第三十八話 姫君を護衛しよう
◎クレスタ林道
「指輪、あったよ」
風音達はやはり身分の証明をできるものを探そうということで森を抜けた山道付近にある人攫い達が襲撃されたところまで戻ってきていた。
引きちぎられた腕や食べ残しを見て弓花は吐きそうになったが、ここまでに散々魔物を殺し解体までしていることもある。人間が…ということに生理的嫌悪感が浮かんでいたがすでに慣れ始めている自分にも気付いていた。
(ヤだなあ…)
自分の慣れに弓花は心の中でそう呟く。だが、既に人間に近いオーガなどをも手に掛けている弓花はもう人間相手でもどうにかなってしまうのだろうなとも思えてしまう。
と、そこらへんまで鬱々と頭の中で堂々巡りをしていた弓花だが風音の言葉で顔を持ち上げた。
「ええ、これですわ。ツヴァーラの守護獣ルビーグリフォンの紋章」
「ルビーグリフォン? もしかして呼べるの?」
風音は驚いてティアラに尋ねる。
「まさか、これでは無理ですわ」
ティアラは首を振る。
「お爺さま、現国王メフィルスの持つ紅玉獣の指輪ならば可能ですが」
(…やっぱりあるんだ)
風音はゲームで出会った召喚獣を思い出す。炎を纏う伝説の鳥獣、あれはなかなかに厄介な相手だったと。ちなみに弓花は「あれは無理だわぁ」とぼやいている。どうも倒せなかったらしい。
「これで一応は王国に戻るにしてもお姫様だって証明はできるとは思うけど」
「そうですわね」
ティアラはそう頷くが、その先を口にしようとして口ごもる。
ジンライはそれがこちらに国まで戻るまでの護衛を頼もうか否か悩んでいるのだと察したがリーダーの判断を見るためにあえて無視を通した。が、風音の方からジンライに声をかけてきた。
「ジンライさん、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「関所を無視してツヴァーラの王都まで行きたいんだけど、どっか道ある?」
その風音の問いにジンライは思わず笑みを浮かべそうになるが、仏頂面のままに質問に答える。
「そうだな。アルゴ山脈から迂回すればなんとかなるだろう。距離的には普通に街道を進むのと変わらないだろうからな。ただこの時期あたりからあの山は吹雪が酷いぞ?」
その言葉に風音の顔が若干歪むが、ルーのことを知らないジンライにはその意味は分からない。
「そう…だね。となると一度コンラッドに寄って準備を整えてからいった方がいいかな」
「あの…」
その横でティアラが口を挟む。
「わたくしは普通に関所を通って帰るつもりなのですが」
だがティアラの言葉は間髪容れずに風音に否定される。
「やめた方がいいと思うよ。途中で第二王子さんにバレたら今度は殺されると思う」
その言葉にジンライも同意する。
「それはカザネの言うとおりです。シェルキン様の手がどの程度広いかは存じませぬがアウディーン様と直接お会いするまではどこまでも危険がつきまとうと考えておいた方が良いでしょう」
「………そうです…か」
ティアラはがっくりとうなだれる。そこに弓花が口を挟んだ。
「あんの〜、なんだかさっきからティアラ様を護衛するってことで話が進んでるみたいだけど、それでオッケーなの?」
「うん、そうだよ」
風音はさも当然とばかりに頷く。「あーうん、やっぱりそうだよね」と口にして弓花は下がる。
ともあれ、予定としてはコンラッドで準備を整えアルゴ山脈経由で国境越え、その後は村や街を出来る限り避けてツヴァーラ王国の王都グリフォニアに向かうことでパーティの意見は一致した。
そしてそのままヒッポーくんでコンラッドまで飛ばし、街に着いたのは夜に差し掛かった頃だった。
◎コンラッドの街 クックの鍋処 夜
「ユミカァ、よく来たわねえ」
「リンリーさん、久しぶりー」
まだコンラッドを離れて二週間ぐらいだが、弓花はリンリーと別れてからえらい長い時間が経ってるように感じられた。それは、その間に起きた出来事が濃かったせいなのかも知れない。
「こんにちはリンリーさん」
「カザネもいらっしゃい」
ちなみに風音はコーラル神殿攻略時に泊まっているので、二日ぶりである。
「それでこんな夜になってから来たってことは泊まるのかい? けどあいにく今日はマンパンでね」
リンリーがどうしたものかなという顔をしていると
「あーいや、ちょっと顔を見に来ただけなんだよね」
と、風音が口を挟む。
「外に連れがいるんですぐに出なくちゃいけなくて」
「あら、そうなのかい」
リンリーはおやまあという顔をする。
「まあ若いうちは頑張れるときに頑張った方がいいとは思うけど、あまり無理はするんじゃないよ。疲れてると注意が散漫になるからね」
「うん、そうだね」
「今日も走り通しだったもんねえ」
弓花も同意する。オーガ狩りからそのままお姫様を連れてここまで直行である。さすがに疲れていた。
「それで、泊まるつもりはないんだけど、リンリーさんのスープは欲しいかな?」
そう言う風音にリンリーは頷く。
「そっちは大丈夫だよ。ここで飲んでくかい?」
「いんや。さっきも言ったように連れが待ってるんだよ。だからそっちでいただくから」
そう言う風音が取り出した金属瓶を受け取り、リンリーは厨房に向かっていった。
◎コンラッドの街周辺 岩場 夜
「これは美味しいですわね」
ティアラがスープを啜ったあと、そう口にした。
「リンリーさんの宿はそれだけを取り柄にやってるところだからね」
「ひとつでもウリがあるならやっていけるもんだよって言ってたなあ」
風音の言葉に弓花はお手伝い時代を思い出す。
「まあ、スープの出来も悪くないが、この建物もな」
ジンライは周りを見渡す。石造りの建物…なのだが、この岩場にはさきほどまでこんなものは存在していなかった。ゴーレムで形作った建物、魔力がなくなっても崩れないように計算されて設計されている。
ベッドも4つ。不滅の布団が敷かれ、簡易照明にコーラル神殿で入手した炎の入った水晶玉が置かれていた。
「これが冒険者達の生活なのですね。わたくし初めて知りました」
想像以上の快適さです…と呟くティアラにジンライは頭痛がした。
かつて自分が大陸を巡ったときは一晩中薪をくべて火をともし続け、周囲の魔物を警戒しながらの旅だったな…と。
とはいえ、見張り役として交代で番をするのはここでも行われる。魔物もそうだが夜盗の恐れもある。
「それにしてもティアラ様って想像以上にフレンドリーというか親しみがあるというか飾らないですよね」
「元々ツヴァーラ王国は質実剛健がモットーで、その上に父があまりこだわらない人なんですよ」
弓花の言葉にティアラは微笑みながらそう口にする。
「そういうお二人も冒険者と言うよりは…そうですね。貴族学校の方々に近い印象を受けますわ」
「ああ、こっちにも学校あるんだっけ」
「こっちにもというと…」
「貴族ではないけどね。私も弓花も学生だったから」
それはジンライも聞いたことはなかったので顔には出さなかったが、なるほど…と思った。風音達の行動の節々に教養を受けた跡が見えていたためだ。
「風音、その話は今はなしだよ」
「ああ、うん。そうだね」
弓花からの言葉に風音はバツが悪そうに頷く。昨日散々泣いたのだ。風音もまた気持ちをそちらに戻したくはなかった。それを見ていたティアラとジンライは何かしら事情があるのだなと察し、それ以上は口を挟まなかった。
「それで食料は10日分は確保してあるよ。防寒具もあるし」
「しかし姫様を連れての登山となると無茶はできんぞ」
「それは考えてあるから大丈夫!」
とブイサイン。ジンライもならばと、もはや口を挟まない。パーティに入って初日から非常識なものを散々見せられている。今更と言うものだとジンライは考えていた。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・レザージャケット・鉄の小手・布の服・皮のズボン・狂鬼の甲冑靴・不滅のマント・ポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪
レベル:19
体力:64
魔力:107+300
筋力:25
俊敏力:18
持久力:14
知力:27
器用さ:19
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』
風音「ようやく弓花もリンリーさんと再会できたね」
弓花「ちょっと行ってくるって感じでウィンラード行っちゃったからね。ようやくちゃんと挨拶できたよ。あ、そういえば気になってたんだけど」
風音「何?」
弓花「国境越えって犯罪なの?」
風音「基本的にはそうだね。まあ見つからなければなんにもないしグレーゾーンに近い扱いだよ」




