んでいるものの基本操作をね、ちょっと設定してるところなんだ。後は実物を見て調整できれば完成かなあ」
と風音はいい、ウィンドウを閉じる。
「あら、終わったんですの?」
と、風音が立ち上がろうとするのを察してティアラは抱きついてた手を放し身体を退かせる。風音は自分の行動の邪魔をされない限りはくっついていても文句は言わない。風音の行動を邪魔せず、隙あらば抱きつくのが風音抱きつき道の真髄である。
弓花はティアラの行動が吉永さんそっくりだなと思ったが特に口に出すところでもないので思うだけに留めた。
「ああ、弓花にジンライさん。ごめん、集中してた」
ようやく意識がこちら側に戻ってきた風音はそう言って弓花とジンライに謝る。
「いや、そっちのことはワシには分からんしな。気にするな」
「分かった」
風音は頷く。
「それでそっちのほうはどうだったの? 何か収穫はあった?」
まずは必要なのは情報だ。
「そうだな。まずティアラ様がさらわれたという情報はどうも伏せられているようだが、兵たちは総動員で捜索に充てられているらしい」
「まあ、想定通りだね」
「うむ。関所までの街での捜査は芳しくなく、未だ証拠一つ上がっていないと聞いた」
「やたら具体的だね。それは兵隊さんにでも直接聞いたのかな?」
その風音の疑問に答えたのは弓花だった。
「寄った先の街の酒場でね。兵たちがべらべらとしゃべってたのを横で聞いただけよ。『我こそが救い出し姫の騎士となるのだ〜』とか叫んでたわ」
「あらあら。わたくしの騎士様はもうおりますのに」
と口にしたのはいつのまにやらまた風音に抱きついているティアラ。
「私たちの時は兎も角、ティアラをさらった連中は普通に関所まで通ってたはずなんだけどね」
そしてまんまと関所を越えたところでオーガに襲われたはずだった。
「よほど腕の良い連中だったのだろうよ」
ジンライはそう口にする。オーガにやられたのは装備のせいもあるとジンライは見ていた。狂い鬼の件を知らなかったのだろう。彼らは碌な武器も携帯せずにあの場でやられていた。
「それと王都グリフォニアは厳戒態勢だそうだ。賊に王家の宝を取られたという名目で誰も外に出れない状態らしい」
その言葉に風音は少し考えた後ジンライに質問をする。
「中に入ることは可能?」
「王都に行った人間は誰も戻ってきていないが、まあ戻ってこないという事は入れたということだろうな」
さすがに殺されてはいまいだろうし、とジンライが言い、当たり前ですわとティアラが口にする。
「いっそ王都まで来たのならそのまま引き渡すというのもありだとも思うが?」
そうジンライはティアラをチラッと見て口にし
「普通ならそうなんだけどねえ」
と風音もその言葉に理解は示すが、首を横に振る。
「ティアラに聞いたんだけど、王都の警護態勢って第二王子の管轄らしいんだよね」
「なに?」
ジンライが目を見開く。
「兄を守るのが弟の役目とかそういう名目でね、役職に就いてるわけらしいんだけど」
横でティアラが縦に首を振る。
「で、思うんだけど、ティアラのお父さんはまだ弟の第二王子を信じてるんじゃないかなあ」
「こうしてさらわれているのにか?」
「それがさ。遊んで殺せって言ったのが第二王子の執事だったらしいんだけど、ティアラもその執事のことがなければ確証はなかったって言うしさ」
「ええ。わたくしはもう断定できますが。ましてや実行部隊はどうも外国の方達でしたし」
「であればどうする?」
そう聞くジンライに風音は答える。
「うん、普通に正面から入ってみようか」
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・レザージャケット・鉄の小手・布の服・皮のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・ポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:20
体力:70
魔力:114+300
筋力:27
俊敏力:22
持久力:16
知力:27
器用さ:19
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』
風音「次回王都進入へ」
弓花「いざ!」
風音「という話だったんだけど作者が投稿し忘れてたので後日更新の形となった追加エピソード的な何かだよ」
弓花「そのまま続きで読んでる方は気にせず先に進んでください」
風音「いろいろとごめんね」




