第三百七十話 切り札を見せよう
風音と直樹が悪魔たちと、弓花たちが黒竜ハガスと戦っている頃、ジンライと老人のジンライの戦いもまた続いていた。その戦場はヒルコたちから逃げまどう人々の頭上、家々の屋根の上で行われ、そして今はオールドジンライの猛攻にジンライが防戦へと応じているようであった。
「っし! さっさとくたばるが良い!」
「抜かせ! 右腕だけでワシに楯突こうというのが間違っておるのだ」
そう叫んだジンライに、オールドジンライが一気に踏み込んだ。
「ウヌォッ!?」
槍術『柳』から『転』の流れ。弓花の得意とするそれをオールドジンライが行い、だがジンライもそれを見越して、足にかけようとする槍の柄を、自らの槍の柄で受け止める。
「甘いわッ」
そうジンライは叫ぶが、だがオールドジンライがニッと笑う。そのままオールドジンライが強引に踏み込んで、ジンライに体当たりをかました。身体スペックが違うのだ。この近距離ではジンライも防ぐことは出来ない。
「クッ!」
そしてジンライは屋根から押し出されて、宙を舞った。
(ええい。ワシとしたことが)
だがジンライには焦りはない。すでにジンライは精神の集中の局地である『ゾーン』の領域へと入っている。周囲を把握し、そして義手から粘着剣を飛ばしてベランダの手すりへとひっかけると、落下の勢いと伸び縮みする粘着剣の性質を利用して、別の建物の屋根に飛び移った。
「ちぃ、大道芸人か。貴様はッ!」
その予想外のジンライの動きに読みをはずされたオールドジンライが、非難の声をあげながら追いかけてくる。
「やまかしい。使えるものは使う。それがワシのやり方よ」
対してジンライもそう言い返しながらもUターンし、迫るオールドジンライへと駆け出した。空中で突き合う槍の激突が火花を散らし、そしてやはりどちらとも傷つけることなく、また両者はすれ違う。
(しかし、やはりこやつはワシ自身か)
ジンライは再び屋根の上に足を着け、そしてオールドジンライへ向かって構えながらそう考える。突き合えば突き合うほどにその癖が同じ事が理解できてしまう。動きの多くが読めるから隙をついての大技も出せず、小さくまとまって突き合い続けるしかない。それはもはや千日手に近い状態であった。
もっとも、今は様子見の段階だ。均衡はジンライが義手を外した途端に一気に崩れるだろう。そしてそれは相手にとっても同じことのようだった。
(ヤツも『何か』を持っておるようだしな)
ジンライは正面のオールドジンライを睨みつける。
「ふむ」
「ふむ」
そして両者は、まるで申し合わせたように、どちらとも後ろへと飛んだ。それをどちらも笑って相手を見る。
「さすが自分と言うところか。機微は読めているわけだな」
「互いに埒があかんのは見えているようだからな。ならば、分かたれた後のその先を見せねばなるまいよ」
ジンライは義手を固定する胸当てのロックを解除し、義手『シンディ』を外して、補助腕による自立機動をさせて後ろへと下がらせる。そして隻腕となったジンライが構えるのは左腕の、グングニルを取り込んだ白の竜牙槍『神喰』のみとなった。
「ワシをなくして得た力か」
「ライノクスは『一角獣』と言うておったがな」
ライノクスの名にオールドジンライが眉をひそめる。同じ『ジンライ』だ。ライノクスの名には特別な意味がある。
「であれば、ワシもヤツに名をいただきに行くかな?」
そう口にするオールドジンライの鎧の篭手が、具足が、胸部のプレートが、次々と動きだし、中身をさらすように開いていく。そしてその内側からは赤い光が漏れてくる。鎧の内側、それはオールドジンライの生身の部分のようであった。赤い輝きはそこから出ているのだ。そしてオールドジンライの顔も黒から、赤い透明な水晶へと変わっていく。
「なんだ。それは?」
「今のワシは生身の右腕を除けば全身が魔生石で出来た身なのさ。この鎧はその封印と制御も兼ねておる。そしてそれを今解放した。その意味が分かるか?」
先ほどまでとは違う。まるで巨大な猛獣がいるかのような気配がその場を支配していく。そしてオールドジンライが告げる。
「今のワシは少々強すぎる。すぐに終わってくれるなよ?」
そのまま一気に駆けだした。
(速いッ!?)
先ほどの動きよりもさらに加速したオールドジンライに、ジンライの目が見開かれる。鎧の開いた箇所からの漏れた光が帯となり、オールドジンライの動きの軌跡を描いていく。
「ぬぅぅうおおおおッ!」
そしてオールドジンライの右の槍が突き出されて、赤い闘気が放射された。それは今ジンライたちの立っている屋根や、その周囲の建造物をも破壊し、後ろにあった物見の塔に激突して、それをも崩れさせていく。
「品のない戦い方だな」
だが、その強力な攻撃をジンライはモノの見事に避けていた。そしてジンライが目を細めてそう口にするが、オールドジンライは笑って返した。
「かつてワシにはなかったものが、この身体には宿っている。膨大な魔力。人を超えた性能。今のお前ではワシには勝てん」
「その先にたどり着いたからこそ今のワシがいる。力に溺れた者にワシが負けるわけがなかろう」
そしてジンライが踏み込む。巨大な魔力を手に入れたオールドジンライとは違い、ジンライの肉体は以前のままだ。いや、その腕をアストラル体ごと失ったことで魔力量は確実に減っていた。
だが今のジンライは純粋に『強い』。
赤い闘気に包まれたオールドジンライの黒い槍を、ジンライは研ぎ澄まされた白い闘気を纏った槍で打ち落とす。
「何をっ!?」
生身の人間のパワーとは思えないそれに、オールドジンライが驚きの表情をジンライに向ける。
「ふん。ただ強力なパワーを持つ相手なら今までもずっと相手にしてきた。お前はその程度か?」
力がなければ、強き力に拮抗するほどに己の力を研ぎ澄ませればよい……と、それがジンライの出した結論だった。集束に集束を重ね、ジンライのその一本槍の先には極めて純粋に、ただ一点に留められた真白い、純粋な闘気があった。それがジンライの『一角獣』。隻腕のジンライの二つ名にして、ジンライが生み出したオリジナルの槍術の名だ。
そして、ジンライの挑発にオールドジンライの闘気がメラリと増大し、さらに力を増大させていく。
しかし、両者の戦いはこれより先は続かなかった。
それは東に存在していた黒い球体が消滅したことと、そして中央から轟く爆発音によって中断されたのだった。
◎交易都市ウーミン 中央通り
「ギュアァアアア!!??」
黒いドラゴンが、叫び声を上げて崩れ落ちていく。魔力体特有の構築された魔力が光の粒子となって消えていく。
全身の鱗を破壊され、爆発によってキズだらけにされて力尽きた黒竜ハガスが倒れる様を彼らは愕然とした顔で眺めていた。
あの凶悪なドラゴンを前に生きている彼らは間違いなく、勝利を手に入れた者たちであるはずだった。だが、その顔は勝利者のそれではなかった。
その表情から連想されるモノは、絶望、或いは罪悪感……といったものだった。そして、その原因を召喚院からたどり着いた風音も目撃する。
「見ちゃ駄目だからね。あんなものをあなたは見る必要はないの」
「なんですのルイーズ。何故、わたくしの目をお隠しになるのですか? まだ戦闘中ですのよ?」
「あそこまで非情にならなきゃ、上には行けねえってんですかリーダー」
「あんなの、あんなのヒドすぎる」
「うるせえ。こっちはそれで助けられたんだぞ。感謝こそすれ、それで非難する……うっぷ」
「リーダー、ぐっ、俺も」
「うげぇええーーーーーー」
「もはや魔物にまで堕ちた自分が、さらに外道の身になるとは思ってなかったぜ」
「本当に人間やめられてるんですなぁ」
「だって、しょーがないじゃない。あーしないとみんな死んでたんだからーー」
そんな言葉が響く中、風音は消えゆくドラゴンの前にあるソレを目撃してしまう。
「何これ?」
それはもはや【自主規制】だけとなって【自主規制】が垂れ下がって【自主規制】が【自主規制】して、その顔ももはや【自主規制】としか言いようがない状況の『英霊アーチ』だった。
そして、いつも通りに近くに巨大な熊が倒れて死んでいた。
「グリ…リ…ン、生まれ変わっ…ても…また会え…る…かな?」
そんなことをボソボソと呟きながら、【自主規制】状態のアーチと巨大熊グリリンは魔力体を分解させながら、光と共に消えていった。
そして、風音は
「や、みんな無事ーー?」
その光景を見なかったことにして弓花たちの元へと駆けよったのである。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:38
体力:152+20
魔力:340+520
筋力:72+45
俊敏力:78+39
持久力:43+20
知力:75
器用さ:51
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』
弓花「…………」
風音「よーし、まだ戦いは続いてるからねー。頑張るぞー」




