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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
マネーの黒豚編

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第三百六十八話 覚醒をしよう

 エイジは、突然剣の前に何かが現れたのを見て目を丸くしていた。本来転移魔術は悪魔などの属性一系統のみの存在以外では使えない魔術のはずだ。だが、出てきた相手を知ってエイジは鼻で笑った。

 それは相手が風音の弟の直樹と、その仲間二人であったためだ。直樹の実力は大竜御殿で把握している。たかだが2~3ヶ月で早々に変わるとも思えない。さらに他の二人はその直樹よりも劣る相手だ。エイジは彼らを『とるに足らない相手』だと判断していた。


『どうする?』


 その横で、突然襲来した敵に警戒しているジルベールに尋ねるが、エイジは笑いながら「僕がやるよ」と返した。そしてひとり、前に進んでいく。


「やあ、直樹、お久しぶり」


 気安く少年の形をしたモノが直樹に声をかけるが、だがライルとエミリィはそれが誰だかは分からない。

 もっとも彼らは竜の里の襲撃の際にエイジを見ていないのだから、それも当然ではあろう。だがその異様な気配から警戒すべき相手だろうと認識は出来ている。故に、それぞれ弓と槍を構えてエイジに向き合っている。

 しかし、エイジを知っているはずの直樹は未だに構えをとっていない。ただ呆然と倒れている姉を見た後、そして視線を動かしてエイジを見ていた。

 その手に持った操者の魔剣『エクス』と『帰還の楔リターナーズステイカー』を握りしめて、ただエイジを見ていたのだ。それをエイジは不気味には思うが、だが恐れるべき相手ではない。どう見られてようが構いはしなかった。


「ごめんねぇ。君の大好きなお姉ちゃんをいじめちゃってさ」


 ピクッと直樹が震えたが、だがエイジはそれをニマニマと笑うばかりだ。

 恐らくは考えもなしにここに飛び込んでしまったのだろう。『帰還の楔リターナーズステイカー』のことはエイジも一応は転移できるアイテムとして知識は持っていた。だからこの漆黒結界の中に入ってきたのもそれが原因であることは把握している。


「呑気に踊ってたからさぁ。ちょーっと一緒になって踊って上げたらこの様だよ? うん、正直物足りなかったかな」


 マヌケが三匹ここに来たところで結果は変わらない。外はオールドジンライに任せている以上、エイジのやることはもうない。ならばここにやってきた玩具で遊ぼうかと考え、


「まあ、風音もここで終わり。所詮君の姉だったってことだ。そして君もここで終わり。ねえ、今どんな」


 直樹が動いた。


「気分?」


 その場の『魔法殺しの剣』を抜いて、一気に駆けた。


「おお、少しは速い?」


 それに対してエイジの取り出したのは黒い短剣。

 そしてエイジは直樹の一撃をその短剣で受ける。


「はっ、なんだい、そりゃ?」


 エイジは直樹の姿を見て笑った。

 その髪が何故か赤く染まり急激に伸びて逆立っている。さらにはミッシリとした筋肉で覆われ、その瞳も真っ赤に輝き、その肉体から赤いオーラが上げていた。


『エイジ。今のそいつは『狂戦士』になっている。少し厄介かもしれんぞ』


 後ろからのジルベールに、だがエイジは「問題ない」と返す。スキル『狂戦士』化はその能力を底上げするものだ。今の直樹は確かにいつもよりも能力が高くはなっているが、そんなものはエイジにとって誤差の範囲内だ。


「所詮は直樹。元がダメなら大したもんじゃあ」


 だがエイジの言葉は続かない。直樹がアイテムボックスから竜炎の魔剣『牙炎』と水晶竜の魔剣『虹角』を取り出し、宙に飛ばしたのを見たからである。


「おおっ?」


 エイジはそのふた振りの魔剣を見て少しだけ驚いた。それは以前に直樹が使っていた魔剣よりも明らかにランクが上のシロモノだったのだ。


(アレは少し面倒だな)


 そう考えるエイジに、七色の閃光と炎のブレスが同時に放たれる。それをエイジはバックステップを用いて避けていく。


「はっ、甘いよ」

『エイジ。上だ』

「え?」


 しかし次の瞬間、上空からの直樹自身が振るった水晶竜の魔剣の一撃にエイジはその肩を切り裂かれた。


「なんだよ、それ!?」


 エイジは斬られた右肩を再生しながら、そう叫んだ。右手には英霊の指輪が握られている。だが、エイジは意地でソレを握ったまま戦いを続ける。そして左手に持っていた短剣から黒い雷を放つが、だがそこに水晶竜の魔剣はあっても直樹は『いなかった』。


「なんでだっ!?」

『後ろだエイジ』


 再びのジルベールの声に、エイジはとっさに背後に向かって短剣を振るう。そして激突する短剣と魔法殺しの剣。同時に魔法剣を握りながら透けていく直樹の姿がある。


(こいつ、なんだ!?)


 エイジは直樹を見て、驚愕している。エイジはゼクシアハーツをクリアできてはいない。だから英霊も持っていないし、当然アーティファクトのことも説明書通りのことぐらいしか知識にはない。故に知らないのだ。アーティファクト『帰還の楔リターナーズステイカー』を使用した高速転移の戦闘パターンを。


『左だ!』

「ちくっしょう!?」


 左から迫る直樹が振るう竜炎の魔剣『牙炎』の魔法刃が黒い短剣を抜けてエイジの胸を斜めに切り裂いた。それにはエイジも叫ぶしかなかった。


「ああああッ!?」


 さきほどの魔法殺しの剣とぶつかった際に、付与されていた魔術耐性やエイジ自身の魔力に覆われていた黒い短剣の効力が無効化されたのだ。それはわずかな時間だけの効果だが、しかし続いて切り裂くまでには十分な時間。

 2メートルに延びた魔剣の魔法刃はただの物質となった短剣を通り抜け、エイジを確実に切り裂いた。


「浅いかッ!」


 そして、普段とは違うドスの利いた重い言葉を投げかけた直樹は、操者の魔剣『エクス』と柄に結びつけられた『帰還の楔リターナーズステイカー』を空中に投げて、呼び寄せた水晶竜の魔剣を握る。


「お前、なんだ、それは!?」


 エイジが叫んだ。水晶竜の魔剣と竜炎の魔剣から発せられる魔法刃の質が明らかに先ほどのモノとは違っていた。強度の高い魔法構築によって物理域へと上がった巨大な剣がそこにはあった。それが振り上げられ、


「俺の怒りを受け取れエイジィィィイイ!」


 バツの字にエイジを切り裂いた。


「がっはぁッ!?」


 口伝オダノブナガ流バツの字斬り。風音直伝の必殺技をエイジはモロに喰らってしまう。そしてエイジの口から黒いモノが吐き出され、そして傷口からも同様の液体が噴き出る。


「ちっくしょ」


 エイジは悔しそうな顔で後ろへと下がる。


「逃がさねえよッ!」


 そのエイジの動きに対して直樹は、宙に投げていた操者の魔剣『エクス』と『帰還の楔リターナーズステイカー』を再び手に取り、『魔法殺しの剣』を含めた3つの魔剣をエイジに向かって飛ばしたのだ。


「チィッ!」


 エイジがそれに対して雷を放つが、しかし『魔法殺しの剣』によって無効化される。いかにプレイヤーの魔術とはいえ、放出系統では『魔法殺しの剣』の魔力構造体分解はまぬがれない。そしてそのことをエイジは知らない。


「なんでだよ、だからッ!?」


 そう叫ぶエイジに、さらに二本の魔剣が襲いかかる。『限界突破:魔剣オーバーリミット』によって限界点を超えた水晶竜の魔剣と竜炎の魔剣は膨大な魔力を放ち、そしてそれぞれを炎の竜と虹色の竜のエネルギー体へと変じさせて、エイジへと特攻した。


「ウァァアアアッ!!?」


 そして、その場で炎と光が乱舞する巨大な爆発が起こった。


『ふむ。なかなか、やるではないか』


 その様子を興味深そうにジルベールは眺め、ライルとエミリィは直樹の見たこともない凄まじい攻撃に目を丸くしている。だが、これで終わりというわけではなかった。


「ハッ、ハァ」


 ドサリとエイジが弾き飛ばされて、離れた位置に転がっていた。そう、エイジはその爆発を逃れていた。とっさに質量を持った分身体を盾にして直撃を避けたエイジだったが、しかし防ぎきれずに弾き飛ばされていたのだ。そして、そのダメージは決して軽いものではなかった。


「チックショウ、こっちは戦闘職じゃないんだからさ。少しは加減ってモンがほしいよね」

『今更何を言っているのだ、お前は』


 呆れたようにそう口にするジルベールを睨みながら、エイジは繭の方へと走っていく。


「まだ、逃げるかッ!」

「うるさい。状況がわからないのかッ?」


 直樹が剣をさらに飛ばそうとするが、だがエイジの言葉を聞き、エイジのいる場所を見て、さらにはその足下にいる風音の姿を確認して、その手を止めた。


「クッ!?」

 憤怒を体現したかのような顔の直樹が、ギリギリと歯ぎしりをしてエイジを睨みつけ、それを見てエイジが笑う。

「ははは、そうだよ。君のお姉さんの命は今は僕の手の中さ。君は動けないよね。だって、お姉さんが大好きだから」


 直樹の額に青筋がビキビキと浮かぶが、エイジはそれを嬉しそうに眺めている。格下にボコボコにやられた怒りが収まらない。その鬱憤を晴らそうとエイジは叫んだ。


「だからさ、もっと面白いことをしてあげるよ!」


 そしてエイジは黒くなった繭に手を付けて、最後の仕上げに入る。


「どちらにせよ、これで風音は終わりなんだ。さあ、お姉さんの命が尽きるのを指を咥えて見ているがいい。殺せユッコネエ!!」


 そのエイジの言葉に繭から黒い輝きが発せられる。もうそれは十分に育っていたのだ。後はキッカケだけだった。そして黒の繭を破って中から巨大な猫が飛び出してきた。


「ははは、悔しがって死ね!」

「止めろぉぉおお!!」


 直樹が叫び、急ぎ魔剣を特攻させるが、だが遅い。ユッコネエはもう風音の目の前にいて、そして無防備な相手にその巨大な爪を振るったのだ。避けられるはずも止められるはずもなかった。


「アアアアアッ!?」


 そして、召喚院の裏庭に絶叫が轟いた。




 そう、エイジの叫び声が響き渡ったのだ。


 切り裂かれたエイジの右腕が宙を舞っている。それからユッコネエは指輪を奪って咥えると、そのまま自らの主の元へと堂々と歩いてゆく。『金色の体毛』を揺らしながら6又となったユッコネエは悠然と進んでいく。

 その先にいるのは当然、風音である。普通に立ち上がり、パンパンと少しついていた土を払っている。


「にゃー」

「うん、ありがとうユッコネエ」


 そして、風音はユッコネエから英霊の指輪を受け取ると、ユッコネエの頭をそっと撫でた。そしてユッコネエはゴロゴロを喉を鳴らして、風音に顔をすり寄せる。

 それを見てエイジが呆然としていた。それも無理はないだろう。突然、雑魚だと思っていた直樹がやってきて、そんな相手に手痛い目にあって、黒く染めたはずのユッコネエを目覚めさせたら、金毛で、自分の右腕を切り裂いて、そのまま起きあがった風音に右手に持っていた英霊の指輪を渡したのだ。


「次から次へとなんなんだよ、一体ッ!?」


 そう叫んだエイジに風音が肩をすくめながらこう言った。


「ええと、ドッキリ?」


 そう口にする風音のピースサインが異常に腹立たしかったが、だがそれよりも風音の背後の存在がエイジの表情を凍り付かせた。


 そこにいたのは巨大な竜だった。

 そう、それは神竜帝ナーガである。虹竜の指輪で呼び出した風音の旦那様の魔力体。全身から怒気を漲らせたナーガは、全身に生えている水晶の角から一斉に七色の光を解き放った。


名前:由比浜 風音

職業:召喚闘士

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者リベレイター

装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪

レベル:38

体力:152+20

魔力:340+520

筋力:72+45

俊敏力:78+39

持久力:43+20

知力:75

器用さ:51

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』

スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』


風音「主人公ふっかーーつ!!」

弓花「……まあ、分かってたことだけどね」

風音「あれ、ノリが悪いよ?」

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