第三百六十話 パワーアップをしよう
◎交易都市ウーミン 召喚院施設 客室
「ああ、あのメルライトの人かぁ」
召喚院の施設の中の客室に案内された風音は、施設の前で声を掛けてきた男の正体を知って驚いていた。
「やっと思い出していただけましたか。まあ数度お会いしただけではありますけどね」
対して、その男は苦笑しながらそう答える。
このマールと名乗った男は大闘技会の召喚部門三位決定戦を勝利したウィル・オ・ウィスプ系魔物『メルライト』のチャイルドストーン持ちの召喚士であった。風音は優勝した後に三位の賞品である『ヌエの肉』を『黒岩竜の肉』と交換してもらい、ユッコネエに食べさせていた。つまり現在のユッコネエが雷属性の力を扱えるのは『ヌエの肉』をマールに交換してもらったからである。
「マールさんがここにいるってことは、マールさんはここの出身だったっていうこと?」
「ああ、いえ。そうではないです。僕は剣士ですし召喚術を専門に学んでいたわけではないですから」
そう言ってマールは腰の剣を見せる。鋼鉄製の剣で、それなりのシロモノのようである。20過ぎほどの冒険者としてみるなら中堅といった感じだろうか。
「『鬼火』をチャイルドストーン召喚を出来るようになったので、こちらの世界にもハマりましてね。こちらで少しご厄介になってるんです。それと今はフレアも『鬼火』から『メルライト』、そしてカザネさんからいただいた肉をくべたことで『ドラグフレイム』へと進化しました。おいでフレア」
マールの言葉に従って、その場に赤く燃えさかることが炎が現れる。
「あれ、黄色くないね?」
カザネが以前見たときは黄色い炎であったはずだが、今の炎はとても赤かった。
「さっきも言ったとおり、フレアは今は『ドラグフレイム』。竜属性の炎へと変わっているから、以前よりもかなり強くはなっているよ」
ちなみに『ドラグフレイム』が種類で、フレアが名前である。
「にゃーー?」
ユッコネエが、その炎をチョイチョイと手で触ろうとしていた。
『危なくないですかねえ』
「にゃうっ」
今はユッコネエの頭の上にいるタツオの言葉に、ユッコネエは平気だという感じの返事をしていた。そして実際に『ドラグフレイム』とユッコネエが触れ合っても特にダメージもないようである。同じ炎属性、敵対意志がない限りは魔力の炎は相手を傷つけないようだ。
『連れてきたわよ』
フレアとユッコネエの戯れを見ながら風音がマールと話していると、しばらくして白猫エリザベートが戻ってきた。そして、その後ろにはまさしく『魔法使いのお爺さん』という感じの人物が立っていたのである。
『こちらウーミン召喚院の院長であるマグナ・ヘグナー。アタシを呼んだ人よ』
エリザベートの言葉にマグナが頭を下げる。
「よろしくお嬢さん。エリザベートの紹介通りだが、私はマグナ。この召喚院の院長だ」
「はい、よろしくお願いします。マグナ院長」
対して風音も頭を下げた。マールも、タツオとユッコネエも頭を下げる。『ドラグフレイム』のフレアも先ほどとは違うユラッとした感じになった。
「マールくんも彼女とお知り合いなんだね。まあ、召喚部門の優勝者と三位入賞者だから、当然といえば当然か」
そのマグナの言葉に風音とマールが「あははは」とやや空虚な笑顔を浮かべた。誰かさんの方は忘れていたが、まあ気にしない。
「それでお嬢さんが聞きたいことは、その子をより強くしたい……ということでいいのかね?」
マグナが風音にそう尋ねる。
すでにエリザベートから話は聞いているようだった。なので風音はその言葉に頷いた。
ユッコネエは確かに現在でも十分に強いのだが、風音と並んで戦うには狂い鬼に対抗できるほどの攻撃力を手に入れたいのだとエリザベートはユッコネエとの猫語(?)の対話で聞いたそうである。
「うん。ユッコネエをね。もっとも強くする方法とかあるんですか?」
「ふむ。元はエルダーキャットのようだが、相当に進化しておるな。よほど強力な魔物の肉を食しているようだ」
マグナはユッコネエを見ながらそう口にした。主だった肉は黒岩竜にヌエ、ベアードドラゴンにドラゴンイーター等、いずれも高レベルの魔物の肉だ。
「他の肉で強化するにしてもよほど強力なものでなければ、これ以上の成長は見込めまい」
「うん。だよね」
マグナの指摘は風音にも分かってはいたことだった。強い魔物の肉を食べればその魔物の因子を受けて召喚体やテイムされた魔物は変質する。そしてその後は弱い因子の魔物の力を受け付けなくなるのである。許容量があれば、それでも進化は可能だが、ここまで食べた肉はいずれも高レベルの魔物のもので現時点でのユッコネエはかなり限界に近い成長を見せていた。
そして風音から食べた魔物の肉のラインナップを聞いて、驚きを見せながらもマグナは「やはり難しいな」と口にした。
「であれば、それこそ闇の森の魔物でもなければ、厳しいと言わざるを得ない」
その言葉にユッコネエが「ふにゃあ」と情けない声で鳴いた。それを風音とタツオがよしよしと頭をなでて慰めるが、それを目の前で見ながら、マグナは「というか必要あるのか?」という気持ちでいっぱいだった。
マグナからすればユッコネエという召喚獣のスペックは十分過ぎるものがある。実際、大闘技会で優勝しているのだから弱いと言うことは当然あり得ない。
なお、現在のユッコネエはライオンよりもふた回りほども大きい。普通の猫をそのままデカくしたような姿であり、顔がそこそこ大きいために愛嬌があるようにも見えるが、実際には紛れもなく猛獣の類なのである。
主な武器は炎の爪で、黒岩竜の肉で硬く強化され、気合いを入れれば灼熱化し、切り裂けば傷口から炎が吹き出る付与効果付き。今ではヌエの肉により、全体的に雷の効果も付いている。
そして、四又となった尻尾にはそれぞれに炎の玉が付いていて、粘着質のそれを飛ばせば敵に対して継続的にダメージを与えられ、自身で口に含めば、炎でその身を包みブースト化も可能だ。
さらには、炎の幻影『蜃気楼』という技も使え、大闘技会より進化した今では多重の残像をブーストなしで使うことが出来るようになっている。
戦闘には関係がないが、若干緑がかった体毛は太陽光より魔力を生成し、主への魔力供給も可能なのだ。
もっとも、ユッコネエの最大の特徴はその機動力であり、『直感』による回避力であるのは、ただのエルダーキャットの頃から変わってはおらず、ジンライとの共闘ではそれが極めて有効に活かされていた。だが、ユッコネエはジンライとのコンビを解散して風音と共に戦う道を進み始めている。
しかし、風音は本人の機動力が高いためにジンライのようにユッコネエの背に乗る必要はない。それにただ避けるのが上手いだけでは、ユッコネエは狂い鬼にはパートナーとして勝てない。ユッコネエが逃げ回っているウチに狂い鬼がさっさと特攻して敵を倒してしまうだろう。それではダメなのだ。
「にゃおん!」
ユッコネエは鼻息荒く、そんなことを漫然と考えていた。重要なのは攻撃力だ。白き一団は火力重視の戦闘集団。避けるのが上手いだけでは、手柄を取れない。
「ふむ、他に成長をさせるには地道に魔物を狩って成長させるか、その課程でキッカケがあれば急激な進化も望めるだろうが」
「まあ、それはそれで」
当然、これから先も戦い続けるだろうし、それはそれで進めていく。
「テイムした魔物や召喚獣用の武器を用意するという道もあるな」
ふむふむと、風音、ユッコネエ、タツオが頷いた。
「単純に武器を口に咥えさせるという方法もあるがね。その腕に剣を設置するアタッチメントの付いた腕輪などもあるが」
「それって今もあります?」
「ああ、ここはそういうのも売っとるんでな」
その言葉に風音が「おおっ」という顔をした。マッカから手に入れたお金を使うときが来たようである。
「あるいはどこかで魔生石を見つけてそれを使い、能力の底上げという道もあるが、まあこれは現実的ではないな」
「へ、なんで?」
現実的ではないの言葉に風音は反応し、質問した。
「魔生石は単体でも魔物を生み出し、そうでなくとも魔物を引きつけてしまう。発見すれば基本は破壊するしかない。故にその場で発見した召喚士が召喚体に使うしか、その機会はないからな。それに、このことを知っている者はほとんどおらん」
「知っている者がいない?」
実際、ルイーズも魔生石を手に入れたことを知っても、召喚体の強化については口にしていなかった。
「ああ、まず今言ったように機会がないから、広まることが少ない。それに中途半端な知識でそれを知った冒険者が魔生石を持ち帰ることが何度かあってな。それが原因で街が何度か襲われたことがあって、広めぬようになってしまったということもあるのだ」
風音はふーむと唸りながら、ゴロンとそこそこ大きい楕円形の透明な球体をテーブルの上に置いた。それを見てマグナが首を傾げる。
「ふむ、これは?」
「魔生石……」
風音の言葉に、マグナとマールと、そして白猫エリザベートもギョッとなってそれを見た。
「現在封印中。けど、いつでも開封可能なんだよね」
そして風音はユッコネエを見た。
「そんじゃあ、ユッコネエのパワーアップ、いっとく?」
その言葉の返事は当然「にゃー」であった。
名前:由比浜 風音
職業:召喚闘士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者
装備:杖『白炎』・ドラグホーントンファー×2・竜喰らいし鬼軍の鎧(真)・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・天使の腕輪
レベル:38
体力:152+20
魔力:340+520
筋力:72+45
俊敏力:78+39
持久力:43+20
知力:75
器用さ:51
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』
スキル:『キックの悪魔』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv4』『イージスシールド』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv2』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv2』『情報連携:Lv2』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv2[竜系統]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv2』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv2[竜系統]』『魔王の威圧』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv2』『空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv2』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』
風音「ようやくの魔生石の出番だよ」
弓花「そういえば、浮遊島でアリさん倒したときに手に入れてたっけ」




