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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
狂者達の宴編

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第三百八十二話 移住をしよう

◎交易都市ウーミン 中央広場


 弓花たちがウーミンを去ってから四日目。

 風音は今、交易都市ウーミンの中央地区の広場にいた。その横では冷や汗を垂れ流しながらモーラントが目の前の像を見ていた。


「これは立派なものですな」


 そうモーラントが口にするが、横では風音が渋い顔をしていた。

 その広場は町の住人たちが祭りや市などをする際に利用している場所で、現在も家が燃えてしまった住人の避難所となっていた。そして、その中心にはクリスタルで出来た貧乳の厳つい鎧の子供の天使と、巨乳の愛らしい子供の天使の二体の天使の像が立っていたのである。

 ともに水晶製であるため、頭上の太陽の輝きに当てられて、その場にいる誰もが像から発せられるプリズムの美しさに目を奪われている。

 なお当初は貧乳天使のみだったのだが、その場の全員が胸を見て首を傾げていたので、風音はムキになって追加で巨乳天使も付け加えたのである。直樹を呼んで英霊フーネのモデリングデータを借りての一瞬の作業であった。


「えーと、代金はいかほどで?」

 それを見ていたモーラントが非常に困った顔でそう風音に尋ねる。像を一体作成するのにもお金がかかる。ましてや水晶の像など、現在のフィロン大陸の人間の技術では不可能なシロモノである。モーラントが青ざめるのも無理はない。


「別に最初に提示したとおりでいいよ」


 そのモーラントの問いに対しては風音はそう返した。元々こちらの好きにやるという条件で引き受けた仕事である。それは冒険者ギルドを通してきた指名依頼で、どうやら風音がオルドロックの洞窟前で造った自前の像のことをどこかから聞いていたアングレーが領主モーラントを通して頼んだものだった。


「破壊を司る貧なる天使と再生を司る豊穣なる天使と言ったところですか」

「言わないよ」


 アングレーの的確な言葉に風音がツッコミを入れる。風音のモデリングデータと直樹の英霊のモデリングデータから生みだした像は確かに正確に造られている。それは精巧であるだけで職人の魂の入ったモノのように造形から心を打つようなものではないが、その分はクリスタル加工の美しさで補っていた。


 街を救った英雄の像の製作。本来であれば職人に頼んで半年程度の時間とお金を使って作成されるものだが、そこはゴーレムメーカーの出番である。財政的に厳しい領主モーラントはアングレーの言葉に乗り、こうして英雄本人である風音に像の作成を依頼したのである。仕方のない話だが自作自演っぽい話ではあった。ともあれ、ポンポンと話は進み、像は完成したのである。


「それにしても素晴らしい出来です」

「ま、もっと素晴らしいものをしばらくしたら見れるようになると思うよ」


 アングレーとモーラントはその言葉に首を傾げたが、風音はいたずら心を忘れてはいなかった。


 そして数分後、正午の鐘の音と同時に天使ふたりがパパンがパンと踊り始めたのには、町の住人やアングレーやモーラントも含めてみんな目を丸くして見ていた。それを眺める風音の顔はここ最近で一番のドヤ顔であった。

 種を明かせば、二体の天使像はティアラに持たせたクリスタル風音ちゃん人形と同じくベビーコアの欠片を動力とした自律型ゴーレムである。ベビーコアの欠片はそこそこあるので遊び程度の動きをさせるのにはいくらでも使えるのである。そして周囲の様子を見て風音も満足したようで、うんうんとひとり頷いていた。


(こりゃあ、想像以上に……)


 アングレーはそんな風音を見て、そこに銭のなる木どころか、宝石がたわわに実る木の姿を幻視していた。だがその後ろにはミンシアナの女王の姿も見えていた。


(ままならないですなあ)


 目の前のチンチクリンがフリーであればアングレーもどんな手段を用いても手に入れたいと思うところだが、しかしその後ろに控えている相手を考えれば手に入れるのは不可能だろうと認識している。ミンシアナにツヴァーラにハイヴァーン。また神竜帝ナーガとも親交がありそうだとアングレーは睨んでいた。さらに今回の件でリンドー王国そのものが加わるかもしれない。


(ま、温泉街に食い込んでいけば、美味しい目は見れそうですかね)


 そしてアングレーはそんな風に己の中で結論を出して、周囲に笑顔で手を振るチンチクリンを見ていたのだった。

 


◎交易都市ウーミン 領主の館中庭 風音コテージ屋上


「それで移民の方の状況はどうなってるの?」


 像を造った日の午後。風音は領主モーラントと温泉街領主代行マッカとアングレーの三人との打ち合わせである。そして打ち合わせは風音コテージの屋上で行われていた。今は領主の館の中もゴタゴタしていて、ここが一番ゴージャスで居心地がよい場所なのである。

 モーラントも降って湧いた忙しい状況に目を回しているようで、水晶竜の噴水を見ながらマイナスイオンで癒されているようだった。


「千人ほどですね。元アウター労働者は130名ほどで人数は上下しそうです。他に最初は家族連れの73組、322名を送る予定ですが、それで良いでしょうかカザネ様」


 略式ではあるが正式な領主として就任した風音が、マッカの言葉に頷いた。

「送るのは良いけど、ご飯とか大丈夫なの?」

 カザネ魔法温泉街(仮)は現在作っている最中で、突然押し寄せた数百人という人数に耐えられるだけの備蓄はない。

「食料についてもこちらから一緒にお送りします。倉庫への被害はないので量にも不足はありませんし、お金が厳しい分は物品で支払うつもりですので」

 それはモーラントの言葉である。

「うん、分かった。まあそこらへんがちゃんと出来てるんなら問題はないね」

「それで住居の件は大丈夫なんですか? いきなり約500人ですが?」

「二日あればなんとかなるね。今は魔力の回復も早くなったし」

 前回のジャイアントマナイートリーチから手に入れた魔力吸収の能力のひとつである自然魔力マナ吸収は戦闘での使用は出来ないが、寝れば魔力回復量が倍になるスキルである。ユッコネエの光合成とあわせればかなりの回復量となり、間に睡眠を挟めば家を次々と作ることも可能になるだろう。

「移動については明日にでも行えればと思いますが、どうでしょう?」

「随分と早いね?」

 モーラントの言葉に風音が目を丸くすると、モーラントが肩をすくめる。

「広場も館の中も収容数が限界で、いくつかいざこざも起きていますしね。食料も含め、運搬の準備も最優先で進めています」

「了解。オドイートリーチの群れは一応壊滅させたけど、逃げたのもいるだろうしね。ランドオクトパスの件もあるから、護衛は私たちと後は冒険者を雇ってつかせるよ」

 それにはモーラントも「お願いします」と風音に頭を下げた。そしてカザネ魔法温泉街への出発が明日に決まったのである。


 なお、現時点では弓花たちの2日掛かりの調査はすでに終わっていて、領主の館に調査報告書を置いておいたとの連絡も入っている。その弓花たちは現在は温泉街を出て、コンラッドの街にいた。



◎ミンシアナ王国 コンラッドの街


 そして時間は17時を回った頃。コンラッドの街を弓花は一人で歩いていた。

 泊まるホテルの手続きも完了し、自由時間となったので弓花はお世話になったリンリーに会いに行っていたのである。


「あー、もう引っ越しも大分纏まったんだ」


 元宿屋『クックの鍋処』まで弓花が足を運ぶと、そこには荷物を運んでいる女将のリンリーの姿があった。


「おやユミカじゃないか」


 そしてリンリーも弓花を見て笑顔で答えた。


「こんばんは。戻ってきましたー」


 弓花もリンリーに挨拶をする。実のところ、弓花たちは温泉街に行く前にコンラッドの街には立ち寄っていたので前回に顔を合わせてからまだ10日しか経っていなかった。そしてその時点でリンリーは既に宿屋を畳んでいたのである。その理由は、


「ま、見ての通りでね。荷物は大体は送ってあるし明日にはカザネ魔法温泉街に行く予定さね」


 カザネ魔法温泉街への移住であった。

 マッカの配慮で、風音に親しい者に温泉街への移住を厚待遇で薦めているらしいとは前回聞いた話で、冒険者ギルドの受付嬢プランさんも温泉街の臨時冒険者ギルドのまとめ役としての移動が決まっていた。コネ万歳とプランは諸手を上げて喜んでいたようである。


「リンリーさんのスープが飲めないとなるとコンラッドとしても寂しくなるかもしれませんね」

 弓花が率直な気持ちを口にする。

「まあ、あっちでも作るしね。それにカザネが領主ってことはアンタも一緒に温泉街で暮らすんだろ?」

 その言葉に弓花は肩をすくめる。

「ん、どうなんでしょ。今のところはまだ定住の予定はないですけど」

 名実ともに風音の街となってしまったカザネ魔法温泉街(仮)だが、弓花たちの目的はひとまずはゴルディ黄金遺跡の最深層、さらにはその先にある自分たちの世界への帰還である。その後は風音はこちらに戻るようだし、弓花も半ばそのつもりではある。だがその先はまだなにも考えてはいなかった。

「そうなのかい? けど、それであの街は大丈夫なのかい?」

「マッカさんって人が仕切ってるし風音に任せるよりは安心ですよ。それにミンシアナの女王様も積極的に街のために動いてるんで」

「へえ、どうにも動きが早いと思えば女王陛下が動いてらしたのかい。そりゃあ、納得だね」

 ゆっこ姉も国の利となるためなら庶民への積極的な支援を惜しまないタチである。庶民と貴族の違いへの偏見などそもそも持ち合わせてもいない。ちなみに不正に対しても異様に厳しいことで有名で、疑わしき相手には自ら出向いて大鉈を振るうとも言われているようである。


(そりゃ『真実の目の額飾りホルスアイ・サークレット』で心を読んで判断してるね)


 とは、以前にその話を聞いて風音と共に出した推測であった。ちなみにゲーム的仕様に依存しているため、『真実の目の額飾りホルスアイ・サークレット』は当然一緒に遊んでいる他のプレイヤーの心を読むことは出来なかったりする。


「けど温泉街って、ここらの人の評判はどうなんですかね」

 その弓花の懸念は、カザネ魔法温泉街(仮)により、コンラッドが廃れないかということだった。実際リンリーも宿を畳んで温泉街に移ろうとしている。だがリンリーの表情は明るい。

「まあ、元々あそこは馬車でひと休憩入れる場所が必要だったし、あの場所で休んでも馬車ならコンラッドを経由することには変わらないしね。それよりも温泉目当てでコンラッド側からの人の入りも増えるだろうし、万々歳って感じだと思うよ。ウィンラードとしてはリンドー王国との交易都市の座を取られそうで複雑かもしれないけどね」

「ああ、なるほど」

「ま、あのカザネが領主様とかねえ。あんたも相当に活躍しているそうだし、世の中分からないものだよ、ホント」

 その言葉に弓花があはははと笑う。

 相当に活躍と聞いて、まさか『血塗れの狂戦士ブラッディベルセルク』の名がこんなところにも及んでいるのでは……と、弓花は戦々恐々としたのだが特に何も言われなかったのでホッと胸をなで下ろした。


 なお、言われなかっただけで、当然伝わってはいた。


 弓花の人柄を知っている人はそうあからさまな反応はしていなかっただけで、ここ最近街に来たような冒険者は怖くて近付かなかっただけである。その事実に気付いていない弓花は、リンリーに軽く挨拶をして、そのまま当日泊まるホテルに向かって足を向け出した。


 そして、それを見ていた存在が一つあった。それは屋根の端に止まっていたコウモリの一体であった。


 それは弓花が去ったのを確認すると、バサッと翼を広げて空へと舞い上がり、街を越えてどこか遠くへと飛び去っていった。そのことに気付いた者は誰もいなかった。

名前:由比浜 風音

職業:召喚闘士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者リベレイター・守護者

装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪

レベル:39

体力:155+20

魔力:363+520

筋力:78+45

俊敏力:80+39

持久力:44+20

知力:75

器用さ:53

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』

スキル:『キックの悪魔』『蹴斬波』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』



風音「……直樹ってホント気持ち悪いよねえ」

直樹「姉貴、しみじみ言われるとさすがに傷つくんだけど」

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