第三百八十三話 ハウスを造ろう
◎リンドー王国 ウーミン街道
それは総勢500名の行列だった。
交易都市ウーミンから、とりあえず仮のとれたカザネ魔法温泉街へ向かう街道を移民たちが歩いていく。その多くは親子連れ。その前後にはあまりガラの良いとはいえない男女が武装して警戒に当たっているようだったが、彼らの正体は歓楽街にいた元アウターたちであった。
また当初の人数から若干名の追加があったが、それはヒルコから人へと戻った人々である。彼らは天使カザネの治めるカザネ魔法温泉街の助けになりたいと今回の移民団に参加していた。
他にもアングレーの私兵である民兵団と、やはり温泉街の手伝いをしようと冒険者たちも護衛に参加している。
逃げたオドイートリーチが襲ってくる可能性もあるし、風音たちが来たときのようにランドオクトパスの群れや、テリトリーを移動してリンドー王国側にやってきているらしいモーターマシラが襲ってくる可能性もある。
またこの移民団の護衛は元アウターや冒険者たちだけではない。
「ママー。おっきい猫さんだー」
「領主様の召喚獣様よ。なんて神々しいお姿なのかしら」
「黄金色に輝く水晶のドラゴンの化身だって話だ」
「ユッコネエちゃん、こっち向いてー」
そんな声に「にゃー」と答えながら、ユッコネエが山脈側の移民たちの横を歩いている。背中には繭を背負って、尻尾で固定していた。
基本的に魔物は山脈側の森から出てくることが多いが、こうして力のある魔物のユッコネエがいるだけでも警戒して寄ってこないはずであった。
「デカいな。あれが領主様の僕か」
「なんて大きい剣なのかしら」
「一緒にいる甲冑たちってしゃべったりしないけど、人間じゃあないの?」
「ゴーレムだって話だぜ」
「岩で出来てねえじゃん」
「岩に鎧を着せてるんじゃないか?」
その移民の列の、ユッコネエとは反対側にはロクテンくんや、ライルと一緒にいるノーマルを抜かしたタツヨシくんシリーズも周囲警戒に当たっていた。自律タイプであるため、ただの警戒と言うだけならば疲れを知らずに動き続けることが出来るのが強みである。
「それにしても領主様のあの馬車はすさまじいな」
「あの巨大な馬なんて並の魔物の迫力じゃあないだろ」
「胸から突き出たアレで突かれたら確実に俺らバラバラだよなぁ」
「後ろの馬車なんぞ、紫の雷様がビリビリ出てやがる。あんなにお優しい天使様があれの中に乗ってらしてるのかい?」
「けど、中が少し見えたのだけれど、凄い綺麗な感じだったよ」
さらにはその先頭を進むのは黒く巨大で、その胸部から凶悪なデザインの衝角を生やした甲冑馬と、それに牽かれる、これまた黒く、そして紫電を放っている装甲馬車であった。それにはさすがに風音リスペクトの人々も、近付こうとはしなかった。
そして肝心の馬車の中の領主様だが、
「おえーーーーーーーーー」
「ほら、姉貴。大丈夫か?」
吐いていた。
直樹が風音の横に座って背中をさすりながら介抱している。一緒にいるマッカも心配そうである。
「ううう、みんな、目をキラキラしてこっち見てくるよぉ。恐ろしいことだよぉ」
「落ち着け姉貴。大丈夫だ」
「そうですわよカザネ様。みなさん、お仲間ですから。襲ったりしませんわ」
『母上、ファイトー』
どうやら、風音は集まった移民の数と自分への憧憬の視線を当てられて改めて状況の大きさを知り、いまさらながら怖くなってしまったようだった。今回はウォンバードの街の時のように逃げることも出来ない。主にノリと勢いで進んできた風音にいよいよ責任という名の重圧が強く押し迫ってきたのである。
なお、サンダーチャリオットに乗っているメンツは風音の他に、直樹、タツオ、マッカに、アングレーと白猫エリザベートである。オウギはウーミンで居残りであった。
「ふむ。臭いが籠もってない。空気を操る魔術が働いているのかね」
『宿六はこんなときでもそういうところを見ているんだね。まあ、デュラハンの召喚馬車の居心地の良さはあたし等の業界でも有名だからね』
エリザベ-トの業界とは召喚師の界隈の話である。とはいえ、自分たちで呼べるものではないのでデュラハンの馬車はそこまで知られた話でもないが。
「なるほど。デュラハン使いを雇ってみることも検討もしておくかな」
アングレーとエリザベートは外を見ながらそんなことを話していた、ドライではあるが、変に気遣われるよりは風音にはありがたかったことだろう。
そして嘔吐したり泣いたりしていて情緒不安定だった風音は、しばらくすると疲れて寝て、やがて起きた頃合いには落ち着きを取り戻していた。
その間、風音は不安だったからかピットリと直樹に寄り添っていたのだが、姉を心配する直樹がその事実に気付いたのはすべてが終わった後のことだった。勿体ない。
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「ふぅ」
風音が外の空気に当たっている。今の時刻は正午を回った頃合いである。
朝から歩き詰めだった移民団も今は小休止となって昼食を取っていた。
「姉貴、大丈夫か?」
「うん。とりあえずは」
直樹から手渡された水筒を飲みながら風音がそう返す。顔はまだ余裕がなさそうだが、落ち着いてはいるようである。
『母上が調子を取り戻せたようでなによりです』
「にゃー」
ユッコネエと、その頭の上に乗っているタツオも風音の元に寄り添っている。
「しっかし、スキルやその叡智のサークレットもあるのに、そういうところは普通なままなんだなぁ」
「そういう精神的な部分まで抑制されるってのもちょっと怖いけどね」
直樹の言葉にそう返しながら風音が「よっ」と言いながら立ち上がる。
「無理すんなよ」
『母上、まだ休んでいてください』
「にゃー」
まだ心配そうなひとりと二匹がそう返すが、風音もいつまでも休んでいるわけには行かなかった。
「ダイジョーブ。ま、請け負ったからにはやることはやっておかないといけないしね」
その、やることとはゴーレムハウスの作成であった。
ここからカザネ魔法温泉街に向かうまでに、作る家の構造を決定してしまおうと風音は考えていたのである。そして風音は何組かの家族を呼びだしてもらって、その場でゴーレムメーカーで家を作り始めた。
あまりオーバーテクノロジーにならないように簡単な間取りでかまどや簡易ベッド台などを用意した家を造った後、実際の使用感などを確認してもらいながら風音はその家の要素に追加と削除を行って再度構築していくつもりであった。
基本的にゴーレムメーカーでの作成は、構造体が複雑になればなるほど消費コストが増大していく。そして風音のゴーレムメーカーだけですべての部分を作る必要はないし、コストを抑えながら数を作る構造が必要となっていた。
元々ゼクシアハーツのモデリングデータライブラリには中世民家のデータもいくつか収録されているため、風音はそれらをサンプルとしながら、より簡易なものになるよう、無駄を削る作業を行っていた。それはさながら3Dゲームのオブジェクトのポリゴン数を減らすような作業でもあった。
なお、ベッドの布団、食器や鍋などは風音が用意できるモノではないため、ある程度はウーミンで調達していて、足りない分は他の街にもかき集めてもらう予定となっている。
そして、すでに風音は集中して『入って』いってしまったために気付いていないようだったが、ゴーレムハウス作成現場の周りには人だかりが出来ていた。
この世界における魔術は万能ではないし、使える者も限られる。それだけにまるでおとぎ話の魔法使いのように次々と家を試作していく風音の様子は大いに驚きを呼ぶモノであった。
「あれがゴーレム使いの能力ですか。他のゴーレム使いがあんな風にやれるというのは聞いたことがないのですが」
アングレーは驚きながら、横で一緒に見ている直樹に問いかける。あまりにも利便性の高い術である。例えゴーレム使いがトーレ王国からしか生まれないとしても、今までどこからも伝わっていないのがアングレーには不思議でならなかった。
「トーレ王国ではああいう使い方はあまり好まれてないらしいですよ。あそこまで自由自在ではなくても簡単なものなら作れるっぽいですけど」
直樹はアングレーの問いにそう返した。冒険者仲間のゴーレム使いユズも、簡易コテージぐらいならばすぐに作れそうではあったので直樹の言っていることは間違いではない。ただ、構造をあそこまで簡単に変えていけるのは風音の実力ではなくウィンドウの制御によるものであるため、普通のゴーレム使いが風音ほど即興で変えていけるわけではないのである。もっとも直樹としてもアングレーにそこまで説明する義理もないので口には出さなかった。
そして、ある程度のものが完成した後は、それを他の人間にも見てもらい、感想や案をまとめてもらうように民兵団の隊長に指示すると、風音も昼食へと入っていった。この移民団は基本的に徒歩での移動である。カザネ魔法温泉街に着くのは翌日の夕方になるだろ。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:39
体力:155+20
魔力:363+520
筋力:78+45
俊敏力:80+39
持久力:44+20
知力:75
器用さ:53
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』
風音「人の顔を見たらカボチャだと思えと言います」
直樹「さすがに自分の街の住人になる人たちをカボチャ扱いはまずいんじゃ?」
風音「う、うう……ウップ」
直樹「ああ、悪い。俺が悪かったから、落ち着け姉貴!?」




